成長した子供たち




第一話  成長した子供たち



ここに一組の双子がいた。
世間では知られていない偉業を達成した父、誰よりもやさしい心を持つ母と共に二人は成長していった。
父からは挫けず、何事も最後まで諦めない強い心を受け継ぎ、母からは誰にでも思いやる優しき心を受け継いだ。
二人はそんな両親を目標にし、そして、あるひとつの共通の目標に向かって歩み始めていた。
この話はそんな二人の物語である…。



『ヒュー、タン!!』
とある弓道場。今一人の選手が的に矢を当てた。
「また当てたぞ!」
「これで二人とも十本連続だぞ!!」
周りからそんな声があがる。
今二人の選手が優勝をかけてサドンデス方式で競技を行っている。
一人は一つ前の大会の優勝者。もう一人は今回初出場の選手。
この大会も前回の優勝者が軽く勝つと思われていたが状況は変わった。
全くの無名の選手がチャンピオンに競り合っているのだ。
「くっ!」
前回チャンプは焦っていた。ここまで何とか当ててきたがそろそろ限界である。
(負けられない、ましてや年下になんかに!!)
その思いを胸に弓を構える。ねらいを定め放とうとしたその時、目の前がぐらっと揺らぐ。
「うっ!」
その反動で思わず弓を放ってしまった。
「あっ!!」
結果を見るまでもなかった。弓はものの見事に的の下に刺さった。
「ついに外したぞ」
「チャンスだぞぉー!!!」
「はずせぇー!!!」
会場が騒ぎ出す。もう一方の選手が当てれば優勝が決まる。逆に外せばまたサドンデスが続く。
『さあ、ついに来ました全国中学弓道大会、女子個人の部。ついに前回優勝者の橘さんが外しました。勝敗は次の七梨さんの一矢にかかりました』
実況が興奮しながらいう。今日の勝負は前代未聞の長期サドンデス。興奮したくもなる。

(ようやくここまで来たわね…)
射位につきながら麗奈は思っていた。自分の片割れとの約束が今果たされようとしている。
その場面でかつてないほどのプレッシャーがのしかかる。

「けどよぉ、こんな状況じゃ当てられないだろうな」
「新人だし、場慣れもしていない。まあ無理だろう」
観客からはそんな声があがっている。
そんな会話を聞いて一人の女性がフッと笑みをこぼした。
ふちのある帽子をかぶった派手目の格好をしている。
(外すものですか。あのこの心はこんな程度じゃびくともしないわよ)



「ふぅ〜」
一息はいて気持ちを落ち着かせる。
(ここで外しちゃあいつに笑われるわよね)
約束した相手のことを考える。
もう何のプレッシャーもなかった。



そして選手がかまえた。
弓道場に静寂が走る。
あるものは当たる事を、またあるものは外れる事を心の中で祈っている。
そして、 『ヒュー、タン!!』
見事矢はど真ん中に当たった。
『おおっ!!』
辺りに観衆の声が響く。



「個人総合優勝、鶴が丘中学二年、七梨麗奈」
審判団の代表から賞状とトロフィーが送られた。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
握手を交わす。
「麗奈様」
先ほどの女性がやってきた。
「ルーアン!見て見て、優勝したよ!」
賞状とトロフィーをかざしながら言う麗奈。


七梨麗奈、十四歳。
父、母と同じ鶴が丘中学に通い、弓道部のエース。
成長するに連れ、ますますかわいさが増し、校内のアイドルにまでなっている。
おまけに運動神経バツグン、頭はいい、料理はできる。
まさにパーフェクトである。


「おめでとうございます。これで幸太との誓いを果たせましたね」
「うん。後はアイツ次第ね。もうそろそろ終わる頃ね。ルーアン、試合状況は?」
気になっていた事を聞く麗奈。
「後半になって二対二。互角の攻防を続けています」
「えっ〜!あいつなにやってんのよ!?ってあいつの場合一人じゃないから言っても仕方ないけど。とにかく、ルーアン今から見に行くよ!」
「了解しました。陽天心招来!!」
近くにあったシート(もちろん他人のもの)に陽天心をかけ、二人は競技場に向かった。


『ピィィィィ!!』
後半の終りを告げる笛が鳴った。
二対二。幸太の出ているサッカーの試合は決着が着かないまま延長戦になった。


「みんなここまでよくがんばった」
監督である先生が言った。
「俺からはもう何も言わん。自分達のしたいようにして、そして勝利を掴め!」
『はいっ!』
選手達が答える。そして控え室からグランドへと向かう。


