―新学期―



第9話  過去(1)―新学期―


朝日がカーテンの隙間からもれ、太助に朝を告げる。
「朝か…」
ここ数日いろいろな事が連続で起こった。
一人の少女の運命を救う方法を知り、人生最大の試練を受け、少女を辛い宿命から解放した。
自分の目標が達成できたのだ。
しかしそれと引き替えに自分に尽くしてくれた二人の精霊との別れ…。
「いろんな事の連続だな」
考えてみると今でも信じられない。
ずっと続くと思っていた平凡で寂しい日々。それを変えたのが父親からの贈り物だった。
そこからすべてが始まり、平凡だった自分の生活が一変した。
そして今はほぼ自分の望む状況に置かれている。
大切な人とずっと一緒にいられると言う状況に。
そんな事を思っていると部屋のドアが開いた。
自分の一番大切な少女だ。
「おはようございます、太助様」
「おはよう、シャオ」
いつもと変わらず挨拶を交わす。
「朝御飯できていますよ」
「すぐ行くよ」
返事を聞いたシャオはリビングに戻っていた。
太助も着替えを済ませリビングに向かう。


リビングに入るといい匂いが漂っていた。太助は食卓に着く。用意をすましたシャオも食卓に着いた。
「じゃ、食べようか」
「はい」
「「いただきま〜す」」
いつもと違う静かな食事。二人は話しながら食事を取っていた。
あれほどうるさくて落ち着かない食事も今となってようやくそのありがたみがわかったような気がした。
できるなら二人とも一緒にいてほしかった。しかし、自分のわがままで二人の幸せになりたいという
願望をつぶしてしまうわけにはいかなかった。
ふと太助はテーブルに置いてあった新聞に目をやる。そして日付を見た瞬間、驚きの顔となる。
「どうしました、太助様?」
太助の変化に気づき、シャオが尋ねる。
「な…なあ、シャオ、今日って4月8日だよな」
「…そうですけど、…あっ!」
シャオも気づいた。4月8日。普通この日は、
「「今日から新学期だ!!」」
そう、新学期が始まるのである。二人はいろいろな事があり、この事をすっかり忘れていた。
「やばいぞ。時間もないし。シャオ、とりあえず朝食の後かたづけは帰ってからだ」
「はいっ!」
二人はあわてて学校に行く準備をはじめる。
「くそっ、最近色々あったからな。新学期早々遅刻はヤバイ」
制服に着替え、鞄を持ち、玄関に向かう。
一階に降りると、すでに用意を済ましたシャオが待っていた。
「よし、いこうっ!」
「はい!」
二人は小走りで学校に向かう。


当然のごとく周りに学校の奴等はいなかった。
二人は走るスピードを速めていった。
(このままじゃ間に合わないな。けどシャオは息切れてきているし…)
改めて軒轅のありがたみを知る太助。軒轅に乗っていけば5分とかからず学校までつくことができた。
シャオの方を見るとかなり苦しそうだ。
(仕方ない)
考えた末、太助は行動に移した。
「シャオ ごめん」
「えっ、きゃっ、た、太助様!?」
太助はシャオを抱きかかえた。
「息が切れてるだろ?しばらくじっとしていて!」
そのまま太助は全速力で走り出した。はじめはとまどっていたシャオだったが息が切れて辛かったのは確かだったので太助の首に手を回して太助に身を任していた。


「はあ、はあ、はあ、な、何とか間に合ったぞ。ぜえ、ぜえ」
登校時間一分前に何とか着いた。
「大丈夫ですか、太助様?」
心配しながらシャオが尋ねる。
「何とか…、じゃ、いこうか」
病み上がりでもあり、実際全然大丈夫ではなかったが、シャオに心配かけないようにと表には出さず、太助は呼吸が落ち着けて、それから二人は歩き出した。
運動場にはたくさんの生徒が集まっていた。
「何なんでしょう、あそこに集まっている人たちは?」
「あ、そっか、新学期になったからクラス替えなんだ」
「クラス替え?じゃあ、太助様とは……」
寂しそうにそう言うシャオ。
「まだ別れるって決まったわけじゃないさ。とにかく見に行こう」
二人は大勢の生徒の中を抜けて、新しいクラスを張り出しているところに向かった。
掲示してある場所につくと先にいていたたかしと乎一郎が話しかけてきた。
「お、太助、シャオちゃん、おはよう」
「おはよう、二人とも」
「おはよう」
「おはようございます」
それぞれあいさつを交わす。
「今度のクラス、どうだった?」
太助が尋ねる。
「ああ、また一緒だぜ。俺も太助も乎一郎もシャオちゃんも。ついでに山野辺も」
「ついでとは何だ?ついでとは」
いきなりたかしの後ろから翔子が話してきた。
「げっ、山野辺!」
いきなり声をかけられて驚くたかし。
「げっとは何だ?げっとは。まったく影で何言われているか分かったもんじゃないな」
「おはようございます、翔子さん」
驚くたかしをよそにシャオがあいさつをする。
「おはよう、ところでキリュウは?ルーアン先生の姿も見えないけど」
「あ、そういえば」
翔子の言葉で乎一郎があたりを見回す。
「ああ、あいつらは…」
太助が言おうとしたとき、
「七梨先輩っ!!」
いきなり花織が太助に抱きついてきた。今年からは大胆にいって太助をものにしようと企んでいる。しかし、
「がっ!!」
「へっ?」
太助はそのまま倒れ込んでしまった。それを見てシャオが急いで太助に寄る。
気にもしていなかったが、よく見ると太助に多くの包帯やバンテージがつけられているのにみんなようやく気づいた。
「太助様!大丈夫ですか!?花織さん、気を付けて下さい!太助様は今大怪我をしているんですよ!」
厳しい顔付きで花織に言うシャオ。
「そ、そうだったんですか……」
「でもなんでそんなけがをしたんだ?」
「ルーアン先生、どうしたの?」
「あたしの質問に答えろよ」
それぞれいろんな事を言う。
「順に話すよ。まずは…」
『はい、始業式を始めますから、新しいクラスの名簿順で並んで下さい』
またも邪魔が入った。
「またか…、とりあえず後で話すから」
「ちょっと待てよ。キリュウとルーアン先生がどこにいるかくらい言えよ」
翔子がそう言って太助を呼び止める。
「あいつらは…、もういない。黒天筒と短天扇に帰ったよ」
そう言って、太助は並びに行く。シャオもその後に続く。
「…どういう事?」
驚きの色を隠せない乎一郎が呟く。
「知るかよ。とりあえず後で聞いてみようぜ」
たかしがそう言い、二人で並びに行く。
「ルーアン先生がいなくなったって事は、考え様によってはライバルが減ったも当然よね。
よ〜し、今日からもっと積極的にアタックしていこっと」
鼻歌を歌いながら自分のクラスに行く花織であった。そして翔子は、
(ルーアン先生とキリュウが帰った?どういう事だ?七梨が無理矢理帰す訳ないし…。こりゃぁ、あたし達の知らないところで何かあったのかも)
と、一人まじめに考えていた。


