――――世界は滞りなく壊れていく・・・・・・
――――世界は止めど無く崩れていく・・・・・・
――――そして、壊れていく世界は絶望的に儚くも美しかった・・・・・・


是ガ世界 〜第一章〜


2005年3月某日東京
その日、世界は昨日の世界と絶対的に違ったものがあった。
違ったものとはとはよく言ったものだ。少しずつ欠けていく世界、されど、いつも通りの世界、いったい何故今更そんなことを思ったのか。

――しかし、その日はいつも以上に何かが欠けていた――

「ったく、世界がこんなにも壊れやすいなんてなぁー・・・・・知っちまったらうざいことこの上ないし」

町の一角をダルそうに、しかし確実に歩んでいる少年はそう呟いた。
少し変わった風貌をしているが、ある点を除いては普通の少年である。
ボサボサした、紅みのかかった髪と紅い瞳が特徴の少年。
少年の名は、御剣 倆(みつるぎ りょう)。
彼は、普通ではありえない能力を身に付けているが故に。これから世界の真実を知ってしまう。

「あーーーーー。しっかしなー、毎日朝っぱらからこんな気分にさせられると、帰って寝たくなるよなー・・・・・しかも、用事があるのは学校だし」

はー・・・・・・と溜息を吐いた後、天を仰ぎながら倆は呟いた。
少しの間そのままボーとした後、頭を振り気合を入れなおし、学校に向かった。
いい忘れたが、彼は特別が頭が良いわけではない。むしろ悪い、一週間前まで高校一年生で、今は春休み!たっぷりと休日を堪能するはずだったのだが、あまりにも成績が悪いので、春休みを潰され補習をしに行っているのだ。

「・・・・・・たりぃな」

そう呟きながらも、少しずつ学校へ近づいていく・・・・・・
すると、背後の方向から聞きなれた声に引き止められた。

「お〜っす、倆!」

呼ばれて振り返る。声をかけてきた女性は、とても見慣れている何かと突っかかってくるが、憎めない奴の幼馴染、岩月 玲衣(いわつき れい)だった。
彼女も倆ほどではないが、少し変わった風貌をしている。
腰まで蒼みの混じった髪が伸びている上に、瞳まで蒼い色をしている。
倆とは正反対と行っても良いだろう。

「んだよ玲衣、朝っぱらから元気だなぁ〜・・・・・・これから学校だっつーのに、何でそんなに元気なんだよ?」
「なんでって・・・・・・なんとなくかな?」
「ほぉーーーー、朝からでたな。必殺・天然光線・・・・・・」

こんな奴に付き合っていると、それこそ一日が無駄になる。
よし、何を反論しようがシカトして学校に向かおう!
そう決心した瞬間に、なによーそれー!と後ろからついてくる玲衣が反論した。
・・・・・・まぁ、いつもの事だし?
ちなみに、彼女は特に頭が悪いわけではない、授業中“めんどいから“とかぬかして寝ているからで、担任から呼び出しがかかり今に至っている。

(ったく、我が幼馴染ながらアホな奴だぜ)

そんなことを考えているうちに、あっという間に学校に着く。
『私立阿望高校』それが俺達の通っている学校の名前だ。

――――ビキ・・・・・・

「・・・・・・?」

不意に、奇怪な音が耳に届く。
聞いたその時は、それが何なのか理解できなかったが。日常茶飯事見ているはずの“それ”は確実にそこにあった。

「―――」

門のすぐ脇にあった木に黒い穴が開いている。
倆は、少し憂鬱そうな顔をして言った。

「そうか、この木も消えるか」
「あれ、どうしたの倆?木なんか見て何かあるの」

と、玲衣が後ろから顔を出して自分が見ていた所を念入りに見ている。
しかし、少しすると首を傾げて聞いてきた。

「んー、別に何もないじゃない」
「ん、そだな。ただボーっとしてただけ」

軽く誤魔化して、倆は下駄箱へ向かう。
そう・・・・・・玲衣には見えるはずがない。先ほどの音は、木の存在が壊れた音であり、俺にしか見えない、黒い穴が起こした音なのだから・・・・・・

