第三話  別れのとき……



別れのとき……




第三話  別れのとき……

小鳥の囀りで太助は目が覚めた。カーテンの隙間から射し込む光が眩しい。
「俺、どうしたんだっけ?」
手には包帯が巻いてあった。足にも、体にも。痛みこそましになっているものの、全身がまだだるい。
太助は昨日のことを思い起こした。
シャオを守護月天の宿命から救い出し、洞窟から出て、ルーアンやキリュウと話をしていて、それから……。
この後の記憶がない。だが、その後は容易に想像できた。
「あの後ぶっ倒れたのかな、俺。だとしたらまたシャオに心配かけただろうな」
そんな事を考えていると、部屋のドアがそっと開いてシャオが覗き込んできた。太助を見るとシャオは嬉しそうに部屋に入ってきた。
「太助様!目が覚めましたか。よかった。全然起きてくれないから心配で心配で……」
「ゴメンな、シャオ。心配かけて」
今にも泣きそうな顔をしているシャオに太助は言った。それからシャオは太助に抱きついた。
「しゃ、しゃ、しゃ、シャオ!?」
太助の顔が真っ赤になる。
「よかった、本当に……」
二人はしばらくそのままだった。


「ドンガラガッシャーーン」
ものすごい音で二人は、はっとなった。
「今のは……」
「キリュウが起きたみたいだな」
二人は離れた。そしてシャオは言った。
「あっ、朝ご飯できていますから」
「ああ、すぐに行くよ」
シャオは台所に戻り、太助も着替えてリビングに向かった。途中眠そうな顔をしたルーアンとキリュウと会った。
「あ、ルーアン、キリュウ、おはよう。昨日は迷惑かけてごめんな」
「おはよぅ、主殿。」
「おはよぅーー。」
二人とも返事をするがまだとても眠そうだ。
「なあ、二人とも、眠いんならもっと寝ておけばいいのに。休みなんだからさ」
「我々にも事情と言うものがあるのだ、主殿」
「そういう事」
そう言って二人は、リビングに向かった。太助もそれに続いて行った。
(けど、キリュウはともかく、ルーアンまでも休みの日に早く起きるなんて、本当に何があるんだ?)


太助がリビングに入るとすでに二人は食べ始めていた。太助も食卓につき、シャオもついた。
「「いただきまーす」」
そして二人も食べ始めた。太助は食べながら思っていた。
(今日の二人、やけによく食べるなぁ。)
ルーアンもキリュウもいつもの倍近く食べている。そのためシャオはお代わりなどで落ち着いて食べていられない。
太助は速く食べ、シャオに変わってルーアンたちの世話をした。
「な、なぁ、二人とも、そんなに食べると腹壊すぞ」
太助はそういったが二人は、「大丈夫よ(だ)」と言った。
そして、朝食が終わり、シャオは片付けをし、太助はルーアンとキリュウに傷の具合を見てもらっていた。
「さっすがたー様ね、回復が早いわ。普通の人ならまだ動くことすらできないわよ」
「普通の人ならあの洞窟で死んでるよ。まっ、これもキリュウの試練のお陰だな。ありがとな、キリュウ」
「う、うむ」
キリュウは顔を真っ赤にして答えた。そんな会話が続きながら太助の包帯を替え終わるとシャオの呼ぶ声が聞こえた。
「太助様ぁー、ルーアンさーん、キリュウさーん、お買い物行きませんかぁー?」
「ああ、行く行く!ルーアンとキリュウはどうする?」
太助が聞くと、二人は、
「私、パス」
「私も遠慮しておく」
と、答えた。
「そっか、じゃ、留守番頼むぞ」
そう言って、玄関に向かった。玄関ではシャオが待っていた。
「ルーアンさんとキリュウさんは?」
「家で待ってるって。じゃ、行こうか。」
「はい。」
そして二人は出かけて行った。それを見送ってからルーアンが言った。
「あんた、これからどうするつもり?」
「短天扇に帰るつもりだ。私の役目は終わった。もうここにいる理由はないからな。ルーアン殿は?」
今度はキリュウがルーアンに尋ねた。
「もちろん帰るわよ。もうこうなったらたー様とシャオリンの間に入るなんてもう出来ないからね。
黒天筒に帰ってシャオリンみたいに自分の運命を変えてくれる人、探すわ」
ルーアンもあっさりと答える。二人の様子がいつもと違っていたのはこのためだった。
「そうか、……いきなり帰ると主殿に言ったらなんて言うだろな」
「たー様の事だから、「役目がなくても別にすぐ帰る事ないだろっ!」て、言うんじゃないの?」
「そうだな。で、そう言われたらどうする?」
「それでも帰るわよ。ここに居ても自分の幸せなんて見つけられないからね。
幸せを与える慶幸日天が自分の幸せを見つけてくれる人を捜すなんてなんかおかしいけどね」
そう言ってルーアンは自分の部屋に戻っていった。
「幸せか、私にも見つけられるだろうか」
キリュウ自信は幸せを探すつもりはあまりなかった。役目を終えたので帰る…いつもと変わらないことだが、
ルーアンと話しているうちにキリュウも幸せというものに興味を持ち始めていた。


