お父さんが二人!?




第十四話  お父さんが二人!?


あの久しぶりの全員集合から一ヶ月が過ぎた。
みんな変わりなく生活している。
昔と違ってこれといった事件は起きていないし、幸太の生傷が増えている以外は、本当に変わりない。
そんな平和そのものの麗奈と幸太だったが、妙な話を聞いたところから この事件、もとい話は始まる。


「「遅刻だぁぁぁぁ!!」」
朝から麗奈と幸太の二人は慌てていた。
昨日遅くまで、ドラマを見ていたので、起きられなかったのである。
頼み綱の太助とシャオは、太助は仕事の都合で朝早くから出ていて、シャオは翔子の誘いで、ルーアンキリュウと共に、温泉旅行に行っている。
シャオは始め、子供たちを置いては行けないと言ったが、当の二人が
「大丈夫だよ。行ってきて」
と言ったので、行ったのである。
しかし、全然大丈夫じゃない。
「だめ、もう間に合わないよぉ」
麗奈が嘆く。家から学校までどんなに走って急いでも10分はかかる。
只今の時刻、8時25分。ベルが鳴るのは8時半。絶望的だ。
「こうなったら最後の手段だ!」
そう言って幸太はあるものを取ってきた。それは、
「あ、それルーアンが移動の時に使っている絨毯。しかも陽天心がかかってる、ってもしかしてそれでっ!?」
幸太が持ってきた物を見て、麗奈がそう言う。
「ちょっと危険だけど行くしかないだろっ!」
そう言って、幸太は陽天心絨毯に乗る。麗奈もそれに続く。
「おい、学校まで急いでくれ!」
幸太がそう叫ぶと、絨毯はいきなり猛スピードで飛んだ。
「うわわわわあああああ!!!!」
「きゃああああああああ!!!!」
悲鳴を上げながら二人は振り落とされないようにしっかり絨毯にしがみついている。
そして数秒後、
『ガジャアアアアーーーン!!』
教室の窓ガラスを割って、陽天心絨毯は教室に入った。
二人はその衝撃で振り落とされ、陽天心絨毯はそのままどこかに行ってしまった。
「いててて…」
頭をさすりながら起き上がる幸太。
「いったーい!」
麗奈はそう叫んだ。
「二人とも、後で職員室に来なさい!」
すでに教室にいた担任である乎一郎がそう言った。


二人は窓ガラスを破った罰として、中間休みにトイレ掃除をやらされた。
しかし、空飛ぶ絨毯で飛んできて教室のガラスを割ったのにたいして騒ぎにならず、トイレ掃除だけですんだのは幸いだった。
「やっぱり無理があったんだよぉ」
「本当だな。ルーアン自体陽天心を操れない時があるっていうくらいだからな」
麗奈の言葉に腕を組みながら幸太はそう答えた。
「これだったら素直に遅刻すればよかったよ」
「何だよ?だったらあの時止めればよかっただろっ?」
「あの時は「遅刻する!!」ってことしか頭になかったの!」
軽い口喧嘩を始める二人。こんなことは日常茶飯事だ。
「…やめようぜ。いまさら言っても意味ないし」
「そだね」
二人は、その足で教室に戻っていった。
いつもなら幸太は外で遊ぶのだが時間がもうないので、一緒に教室に帰ることにしたのだ。
教室に入ったとたん麗奈は友達に声をかけられた。
「ねえ、麗奈ちゃん」
「ん、何?」
普通に答える麗奈。
「麗奈ちゃんのお父さんって浮気してるの?」
「「えぇぇぇっっ!!?」」
友達に言葉に麗奈と幸太の声が見事にハモった。
「そんなわけないだろっ!お父さんはそんな事は絶対しない!」
話に幸太が割り込んだ。
「でも、この間の日曜日、あなた達のお父さんが知らない女の人と仲良く歩いていたよ。腕も組んだりしてたしさ」
「あ、それなら俺も見たぜ。まるで夫婦のようだったぜ」
今度は裕介が割り込んできた。
「そっくりさんじゃないのか?ほらよく言うだろ、世界には自分と同じ顔の人間が三人いるって…」
「そうだよ。それにこの間の日曜日お父さんは……」
そこで言葉を止める麗奈。
「そういえば昼頃から一人で出ていったっけ。本買って来るって言って…」
言葉の詰まる麗奈に代わって幸太が言った。もちろん幸太の声も少し暗い。
そうして『太助不倫説』という事件が起こった。