「そうか、すぐに消えるのか・・・・・あれも」

いくつも見てきた・・・・・・そう、何度も何度も見てきた、飽きるほど日常で“それ”は見ることができた。
物心が付いてからからずっと見えていた。そして、それの存在の意味を理解したのは、小学校3年生になってからだった。
当時担任だった先生がいた。ふと見て見ると、彼の胸元に“それ”ができていた。

――――あぁ、いつもの事だ・・・・・・

その時はただそう思っていた。だってそうだろう?日常のいたるところで見える“それ”が、いまさら見つかったからってただそう思うだけだ。

――――ただ・・・・・・“それ”を人に見るのは、初めてだった。

その翌日、担任であったその人は、消えていた。存在その物が、この社会に生きていた形跡がきれいさっぱり無くなっていた。
そう、“俺以外”の人間の担任だった人の記憶が・・・・・・
だから、その時にやっと気づいた。アレは・・・・・・・もうすぐ消える物の印なのだと。

「おーい、ヘタレー!」
「って、だれがヘタレじゃ〜!!!」

と、人が思いふけっている事を良い事に、隣にいた玲衣がヘタレ呼ばわりしてきた。

「やーっと反応した!倆はたまーにボーっとするんだから!しかも、たちが悪いことに『ヘタレ』にしか反応しないしー」
「・・・・・・悪かったな、ヘタレで」

悔しいが。当たっている部分が多すぎるので、言い返せない。
だから、諦めて肯定する事にしよう。これも何時もの事。
下駄箱に入る前に、最後に振り返って木を見てみると、そこにはすでに何もなかった。

「なに見てるの?」
「いや、さっきの木が」
「木?なにそれ、そんなのあそこにあったっけ?」

つまりは、こう言う事。
故に、こんなことが頻繁に起きても、気づいているのは俺だけだ。騒ぎにならないのも無理はない。

「いや、気のせいだった。行こうぜ」
「うん」

上履きに履き替え教室に向かう。
第二校舎、四階の右から三番目の教室、そこが俺達の教室だ。
ガラ!

「ん?よぉーご両人!おはよーさん」
「って、誰がご両人だゴラ!」

入った瞬間から絡んでくるクラスの知り合いで、短髪の男・佐伯 恵輔(さえき けいすけ)に条件反射で反論する。
ったく。何で俺の周りにはこう朝からテンション高いのが多いんだ・・・・・
はぁー・・・・・・早くも本日二回目のため息が出た。
やれやれ、先が思いやられるなぁ・・・・・・

「まぁまぁ、怒んないの。いつもの事じゃない」
「いつものことで済ませるお前は、嫌じゃないのか?そう呼ばれるの」
「なんでー?別にいいじゃない」
「・・・・・・」

こいつ、羞恥心とか無いのか?
むしろ、その返事は俺が困るんだが・・・・・・
この件は、もうここで打ち切りにしよう。続いても俺に利益はない。むしろ被害があるし・・・・・・

「あー、話し合ってるところ悪いが。倆と玲衣、早く座らんと先生が来るぞ〜?」
「お前のせいだろ・・・・・・まぁいいか。玲衣さっさと座るぞ。あのセンコーはウッセーからな〜」

そう愚痴りながらも俺と玲衣は席に座った。
ちなみに、何の因果か。恵輔は俺の前、玲衣は俺の左横の席だ。

「あー、補習なんて物。消えてなくなればいいんだー・・・・・・」
「まーそう言うなって恵輔、後二日だけだろ?がんばれよ」
「そーだけどさー、貴重な春休みの時間が4時間もつぶされちゃなー」

ダルそうに、ブツブツと愚痴る恵輔をなだめる。しかし、実は心の中でまったく同じことを考えていたりする。
だというのに、隣のこの女は・・・・・・

「って玲衣?お前何してんだ?」
「何って、マンガ読んでんの。見てわからない?」
「いや、分かるけどさ。これからあのウルサイ先生が来るって言うのに、よくそんな風に堂々とマンガ読んでられるな・・・・・・」

