古びた本との出会い




世の中には必然しか存在しない。
偶然と思われるようなことでも実は必然のうちに起こっているのである。
そう、太助とシャオが出会ったのも、麗奈と幸太がルーアン、キリュウの主になったことも。
そして一人の青年にある古びた本が渡ったものまた必然なのである…。



「相変わらず、あの二人は凄いな」
新聞を見ながら乎一郎がつぶやく。
今は夏休み。乎一郎は宿直で学校にとまり、朝、ほかの教師がくるのを待っているのだ。
「遠藤先生」
ふと後ろから声をかけられて後ろを向くとそこには一人の教師がいた。
「あ、佐藤先生、おはようございます。旅行はどうでしたか?」
「ええ、楽しかったですよ。これはおみやげです」
そう言って紙袋を渡す。どうやらお菓子のようだ。
「どうも。あ、そうだ、こないだ頼んだやつ、どうなりました?」
土産を受け取り、ふと思い出した事を訪ねる乎一郎。
「ああ、あれですね。旅行中にできたらしくて今朝持ってきてくれましたよ」
そう言って佐藤先生は何冊かのノートと古びた本を乎一郎に渡す。
「知り合いの考古学者が言っていましたよ。おもしろいものを見せてくれてありがとうって。
一部訳せないところもあったらしいですよ。それとお代はいらないそうです」
「そうですか。その人にお礼の電話をかけないと。電話番号を教えてもらえますか?」
「いいですよ」
そう言って先生は携帯電話を取り出す。



そう、この古びた本からこの話は始まった……。



「ふぁ〜〜あ、夏休みだってのに学校なんてめんどくさー」
大きなあくびをしながら幸太はぼやいた。
「仕方ないでしょ。今日登校日なんだから。ぼやかない、ぼやかない」
隣を歩く麗奈が言った。
「そりゃそうだけどさ…、あ〜、クラブなら行く気になんのになあ」
大会が終わって三日。クラブは休みとなっているのでないのだ。
「あたしだってあまり行きたくないわよ。夏休みの宿題ゆっくりしたいし」
「そうそう、自由研究だって考えないといけないし」
そんなまじめな話となっていく。成績が優秀な二人は夏休みの宿題も欠かさない。
大会中でも少しずつやっていたのだ。
「でも一時間HRするだけって言ってたしすぐ帰れるわよ」
「それでもめんどくさいことにはかわりないよな」
そう言っているうちに学校に着いた。そして校門をくぐろうとしたそのとき、
『麗奈ちゃーーん!!』
『幸太くーーん!!』
大勢の男子、女子が波のように二人に押し掛けてきた。
「な、なに!?」
「ち、ちょっと!?」
あっという間に囲まれる二人。
『優勝おめでとう!!』
全員が口々にそう言う。前話でも話したが二人はかなりモテるのだ。
であるから、何かあるたびにこうなってしまう。
「これ、プレゼントです!」
「おい、俺が先だぞ!」
「おまえは引っ込んでろ!俺だ!」
「どーでもいいから押さないでー!!」
麗奈が叫ぶ一方、
「ちょっと抜け駆けしないでよ!」
「そうよ!私が先よ!」
「いえ私よ!」
女子の間でも男子より激しい争いが起こっていた。
「頼むから押さないでくれぇー、順番に!」
幸太が叫ぶがあっさりかき消される。
こうして二人はHRが終わってもその対応で昼過ぎまで帰れなかった。



「ふー、いっぱいもらっちゃたな」
学校で何とか落ち着いて麗奈がつぶやいた。
目の前にはたくさんのプレゼントの山だ。
「麗奈ちゃん」
呼ばれて振り向くとそこには祐介がいた。
「あら、祐介君」
「優勝おめでとう。すごかったらしいな。見に行けなかったのだ残念だよ」
「そんな、祐介君だってすごかったじゃない。優勝したし」
少し照れながら麗奈が言った。
「いや、ほとんど幸太がやったんだ。俺は別に……」
「そんなことないって。最後の点だって祐介君の協力がなかったら幸太も点が取れなかったし。
もっと自信を持ってもいいんじゃない?」
祐介の言葉を途中で遮って言った。
「ありがとう。あ、プレゼントとか準備してないんだ。だからもう少ししてから何か渡すから…」
「いいわよ、そんな。どっちもどっちなんだし。でも、そうだね…今度どこかに遊びに行きましょ」
「え、それって……」
その続きを言おうとしたとき、
「麗奈、そろそろ行くぞ」
幸太が麗奈を呼んだ。
「うん。じゃあね」
「あ、ああ」
そのまま見送る。そこに、
『ゆ〜う〜す〜け〜!!』
目の据わった男子たちが祐介に話しかけてきた。
「な、なに?」
だいたい予想はつくが一応聞く。
『なに麗奈ちゃんと仲良く話してんだよ!!!』
「うぎゃあああ!!!」
祐介は男子たちに袋たたきにされたのだった。



