新たな出会い(後編)




第五話  新たな出会い(後編)


麗奈と幸太は何が起こったのか分からなかった。
いきなり現れた人に「主様(殿)!」とか言われたら、混乱しても無理はない。
出てきた二人の内の一人は自分の親と同じくらいの歳の女の人、もう一人は、大人には見えないが、自分よりも年上の女の子。
二人とも変わった服を着て、耳にはピアスをしている。
「「私は……」」
と出てきた二人が何か言おうとしたが、途中で言葉を切り、顔を見合わせた。そして顔を見合わせた瞬間、「あー!」と声をだした。
「キリュウ!?なんであんたがここにいるのよ!?」
「呼ばれたからだ。それ以外に理由はあるまい」
「言われてみればそうね。もしかして私達ずっといっしょだったのかも」
「そうかもしれないな。送ってくれと言った時に特に何も言わなかったからな」
二人で話し込む。忘れられたいた麗奈と幸太は揃って言った。
「「あ、あのー…」」
「おっと、主様の事すっかり忘れてた。まあ、とりあえず自己紹介ね。私は慶幸日天 汝昂(ルーアン)、太陽の精霊よ。主様に幸せを与えるのが役目」
ルーアンが言い終わるともう一人の方が口を開いた。
「今度は私の番だな。私は万難地天 紀柳(キリュウ)。万難地天とは成長を司どる大地の精霊。私は主殿に試練を与えるために参った」
「し、幸せ…」
「試練…」
麗奈と幸太は口々に言った。まだ状況が今ひとつつかめていない。
「これで私達の自己紹介はオシマイ。今度は主様たちの教えてくださる?」
「あ、私は麗奈でこっちは幸太。双子で今小学二年生。そう言えば、どっちがどっちの主なの?」
「ルーアン殿があなたで、私は幸太殿だ」
「ふ〜ん」
二人は大体状況がつかめてきた。今出てきた二人は精霊で、自分たちが彼女たちの主になったと、いうわけだ。
そして祐介の言っていた伝説はこのことだったということだ。
「そっか、伝説ってこの事だったんだ」
「伝説?」
「うん、キリュウたちが出てきた筒と扇になにかの伝説があると聞いていたんだ」
「ああ、私達はね、心の清い人にしか仕えないのよ。たぶんそれでしょう」
「ということは、祐介の奴は心が汚いんだな」
と言った具合に話が進んでいった。しばらく話していると幸太が、あっと声を上げた。
「どうしたの幸太、急に声を出して」
「なあ、お母さんに教えてみようよ。きっと驚くぞ」
「そうね。よし、教えに行こう!」
「ルーアン、キリュウ、俺達が行ってからちょっとしたら下に来て」
そう言って二人は部屋を出ていった。
ルーアンとキリュウは時間潰しにまた話し出した。
「ねえ、キリュウ、あの二人似てると思わない?あの二人に…」
「ああ、確かに。顔などもそうだが、何より雰囲気が似ている」
「まさか…ね」
一つの可能性がルーアンの頭の中によぎるがすぐにかき消した。
そんな偶然があるはずはない、そう思ったからだ。


麗奈と幸太は階段を(二人の部屋は二階にある)降りて母親のいる台所に向かった。
「「お母さん、お母さん!」」
「どうしたの二人とも、大声出して」
母は、付けているエプロンで手を拭きながら言った。ちなみに二人の声はよくハモる。
「聞いて、聞いて。すっごく驚く事があったんだ。もしかしたら信じないかもしれないけど」
「いったい何があったの?」
幸太の言葉に聞き返す母。麗奈と幸太はせーのと息を合わせて言った。
「「精霊がやってきたんだ!!」」
「せいれい?」
「そ、精霊。どう、驚いた?あ、降りてきた」
足音が聞こえて麗奈が言う。
「まさか……」
「えっ?まさかって?」
母の言葉に?を浮かべる幸太。そしてルーアンとキリュウが台所に入った瞬間、母は嬉しそうに言った。
「まあ、ルーアンさん、キリュウさん、お久しぶりですっ」
「「えっ!?」」
いきなりルーアンとキリュウに挨拶をした母に驚く麗奈と幸太。
「ホントに久しぶりね、シャオリン」
「やはりシャオ殿の子供だったか」
ルーアンとキリュウも挨拶をする。
そう麗奈と幸太の母親はシャオだった。
「お母さん達、知り合いなのぉ!?」
「ちぇっ、せっかく驚かそうとしたのに…」
麗奈と幸太は残念そうにつぶやいた。
「でも、何で?なんで知り合いなの?」
「ちょっとね」
シャオは言った。
「ま、いっか。こうなったらお父さんを驚かしてやる!」
「そうだ、まだお父さんがいたんだ。今度こそ驚かすぞ!」
麗奈と幸太は意気込んだ。
「あ、でも、もしお父さんもルーアン達の事知ってたら…」
「いくらなんでもそれはないだろう」
「ねぇ、お父さん、ルーアン達の事知ってるの?」
「さぁ、どうかしらね」
そう言ってシャオは夕食作りに戻った。
「なあ、ルーアン、キリュウ、どうなの?」
「どうなのと聞かれても、なあ、ルーアン殿」
「そうね。麗奈様たちのお父様が誰なのかまだ分からないし」
「あ、それもそうね」
麗奈は納得したように言った。
「そうだよな。誰か分からないのに答え…ん、帰ってきたみたいだ」
玄関の方からドアが開く音がしたので二人は玄関へ向かった。
二人が玄関に言ってからルーアンはつぶやいた。
「でも、あたしの予想が当たっているなら…」