呆れた顔をしながらそう言う。しかし、前の席の阿呆は、“まぁ、いいんじゃないの〜?”っと気楽な顔をしながら話しに入ってくる。

「そんなんだから、お前ら補習に出る羽目になるんだよ・・・・・」
「「なんか言った〜?」」
「いや、何も?空耳じゃないかな?」

ボソッと言った筈の小言に、獣の如く反応しすぐさま聞き返してくる二人。しかし負けじと、軽くスルーしてやる。

(っち、こいつら阿呆の癖に、こういう時だけは鋭いしよ〜・・・・・・)

ったくーと思っていると、ガラっと扉が開く音と噂のウルサイ先生が入ってきた。

「おーし、そんじゃー頭の悪いバカども〜。今日も一緒に勉強するぞー!」
「「「「「うぃーす・・・・・・」」」」」

ウルサイ上にバカに元気な教師だ・・・・・・こっちの気も知らないでー、たくぅーとクラス中の生徒達は、内心そう思いながらも教科書を出した。
って・・・・・・いつの間にか玲衣の奴マンガ隠してるし・・・・・・阿呆の癖にすばやいな。

「やれやれ・・・・・・さて、今日も一日頑張りますか!・・・・・・ダルいけど」

こうして俺はいつもの様に、教師の話に耳を傾けた。



――――俺は、いつもの様に遣いに出た。
俺の存在意義たる使命を果たしに、これから崩壊する場所に向かう。

「平和・・・・・・か。何も知らない人間共は、本当に幸せなのだろうか」

暗闇の中で一人立ち止まり、珍しくそんな事を呟く。

「否、俺には関係ない話か」

自分の馬鹿な考えに、軽く苦笑し再び暗闇の中を歩き始めた。
男の使命は、“それ”に関わった者の記憶の改ざん。及び、壊れた物に関連した形跡の完全消去。
その男は、それを行う為だけに生まれてきた存在。そして、その力は世界の分身故。

「――――嫌な予感がするな、こんな感覚は初めてだ・・・・・・」

胸がざわつく感覚を味わいながらも、男は黒いコートをはためかせ。これから消失する『学校』へ確実に近づいていった。



――――ビキリ!!

「!!」

その異変はいきなり訪れた。
視界にそれが在る。否、溢れている。
こんな事は初めてだった。木や人などの単体の物ではなく。『学校』その物に黒い穴ができている。
吐き気がする。見渡す限りの黒い穴。この規模では、中にいる人間達も道連れに消えて無くなるだろう。

「はっ!んなバカな!!」

ガタン!

倆は急いで立ち上がる、その過程で椅子が倒れるが、そんな些細な事には構っていられない。
そんな事より、急いでこの場所から立ち去らなければならない。 それが出来ないのならば、自分の存在は確実に『消失』する!

「どうしたのよ倆!いきなり立ち上がって・・・・・・」
「悪いけど、暢気に話してる場合じゃない!玲衣、さっさと学校から出るぞ!!」

言い争っている時間なんてない、周りの視線が俺に集中するが構っていられない。
俺は玲衣の腕を握って走り出す。


「え!?ちょっ、待ってよ・・・・・・!」

――――ビキリ!!

黒い穴が増える。それと同時に再び吐き気、今度は頭痛も付いてきた。

「あ・・・・・・が!」

耐え難い頭痛に顔を歪め軽く声を漏らす。しかし、痛みを感じられるだけました。今すぐに校舎から逃げ出せないのならば、確実に痛みなど感じなくなる。
頭を振り、頭痛を振り払う。一刻も早く外へ、と玲衣を急かせようとすると、玲衣は何故か頭を抱えていた。

「っつ〜〜。なにこれ、行き成り頭痛が・・・・・・」
「そんな事、言ってる暇なんてない!急がないと死ぬぞ!!」

その言葉で、意味こそは理解できないが倆の意志が伝わる。今の状況の危険さが伝わったのか、玲衣は急いで倆に了解の頷きを返して、自ら走り始めた。

「いったい何が起こってるかは知らないけど、理由は後で説明してよね!」
「ああ、今はここから出るのが先だ!!!」

倆も玲衣と一緒に走る。学校から出る事が最優先だ。

―――走る
それは死から逃れる為の行動。

――――走れ
それは大切な彼女を守る為の意思。

―――――走る走る走る走る・・・・・・走る!!!
それは人間という生物の本能が生存し続ける為に、走れと告げているが故に・・・・

呼吸が乱れる、それでも振り返えれない。
既に、二階駆け降りた。後一階!

