これから…




 最終話 これから…



「では今日で二年生も終わりです。来年はクラス替えもあり、何かと新しいことがいろいろとあって大変だと思いますががんばってください」
乎一郎が生徒達に向かってそう言った。
今日は終業式。一年の終わりを告げる時である。
「では、また来年もみなさんと一緒に勉強していけることを願っています」
こうしてHRが終了した。



「ふ〜う、ようやく一年がおわったなぁ」
「ホント、長い一年だったよねぇ」
「いろんなことがいっぱいありすぎたんだよ」
「まったくその通りですね。ってお二人さん、何をしているんですか?」
出雲が呆れながら尋ねる。
今麗奈と幸太は宮内神社にいる。学校帰りに寄って、勝手にあがり、出雲の母特製の和菓子を食べている。
「何って、見ての通りお菓子を食べてるの」
「それは見れば分かります。ですがなぜ勝手に食べているのかと聞いているんです」
「勝手じゃないぜ。ちゃんと敬子ねーさんに許可もらったんだから」
そう言ってまた一口お菓子を口にほおばる。
「まあ、いいですけど。でもこうしていると昔を思い出しますよ」
「ほへ?どんなこと思い出すの?」
懐かしそうに目を細めている出雲に麗奈が尋ねる。
「昔は離珠さんや軒轅さんがこうしてここにやってきて母の和菓子をおいしそうに食べていたんですよ」
「ふ〜ん、食べ物でまず星神達をつって、でお母さんを手に入れようとしたんだな」
「そうそう、って違います!」
慌てて否定する出雲。
「でも全くの下心がないって言ったら嘘になるんじゃないの?」
鋭いところをついてくる麗奈。 「ま、確かに全くなかったと言えば嘘になりますけどね。でもそれもそのうちただ彼らを喜ばすことだけを考えるようになっていましたけどね」
「変わりもんだよな、出雲にーちゃんも。そんなんだから那奈ねーちゃんにも遊ばれるんだよ」
「ふっ、遊ばれているのではなく、私がお相手しているだけですよ」
前髪をふさっと掻き上げてそういう出雲。いつまで経ってもこの癖は変わらなかった。
「ところで、お二人とも、本当にお菓子を食べに来ただけなんですか?」
本題に入る出雲。和菓子なら七梨家にちょくちょく持って行っている。(ルーアンが戻ってきてから回数は多くなった)呼んでもいないのにわざわざここまで来るのはちゃんと考えれば少しおかしいことだ。
「まあ、ちょっとね。ねえ、恋愛って一体なんなのかな?」
「は?」
おかしなことを聞く麗奈に気の抜けた返事を返してしまう。
「この間さ、そう言うことを目の当たりにしてさ。なんか自分たちって恋愛について全然知らないんじゃって思ったんだ。
ここって縁結びの神様をまつってるんだろ?なんかわかるかなって思って」
「そうですね。人それぞれですから一概には言えませんが……」
少し悩んでから出雲は続けた。
「そもそも恋愛と言うのは男女が互いにこいしあうことだと定義されています。ただそれだけであとは何も決められていません。だから人それぞれなんですよ」
「それがわかんないんだよなぁ」
幸太がうめく。
「あなた達にはまだ早すぎますよ。もっといろんなことを経験すればおのずと自分自身の答えが見つかりますよ」
出雲にそうはいわれたものの二人は納得していなかった。もとからそれほど期待してはいなかったがいざ現実を目の当たりにするとやはりガクっとくるものである。
簡単に答が見つかるとは二人は思ってはいなかった。しかし、知りたかった。恋愛がどういうものなのかを……。



