―結婚式―




第12話 過去(4)―結婚式―


結婚…。それは人生を共に過ごす男女の誓いの儀式。
結婚に憧れる人もいれば、結婚なんてしたくないという人もいる。
まあ、そう言うことはさておき、今ここに新しい夫婦が誕生しようとしていた。


『カラン、カラン、カラン』
教会の鐘が響く。そこにはある二人の結婚式に招待された人でいっぱいだった。
その中には当然、この二人もいる。
「息子の晴れ舞台か。今思えば親らしいことはほとんどしてやれなかったな」
「そうね、こうしてこの場に呼ばれているのが不思議なくらい…。でも嬉しかった。この招待状が届いた時は」
そう言ってさゆりは一通のエアメールを取り出す。
数日前、二人の下に届いたものだ。中には招待状が入っていた。
親としての役目を大して果たしていない自分たちに対して息子からの結婚式の招待状。
「月は本当に私の愛を太助に届けてくれたのね」
「そうだな」
変わっていない二人はそう言いながら教会に足を踏み入れるのだった。


ところかわってここは新郎控え室。
ここでは新郎とその親友だけで話していた。
「おめでとう、太助くん」
眼鏡をかけた青年、乎一郎が祝福の言葉を贈る。
「結局は勝てなかったって事か。ったくたいした奴だよお前は」
元気のいい青年、たかしがそう言う。
「ありがとう、二人とも」
白いタキシードに身を包んだ新郎、太助がそう言う。
「今思えばお前がシャオちゃんを宿命から救った時からすでに終わっていたのかもな」
「そうだよ。たかしくんも諦めが悪かったよ。出雲さんなんかすぐに…ってそう言えば出雲さんは?」
話の中に出てきた出雲の名でいないことに気づく乎一郎。
「ああ、あいつにはシャオの父親役をやってもらうことにしたんだ。シャオにはいないからな、そういう人」
そう説明する太助。しかし太助の頭の中にはシャオの父親役にもっとも適した者の顔がある。
そう、太助がシャオと出会う前までずっとシャオの心を守り続けた人が…。
しかし、その人に頼むのは無理なことなのだ。
「ルーアン先生やキリュウちゃんも参加できたらよかったのにな。」
「仕方ないさ。あいつらは自分達の幸せを見つける為にがんばっているんだ」
ふと言ったたかしの言葉にそう答える太助。
あの頃のメンバーがそろう事はもうないだろうと三人は思っていた。


またまた変わってこっちは新婦控え室。
花嫁であるシャオの着替えがやっと終わったところだ。
「きれいですよ、シャオ先輩」
一つ下の後輩、ついこないだまでライバルだった花織がそう言う。
「私じゃとてもかないませんよ」
「なんだ、今ごろ気づいたのか、愛原」
シャオの親友である翔子が答える。
「ありがとうごさいます」
シャオは軽く頭を下げて礼を言う。
ここまで来るのに随分と苦労があった。ここまで苦労があった二人はそういないだろう。
人間と精霊の壁を越えての結婚。
「おっ、着替え終わったか」
扉が開き、少し息を切らした那奈が入ってくる。
「あ、那奈姉。間に合ったのか」
「当たり前だ。弟の晴れ舞台だぞ?来ないわけにはいかないだろう」
翔子の言葉に那奈はそう答える。
また旅に出ていた那奈は外国で招待状を貰い、急いで日本に戻ってきたのだ。
呼吸を整えてから那奈はシャオの方を向いた。
「おめでとうシャオ。幸せになれよ」
「ありがとうございます。那奈さん」
さっきと同じようにシャオは軽く頭を下げて礼を言う。
「あ、そろそろ時間ですよ」
花織が時計を見て言った。
言ったと同時に扉が開いた。出雲だ。
「何だ、宮内。何か用か?」
「用がなかったら来てはいけないのですか?まあ、用があったから来たんですけど。
あっ、シャオさん、とても似合ってますよ」
那奈の言葉にそう答え、そのままシャオに言葉を贈る。
「そっか、おにーさんがシャオの父親役をやるんだったけ」
翔子が気づきそう答える。
「頼まれたことは断らない主義ですから」
前髪をふさっとしながらそう言う。
「女の頼みだけだろ。式の途中でシャオを連れ去るなよ」
「そんな事することないでしょう?これでもちゃんとした婚約者がいるんですからね」
出雲がそう言う。こないだ親の勧めで見合いをし、その時会った女性が婚約者だ。
詳しいことは次の機会に。
「とりあえず、もう時間です。皆さんは式場に」
「そうだな。じゃあな、シャオ。後でな」
翔子の声で三人は部屋を出ていった。
「では、シャオさん。いきましょうか」
「はい」
そう言って二人は部屋を出た。


