力のレ覚め




ヒトは皆、他人とは違う力を持ちたいと思う。
それは優れた学力であったり、運動神経であったりする。
だがそれは誰しも手に入れられる力であり、また誰にでも手に入るものでもないのである。
そして中には特定の人物にしか手に入れることが出来ないものもある。
それは親から受け継がれたものなどである…。



目が覚めたときは元いた場所だった。そう、精霊石と呼ばれている大きな石がある場所だ。
「戻ってきたようだな」
目の前にはフーヤが立っていた。フーヤの問いかけに二人はすぐには答えられなかった。全身に激しい疲労感が襲い、
まともに立つこともできず、地面に座り込んでいた。
「精霊石はお主達に何を見せた?」
フーヤが尋ねてくる。
「…記憶」
麗奈が一言そう言った。
「そうだ、お父さんとお母さんの記憶。二人に立ちはだかった運命を見た…」
続けて幸太がしゃべり出す。
そう、太助とシャオの記憶を二人はリアルタイムで見た。
あまりにも辛く、苦しい精霊の宿命…、そして人が精霊とかかわることの難しさ。
自分たちの想像していたものよりもはるかにすさまじいものだった。
しかし、二人はそれ以外にも感じたことがあった。
何かとは表現できないが、何か膨大な量の情報が頭に叩き込まれたような感じがした。
二人の話を聞いてフーヤはしばらく唸っていたが、やがて口を開く。
「…なるほど、しかしそれはお主達の両親の記憶を見たのではない。支天輪の記憶を見たのじゃ」
「支天輪の?」
わけが分からず聞き返す麗奈。
「そうじゃ。頭上を見てみよ」
そう言われて二人は上を向く。そこには光を放っている支天輪が浮かんでいた。
「いつのまに…」
確かにポケットに入れて置いたはずなのに全く気づかなかった。
「って、ちょっと幸太、どうしたのその目の色は!?」
「なんだよ、それ?っていうかお前も変だぞ!」
そう二人の目はいつもの黒ではなく青くなっていた。乎一郎の家の時と同じである。
二人はあわてふためいているうちに支天輪の光が消えると、二人もいつも通りに戻った。
ほっとしたのもつかの間、またとんでもないことが起こってしまった。
支天輪が音を立てて二つに割れてしまったのだ。
「なっ?」
「支天輪が!?なぜ?」
さすがのフーヤもこの事態には慌てる。
割れた支天輪はそれぞれ麗奈と幸太の手の中に降りていった。
「なんで、どんなことをしても絶対に壊れなかったのに……」
「そうだよ。ルーアンやキリュウでさえ精霊器は壊せないって言ってたのに…」
何より二人は母の大切なお守りが壊れてしまったことにショックを受けていた。
「おそらく何か意味があるのだろう。現に二人とも様子がいつもと違っていた。だが…」
いったんそこで言葉を切り、フーヤは改めに二人に言った。
「精霊と関わるということがどういうことかよくわかったじゃろ?これ以上深入りすることもない。
それでもお主達は進むのか?」
二人は答えなかった。ただ黙っているだけだった。
「儂から言わしてもらえば、お主達にはこのまま祖国に帰ってもらいたい。このままここにいればお主達の
運命が大きく変わるかもしれん。そうなってからでは遅いのじゃ」
二人に日本に帰れと進めるフーヤ。と、幸太が、
「運命はかわる……か」
とつぶやく。
「確かにこのままじゃ俺達はとんでもないことになるのかもしれない。それが運命なのかもしれない。
けどその運命もどこで変わるかわからないんだ」
「…そうね、やらないで後悔するよりもやって後悔した方がいいかもね」
二人は決意を固める。たったそれだけの会話だったが、フーヤにはそれが分かった。
「……これ以上は何を言っても無駄のようじゃな。分かった。明日の朝一番で精霊に関係する
聖地への道へ案内しよう」
「うん、お願いします」
麗奈が頭をさげてそう言った。