「あ〜あ、結局こんな時間になっちゃった」
帰り道、麗奈が言った。
「ま、プレゼントもらったからいいけど、っておい、麗奈!」
幸太が大量の荷物を抱えながら叫ぶ。麗奈のプレゼントまで幸太が持っているのだ。
ちなみに麗奈はもらったクッキーを食べている。
「なによ?あ、これ欲しいの?じゃ、口あけて」
そう言って麗奈は幸太の口めがけてクッキーを投げ、見事口の中に入った。
麗奈の命中力は弓をやっているおがげでものすごいのだ。
「(バリバリ)お、うめえなこれ。ってそうじゃない!何でおまえの分まで持たないといけないんだよ!?」
「いいじゃないの。これも試練だと思ってがんばったら?」
「ちぇ、何かあるとすぐそれだ」
渋々歩き出す幸太。



しばらくして、向こうから人が歩いてくるのが見えた。それは二人のよく知る人物だった。
「あ、遠藤先生!」
麗奈が駆け寄る。乎一郎はその場に立ち止まる。
「やあ、二人とも久しぶり……って幸太君その荷物なに?」
乎一郎が尋ねる。幸太の格好はまるで疎開に行くかのような格好なのだ。
疑問に持っても不思議ではない。
「まあ、いろいろと……」
「ファンからのプレゼントってところだね。こないだの夏の大会、二人とも大活躍だったもんね」
乎一郎にそう言われ二人は少し照れる。
「ところで先生、その袋に入った古びた本何ですか?」
麗奈が尋ねた。
「ああこれ?三ヶ月くらい前かな、とある古本屋で見つけてね。中身を見ると中国語だったから、中国の歴史書かなって思って見てたんだ」
「そう言えば先生って昔から中国に関するものに興味津々だったもんな」
幸太が言う。二人は乎一郎が中国に興味があるのは自分たちの母やルーアン、キリュウの影響と思っていた。
「そしたら途中から古代文字みたいのが出てきてね。興味が出たから買って考古学者に頼んで訳してもらってたんだ」
「そうなんだ。なんかおもしろそう。先生私にも見せてください!」
「あ、俺も!」
二人が口々にそう言った。
「僕はいいけど、今学校の帰りでしょ?いったん家に帰ってからの方がいいんじゃないの?幸太君はそんな大荷物抱えてるし…」
「主殿ぉ〜!」
そこにキリュウがやってきた。
「あ、キリュウ」
「ここにおられたか。帰りが遅いのでシャオ殿が心配していたぞ」
「あ、ちょうどいいや。キリュウ、悪いけどこの荷物もって帰ってくれないか?これから先生のところに行こうと思っているんだ」
ふと思いつき、幸太がキリュウに言った。
「それはかまわないが、昼食はどうするのだ?」
「適当に何か食べるわ。お母さんにそう言っておいて」
「分かった」
そう答え、キリュウは荷物を小さくしてからそれを持って、家へと向かった。
「これでよし。じゃあ、行こうよ先生」
幸太の声をかけ、三人は歩き出した。



着いたところはこのあたりでは高級に当たるクラスのマンション。乎一郎の住んでいるところだ。
「やっぱりここは広いや。一人暮らしにはもったいないよ」
「はは、たまに自分でも思うよ」
乎一郎が笑いながら言う。
乎一郎がここを買ったのはもちろん未来を見据えての事だが、なぜこんなところを買えたのかと言うと……



話は乎一郎が大学生の時までさかのぼる。
「なあ乎一郎、宝くじ買わないか?」
年末、調べ物のために大学に行ったその帰り、たかしがふと言った。
「どうしたのいきなり?たかしくん、最近そういうのやらなかったのにさ」
不思議がって尋ねる乎一郎。昔くじなどにこだわっていたたかしだが、高校に入ったあたりから、ぱったりとやめてしまったのだ。
「いやな、俺達も来年二十歳だろ。だからさ記念にな」
「そっか、もうすぐ成人だよね。うんつき合うよ」
「よっしゃ、んじゃ買いに行こうぜ」


