第二話  解き放たれるつらい宿命



第二話  解き放たれるつらい宿命




第二話  解き放たれるつらい宿命


行き着いたところは大広間になっていた。中央は祭壇になっていて、周りの壁にはいくつもの星座が描かれてある。
天井は少し大きめの穴が空いていて、そこから月の光が入ってきている。
太助は上を見上げた。朝早くに来たはずなのにもう夜になっていた。
「いつの間にかこんなに時間が経っていたんだなぁ。そうは感じなかったけど」
「一生懸命物事をやっていると時間が早く経つように感じるもんなんです。私もそうでした」
太助の呟きにシャオが言った。
「それはそうとしても……」
太助が疑問に思っていたのはそれだけではなかった。
「何でここ、こんなに明るいんだろう?」
確かにかなり明るい。しかし、光源は月の光以外見当たらない。月明かりは確かに暗闇にいるよりかは明るいが
この場所はまるで照明器具にでも照らされているかのように明るい。
月の光だけでここまで明るくなるとはとても考えられない。それに何となく壁から光が出ている様に見える。
そんな事を太助が考えていると、シャオが何か思い出したかのか、「あっ」と声をだした。
「どうしたんだ、シャオ?」
「聞いた事があるんです。中国のどこかに月の光が当たるとその光を10倍の光量にしてはね返す石があると。
たぶん周りの壁全部それで出来ているんだと思います」
「その通りですじゃ」
シャオが言い終えると支天輪から南極寿星が出てきた。
「この石は、月光石と言いまして月で採れる石です。そもそもここには月の住人が住んでいたのです」
「月の住人?」
聞いた事の無い言葉に太助が尋ねた。
「月の住人とは、その名の通り月に住む人々のことなのじゃ。今から3000年ほど前、月の異常気象で住人は青く美しかったこの星に降り立った。
月光石を持ってな。そして月の光がよく当たるここに住む事にしたんじゃよ」
「そしてその石でここの壁を作ったって分けだな」
太助が言うと南極寿星は頷いた。
「左様、しかしどこで嗅ぎ付けたのか、周りの国から盗賊がたくさん来てのぉ、月光石を奪いに来たのじゃ」
「それであんなすごい罠を作ったのね」
今度はシャオが言った。
「そうです。しかし始めはそんなにすごいものではありませんでした。それに月の住人を守ってくれる人間がいたそうです。
月が元通りになり彼らが帰るまでその者は彼らを守ってくれたそうです。
月の民はその者の心の清らかさに打たれ心清き者を守ろうとした。そして心清き者に守護する者をこの星に置いた」
「その守るものが私……」
シャオはつぶやいた。
「ま、話はこの辺にして、そろそろ始めますかのう。シャオリン様、祭壇の方へ」
シャオは頷き祭壇の方へ歩き出した。太助はその場で待っている。実は立っているだけでもつらいのだ。
無理もない。あのものすごいトラップからシャオを守りながら来たのだから。肉体的にも精神的にも限界に来ている。
いまここに無事でいることが夢のように思えてしまう。しかし、表には出さない。シャオに心配をかけたくないからだ。
そんな事を太助が思っていると、シャオは立ち止まり太助の方に振り向いて言った。
「行ってきますね、太助様」
「ああ、なんか変だけどがんばれよ」
シャオは「はい」と答え、また歩きだした。


祭壇の周りには真っ白な四つの柱が立っている。そして中心に台があり、八角形の窪みがある。
シャオはその台の前に立った。南極寿星はその反対側にいる。
「シャオリン様、そこの窪みに支天輪を」
シャオは頷き、支天輪を窪みにはめ込んだ。そして南極寿星に尋ねた。
「後は、どうすればいいの?」
「もう、立っておくだけで良いです。それでは始めます」
そう言うと、南極寿星は何やら呪文のようなものを唱えだした。シャオはじっと南極寿星を見ている。
太助は今までの事を思い出していた。