「なあ、どう思う?」
学校の帰り道、幸太は麗奈にそう尋ねる。内容はもちろん太助のことだ。
「……信じられないのが本音よ。昔の話を聞いた後だから余計に…」
「そうだよなあ…」
ついこないだ二人は太助とシャオの昔の話を聞いた。
その話を聞いた後だからこそ、今回の話は信じられないのだ。
その後は沈黙が続き、いつのまにか家に着いていた。
「「ただいまぁ」」
元気のない声。
「おかえり。何だ、二人とも元気ないぞ」
出迎えてくれたのは翔子だった。
「あれ?翔子お姉ちゃん、帰ってきたの?」
「ああ、ついさっきな。それよりもお前たち学校ですごかったらしいな。遠藤から聞いたぞ」
からかい口調で翔子が言ったが二人はあまり反応しない。いまの二人にとってそんなことはどうでもいいのだ。
「あ、翔子姉ちゃん、ちょっと相談したいことがあるんだ」
ふと思い付いて幸太は翔子にそう言った。
「何だ?相談したいことって?」
「ここじゃなんだから、私達の部屋で」
今度は麗奈が言った。
そして三人で子供部屋に向かった。


「何ぃーー!!七梨が不倫!?」
翔子が二人の話を聞いて驚きの声を上げる。ちなみにここにはルーアンとキリュウもいる。
言った本人たちは指を立てて「シッー!」と言って翔子の口をふさぐ。
「友達がみんな言うんだ。お父さんが知らない女の人と一緒に歩いているって」
幸太がそう言う。
「何かの間違えでは。太助殿がそんな事を…」
キリュウがそう言う。
(七梨が不倫だぁ?どういう事だ?アイツがそんな事するわけないし。 でも目撃者がいるみたいだし……ってまてよ。前におにーさんが変なことを言っていたなあ。確か…)
「もしかして…」
翔子がそう呟く。
「えっ、何?」
「なにか分かったの?」
二人が同時にそう聞く。
「いや、勘違いかもしれないから…」
考えていた事を表に出さない翔子。
「多分あんたがかんがえてるので見間違いないわよ。そうなる理由もあるし」
ずっと黙っていたルーアンが口を開いた。
「え、なに、ルーアン?理由って?」
麗奈がルーアンに尋ねたその時、
『ピーンポーン』

家のチャイムが鳴った。 「麗奈ぁー、幸太ぁー、ちょっと出てぇ」
「「はーい」」
シャオの声に二人はそう答え、玄関に向かっていった。
「あ、まてよ。私も行く」
翔子はなにかを感じ、二人について行った。
「キリュウ、あたし達もいきましょう」
「ああ」
二人も後に続く。


