万難地天の休日



万難地天の休日






ドォォォォン!!
鶴ヶ丘町に爆発音のような音が響きわたる。
しかし住民は驚かない。自分に被害がこないと分かればそのまま何事もなかったかのように過ごしていく。
そう、ここではこの音が日常茶飯事となっている。
いうまでもないと思うがこの音はキリュウの試練の音である。
シャオを守護月天の宿命から救うため日夜試練に励んでいる太助だったが、今日の試練はいつものと少し違っていた。



「万象、大乱」
短天扇を広げ、物静かに唱えると太助に試練が………降りかからない。 太助の周りには特に何も起こっていない。
「どうした、キリュウっ!?もう終わりか!」
と、太助が叫ぶやいなや、太助の足下がいきなり盛り上がる。
「へ?」
考えるまもなく地面から水が噴水の様に噴き出し、太助を空高く吹き飛ばす。
「どわあああ!!!」
叫ぶ太助。しかしそこまでだった。
今の太助にとってただ高くあげられただけでは何の影響もない。体制を整えて着地するだけだ。
いつもならそこから追い打ちをかけて来るのだが今日は何もなかったのだ。
「どうした、キリュウ!?もっとすごいのやってもいいぞ!!」
見事に着地を決め、太助は電柱の上に立っているキリュウに向かって叫んだ。
「そ、それならば、遠慮は、しないぞ、主殿…」
再び短天扇を構えるキリュウ。しかし様子が変なことに気づく太助。
「おい、キリュウ、どうかしたのか?」
「何でも、ない。いくぞ、万象…」
その後が続かなかった。短天扇が手から落ち、キリュウは電柱から真っ逆様に落ちてしまう。
「き、キリュウッ!!」
駆け出す太助。そして、
『ドサッ!!』
間一髪でキリュウの落下地点に滑り込んだ太助がキリュウを受け止めた。
「おい、キリュウ!どうしたんだ!?」
太助の呼びかけに全く答えないキリュウ。息は荒く、顔も見た感じ少し赤い。
もしやと思い、太助はキリュウの額に手を当てる。
「やっぱり、熱があるじゃないか!何でなにも言わなかったんだよ!?」
「す、すまない……」
そしてそのまま気を失った。
「くそ、とにかく何とかしないと!」
太助はキリュウを背負い、落ちていた短天扇を拾い、家まで全速力で駆け出した。



「どう、長沙?」
「風邪じゃないでシュ。疲れがたまって倒れただけでシュね。あと睡眠不足も原因みたいでシュ」
キリュウの容態を診察した長沙がそう言った。
「ま、そんなことだと思ったわ。精霊は風邪なんかひかないからね」
「そうだね」
ルーアンの意見にフェイが同意する。
「でもキリュウは何で寝不足なの?」
「本人曰く、目覚まし時計を作ってると自然と遅くなるって言ってたけど…」
あんな時間までおきてたら意味ないんじゃ、と太助は心の中で付け足す。
「でも、ややこしいことになってなくてよかったです。疲れているだけなら休めばよくなりますから」
安心してシャオが言った。
「ホント人騒がせよね」
そう言ってルーアンは部屋を出ていった。
「じゃあ、私何か栄養のあるものを用意しますね」
そう言ってシャオも部屋を出ていった



「………」
太助はただ黙ってキリュウの傍らに座っていた。今は落ち着いているが家に帰ってきたときのキリュウの容態はかなり悪く見えた。
考えもしなかった。試練は与えられるものだけでなく、与える方にも負担がかかるなんて…。
「後悔してる?」
フェイの問いかけにはっとなり太助はフェイの方を向く。
「自分が望みすぎたから、だからキリュウはこうなった…っていう考えは持たない方がいいよ」
「……なんで?」
「主に試練を与えるのはキリュウの役目。そしてキリュウがここにいられる理由でもある。
それを奪えばキリュウはここにいる意味がなくなる」
「だからって……」
太助は怒鳴りたい気持ちを抑えて続ける。
「俺は、キリュウに辛い思いをさせたくない」
「そう思うのは当たり前。ましてや心清きものならなおさら強く思う」
そう言ってフェイは立ち上がり、部屋を出ようとする。
「どのみちほかの人が口出しする問題でもない。二人でどうするか決めないとね」
そう言い残し、フェイは部屋を出ていった。