「ただいまぁ〜」
麗奈と幸太の父が帰ってきた。それを二人で迎える。
「「おかえりなさ〜い」」
「おっ、珍しいな、麗奈、幸太。迎えてくれるなんて何かあったのか?」
靴を脱ぎながら父は言った。
「あのね、お父さんに見せたいものがあるの」
「見せたいもの?」
「そ、見せたいもの」
「何を見せたいんだ?」
「「精霊!」」
「せいれいぃ?」
この反応、二人はやったと思った。明らかに信じていないような父の答えであの二人の事を知らないと思ったからだ。
「とにかく来て」
「おいおい、そんなに引っ張るなって」
麗奈は父の腕を引っ張りながらリビングに向かった。
リビングに入った瞬間、父は呆れたように言った。
「なんだ、ルーアンとキリュウじゃないか。こんな事でいちいち騒ぐな」
そう言ってリビングを出て行く。が、しかしどたどたと音を立てながら戻ってきた。
「る、ルーアン!キリュウ!何でお前らここに?」
「何でって、呼ばれたからよ、たー様」
「久しぶりだな、ある…いや、太助殿」
挨拶を交わす三人。
説明する必要はないと思うけど、麗奈達の父親は太助だった。
「ちぇ、お父さんまで知ってるなんて」
幸太がつまらなさそうに言った。
「ねえ、何で?なんでお父さんもお母さんもルーアンとキリュウの事知ってるの?」
麗奈が太助に尋ねた。
「なんだ、聞いてないのか?俺がお前らと一緒だからだよ」
そう言って太助は出て行った。
「俺達がお父さんと一緒?」
「どういう事?」
う〜んと二人で考え込む。
「なあ、キリュウお父さんが言った事どういう事なんだ?」
幸太が尋ねたがキリュウはこう答えた。
「試練だ、自分で考えられよ」
「試練?試練かぁー……」
と、あっさり納得してまた考え出す。と、太助が着替えて戻ってきた。
「どうだ?分かっ……」
「「分かったぁーーー!!」」
太助の言葉の途中で二人が叫んだ。その大音量に周りにいた三人は思わず耳をふさぐ。
「私達と一緒って事は…」
「お父さんがルーアンとキリュウの主だったってことだ」
「そういう事、でもお父さんは日天地天同主だったけどな」
そう言うと太助はソファーに座った。他の四人も後に続く。
「あっ、そういえばさ、二人って何か凄い事できるの?」
麗奈が尋ねる。そして幸太も言う。
「精霊っていうくらいだから何か魔法みたいな事できるんだろ?」
「もちろん、ではお見せしましょう」
そう言ってルーアンは黒天筒を手に持った。
「あ、それ、さっきルーアンが出てきた筒」
「黒天筒と言います。では………日天に順う者は存し日天に逆らう者は亡ばん、意志なき者我の力をもって目覚めよ、陽天心招来!」
ルーアンは麗奈と幸太が座っていたソファーに陽天心をかけた。当然二人は驚く。
「そそそそ、ソファーがぁぁ、」
「うううう、動いているぅぅぅ!?」
「うわぁっ!腕や足、顔まであるよ!」
もうパニック状態。
「それがルーアンの能力。物に命を吹き込む事ができる」
太助が言うとルーアンは陽天心を解く。
「ふう、あーびっくりした。さて今度はキリュウの方な」
「分かった。では麗奈殿、すまぬが立ってこっちに来てもらえぬか?」
「えっ、別にいいけど…」
麗奈は言われた通りにキリュウの方に行った。
「俺はどうするの?」
幸太は尋ねたが、キリュウは答えず短天扇をパサッと開き言った。
「万象大乱」
「うわっ!?」
幸太の座っていたソファーが小さくなった。
「試練だ、耐えられよ」
そう言いながらキリュウはソファーを戻した。
「キリュウの能力は物を大きくしたり小さくしたりできるんだぁー」
麗奈は言った。幸太は打ったところを撫ぜながら言った。
「おー、イテ。麗奈を立たせたのはこの為か。こうやって試練を与えるのか」
「そういう事。明日からビシバシ鍛えてもらえよ」
俺も受けたんだから、と付けたして太助が言った。