式場では、新郎である太助。神父、そして多くの招待客が花嫁の到着を待っている。
「遅くないか?シャオちゃんが来るの」
「そう?そうは思わないけど」

たかしの質問に乎一郎はそう答えた。 『大変長らくお待たせしました。新婦の入場です』
司会の声で扉が開いた。そして入って来た二人を見て一部の者はえっ!?と思った。
入って来たのは新婦のシャオ、父親役は出雲ではなく見知らぬ老人だった。
この場にあまりふさわしくない中国風の服装を身に纏っている。
「(だ、誰だよ、あのじーさん?)」
「(あたしに聞くなよ)」
翔子と那奈が小声で話す。とそこに、
「ふう、何とか間に合いましたね」
出雲がやってきた。
「おい、宮内、誰なんだ?あのじーさんは?」
やってきた出雲に速効で聞く那奈。
「それが、突然現われて、父親役を変わってくれって言ってきたんですよ。
始めは断ろうとしましたが、シャオさんが変わってくれと言ったので変わったんですよ。
女性の頼みを断るほど、私は冷たい男ではありませんですからね」
「はいはい、そうですか」
相変わらずの出雲に呆れたように那奈は答える。
「しかしなんでシャオはあんなじーさんに父親役をやってもらったんだ?」
疑問に気づく翔子。
「どうやらシャオさんはあの老人のことを知っているようですね」
その時の様子から予想して出雲はそう答えた。


(誰だ?)
太助もそう思っていた。
確かに見たことのない老人だ。しかしなぜかは知らないが会ったことがあるような気がするのだ。
考えている内にシャオと謎の老人は太助のもとについた。
そして老人はシャオの手を太助に渡し、一言言った。
「シャオリン様を頼んだぞ」
「えっ!?」
思わずそう言ってしまう太助。声に聞き覚えがあった。自分にそう言う言い方をするのは一人しか思い浮かばなかった。
(来てくれたのか…)
一言言った後、老人はそのまま去っていった。


「汝、七梨太助は、妻シャオリンを愛し、共に過ごすことを誓いますか?」
「誓います」
神父の言葉にはっきりと答える太助。
「汝、シャオリンは、夫太助を愛し、共に過ごすことを誓いますか?」
「誓います」
シャオもはっきりと答えた。
「では指輪の交換を」
二人はそれぞれ指輪をはめる。互いの左手の薬指に。
「では誓いの口付けを」
その声で二人は向き合い、太助が静かにシャオの唇に自分の唇を近づける。
そして、二人の距離がゼロになる。


『おめでとう!!』
教会の外に出ると、招待客から次々とそう言われる。
二人はそれに笑顔で返す。その途中、
「シャオ」
太助がシャオを呼ぶ。
「何ですか?」
「さっきの老人、誰か分かっていたのか?」
「はい。長い間一緒にいましたから」
「そっか」
あの老人の正体を知ったのはこの二人だけかもしれない。


遠くから式の様子を見ている三つの影があった
「やっぱりばれてるぜ。やばかったんじゃないのか?」
その内の一人の少年がそう言う。
「始めから覚悟の上じゃ。もう思い残すことは何もない。何でも罰は受ける」
さっき式場に来ていた老人がそう言う。
「シャオしゃま、幸せそうでしね」
少女がシャオの様子を見てそう答える。
「ああ、そうだな」
少年が少女の言葉にそう答える。
「さっ、時間じゃ。戻るぞ」
老人はそう言って杖を取り出し、それを天に掲げ、なにかを唱えると、三人の姿は消えた。
『幸せに…』その言葉を残して…。


続く