「ふぅ〜」
屋根の上で一息つくフェイ。隣には離珠と虎賁と軒轅がいる。
「キリュウ姉、大丈夫なのか?」
「精霊は基本的に風邪なんてひかない。ただ疲労がたまっているだけだから一晩経てばよくなるよ」
『なら、安心でし』
ほっとした表情を見せる離珠。軒轅も同じようだ。
「しかし、万難地天の試練は与える方にも疲れを与えるなんてなぁ」
「シャオだってルーアンだって、役目を果たし続ければ疲れるよ。万難地天だけ特別ってわけじゃないよ」
そう言ってフェイは空を見上げる。日はすっかり落ちてきれいな月が見えている。
(空は昔から変わらないのに、あの三人の心は変わっていっている)
キリュウが倒れるなんて今までなかった。それが今回こういうことが起こったのは心変わりがあったからだろうとフェイは考えている。
『フェイしゃん?』
不思議そうにフェイを見上げる離珠。
「なんでもないよ」
一言そう言ってフェイは再び空を見上げる。
シャオが倒れたときもそうだったが今回も当人達がどうするか決めるしかないのだ。



キリュウの部屋には今太助と交代してシャオがいた。今太助は休憩がてらに夕食を食べている。
「……私はどうしたんだ?」
何の前触れもなく目覚めたキリュウが力無く言った。
「よかった、気がついたんですね。試練の途中で急に倒れたんですよ」
「倒れた…?そうか、迷惑をかけてすまないシャオ殿」
「気にしないでください。お互い様ですから」
そう言って、シャオはキリュウの額に当てていたタオルを替える。
「主殿は?」
「太助様は夕食を食べていますよ。さっきまでキリュウさんのそばにいたんですけど…」
「…主殿にも迷惑をかけてしまったのか」
「迷惑なんて思ってないよ」
不意に言葉を返されてキリュウは声のした方を見る。扉の前に小さな鍋を持った太助が経っていた。
「主殿……」
「気分はどお?特に怪我はなかったみたいだけど」
「あ、ああ、何ともない。もう大丈夫だ」
そう言いながら体を起こすが、起こしたとたん頭がクラッとする。
「あ、まだ寝ていないとダメですよ」
慌ててシャオがキリュウを寝かした。
「すまない」
「いえ、以前私が倒れたときにはお世話になりましたから」
「とりあえず無理しないことだよ」
そう言いながら太助は持っていた鍋をテーブルの上に置く。
「しばらく試練は休みにほうがいいな」
「いや、大丈夫だ。このくらい一晩休めば……」
「でも、一応多めに休んだ方がいいよ。たまにはキリュウも長期休みが必要だと思うし」
「しかし、それでは主殿に迷惑が……」
必死に反論するキリュウ。しかし、太助は首を横に振る。
「さっきも言っただろ?迷惑だなんて思ってないって。とにかく今はゆっくり休んで」
「……わかった」
ただ一言、キリュウはそう答えただけだった。



キリュウの体調は2,3日でよくなったが太助には一週間はしっかり休めと言われているので、今はやることもなく
キリュウはリビングでボーッとしていた。
「ヒマそうだね、キリュウ」
リビングに入ってきたフェイが話しかけてきた。太助達は今学校に行っているので今家にいるのはこの二人だけである。
「主殿から暇を出されたからな」
「だったら、この機会に今までやりたくてもできなかったことをしてみれば?」
「そう言われてもな…」
そんなことは考えたこともなかった。役目に忠実なために主からいやがられ、主の家族からも不平がでて、そして短天扇に帰る。
時には試練を受けると言う主もいたが、その時はただひたすら役目を果たすだけだ。
何千年も前からその繰り返し。役目を果たすことで別れのつらさを紛らわしてきた。今更ほかのことと言われても思いつかないのである。
「気分転換に出かけてみるとか?」
「しかし主殿には休んでいろと…」
「それとこれとは話が別だよ。試練をやらない以外は大丈夫だって。ほら、いこ」
「あ、ちょっと、フェイ殿!」
フェイに引っ張られてキリュウは家を出た。