『ピーンポーン』
もう一度チャイムが鳴る。
「はーい、『ガチャ』ってお父さん!」
扉を開けた麗奈が驚く。確かにそこには父太助の姿があった。
しかも一人ではない。麗奈達の知らない女の人がいた。
「何でチャイムを鳴らすんだよ、お父さん?それにその女の人誰?」
「まさかこの人が」と思いつつ幸太がそう言った。
幸太の言葉に目の前の人物は「やれやれ」と言った。
「どうやら俺はあいつの子供にまで間違われるみたいだな」
「しょうがないわよ。ここまで似ているんですもの」
二人が妙な話を聞く。それを麗奈と幸太の後ろで聞いていた翔子が「あぁー!!」
っと声を出した。
「思い出した!昔七梨の奴にそっくりな奴がいるっておにーさんが言っていたっけ。それがあんたか!てかホントそっくり!!」
「そう言う君は今や二十一世紀の歌姫、山野辺翔子さんだね。はじめまして」
太助に似た人物はそう言った。
と、そこに、
「やっぱり七希か。あんたしかたー様と見間違えるわけないと思った」
ルーアンが二階から降りてきた。その隣にいるキリュウはあまりに太助にそっくりな七希に驚いている。
「あれ、ルーアンさん、何でここに?太助の話だと精霊器に帰ったって…」
「私を呼び出した主がここにいるからよ」
不思議がる七希に麗奈を指差しながら答えるルーアン。始めは何の事か分からなかった七希だったが、
「あ、そっか、確かに太助くんとシャオさんの子供なら心が清くてもおかしくないわね」
と美穂の言葉で納得する。
事情を知らない麗奈、幸太、キリュウは何が何だか分からなかった。
と、そこに、
「七希じゃないか!どうしたんだ、いきなり来て」
仕事から帰ってきた本物の(?)太助が帰ってきた。
「おっ、太助、久しぶりだな。ちょっと時間が作れてたまには顔を出しに来ようかと思ってな」
「久しぶり、太助くん」
三人、それぞれ挨拶を交わす。
「お父さん、この人たち誰なの?」
麗奈がそう聞く。
「ああ、こっちが大田七希。んでもって、こっちが有田美穂さん…じゃなかった。
大田美穂さんだ」
太助が二人を紹介する。
「おいおい、大田七希って言えば、俳優で有名な奴じゃないか。なんでそんな奴と知り合いなんだ?」
翔子がそう聞く。
「それは後で言うよ。とりあえず家の中に入ろう」
太助がそう言うと六人は家の中に入って行った。


「なるほどな。そう言えば昔野村と遠藤に誘われて映画のオーディションを受けにいったんだよな」
太助の説明を聞いて納得し懐かしがる翔子。
「そうそう、あの時は本当に驚いたよ。目の前に鏡があるみたいだった」
「それはこっちだって同じさ」
同じ顔の二人がそう言った。
「けど、さすがに驚いたわ。シャオさんを精霊の宿命から救ったって聞いた時は」
美穂が言った。
「そうそう、で、こいつらの結婚式の日、二人で仕事すっぽかして出席したもんな」
懐かしそうに言う七希。
「けど、お父さん達って有名人との知り合い多いね」
ふと、麗奈が言う。
「多いっていってもこの三人くらいだぞ」
太助は笑いながら言う。
「さてと、そろそろ帰らないと」
「あ、本当だわ」
七希の言葉に美穂が時計を見て言う。
「もう、帰るんですか?」
シャオが残念そうに言う。
「俺達的には、もっと居たいんだけど、仕事があるからな」
「今度新番組で私達が主役をやることになって。よかったら始まったら見てね」
「「うん!」」
美穂の言葉に子供たち二人はそう言う。
そして全員で玄関に向かう。
「じゃあな。また今度代役頼むよ」
「ああ。けど人質はもうゴメンだぞ」
太助の言葉に二人は笑う。
「じゃあ、また」
「また来てくださいね」
手を振る美穂にそう言って送るシャオ。
『バタンッ』
扉が閉じられた。
「あいつらもがんばっているな…」
「そうですね」
太助とシャオがそう言う。
「ホント、いつみてもそっくりだわ」
「確かに、あいつの親でも分からない時があったからな」
ルーアンの言葉に相づちを打つ太助。
「結局はただのそっくりさんだったって訳か」
「でもよかったよ。お父さんが浮気してなくて」
ほっとする二人。
「なんだ、俺が浮気するとでも思ったのか?」
二人の言葉にそう言う太助。
「思ってなかったけど、目撃者がいたからさ、つい…」
「そっか、でも俺はシャオを裏切る事は絶対しないから、今度からそんな心配するなよ」
「「はーい」」
元気よく返事をする二人。
こうして太助の疑惑は解かれたのだった。


続く