始まりは親父が送ってきた変な骨董品だった。支天輪からシャオがでてきて俺の人生が変わった。
いつも一人寂しく暮らしていた俺の生活が。安らぎは無くなってしまったが、今となってはどうでも良い事だ。周りに取り巻くやつらも、
うっとしいときもあったが昔の事を考えればありがたい事だった。自分の望んでいた生活を彼らが与えてくれたのだから。
じーさんに守護月天の宿命を教えられ一度はシャオと別れる事を決心したが、何故かは分からないけどシャオの声が聞こえ、
俺は別の事を決心する。『シャオを帰さない代わりに、俺が主の間にこれ以上シャオが苦しまない方法を見つけてみせる』と……。
キリュウが来てからは、試練に明け暮れる毎日で、シャオに寂しい思いをさせてしまったこともあった。
色々な事件もあった。そして、今やっとここまで来た。これでやっと…、


と、その時、いきなり四つの柱からものすごい光が放たれた。太助とシャオはその眩しさのあまり目を閉じてしまった。南極寿星は自分の背丈ほどある杖を掲げ言った。
「大いなる月の神々よ、今この者を守護月天の使命より解き放ちたまえ!!」


光が収まり目を開けてみると、目の前に星神たちがズラリと並んでいた。
「みんな………!!!」
この時シャオは初めて気づいた。自分が守護月天を辞めてしまえば、星神のみんなはどうなるのか、考えていなかったのだ。
太助も同じ事を考えていた。シャオの心境を考えて、太助は南極寿星に聞いた。
「なあじーさん、じーさんたちどうなるんだ。シャオが守護月天をやめたら?」
太助の問いに南極寿星は淡々と答えた。
「お二人とも、その様子だと儂らは消えるとでも思っているみたいじゃが、消えはしませんぞ。星に帰るだけです。
まあそれは置いといて、儀式は終わりました、シャオリン様」
「終わったってことはつまり……」
太助は寄ってきて言った。
「シャオリン様はもう守護月天ではありません。普通の人間です。もう自由です」
太助はシャオによって行き、言った。
「よかったな、シャオ」
「太助様ぁ!!」
シャオは思わず太助に抱きつく。太助はそれをやさしく受け止める。長い間、願ってきた事が叶ったのだ。
お互いに一緒にいたい、同じ時を過ごしたい、その願いが叶ったのだ。
抱き合っている二人に近付いてくる星神がいた。離珠、虎賁、軒轅である。
「おめでとうございます、月天様。これでぼうずと一緒の時を歩めますぜ」
軒轅に乗っている虎賁が言った。
「ありがとう、虎賁」
太助から離れ、でていた涙をぬぐってシャオが笑顔で答えた。
(おめでとでし、シャオしゃま)
離珠が何か言っているようだが、シャオにはもう聞こえなかった。
「そっか、私にはもう離珠の声、聞こえないのね」
シャオが残念そうに言うと離珠は、筆と紙をだし、何か書き始めた。
「なになに、『シャオしゃま、太助しゃまと幸せになってくださいでし』だってさ」
離珠が書いた絵を訳す虎賁。
「まあ、ありがとね離珠」
そう言って離珠を撫でるシャオ。太助はよくこの絵で言っている事が分かるなーと、つくづく思うのだった。
シャオたちは他の星神のところへ行った。もう最後だから別れの挨拶をしている。太助は待っている。その太助に近付いてくる者がいた。南極寿星である。
「しかし本当にここまで来られるとは思わんかったぞ」
「何だよじーさん、俺が成長してここに来られると思ったから教えてくれたんだろ?」
「確かにお主は成長した。しかしここの罠を越えられるとは思わんかった。途中で諦めてやめると思っていた。
しかしお主はここまで来た。それもシャオリン様を無傷でな」
そうなのだ。太助はボロボロだが、シャオはかすり傷一つ負っていないのだ。南極寿星から見てみれば信じられない光景だった。
「まあ本当にシャオが無傷ってのは、俺も信じられないよ。でもそれは終わった事だし、もういいじゃないか」
「それもそうじゃな」
しばらく沈黙が続く。すると太助が何か思い出したように、あっと声をだし南極寿星に尋ねた。
「なあじーさん、もしかしてシャオって……」
「うむ、元々は人間なのじゃよ。さっき月の住人を守ってくれた者がいたと言ったじゃろ。その者と一緒にここにいたのが、
シャオリン様じゃ。月の住人が守護月天をつくりだそうとした時、自分がやるといったのだ」
「でもシャオはその事知らなかったみたいだけど」
元人間であるならそのことを太助に話してくれたかもしれないし、何よりそのことを知っていたらもっと早くにここでの
儀式のことを知ることができたはずだ。
「記憶を消したからな、知らなくて当然じゃ。けどなぜシャオリン様が元々人間だったと気づいた?」
「じーさんがさっき儀式の時に言った言葉、あれでな」
「なるほどな」
話が終わるとシャオがこっちにやってきた。
「別れはもうすんだのか?」
「はい」
少し寂しそうな顔で答えるシャオ。長年一緒にいたものと別れるのだからしかたない。
ふと太助はシャオの手に握られている支天輪に目をやった。
「いいのか、持ってきて?」
「大丈夫みたいです。これにはいろんな思い出が詰まっていますから。これからはお守りとして持っています」
「そうだな」
太助にとっても大切な思い出があり、そしてすべての始まりをつげたものでもある。
太助とシャオが話し終えると、南極寿星が言った。
「そろそろお別れです。シャオリン様、どうかお幸せに」
「ありがとう、みんな元気でね」
「小僧!シャオリン様を頼むぞ。もしシャオリン様を不幸にしてみろ、星神全員で、お主を懲らしめに行くからな!!」
「大丈夫、シャオは俺が必ず幸せにしてみせる」
太助はきっぱりと言った。
「それでは入り口近く送ります」
そう言うと南極寿星は杖を掲げた。そして杖から出た光が二人をつつみこむ。そして二人は消えた。
「どうかお元気で」
杖を下ろし南極寿星が言った。
「よし、今日は飲むぞ!皆の者も付き合え!!」
その瞬間、星神たちは全力で逃げ出した。
「逃がさんぞ!!」
何人かの星神は捕まり、三日ほど南極寿星に昔話を聞かされたと言う。