二人は町中をとぼとぼと歩いていた。はじめは飛んでいこうと思ったのだが、フェイに「歩いている方が普段と違うことが見つかるかも」と言われたのでこうして歩いているのだ。
「お、珍しい組み合わせだな」
当てもなく歩いていると声をかけられた。声の主はすぐに分かった。翔子だ。
「翔子殿?今は学校にいる時間のはずでは?」
「えっ?いや、そのな、いろいろあってな」
「要するにさぼりってわけだね」
ごまかそうとする翔子にフェイがきつい一言を言う。
「そうストレートに言うなよ。ところでなにしてんだ、二人して?」
キリュウはたいてい学校に行っているし、フェイも太助達について学校に行くか、家にいるかのどっちかである。
そんな二人がこうして歩いているのは二人を知っている人間から見れば不思議でならない。
「実は……」
キリュウはこの間あったことを手短に話す。
「ふ〜ん、七梨にね。じゃあさ、二人ともちょっとつき合ってくれよ。いやぁ、一人で退屈してたんだよ」
「どこかにいくの?」
フェイが尋ねる。
「いや、あたしもいく当てなんてなかったんだけど、一人でいるより大勢でいる方がおもしろくなりそうだし」
「確かにそうかもしれないな」
キリュウも同意して、三人は一緒に行動することになった。



三人は当てもなく繁華街を歩いていた。
「う〜ん、どっかにおもしろそうなことないかな?」
「そう簡単には見つからないんじゃないの?」
翔子の言葉にフェイが答える。
「しかし、意外と人が多いな。平日だというのに……」
「この辺りはいつもこんな感じさ。休みの日はもっとすごいけどな」
「そうなのか…」
少し驚きながらキリュウがつぶやく。
「キリュウもさ、たまにはこういうところに来てさ、いろんなことにふれた方がいいぜ。そうすれば新しい発見もできるかもしれないしな」
「新しい発見か……。試練のひらめきに使えるものもあるだろうか?」
「たまにはあるんじゃないの?あ…」
キリュウのつぶやきに答えたフェイが前方の人だかりに気づいて声をあげる。
「なんだ、あの人だかりは?いってみようぜ」
三人は人だかりの所に向かった。
「さぁ、さぁ、このUFOキャッチャーで中にある人形をとれば全国のデパートで使える商品券をプレゼント!!早いものがちだよ!!」
ゲームセンターの店員がそう宣伝していた。どうやらイベントらしい。
「へぇ〜、おもしろいことやってるじゃん!」
「でも、難しそうだよ。ほら」
フェイの言うとおり、人形の大きさは通常より大きく、高額な商品券がもらえる人形ほど、とりにくくなっている。
現に、前にやったひと達はことごとく失敗しているようだ。
「アレではバランスも悪くて、取れないのではないか?」
「かもな。ま、こういうのは集客用のイベントだから……まてよ」
ふと、翔子があることをひらめく。そして考えを頭の中で整理して、にやりとした。
「おい、キリュウ、頼みがあるんだけど」
「どうした、翔子殿?」
「いや、なに、ちょっと周りの奴らを驚かしてやろうと思ってな」



「さぁ、次の挑戦者は!」
「はいはい、あたしだよ」
そう名乗り出たのは翔子。
「はい、では一回五百円です」
「はいよ」
そう言って店員に五百円を渡す。
「で、一番高額の商品券がもらえる人形はどれ?」
「奥の方にあるピンク色の人形ですよ」
そう言われて見てみると、それは通常よりもかなり大きいもので、明らかにこのクレーンでは取れそうもなかった。
しかし、翔子のねらいはそれだった。クレーンを操作し、バツグンの位置まで持っていったときに翔子は誰にも気づかれないように後ろにいたキリュウに合図を送る。キリュウはしょうがないという顔つきで、短天扇をパサッと広げた。
そしてクレーンが降りると同時に人形が少し縮んだ。誰も気づいていない。クレーンはそのまま人形をつかみ持ち上げた。
「え、えぇぇぇ!!?」
「おおお!!」
店員の悲痛な叫びと観客の驚きの声が見事に合わさった。クレーンはそのまま取得口まで移動し、人形を落とした。
「よしっ!」
人形をとりだし、店員に見せる。もちろん人形の大きさは元に戻っている。
「はい、とったよ」
「あ、はい。お、おめでとうございます!一等です!!」
鐘を鳴らしながら店員がそう言った。周りからは拍手がわき起こる。
翔子は商品券を受け取って、その場を後にした。