帰ろうとして境内に出ると二人はお祈りをしている一人の女性を見つけた。なにやら真剣にお祈りをしている。よほど叶えて欲しいのだろうか。
お祈りが終わった後、女性は二人に気づき、声をかけてきた。
「こんにちは。お二人もお参りに来たの?」
「え、あ、そう言うわけじゃないんですけど。ここの神主さんと知り合いなんでよく来るんですよ」
いきなり話しかけられて少し驚きながらもそう答える幸太。
女性は自分たちの両親よりも年上に見え、なぜか誰かに似ているような気がした。
「かなり真剣にお祈りしていましたけど、何をお祈りしていたんですか?」
「ある子の恋愛成就をね。ここって縁結びの神様を祀っているでしょ?だからここにお参りすればかなうかなって」
「でも本人が来ないと御利益ないんじゃ…」
もっともなことを幸太はいう。
「それができればいいんだけどね。そのこ遠い外国にいる子だから」
そう言って女性は遠くのほうを見る。
「もしかして、お子さんですか?」
麗奈が尋ねる。
「そうね、ある意味そうかもね。…ねえ、二人とも時間ある?ちょっとお話につき合ってくれない?」
「え?いいですけど、幸太は?」
「俺も別にいいぜ」
そこで三人は境内に座って話しはじめた。



「自己紹介がまだだったわね。私はさゆりっていうの。あなた達は?」
「私は麗奈です。こっちが幸太」
互いに名乗りあう。今思えばなぜ見知らぬ人の誘いに乗ったのか分からなかったが、二人はなぜか断る気にはならなかった。
「あの、さゆりさんは何で私たちと話したいと思ったんですか?今日初めてあったばかりなのに」
「ん?そうね、あなた達が何か悩んでいるように見えたからかな」
見事に言い当てられて驚く二人。
「な、何で分かったの?」
「これまでにいろんな子供の面倒を見てきたからね。ちょっとしたことなら分かるようになって来たの」
「子供の面倒って教師か何かをしているんですか?」
「いえ、私ね世界中の困っている人のお世話をしているの。もちろんボランティアでね。
その中では戦争とかで親を亡くした子供もいたりするから、少しの間面倒を見たりもするのよ」
「へ〜、すごいなぁ」
感心する幸太。淡々と言っているがこの人のしていることがどれだけ大変なことかは幼い二人でもよく分かる。
「ところで二人が悩んでいることって何なの?」
さゆりがそう切り出してきた。
二人はわけを話していく。
「……なるほどね。恋愛についてか」
話を聞いて少し考えるさゆり。
「ここの神主さんにも聞いたんですけど、私たちが理解するにはまだ早いって言われて…」
「そうね、そうかもしれないわね。恋愛は人それぞれ。固定されたものがないからこそ無限の可能性もある。出会いも突然あるしね」
「突然の出会いか……」
そう言いながら二人はルーアンとキリュウと初めて会ったときのことを思い出す。
思えばあの出会いも突然だった。恋愛に関係はないが。
恋愛で言うなら自分たちの両親がまさにそれである。
「さゆりさんは何か突然の出会いってあったんですか?」
「ええ、私は太郎助さん…私の主人なんだけどね、旅先でたまたま出会ってそのままって感じかな」
「へぇ〜、そのまま最後までってことですか。でその太郎助さんは一緒に旅してるんですか?」
麗奈が尋ねる。
「いいえ、いまは別々に旅をしているわ。一緒に暮らしたのはほんの少しだけ。子供も二人いるけど下の息子の方はほんの一年しか過ごしてないわ」
「……寂しくなかったんですか?さゆりさんが平気だったとしてもその息子さんは……」
今言われた状況を想像してみるととても悲しくなってくる。幸太も同じ考えらしい。
「そうだよ。子供ってのは親と一緒にいたいものなんだから」
「そうね。幸太くんの言う通りね。確かに私は最低の母親。息子にもずいぶん恨まれたわ。あのころは月に祈れば想いが届くなんて思ってたから大丈夫だって思いこんでたのよね」
「「月に……」」
久しぶりに二人の声が重なった。
「馬鹿みたいだって思うでしょ?娘にもそう言われたわ。でもね…」
「でも?」
「まさかほんとに届いてたとか?」
まさかと思いつつも幸太はそう口に出す。
「そのまさか。ほかの人はそうは言わなかったけど、私は信じたいの。私の想いは息子に届いていたと」
「なんでそう思ったんですか?お子さんに届いたって?」
「それはねある人が届けてくれたのよ。そう月の精霊さんがね」
「「月の精霊っ!!?」」
その言葉に二人は驚いた。まさか…と言う考えがまた二人の頭によぎった。
「信じられないでしょ?まあ当然なんだけどね。あ、ごめんなさいね。話がそれちゃって」
「あ、いえ。…それでそのお子さんは今どうしているんですか?」
「結婚して幸せに暮らしているわ。子供も二人いるしね。そう言えば息子の出会いも突然だったわね」
この言葉で二人は確信した。なぜこの人の誘いを断る気にならなかったのか、この人が何者なのかが。
「結局の所、恋愛は他人が分かるものじゃないのよ。本人じゃないとね。あなた達もこれから何か自分で分からない気持ちとかがあったらまず自分と向き合ってみて。そうすれば道は開くわ」
「「…はい」」
二人はそろって返事をする。
何にせよ、疑問になっていたことの答えの見つけ方が分かった。二人の心は少し軽くなったような気がした。
「あら、ずいぶんと話し込んでいたみたいね。二人とも時間のほう大丈夫だった?」
時計を身ながらさゆりは言う。
「あ、やば。もうこんな時間!早く帰らないとお母さんに怒られるっ!!」
「マジかよ!?んじゃ、俺達帰ります。いろいろと話してくれてありがとうございます、さゆりさん」
「ええ、またどこかでね」
「はい、また!」
それだけいって、二人は慌てて神社の階段を下りていった。