「ハァハァ・・・・・・ちょっと待って、早すぎ」
「待っては聞かない、後一階だ。すぐ終わる!」

そう、後一階駆け降りれば助かる。

―――そして、駆け降りた。

―――そのまま下駄箱を走り抜けて外に出て、振り返る。

―――そして、後ろから追いかけてくる少女に手を伸ばした。

が、次の瞬間。

ビギリ・・・・・・バキン!!

伸ばした右手と共に、こちらの右手を掴もうとしていた少女と共に、学校と言う存在は――――
完膚なきまでに壊れて、跡形もなく消失した。

「あ・・・・・・アアァァァァァァァァッ!!!!」

倆の両膝が、力無く地面に膝がつく。
右手があった場所を押さえながら、大切だった少女が救えなかった後悔に涙し、叫ぶ。

「畜生!たった一人・・・・・・たった一人でさえ俺には救えないのかよ・・・・・・クソ!!」

ゴン!

地面に頭を叩きつける。
額から血が出るが気にせず続ける。

ゴンゴンゴン・・・・・・

すると、前触れもなく。行き成り声がかけられた。

「ふむ、珍しいな。被害者か・・・・・・」
「・・・・・・え?」

驚いて振り返ると、そこには身長が高い黒いコートを着た男が立っていた。
見て直に気づき本能が告げる。こいつは人間の形をした別の何かだと。

「あんた・・・・・・いったい何者だ?それに被害者って」
「貴様に話す必要性など微塵もない。それにこれから記憶の改ざんを受ける者に何を言っても意味は無いだろう?」
「は?それっていったい・・・・・・」

倆がそう言いかけると、男は倆の発言を無視し右手を掲げる。すると、その右手に光が集まってくる。そして、男は言い放った。

『鳴け!世界に内包されし八百万の神よ!』

男の言葉に呼応するかのように、右手に集う光の量が徐々に増えていく。

『我は全てを紡ぐ世界!暗黒の炎に焦がされ彼の地を、輪廻する円環の力によりて無に帰せ!!』

右手に一気に集約する光。そして集約した光はバラバラに散り、小さな光の玉になって辺りを散っていく。
するとすぐに異変が起こった。黒い穴が出来て消えてしまった校舎以外に残っていた物が
眩い光を放ち、たちまち残っていた物全てが一瞬にして無に返った。

「な!?いったい何を・・・・・・!?」
「次はお前か・・・・・・やれやれ、いつも思うが面倒な仕事だ」

訳が分からないまま、反論する暇すら与えられず、額に手を押し付けられる。
とたんに頭に意味の分からない衝撃が走った。

「な!?」

一瞬、目の前が強い閃光を受けたように真っ白になる。それだけではない、頭の中を弄られた様なひどい違和感が走り、気持ちが悪い。
しかしすぐに元通りになった。
始めにすぐさま男に何をしたか問い詰めようとしたが、男の発言に遮られた。
しかし男の発言したその言葉は、正直理解しがたかった。

「君、こんな所に座ってどうしたんだい?気分が悪いのか?」

この男は行き成りまるで赤の他人のように話しかけてきたのである。

―――この男は、一体何を言っている?
こんな所に座って?気分が悪い?
ああ、正直気分は悪い。意味の分からないものに頭の中を弄られたのだから、そう簡単にこの気持ち悪さが収まるはずが無い。
だから、男のその理解不能な発言のせいで倆は頭にきてつい怒鳴ってしまった。

「あんた一体何を言ってんだよ!学校の痕跡を消したと思ったら行き成り気分が悪いのかとか、意味わかんねぇよ!」

そう叫んで、少しすっきりした倆とは裏腹に。男はこちらの怒鳴り声ではなく、『他の何か』に驚いたようで、顔を濁らせていた。

「記憶の改ざんが利いていないだと?・・・・・・まさか!有り得ん事だが貴様は!」
「だ・か・ら!何一人でブツブツ言ってるんだよ、あんたは!人の話し聞かないで独り言ばっかり言いやがって!それに俺が一体何だって言うんだよ!?」