駅前の宝くじ売場に行くと先客がいた。よく見るとそれは花織だった。
「あれ、花織ちゃん」
「あ、野村先輩に遠藤先輩。二人も宝くじ買いに来たんですか?」
「うん、花織ちゃんも?」
乎一郎が聞き返す。
「そうですよ。家は毎年買っているんです。でも珍しいですよね。野村先輩が宝くじ買うなんて」
「たまには…な」
そう物静かにいうたかし。
「なにカッコつけているんですか?それよりもさっさと買ったらどうですか?」
「そうだね。たかしくん、何枚買う?」
「そうだなぁ…」
そうして三人は宝くじを買ったのだった。



「大晦日恒例、太助んちで年越しパーティー!!!」
たかしの大声でパーティーが始まった。
「ったく、ついこないだクリスマスパーティーやったばっかだろうが」
あきれた様に太助が言う。
「でも楽しいからいいじゃないですか」
シャオがなだめるように言う。
「そうそう、楽しみましょうよ、七梨先輩!」
と言いながら何かと太助に寄っていく花織。
(ふ〜、大晦日くらいシャオと二人でゆっくりしたかったんだけどな…)
このメンバーがいる限りそれは実現しないとあきらめる太助だった。



「おや、みなさん、翔子さんが出てますよ」
出雲の一声でみんなが一斉にテレビを見る。
テレビで流れているのは紅白歌合戦。
「山野辺さん、すっかり芸能人だね」
「ホント、ついこないだまで俺達と一緒で普通の学生だったのにな」
太助が懐かしそうに言う。
「よーし!山野辺に負けてられるか!!俺も歌うぜ!!!」
どこからかマイマイクのピカデオンを取り出して、歌い出そうとするたかしだが、
「ちょっと静かにしてくださいよ!」
花織にマイクを取り上げられた。
そんなこんなで騒がしい夜は過ぎていった。



「ふあ〜あ、」
朝。たかしは台所から聞こえるまな板をたたく包丁の音で目が覚めた。
周りでは太助とシャオ以外はまだ寝ていた。
「お、たかし、起きたのか」
声をかけられて振り向くと、そこにはタオルを肩に掛けた太助の姿があった。シャワーでも浴びていたんだろう。
「ああ。それより太助、新聞あるか?」
「新聞?それなら玄関のポストに入っていると思うけど」
「サンキュー」
そう言ってたかしは新聞を取りに行った。
「なんだ、あいつ宝くじでも買ったのか?」



「のおおおおおお!!!!」
それから少ししてたかしの絶叫で寝ていた者はみんな目覚める。
「何ですか、一体?」
まず、口を開いたのは乱れた前髪をなおしながら言った出雲だった。
「ホントですよ、朝からやかましいですよ、ってもしかして宝くじ一枚も当たらなかったんですか?」
新聞を見ながら叫んでいるたかしをみて、花織が尋ねる。
たかしは答えない。どうやらあたりのようだ。
「一枚もって、普通は一番下のやつくらい当たるものですよ。たった一枚しか買わなかったのなら
話は別ですが…」
「それが、たかしくん連番で買わないで全部バラで買ったんです」
「それでも、一枚くらいは当たるんじゃないんですか?」
花織が言った。
「それが運悪くその番号だけなぜか入ってなかったんだよ」
「ホントくじ運ないよな、たかしって」
太助が哀れむように言った。
「ちょっと、野村先輩、新聞見せてくださいよ」
いまだ叫んでいるたかしの手から新聞を奪い取り、花織は自分の持ってきた宝くじが当たっているかどうか調べる。
「どお、花織ちゃん?」
「ちょっと待ってください、えっと……あ、当たった!一万円が当たった!」
「なにぃぃぃ!!!」
花織の喜びの声に敏感に反応するたかし。
「よかったですね、花織さん」
シャオが「おめでとうございます」と付け加えて言った。
「じゃ、僕も調べて見ようっと」
そう言って花織から新聞を受け取って調べはじめる。
「くそぉ、これで乎一郎も当たったらあの売場の親父、恨んでやる」
「たかしくん、僕のは普通だったから一枚は当たるよ」
と言いながら一枚束から抜き取った。どうやらそれが一番下の当たりらしい。
「後はどうなんですか?」
花織が尋ねてくる。
「今のところは、結構かすっているけどね。これが最後の一枚
と………」
それをみた瞬間乎一郎は言葉を失った。
「おい、どうしたんだ乎一郎?」
「もしかして当たったんですか?」
太助、出雲が口々に尋ねてくる。
「……当たったよ」
ポツリとそう言う乎一郎。
「がーーー、乎一郎まで一万円かよ!」
ここぞとばかりに叫ぶたかし。
「違うよたかしくん。0が四個足りない」
「なに?えっと、ひい、ふう、みい……なあんだ一億円か……!!!」
『一億円!!?』
乎一郎以外の全員の声がハモる。
間違えじゃないのかとみんな当たり券と一等の当たり番号を見比べる。
しかし、間違えなく当たっていた。