「なるほど、精霊の宿命から救うために…」
「はい」
乎一郎がうなずく。
「そう簡単にいくことではないことは理解しているのか?」
「覚悟なら…できているつもりです。どれだけ難しいことなのかは太助くん…友達の話を聞いて分かります。
それでも僕は、あの人を救いたいんです。終わりのないつらい宿命から……」
「………」
無言で乎一郎の話を聞くロブ。今まで何人もの外部の人間と接触したことがあったがみな精霊の噂を
聞きつけてやってきた欲深きものたちばかりだった。今目の前にいる青年もそれと似たような者だが
その心構えが明らかに違っていた。その心も精霊が仕えることができるくらい清らかであることも
ロブは感じ取っていた。
「私個人の権限ではどうしようもないが、もしフーヤ様がお許しになったときは君に協力しよう」
「本当ですか?」
意外な言葉に乎一郎は少し驚く。
「どこまで役に立てるか分からないがな…」
「とんでもないです。すごく助かります」
「しかし、守護月天の子供か…」
それならばフーヤが精霊堂に招き入れた理由がわかる。少なからず精霊の力を受け継いでいて、そして
それをフーヤが感じとったのだろう。
「本当ならあの二人を連れてくるつもりはなかったんです」
「ならばなぜ共に?」
「二人の決意の強さに負けたってところかな。あの二人一度決めたことは何が何でもやり遂げようと
するんです」
「なるほど。あの二人もお前と同じくらいの決意でここに来たというわけか」
納得したようにロブが言った。
「そういうところは父親にそっくりなんですよ」
笑いながら乎一郎は言った。