たった今怒鳴ったばかりなのに、再び愚痴をぶちまける。
仕方がないだろう?これだけ無視されれば、誰だって愚痴りたくなるってもんだ。
だって言うのにこの男は・・・・・・

「うるさい、少しは黙れ小僧」

なんて返してきやがった。
あー、やばい。ムカついて言葉も出ない。
それって理不尽では?俺なんか間違ってるか?などと思考をめぐらせて再び言った。

「黙れってあんたなぁ・・・・・・まぁいいよ。とりあえず話を進めてくれ。このまま言い争っても意味ないし」
「別に言い争ってるつもりなんぞ無いんだがな」

またこの野郎は・・・・・・まて倆、大人になれ、取り敢えずこの男の話を聞くことにしろ。
心を落ち着かせて、男が話し出すのを待つ
すると、すぐに男は話し始めた。

「まず最初に私は、文字通りこの世界の分身だ」
「この世界の分身?あんたが?」

それを聞いて、こんな歪んだ奴が世界の分身かよ〜。などと露骨にいやな顔をした。

「む、失敬な。人の性格などどうでも良かろう?」

男はこちらの態度を見て、始めて人間味を帯びた顔をして、言い返してきた。

「続けるが、私は20年程前に生み出された。使命は“ひび割れし者”によって侵食された世界の一部に関わった人間達の記憶を改ざん、及び痕跡を消去する事だ」

“ひび割れし者”に侵食された世界の一部・・・・・・
倆の頭の中で少しずつながらも、バラバラになっていたパズルのピースが、綺麗に当てはまっていく。

「壊された世界の一部っていうのは、つまりは黒い穴ができて消えた物の事か?」
「・・・・・・やはり、お前にはあれを見ることが出来るのか」

納得したように頷くと、そのまま続けて話し出した。

「しかし、あれを黒い穴と例えるのはどうかと思うが、まぁそれでも良かろう。しかし、正確には消えたのではない。侵食された世界の一部は、“ひび割れし者”と呼称される者によって、この世界とは別の世界に移動させられる」
「ふ〜ん・・・・・・この世界とは別の・・・・・・?」

って待て、今こいつ何て言った?何かとても重要な事を言ったような気がする。
たった今、男が言った言葉を頭の中から引きずり出す。

『この世界とは別の世界に移動させられる』

別の世界に『移動』?

「おい、もしかしてそれってまだ玲衣達はまだ生きてるってことか!?」
「玲衣とやらが誰だか知らんが、まぁそういう事になるな」

その言葉を聞くと、今まで体の中を蝕んでいた後悔と絶望がすっかり消え。代わりに直に助けに行かなくては、という焦燥感が現れた。

「おいあんた!今すぐその別の世界への行き方を教えてくれ!いくら歪んでても世界の分身なんだから、それぐらい知ってるだろ!?」
「少しは落ち着け!それより、誰が歪んでるだって!?好き放題言ってくれる!」
「おっと、スマン。つい口が滑った」
「口が滑ったなどとは戯言を・・・・・・まぁいい!このまま言い争っていても、貴様の情けないところを見るだけだ」

む、なんかムカつく言い方だな。大体あんただって逆ギレしてんじゃん。
まぁ、確かにこちらも急ぎすぎたし。少々反省し、おとなしく話を聞くことにしよう。

「悪かったな、それで?どうやったら別の世界とやらにいけるんだ?」
「分かれば良い。まずは順を追って話を進めた方が、貴様には分かりやすいか。行き方など最後でいいだろう?」
「む、もっともな意見だ。すまないけど、説明頼めるか?」

男は頷くと、最初に自分の役割と記憶の改ざんの関連性について話し始めた。

「まずは記憶の改ざんについてだが・・・・・・ふん、俺としてはどちらでも良いんだがな」

男は、本当にどちらでも良さそうな顔をして、続けて話した。

「実は、この世界を壊し続けている存在がいる。先ほど言った“ひび割れし者”と呼称される者だ。奴は人間で言う所の『未知なるウィルス』、厄介なことに、世界に干渉できるその力のせいで、私たちは手を出すことができない」