校長の長々しい話が終わり、生徒はそれぞれ新しい教室に向かう。
その途中、
「シャオ」
翔子がシャオを呼び止めた。
「何ですか?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「あ、ちょうど良かった。私も翔子さんに聞きたいことがあったんです」
その言葉を翔子はやっぱり何かあると思った。シャオは分からない事があれば大抵翔子に相談する。
「そうか、とりあえず向こうで」
そう言って二人は人気のない所に向かった。


「えっ、普通の女の子ってどういうものなのか教えてくれって?」
コクンと頷くシャオ。まず翔子はシャオの聞きたい事から聞く事にした。
そしてシャオの口から出た言葉に少し驚く。
「何でいきなり…、何かあったのか?」
「はい、実は…私、精霊じゃなくなったんです」
――しばらくの沈黙――
「えぇぇぇぇーーーー!!!!!!」
状況を飲み込めた翔子が声を上げて驚いた。たぶん誰かに聞かれただろう。
「どういうことだよっ、精霊じゃなくなったって?あたし達とあっていない間に何があったんだよ?」
翔子に言われ、シャオはここ数日の出来事を話した。
南極寿星に教えられ、太助と一緒に中国のある場所に向かい、
そこである儀式をおこなって、人間になれた事を。そして自分を幸せにしてくれる人を捜す為、太助のもとを去ったルーアンとキリュウの事を。
「なるほどな…、ルーアン先生やキリュウが帰った訳が分かったよ。それで普通の女の子のあり方を教えてくれって事か」
「はい」
う〜んとしばらく考えてから翔子は言った。
「シャオは今のままでいいよ」
「えっ?」
「だから、今のままでいいんだよ。焦ることはないし、そのうち分かってくるよ。
こういうことは自分で見つけたほうがいいし」
「そうですか?」
「そうなの。じゃ、教室に戻ろうぜ」
そう言って教室に戻ろうとする。
「あ、翔子さん、翔子さんの聞きたい事って…」
「もう、分かったからいい。行くぞ」
訳が分からないままシャオは教室に戻っていった。


その頃、教室では…
「ねえ、太助くん、どういうことなの!?何でルーアン先生帰っちゃったの?」
乎一郎が太助に問いただしていた。
「全員集まってから話すって言ってるだろ。そろそろあいつも来ると思うし…」
「あいつって?」
たかしが言うと同時に女子が騒ぎ出した。出雲がきたのである。
「なるほど、あいつか」
「そう言うこと」
「やあ、皆さん。お久しぶりですね。ところでシャオさんは?」
三人の前に来て出雲が尋ねる。
「まだ帰って……あ、帰って着た」
太助が言いかけた時、シャオと翔子が教室にきた。
「お、七梨、ついにやったな」
「へっ?」
いきなり言われて太助はそう言う。
「とぼけるなって。シャオから全部聞いた」
「あ、そういう事か。まあ、なんとかな」
納得して頷く太助。
「おいおい、なんだよ?俺達にも教えろよ」
たかしが言った。
「シャオが精霊じゃなくなったんだよ」
『えぇぇぇぇぇぇぇーー!!!!!!!』
話を聞いていたもの全員が驚き声を上げた。(周りでたまたま聞いていた人も)
「それで、ルーアンとキリュウは、『自分の役目は終わった。自分を幸せにしてくれる人を探す』って言って黒天筒と短天扇に帰ったんだよ」
太助が続ける。と、その時、
「はい、ホームルーム始めるぞ」
新しい担任の先生が入ってきた。それぞれ自分の席に座る。(出雲は購買部に戻る。)
シャオが精霊じゃなくなった事、ルーアンとキリュウが帰った事は一日で学校中に広がった。
そして太助の周りが更にあわただしくなっていくのであった。


続く