「ご飯できましたよぉー」
シャオの声が聞こえた。
「夕食できたみたいだな」
「シャオ殿の料理は久しぶりだな」
「さぁー、食べまくるわよー」
五人は食卓につく。麗奈と幸太はそのいつも以上のおかずの量に驚いた。
「ねえぇ、お母さん。いくら増えたからっていくらなんでも作り過ぎだよ」
「そうだよね、こんなにあったらあまっちゃうよ」
二人は口々にそう言ったが、「そうでもないわよ」シャオはそう言って答え、自らも食卓に着いた。
数分後、二人はそのセリフを納得する事になる。
「がつがつがつがつ…」
ものすごいスピードで食べるルーアン。しかも量も半端じゃない。
「ルーアンの食欲は全然変わってないな」
「本当だな」
太助とキリュウは口々にそう言った。麗奈と幸太の二人はあっけに取られている。
「がつがつがつ、あーおいし、シャオリンこれお代わり頂戴」
「はい」
そんなやり取りが続きながら夕食が終わった。あれだけあった料理もきれいさっぱり無くなっている。
「どこにこんなに入るんだ?」
幸太は呆れながら言った。麗奈はルーアンに言う。
「ねえ、ルーアン、あんなに食べたら太るよ」
「私のお腹には陽天心菌がいるから太らないの」
そう言ってお茶を飲むルーアン。
「「陽天心菌って?」」
疑問を浮かべる二人。しかし誰もその答えを言わなかった。分からないからだ。


夕食後、リビングに集まる六人。
「ねえねえ、ルーアン達っていつお父さんに仕えていたの?」
「俺が中二の時だよ。あの頃は安らぎってものがなかったなぁー」
「そうよねぇー、精霊三人もいたら安らぎなんて無くなっちゃうもんねぇ」
「その中では一番ルーアン殿が安らぎを奪っていたような気がするが…」
と、まあ会話が進んでいく中で麗奈と幸太はある事に気がついた。
「精霊三人って、ルーアンやキリュウのほかにまだ精霊がいたの?」
幸太が太助に尋ねた。
「いたよ、もう一人」
「前代未聞の精霊三人同主でしたんですものね」
「あの時はまさか二人も先客がいるとは思わなかった」
シャオとキリュウが太助の言葉に続く。
「なら、その精霊も見つけて私が主になる!」
「あっ、ずるいぞ。俺が主になるんだっ!」
「私が先に言ったのよっ!」
「そんなもん関係あるかっ!」
と喧嘩を始める二人。太助がそれを止める。
「やめないかお前たち、いちいちそんな事で喧嘩するな。まったく…、もうそろそろ寝ろ。
明日も学校があるんだから」
「「はーい」」
素直に喧嘩をやめ、部屋に向かう。
「「おやすみなさーい」」
「おやすみ」
シャオが返事をする。
二人が出て行ってからルーアンが言った。
「ねえ、たー様、シャオリン、二人とも私達の事話してないの?シャオリンの事も」
「そう言えば…どうだっけ、シャオ?」
「うーーん、忘れちゃいました」
「まあ、主殿たちが知らないんじゃ言ってないようだな」
キリュウが言う。
「細かい事は気にしない、気にしない。それより、あさって日曜日だから明日、みんな集めてパーティーでもやるか!」
「いいですね、やりましょう」
「いい考えだ」
「でもみんな集まるの?」
最後にルーアンが尋ねた。
「大丈夫だよ。一人を除いて」
「誰なのだ、その一人とは?」
キリュウが尋ねるが、太助は、
「明日までのお楽しみだよ。さて、俺も寝るか」
そう言って立ち上がった。
「ルーアンさんたちの布団はもう用意してありますよ」
「そう、ありがと」
「なら、我々も寝るか」
それから四人ともそれぞれの部屋に向かった。


「やれやれ、まさかルーアン達が戻ってくるなんて思ってもみなかったよ」
寝室のベッドの上で太助がぼやいた。
「また賑やかになりますね」
三つ編にしていた髪の毛を解きながらシャオが言った。
「今でも十分賑やかだよ。ふう…、あの様子じゃあいつらの目的はまだ果たせていないみたいだな」
「ええ…」
すこし沈み気味でシャオが答える。
「できれば次にあうときには幸せになっているお二人に会えたらと思っていたんですけど……」
「まあ、そう簡単にいかないよな。できることなら麗奈と幸太にあいつらの幸せを見つけてもらえたらいいんだが……」
自分ができなかったことを今度は子供達に託したいと思っている太助。
「大丈夫ですよ。なんて言っても太助様の子供なんですから」
「俺とシャオのな」
太助が付け足す。
「ま、それはこれから期待するとして、とりあえず明日は頼むな、シャオ」
「はい」
そして二人の唇が重なる。
「おやすみ、シャオ」
「おやすみなさい、太助様」
そして二人は眠りの世界へ……。

続く