「あの店員の様子からすると、絶対取れないようになってたみたいだな、あの人形」
ゲームセンターから近くにある喫茶店で冷たい飲み物を飲みながら翔子がつぶやく。
「取れないものはじめから置くなっての」
「しかし、本当によかったのか?あれはズルであろう?」
「いいんじゃないの、たまには。向こうもズルしてたんだし」
「フェイの言うとおり。いいんだよたまには」
「しかし……」
フェイと翔子はそう言うがキリュウはいまだに納得していない様子だ。
「それに、こういうことも試練のネタになると思うぞ」
「ズルする事がか?」
「ズルっていうか、だまし討ちみたいなもの…かな。さっきのやつをうまく使えば試練にもなると思うぞ」
「そう…なのか?」
すこし戸惑うキリュウ。
「いつもと違うことに触れれば、違った考えが浮かんでくる。キリュウだってこの時代に来て今まで気づかなかったことに気づいたりしたでしょ?」
「まあ、確かに……」
この時代に来て知ったことはたくさんある。嫌われても仕方がない自分のことを成長するチャンスだと、自ら進んで試練を受けてくれる人もいる。自分のことを分かってくれる人もいる。
自分は変わった……そう思っていた。しかし変わってはいけないとも思っていた。だが変わったのではなかった。
今まで知ることができなかったことを知ることができただけだったのだ。
「さて、んじゃ次いくぞ」
そんなことを考えていると翔子が立ち上がり店を出ようとする。
「次はどこに行くの?」
フェイが尋ねる。
「決まってるだろ。これを使いにいくんだよ」
そう言って翔子は先ほどの景品を二人の前に出した。



「しょ、翔子殿、私はあまりこういうのは……」
「いいじゃんか。キリュウもたまにはこういうの着てもさ」
ここはデパートの服売場。三人は商品券を使うためにここにやってきたので。そして今翔子がキリュウに服を何着か勧めていた。
それらの服はいつもキリュウが着ているような服ではなく、いかにもシャオが来そうな女の子っぽい服装だった。
「お〜い、フェイ、そっちはどうだ?」
翔子がフェイに呼びかけると同時に試着室のカーテンが開いた。そこにはいつもの服装ではなく、どこかのお嬢様がしているような服装に身を包んでいる(もちろん翔子が選んだ服)フェイの姿があった。
「おーー、よく似合ってるじゃん!」
「確かに…」
お世辞抜きで二人はそう思った。しかし、
「でも動きにくい……」
当の本人はご不満のようだった。
「それじゃ、今度はキリュウの番な!」
「だから、私はいいって……」
「問答無用!」
「わー、ちょっと!翔子殿ぉ!!!」
無理矢理キリュウを試着室につれていく翔子。完全に面白がっているよ……。



「あー、今日はおもしろかった!」
大満足で帰路についている翔子。フェイは相変わらず。キリュウは少し疲れている様子だ。
「キリュウ、疲れてるね」
「ああ、すこしな…」
フェイの問いかけに元気なさげに答えるキリュウ。
「そういえば、七梨から休めって言われてたんだよな。悪いことしたかな?」
「いや、気にしなくていい。翔子殿と一緒にいていろいろと知ることもできたしな」
「そうか、ならいいけど。あ、あたしこっちだから。じゃあな!」
そう言って翔子は自分の家に向かって言った。
「たまには歩いた散歩もよかったんじゃない?」
翔子が去っていってからフェイが言った。
「……そうだな、たまにはいいな」
そう一言だけ言ってキリュウは歩き出した。



「主殿、ちょっといいか?」
「ん?どうしたんだ、キリュウ?」
数日後、リビングでくつろいでいた太助にキリュウが話しかけてきた。
「明日から試練を再開したいのだが…」
「あ、そういえば、今日で休暇期間終わりだっけ。そうだな、じゃあ、明日から再開と言うことで」
「では、明日朝に…」
そう言ってキリュウは自分の部屋に戻っていった。
「朝…か。そう言えば明日は学校休みだっけ」
明日は土曜日。学校は休みである。
「久しぶりだからなぁ。明日に備えて体でもほぐしておくか…」
そう言って太助も自分の部屋に入っていった。
太助はこのとき知る由もなかった。キリュウがこの数日でとんでもない『試練』を用意していたことを………。