太助とシャオは歩いていた。入り口付近とか言いながら入り口よりほど遠い場所に送られたのだ。
相変わらずの方向音痴ぶりだ。
(まったく、最後くらいちゃんと送れよな。まあ、予想していた事だけど)
「太助様ぁ、入り口が見えましたよぉ」
太助がそんな事を考えていると、先に行っていたシャオの声が聞こえた。太助が行くとシャオが待っていた。
「行きましょう、太助様!」
「ああ」
そして二人は外に出た。


「ルーアン殿ぉ、主殿たちが出てきたぞぉー」
「なんですってー」
キリュウの声でルーアンは食べていたお菓子を放り投げて入り口のところに走っていった。
そこには嬉しそうな顔をしたシャオとボロボロになりながらも満足そうな笑みを浮かべている太助がいた。
「その様子だと目的は果たせたようね、たー様」
「ああ、なんとかな」
ルーアンの問いに太助は少し小さな声で答えた。
「しかし凄いけがだな、主殿。大丈夫なのか?」
「大丈夫、と言えば嘘になるな。凄く疲れたし」
「シャオ殿は?」
「私は大丈夫です。太助様に守っていただきましたから」
そんな会話が続く中、太助は山のようにつまれたお菓子の箱が目にはいった。
「ルーアン、あの時間でこんなに食ったのか」
「失礼ね、キリュウも食べたわよ」
しかし、キリュウが食べたのはほんの二、三個で残りは全部ルーアンが食べたのだ。
「ま、ルーアンの大食いはいまに始まったわけじゃないか」
「たー様、何か言った?」
「いや、何でも。とりあえず…帰ろう。ルーアン…キリュウ…後…た‥の‥む‥」
『バタンッ』
そう言って太助は倒れてしまった。
「た、太助様!?」
「たー様!?」
「主殿!?」
近くにいたシャオがすぐに太助を抱き起こした。ルーアンとキリュウもすぐに太助を覗き込んだ。
「スースースースー」
太助は寝息をたてて寝ていた。
「寝ているだけ…みたいです」
「よほど疲れたのだろう」
シャオとキリュウは口々に言った。
「まったく、人騒がせなんだから。ま、とりあえず用は済んだらこんな所長居は無用。帰りましょ。陽天心招来!」
ルーアンは今まで座っていたシートに陽天心をかけた。そこに太助、シャオ、ルーアンが乗り、キリュウは短天扇を
大きくしてそれに乗った。そして帰路についた。その間もずっと太助は寝ていて、結局目覚めたのは次の日の朝だった。

続く