それから1時間くらいたってから太助とシャオが帰ってきた。キリュウはリビングから顔を出した。
「おかえり、主殿、シャオ殿」
「ただいま。あれ、ルーアンは?」
いつもなら帰ってくると同時に、「おかえり、たー様ぁー」とか言いながら抱き着いてくるのに、居ないのかと思っていたら、キリュウが言った。
「ルーアン殿なら部屋に居るが」
「あ、そう…」
と言いつつ家にあがった。シャオは昼食を作る為、台所へ、キリュウは部屋に行った。太助はリビングで一人、考えていた。
(なんか今日、二人の様子変だなぁ。朝飯はたくさん食うし、ルーアンが休みの日に早起きをするなんておかしい。
キリュウは相変わらずのように見えるけどなんか変なんだよなぁ。いったいどうしたんだろう?)
「たー様、ちょっと話があるんだけれど?」
「えっ、あ、ああ…。」
ふと振り向くと、ルーアンとキリュウが後ろに居た。やけに真剣な顔をして。どうしたんだと思っている間に、
二人とも太助の正面に座った。ちょうどその時、シャオが台所から出てきた。
「あ、ルーアンさん、キリュウさん、もう少しでお昼ご飯できますから。もう少し待っいててください」
「ちょうどいいわシャオリン、あんたもこっちに来なさい」
「はい」
?を浮かべながら言われるがままに太助の隣に座るシャオ。それから太助が言った。
「で、話って何なんだ?何か重要な事みたいだけど」
二人の顔を見て太助はただ事ではないと思った。
「さすがだな、主殿」
キリュウが笑みを浮かべながら言った。
「じゃあ簡単に言うわ。私達、それぞれの精霊器に帰る事にしたの」
「「えっ!?」」
二人は驚いた。いきなりそんな事を言われたら驚かないわけがない。そして太助が言った。
「な、何でいきなり帰るなんて言うんだよ!?」
「だって私の役目は終わったのよ。これ以上たー様を幸せにするなんて私には出来ないわよ」
「私も、もう主殿に試練を与える必要はないからな」
「そんな、役目がなくても別にすぐ帰る事ないだろ!」
太助がそう言うと、二人は思わず吹き出して笑い出した。それを見てボーゼンとしている太助。
「あのー、どうなさったのですか、お二人とも?何がおかしいんですか?」
シャオがそう言うとキリュウが笑うのを止めて言った。
「いや、なに、主殿がルーアン殿の思った通りの事を言ったのでな」
「ルーアンの?」
太助がそう言うと今度はルーアンが言った。
「たー様たちが買い物に行っている間にね、二人で言っていたの。今の事言ったらたー様、なんて言うかね」
「じゃあ、帰るってのは嘘なのか?」
太助はそう言うとルーアンは首を横に振った。
「嘘じゃないわ、本当よ。私ね、黒天筒に帰ってシャオリンみたいに自分の運命を変えてくれる人、探すわ。
自分を幸せにしてくれる人をね。人を幸せにする慶幸日天のあたしがそんなこと臨むのも変だけどね」
「私は役目がら、なかなかそういう人に出会えないと思うが、気長に待つ事にする」
二人がそう言うと太助はもう何も言えなかった。そこまで言うなら引き止めることはできない。自分の思うようにしていけばいい、
そう思ったからだ。しばらくしてシャオが頭を下げながら言った。
「ごめんなさい、なんか私だけいい思いをしてしまって」
シャオがそう言うとキリュウは慌てて言った。
「何もシャオ殿が謝る必要はない。我々は別に怒っているわけではないのだ」
「でも……」
シャオはさらに何か言おうとしたがルーアンが止めた。
「いいの、いいの、あんたは今まで人一倍悲しんできたんだから。一番に幸せになってもバチは当たらないわよ。
もし悪いと思うなら、一日でも早くたー様と幸せになるのね」
「……はい」
シャオは少し目に涙を溜めながら答えた。そしてルーアンは立ち上がり言った。
「それじゃあ、そろそろ帰るわ。あたしたちが帰ったらどっかに送ってね」
もう何もいうことはない。太助はそう思いほほえみながら一言言った。
「ああ、分かった。見つけられるといいな、いつか自分の幸せを」
「早く見つかるように祈っていてくれ」
そう言うと、キリュウも立ち上がった。
「どうかお元気で…」
シャオも涙を拭いながら言った。
「それじゃあね」
「さらばだ」
そう言って二人は帰っていった。残された筒と扇を拾い太助はシャオに言った。
「よし、お望み通りさっそくどっかに送ってやるか」
「はい」
そして二人はまた出かけた。手を繋ぎながら。空は雲一つない青空が広がっていた。
もうすっかり春だ。暑くもなく寒くもない心地よい季節だ。
「もう春ですね」
「そうだな。天気もいいし、これを送ったらどっかにいくか!」
「はい!」
二人の間にあった大きな壁は完全に崩れた。叶わないと思っていた幸せを少女は手にしたのだ。一人の少年と一緒に。
その様子を見守る者がいた。



――なあ、あの調子だったら大丈夫だな――
――そうじゃのう。儂らの出番はもうないな。これからは二人でやっていくだろう――
――シャオしゃま、太助しゃまと幸せになってくださいでしね――


「えっ……」
「どうした、シャオ。」
急に立ち止まるシャオに声をかける太助。
「いま離珠に呼ばれた気がして…」
「たぶんどっかから見守ってくれてるんだろ星神みんなでさ」
「そうですね」
「じゃ、行こうか」
「はい」
そして二人はまた歩き出した。

続く