次の日…
「よしっ!」
玄関先で準備体操して太助は気合いを入れる。
「がんばってくださいね、太助様」
「ああ。じゃ、いってくる」
シャオに見送られて太助は家をでる。キリュウの姿は見えない。シャオによると朝早くに家を出ていったそうだ。
どこかで待ち伏せしているのだろう。
「さあ、キリュウ!どこからでもこいっ!」
大声で叫ぶが返事はない。だが油断はできない。いつどこからくるのか分からないのだ。
「さて、今日はどんな試練を用意して…っておわっ!」
いきなり体が浮き上がり、否、巨大な鳥にさらわれた。よく見るといつもキリュウといるウェンが巨大化した鳥だった。
「う〜ん、これは予想外だったな。って関心している場合じゃないな。さてどうするか…」
見たところ太助をどうにかするつもりはないようだ。
「もしかして、試練のあるところまでの運び屋?」
と思った矢先、太助はいきなり落とされた。
「おわわわ、わっと!」
体勢を立て直し、何とか下にあった木の枝に捕まった。
「ふー、いきなり容赦ないなぁ。ま、いいか。とりあえず次が来る前に降りよう」
枝伝いに何とか木から降りる太助。そして無事降りられたと思った瞬間、
『ゴゴゴゴ…ドガァァァ!!!』
いきなり地鳴りがしたと思えばいきなり地面から生えてきた大岩に囲まれてしまった。高さも相当ある。
「何のこれしき!」
以前と同じものだったので太助は焦らず大岩を上ろうとした。しかし、
「甘いぞ、主殿!!」
キリュウの声が聞こえたと思ったらいきなり上から巨大な石が降ってきた。
「げっ!?」
慌ててかわす太助。と思ったら次々と同じ様な物が降ってくる。
「無事に上まで上って来られよ」
「って、この状況で上るのかぁ!!?」
なんかどこかのゲームで見たことあるような光景も一瞬思い浮かんだが、それを振り払い、太助は降ってきた岩を足場にして何とか上に上がろうとした。



「はあ、はあ、はあ、も、もうダメ…」
太助は地面にバタンと倒れてしまった。あれから大岩を登り切ったと思えばいきなり岩が小さくなって落ちてしまうわ、
転がってきた巨大なビー玉を避ければ、避けた先に落とし穴があったり、落ちていた紙を拾って見てみると
『油断大敵』と書いてあり、いきなり紙が大きくなってその下敷きになったり、試練がやんで休憩かと思えば
いきなり巨大なアリの大群が襲ってきたりと、もう太助はへとへとだった。
「よくぞ試練を越えられた、主殿」
声のした方を見るとキリュウが立っていた。
「でも、もうだめだ。全然動けない」
「それでも今日予定していた試練はすべて越えられた」
「それはよかったよ。けど、今日の試練はいつもと違ってたな」
振り返ってみて太助はそう思った。
「何となくだまし討ちが多かったというか、ま、それが続いたから、いつ何が起こるか分からないと思っていつもより集中してたけど……」
「なるほど、翔子殿の言っていたことはこのことだったのか」
数日前に翔子に言われたことを実践してみたが思わぬ効果があったことにキリュウは少し驚く。
「山野辺がなにか言ったのか?」
「『騙す』ことも主殿には必要だと言っていたのだ。騙すという言葉は少し抵抗があったがこういうことだったというわけか」
「そっか。そう言うことが分かったんだったら試練を休みにしたかいもあったんだな」
体を起こして太助が言った。
「ああ、今まで知らなかったこともしれたしな。たまにはいいかもしれないな。世間に触れるということも……」
そう言ってキリュウは空を見上げる。
今まで休みと言えばただ体を休めるだけだと思っていた。しかし、こういう風に有効利用する事もできる。
また一つ知ることができた。この時代に来て知ったことは多い。ルーアンに言われたとおり知る暇もなかった
知らないことに気づける余裕ができたからだ。そしてそのことは役目を果たすことに大きく役立つ。
そしてそれは自分にいきる意味を与えてくれた人たちへの恩返しにもなるはずだ。
キリュウは立ち上がり歩き出す。
「キリュウ?」
「主殿、今日はもう終わりだが…」
キリュウの肩に元の大きさに戻ったウェンが乗ってきた。
「…明日からもさらに厳しい試練が待っているからな」
その言葉を聞き、太助は少しぞっとする。
「マジ?」
「大マジだ」
そう言ってキリュウは薄く笑う。
「望むところだ!」
太助が叫ぶ。それを聞き、キリュウは再び決意を固める。
(この人を成長させる……それが恩返しになるはずだ)
キリュウは歩み続ける。己の役目を果たすまで…




あとがき
どうも、はじめまして。KOUTAといいます。
小説を通じてグリフィンさんと知り合って、そしてここに
投稿させてもらう事になりました。
でこの話なんですが月天のOVAの第三巻を見ていた時、
最後の方でキリュウが疲れてか、建物に寄りかかるシーンを
みてこの話を思いつきました。
これからも出来れば投稿していきたいと思っているので
またよろしくお願いします。
では!