そんなこんなで、こんなところを買ったのだ。
「さてと、」
そういって麗奈は立ち上がる。
「先生、何か適当にお昼御飯作りますね」
「うん、悪いね。材料は適当に使っていいから。それじゃあ、僕はシャワーを浴びてくるよ」
そう言って乎一郎はバスルームへ、麗奈は台所に立つ。
「じゃあ、俺はゲームでも……」
「あんたも手伝うの!」
戻ってきた麗奈に引っ張られ強制的に料理の手伝いをさせられる幸太であった。



冷蔵庫の中のものを見て、麗奈はチャーハンにすることにした。
手慣れた手つきで野菜を切りながら、幸太を使い炒めていく。
乎一郎が出てきたときにはすでに完成していた。
三人はそれを食べ出した。
「さすがだね、いつもながら麗奈ちゃんの料理おいしいよ」
そう言いながら食べる乎一郎。
「ところで、先生、さっきの本見せてよ」
待ちきれないとばかりに幸太が言ってきた。
「ちょっと、幸太、ご飯終わってからよ。汚れたしたら大変でしょ?」
「ちぇ…」
麗奈に言われ渋々引き下がる幸太。



昼食も終わり、片づけも済み、いよいよ例の本を見ることとなった。
「はじめの方は、平凡な中国語で中国の歴史とか地理とかが書いてあったんだ。かなり昔の表記だけどね」
そう言いながら乎一郎は問題のページを開ける。
「うわぁ、なにこれ?」
幸太は思わず声を上げる。そこにかかれている文字は漢字でもアルファベットでもない。
ミミズが大量に並んでいるようなそんな文字だった。
「こんなのよく解読できたなあ」
「どんな文字でもかならず法則性があるんだ。それを見つけだして訳すのは簡単じゃないけどね」
そう言って、訳が書いてあるノートを見る乎一郎。
「えっと、はじめの方は最初のよりも古いことが書かれているだけみたい」
「それっぽいですね。挿し絵とかが…あれ、これって…」
「何だよ?あ、このわっか!」
二人はあるページの挿し絵に目を留めた。そこには髪の長い少女が八角形の輪で龍の様な獣を出している場面だった。
「その絵が僕がこの本を買うことにしたきっかけだよ」
二人が見ているページをみて乎一郎が言った。
「じゃあ、やっぱりこれって……」
「たぶん君たちのお母さんだよ。出てきているのは星神の軒轅だと思うんだ」
「先生、この横に書いてある訳は?」
幸太がせかしながら尋ねてくる。
「待ってね。えっと、『中国には、いにしえより心清き者に仕える精霊がいるとされている。
実際見たという例も数多い。主を守る者、鍛える者、幸福を授ける者、癒す者など精霊によって役目が異なっている』そのページはそれだけだね」
「へぇー、精霊って知られていないと思っていたけど、中国じゃ結構有名みたい」
乎一郎の言葉を聞いて麗奈は言った。
「けどこれだけじゃなにも分かってないのと同じだな。次はと……」
次のページをめくる幸太。次のページは文章ばかりで、文の上に小さな紋章の様なものが描かれていた。
それをみた麗奈と幸太はその紋章に釘付けになる。
「次はね、……えっ、訳せなかった?配列がむちゃくちゃで法則性もないって。
これからって時なのに…って二人ともどうしたの?さっきから黙ってて」
全く反応のない二人。どうしたのかと乎一郎は二人の顔をのぞき込み、 ……驚きで思わず身を引いてしまった。
さっきまで黒かった二人の瞳が青く輝いているのだ。そう、母親であるシャオと同じ青に。
「ど、どうしたの、二人とも?」
大声で叫んでみるが二人は何の反応も示さない。それどころか二人の体から蒼白い光のようなものが出ているのも見える。
「い、一体、なにが!?」
今転機が訪れようとしていた。



次回予告
突如様子が一変した麗奈と幸太。
読むことができないはずの文字を二人は!
次回第三話、
「深まる謎、明かされる謎、そして……」
真実の扉が今……