幸太は一番最後を歩いていた。
二対二。これだけ見れば互角に見えるが敵の方が一枚上手なのだ。
どうするか考えているうちに一番後ろを歩いていたのだ。
途中、壁にもたれかかっている人影が見えた。ツナギ風の服を着て手には扇を持っている。
幸太とすれ違うときその者は言った。
「分かっておられるか?このままでは約束を破る事になるぞ」
「そんな事は分かってる。けどたやすくは勝たせてくれないよ」
幸太はそれだけ言ってまた歩き出す。
「しかし、……負けるつもりはないのだろ?」
「当たり前だ。約束があるからな」
力強く、はっきりと幸太は答えた。



(しかし、どうしたものかね…) キリュウにはああ言ったものの幸太は悩んでいた。サッカーはチームプレー。一人で何かをするにも限界がある。ましてや相手は何度か優勝経験がある学校だ。場慣れしている。
「ずいぶんお悩みのようね」
急に声をかけられ、幸太は驚きながら声を方へ向く。
「れ、麗奈!?なんでここに?」
「ふがいないわが弟の様子を観察に来たの」
薄く笑いながら麗奈が言った。
「そんなことより、なにあんたこんなところで足踏みふんでるの!?まさか約束忘れたわけじゃないわよね?」
「忘れるかよ。けどこっちはお前と違って一人でどうこうなるものでもないんだからな」
負けじと声を張る幸太。しかし、今では何を言っても言い訳にしかならない。幸太はすでに悟っていた。
麗奈がここにいると言うことは二人の間でかわした約束をはたしたということだ。
「……お前の方は終わったんだな?」
「もちろん。でないとここには来られないわよ。さあ、さっさと終わらせて来なさいよ。勝利の女神が見ててあげるから」
「へっ、何が勝利の女神だよ」
そう吐き捨てたものの幸太はかすかに笑っていた。今まで胸の中にあった不安は消し飛んだ。
グランドに出る寸前、幸太は振り返り、自信満々に言った。
「しっかりみてろよ。すぐに終わらせてやるからなっ!」



『さあ、泣いても笑ってもこれが最後!優勝するのはどちらのチームか!!?』
アナウンサーの気合いの入った放送が入る。延長戦がいよいよ始まる。
キックオフは幸太たちの中学側から。中央には幸太ともう一人祐介が立っていた。
「ホントにやるのかよ?あれはまだ確率が低いし、実践じゃ試したこともないんだぞ。第一もし失敗したらお前自身…」
「今やらないで、いつやるんだよ?このままむやみに攻め続けるよりはいい」
祐介の言葉に幸太は耳を貸さない。あきらめたように祐介はため息をつき、審判の笛の音を待った。
『ピィィィ!!』
笛が鳴った。祐介が軽く前にボールを蹴り出す。端から見ていたらそう見えただろう。しかし、このボールに祐介は回転をかけていた。 「よっしゃ、いくぜっ!!!」
雄叫びとともに幸太が相手のゴールに向かって蹴りこむ。ボールは高くあがったがゴール前まで来るといきなり落ちて、驚くキーパーをよそにゴールネットに突き刺さった。
かねてから幸太が練習していたシュートだった。しかし、成功率は低く、下手をすれば歩けなくなるくらいまでに足を痛めてしまうこともある。なので今まで実践では一度も使うことはなかった。
その瞬間、大観衆が一瞬静まりかえった。誰もがその信じられない得点に圧倒されていた。
試合はそのまま終わった。



「優勝、鶴が丘中学校」
大会委員長からそう述べられる。キャプテンが優勝旗を受け取る。
「MVP、七梨幸太」
幸太の名前が呼ばれ、幸太は壇上へ。賞を貰う。幸太はそれを壇上で高々と掲げた。


七梨幸太、十四歳。
双子の弟、麗奈と同じく鶴が丘中学に通う。
持ち前の運動神経にキリュウの試練の成果がプラスされ今では運動で出来ないものはないくらいになった。
頭も良くて女子からモテモテである。


「幸太」
呼ばれて振り向くとそこには麗奈がいた。
「約束…守ったぜ」
「うん。まぐれだけどね」
「うるせーよ」
その二人の姿を新聞記者が写真を撮りまくる。


次の日の新聞には『天才双子の姉弟、あらわる!!』と大きく書き出された。

続く

次回予告
成長した二人の前に現れたのは一冊の古びた本。
乎一郎が持っていたその本には中国の歴史が書いてあった。
その中には精霊の事も……。
次回第二話、
「古びた本との出会い」
二人の訪れる転機……。