「わー、兄ちゃんうまいねぇ!!」
「へへ、これでもこれで一番になったことがあるからな」
自慢げにいう幸太。今彼は村の子供たちとサッカーをしている。と言ってもここではサッカーとは呼ばずただの
玉けりと呼んでいて、ボールも布を丸めて作ったものだ。
「ねえねえ、どうしたらそんなにうまくなれるの?」
「そうだな、毎日毎日練習あるのみだな。毎日ボールに触ってな」
「俺たちも毎日触ってるよ」
子供たちがそう言い返してきて、幸太は少し言葉に詰まる。ここまでうまくなったのはキリュウの試練が
大きく影響していると幸太は考えている。キリュウにもそういう方向で試練をしてくれと頼んでいたので
効果は抜群だった。
「う〜ん、だったら今の何倍も練習すればいいんじゃないの?」
「そっか、じゃ兄ちゃんもっと教えてよ!」
「よっしゃ!!」
再びサッカーを始めた。
一方…
「これでどうかな?」
そう言って麗奈は調整した弓を的に向かって射る。
放たれた矢は先ほどとは比べ物にならないくらい、早く正確に的に命中した。
周りから歓声が上がる。
「すごいな。ここまでよくなるとは…」
村の男たちが感心する。
「弦の張り方とかにちょっと手を加えただけですよ。それにいくら弓がよくても腕がよくないと」
「それもそうだ。しかし、どうやってそこまでの技術を身につけたのだ?」
参考のために、と男たちが尋ねてくる。
「そうですね。やっぱり動くものを的にして練習したほうがいいですね。皆さんの場合動いているものを
標的とするんですから。私も飛び出してくる的に当てるというのをやらないといけなかったので」
「しかし、口で言うのは簡単だが、練習も相当しないといけないだろう?」
「そうですね。とにかく数をこなすことですね。それで、的が出てきたと同時に矢を構え、撃てるようになる
位までになれば…!!」
と、言葉を切って、麗奈は弓を構えすばやく射る。そして見事標的に命中。飛んできたのはボールだった。
「…こんな感じですね」
麗奈が一言そういった。そして再び歓声が上がる。しかし、
「うわぁぁん、玉に穴がぁぁ!!」
子供の一人がそう叫びながら泣き出してしまう。
「あ、ごめんっ!つい…」
「いや、気にしなくてもいい。この程度ならすぐ直せる」
ボールの状態を見て、男の一人がそう言った。
「さあ、お前たち、もうすぐ日が暮れる。家に帰りなさい」
『は〜い』
大人たちにそう言われ、子供たちが次々と家に帰っていく。それに伴って大人たちも帰ってくる。
麗奈と幸太は手を振って見送る。
「ったく、何でもかんでも弓で射るなよ」
「うるさいなぁ。条件反射でやっちゃうんだから仕方ないでしょ?幸太だってボールが飛んできたら
けり返すでしょ?」
「残念。俺なら止めるね」
「あ、そっ」
そう言って二人は歩き出す。麗奈たち三人はフーヤの家に泊めてもらうことになっている。
「明日はいよいよ冒険か…」
「そうだね。一体どんなことが待っているんだろう…?」
二人は考えをめぐらす。二人とも太助がシャオを救ったときの洞窟での出来事をあまり話してはくれなかった。
二人とも「思い出したくない」と言うので、二人は聞かないようにしていた。しかし、その当時の太助の様子を
翔子たちから聞くと、とても危険な場所だったということはすごくよくわかった。
明日行く聖地という場所もそのような場所なのだろうか。
「ねえ?」
「なんだよ?」
「私少し考えてみたんだ。支天輪が割れた理由」
「ああ、そのことか」
そう言って二人は支天輪を取り出す。それぞれ割れた片方を持っていた。
「今の今までなんともなかったこの支天輪が割れたことってやっぱり意味があると思うんだ」
「だろうな。だったらその意味って何なんだろう?そのあたりも考えているんだろ?」
「うん。あることを考えの中に入れるとある答えが浮かんできたんだ」
すこし自信ありげに麗奈が言った。
「なんだよ、それ?」
「先生が言ってたこと覚えている?お母さんがもと人間だってこと?」
「ああ、こっち来る前にお父さんにもそれとなく聞いてみたけど、間違いないみたいだな。ってまてよ…」
幸太にもある考えが浮かぶ。
「そう。普通の人間に精霊の力が備わった。つまり守護月天の力は支天輪の中にあるってことだよね?」
「ということは俺たちにも…」
「そ、守護月天の力が使えるかもしれないってこと」
麗奈はすこしうれしそうに言った。
「でもそれと割れたのとどう関係あるんだよ?」
「それはたぶんなんだけど、私たちが双子…だからかな」
「あ、そうか、お母さんの力を俺たち二人で受け継いだってことか。それの象徴が支天輪が
二つに割れたってことか」
考えを膨らませ結論に至る二人。
「しかし、そんなに都合よくいくかなぁ?」
「それはわからないけど。けど精霊石に触れたときの私たちの様子、普通じゃなかったでしょ?」
あのときのことを思い出しながら麗奈が言う。
「ま、試してみればいいか。もし力が使えたらこの先少しは楽になるしな」
そう言って幸太は立ち止まった。
この先、どんな危険が待っているかは分からない。しかし、昔からよくシャオが話してくれていた
星神達の力を借りることが出来れば、大きな力となることはまちがいない。
「早速やろうぜ。呪文ならお母さんから聞いてるから大丈夫だし」
「うん、やろう!」
そして二人は早速やろうとするが…。
「でもさ、支天輪割れてるけど本当に大丈夫かな?」
「わかんない。でもやるんでしょ?」
「もちろん、じゃあ一緒に唱えるぜ」
「うん」
そう言って二人は支天輪を前へだす。大きく深呼吸をし、そして唱えた。
「「天明らかにして、星来たれ!!」」
はじめの言葉を唱えると、支天輪が光を放ち、二人の手を離れ再びひとつとなる。
その様子に二人は頷きあい、再び唱える。
「朱雀の星は召臨を厭わず…」
「月天は心を帰せたり…」
「「来々……」」


運命の歯車がいま動き出す…


次回予告
出会いは突然訪れるもの。
再会もまた突然訪れることがある。
大きな運命の分岐点を越えた二人の
新たな世界が幕を開ける。
次回第七話
「精霊の楔」
選んだ先にあるものは幸か不幸か…