「ふう〜」
二人が去ってからさゆりはふとため息をつく。
「ホントいい子に育ってるわ。私と違っていい親をやっているみたいね」
その言葉に応じて、一人の男がでてきた。太助だ。
「自分の正体はばらさない言ったのに、しっかりばらしちゃってるじゃないか」
「あら、直接は言ってないわよ。自分があなた達の祖母だって」
「あんなこと言ったらばれるって」
そう言いながら今度は那奈がでてきた。
「でも、隠す必要もないからいいんだけど」
太助が付け加える。
「にしても、あいつらあんなことを考え込んでいたのか…」
「悩むにしてはちょっと幼すぎだよ」
二人の様子が最近変なのにいち早く気づいたのはシャオだった。それとなく聞いても何でもないとはぐらかされるだけだし、そのことを聞いて太助も探りを入れていたが、なかなか分からなかった。
そこでたまたまこっちに帰ってくる那奈とさゆりに協力してもらい、こういう場面を作ったのだ。
もっとも最初に考えたのはさゆりだったが。
「今は無理かもしれないけど、二人ともその答えにたどり着くはずよ。時間をかけてゆっくりと答えを探していけばね」
そう言うとさゆりは立ち上がった。
「それじゃあ、私はいくわね」
「えっ、どうしたんだよ?家に寄っていかないのかよ?」
突然のさゆりの言葉に太助は少し驚く。
「ええ、元々長居するつもりなかったし。実は太郎助さんと約束しているの。近々会おうって」
「久しぶりに夫婦水入らずってわけ?まあ、いいけどさ。いい加減どっかに落ち着いたら?いっちゃあ悪いけど、二人ともそろそろ年なんだからさ」
「それはこれから太郎助さんと決めるわ」
那奈の忠告に軽くそう答えると、さゆりはその場を後にした。



その日の夜、
食卓には那奈に加えて、翔子と出雲も加わり(二人とも那奈に呼ばれた)久しぶりににぎやかな夕食となった。
そんな中麗奈と幸太の二人はそっとその場から抜け出し、屋根の上に上がって空を見上げていた。
「結局はすぐにはでない答えだったか…」
「人それぞれだから仕方ないよ」
幸太のぼやきに麗奈がそう答える。
自分たちの求めていた答えは得られなかったが二人は別の意味で大切なことを手に入れた。
それはただの気休めかもしれない。しかし、前を向いて生きていかなければ自分たちの求める答えを得られない。
恋愛と言うものを理解し、その手に幸せをつかむためには…。
「見つけられるのかな、私たち……」
「見つけなきゃどうにもならないだろ?それが幸せになることじゃないかもしれないし、そうかもしれない。どのみち前には進めないと思う。そうなったらあのこともさ…」
「うん…」
二人はある時一つの決意をした。父が成し遂げた偉業を自分たちもやろうと。
「ま、ゆっくりいこうぜ。焦ったって仕方ない」
「そだね」
二人は空を見上げる。今宵は満月。二人は再び月に誓う。自分たちがやろうとしていることを
成し遂げることを……。



Fin of the people to get the happiness.

to be continued final...