ここまではいいか?とこちらを向いて尋ねてくる。
実は少しばかり良く分からないけど、続けてくれと頷いた。

「つまるところ対処法がないのでな、近い未来。まぁ早くて3年後か。に世界は止めるすべなく奴らによって破壊される」

倆はその男の言葉を聞いて絶句した。
男は近い未来、早くても三年後には、手の出しようもなくこの世界は破壊しつくされる。なんて冷静に言い放った。

「そんな・・・・・・それじゃあ、俺やあんたも・・・・・・」
「そうだ、理解したようだな。そんな事が全世界の人間達が知れば、パニックは免れないだろう?」
「当然だろ!?あぁ、世界が壊れるんだ、なんて容認できるはずがない!」
「当然そうだろうな。だから、記憶の改ざんと言う手段が行われる。助けられないなら、せめて最期の時が訪れるまでは幸せにと、世界の贖いの気持ちでな」

―――この心は、再び絶望する。

仮に皆を助け出せたとしても、3年後には皆消えて無くなる事になる。
こんな馬鹿な戯言をすんなりと、認めてしまう自分が苛立たしくて堪らない。
手が痛い、悔しくて握り締めた両手から血が滴る。

「く・・・・・・そ」

倆は、最後の頼み綱である男に、だめもとで聞いて見た。

「この世界は・・・・・・俺達は、助かりようが無いのか・・・・・・?」
「・・・・・・いや、可能性が無いわけではない」

心が挫けかけていただけに、その発言に驚き、反射的に男の顔を見る。

「本当か!?」
「ああ。しかし、気に入らない事がある」

男は頭を抑えながら。はぁー・・・・・・とため息を吐いた。
この男がそこまで嫌がる動作を見せると言う事は、よほど気に入らないのだろう。
・・・・・・なんか、すっごく気になる。

「何が気に入らないかは知らないけど、可能性を教えてくれないか?」
「はぁ・・・・・・その可能性がお前と言う事だ」
「は・・・・・・いぃ・・・・・・?」

待て・・・・・・待てまてマテ待てマテ待て!!!
えーっと?世界は侵食されてて、その侵食を防ぐ可能性は有るが。彼に言わせればとっ・・・・・・っても気に入らない事で、その気に入らない可能性が今ここで呆けている俺と言う訳で・・・・・・?

「って!誰か気に入らない可能性だって!?」
「おい!驚く方ってそっちか!?そんなのだから、気に入らないというのだ!」

む、少し正しい。確かに驚くべき方は、自分が世界を助ける唯一の可能性であると言う事だ。

「分かった。今・回・は!そっちが正しい。それで、俺の何が可能性なのか説明してくれないか?」
「何故『今回は』を強調する・・・・・・?」
「そんな事はどうだって良いだろ!さっさと説明してくれよ!」

こちらの様子を見て先ほどの問いの答えは返ってこないと察し、やれやれと言いつつもこちらに話しかけてきた。
やっぱり、こいつムカツク奴だなー・・・・・・とか思ってしまうのは仕様だろうか?

「ふぅ、まぁ説明するのはいいが。その前にする事がある」
「ん、なんだ?」

聞き返すと、行き成りこちらの額に手を当てて、呟いた。

「いやなに、説明するのが面倒くさいのでな。夢の中で俺の僕に聞け」
「えぇぇぇぇぇ!?」

ドガン!

速攻だ・・・・・・抗う暇なんてない。昔に、行き成り後ろから玲衣にラリアットかまされた時並に、目茶苦茶だ。
訂正、やっぱりこいつはいやな奴だ・・・・・

「て・・・・・・め、時間が無い・・・・・・のに!」
「ああ、それなら大丈夫だ。あれ程の規模だ、人間の消失し始めるのにはあと一日は掛かる」

うわ・・・・・・なんでそんな大事なこと最初に言わないかな。

「ん?言ってなかったか?」

いってねーよ・・・・・・

「む・・・・・・まぁ、教えたのだから良いではないか」

てめ・・・・・・起きたら覚えてろよ。

「まぁ、物覚えは良い方だが。忘れないように極力気をつける」

そんなやり取りをしている間に、俺の意識は闇に落ちていった・・・・・・
ついでに、今ただ一つ確かな事は、次会ったらあいつを一発殴るっていう決意だけだ。


To be continued・・・・・・