万難地天、安倍晴明と出会うこと




陰陽師・・・・
それは今の言葉でいえば、平安時代の霊能力者のようなもの。
当時は一種の技術職のような物だった。
彼らは方術を使って占いをしたり、妖怪を退治したりして平安の都で活躍していた。
朝廷に仕える役職の一つであり、陰陽寮と言う物まで設けられていた。
陰陽寮とは今で言う科学技術庁みたいなもので、当時の最新テクノロジーを握っていた場所である。計88人の陰陽師で結成されていて、それぞれの陰陽師に役割があったのだ。

さて
皆さんは、安倍晴明(あべのせいめい)という陰陽師を知っているだろうか?
彼は稀代の天才陰陽師といわれ、数々の功績を残してきた。
なんでも、母親は葛の葉という妖狐だったという伝説もある。
その方力は凄まじく、実際多くの本に晴明の活躍が記されている。
映画にもなったしね。

そんな彼が、ひょんなことから小さな扇を手に入れた。そしてその扇は簡単に開き・・・






時は平安。
海外との流通も盛んになり、いろんな物が唐から輸入されていた。
そしてまれに、正式な輸入品ではなく偶然荷物に紛れこむ物もあった。
これも全くの偶然だった。
唐からの船に、一つの小さな扇が紛れこんでいたのである・・・

〜1〜



港町。
俺は親友で陰陽師である安倍晴明と一緒に歩いていた。
「珍しいな晴明。お前が外を出歩くなんてのは」
「そうか?いや、占いで面白そうなお告げが出てな」


恐らくいきなり俺が出てきてみんな困っているだろう。では少し俺の事を紹介する。
俺の名は源 博雅 朝臣(みなもとのひろまさのあそん)。武士だ。ちなみに晴明は俺の親友だ。
今日、いつものように晴明の屋敷に遊びに行ったら突然「港へ行こう」と言い出した。
なんでも、占いで今日港に行くと面白い事が起る、と出たらしい。
そういうことで、俺達は今港町を歩いているのだ。


俺達二人は目的も無くぶらぶらと町の露店をまわっていた。
たまに店に入っては面白そうな品物を物色している。
2,3軒目の店で、晴明の足が止まった。小さな扇を眺めている。
「どうした晴明?その扇は凄い物なのか?」
「さあ、分からんが・・・なにやら力が伝わってくるな」
「力・・・か」
なるほど、これでもこいつは陰陽師だ。そういう事が分かる訳か。俺にはそんな力はないが。
「ふむ。面白そうだ。これを買おう」
そう言って晴明はそのうさんくさい扇を買ったのだった。


「しかしそんなに小さい扇、開くのか?」
俺は晴明に尋ねた。
ここは晴明の
家。かなり大きな家で、今俺達は縁側に座って月を眺めている。 この縁側は庭に面していた。
晴明の庭は、池があり、その横に藤の木があり、そのほかにもいろんな木が生えている。あとは草だらけだ。
別に手入れされているわけではなく、植物が好き勝手に生えているというような感じだ。それでもどこか風情を感じる庭だ、と見る度に思うのが不思議だった。
「さあな。だがただの扇ではなかろう」
「そうか・・・俺には分からんが」
「ふふふ・・・そうだろうな」
こいつも物好きだ。一体そんな扇にどんな力があるというんだ?
だが晴明が何かに興味を持った時、必ず一騒動起きるのだ。そしていつも俺も巻き込まれる。(別に嫌なわけではない。それはそれで面白いのだ)
それからはお互いあまり喋らず、ただ酒を飲んだ。
気付けば夜の闇も深くなっていた。そろそろ帰り時かと思い、俺は腰を上げた。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るとするよ」
「そうか、じゃあな」
こうして俺は晴明の屋敷を後にした。



〜2〜


博雅が帰った後、俺は一人で考えていた。
この扇、確か唐の書物で見たことがある、と。)
最近見たんだがな・・・
しかしどこにしまったか思い出せない。
なのでとりあえず俺は、この小さな扇を開いてみる事にした。
そしてそれは簡単に開いた。

その瞬間、扇が光り出した。見ていられないほどにまぶしい。
その光がやがて人の形になり、そして光が収まった。
そこには、赤い髪の少女が立っていた。
「あなたが新しい主か」
その少女が言った。
「・・・あなたは?」
なるほど!占いに出た不思議な出来事とはこれか。
「私は万難地天紀柳。あなたに試練を与えに参った」
「万難地天・・・といえば、唐に伝わる精霊だな」
「!・・・良く知っているな、主殿」
キリュウと名乗った少女は、驚きの表情を浮かべた。 「まあ、そういう仕事だからな」
彼女は俺の反応に相当驚いているようだ。
「・・・仕事、とは?」
「ああ、俺は陰陽師というものをやっている。いろんな方術を使う人間だ」
「ほう。方術が使えるのか」
彼女は方術を知っているようだ。もともと唐から伝来した物だからな。
方術と言うのは、まあ霊能力とか、超能力とかそういう物だと思ってくれればいい。
・・・待てよ。
キリュウは精霊だ。ということは彼女も何か力を持っているはずだ。その力を見てみたい。そこで俺は彼女に頼んでみる事にした。
「キリュウ・・・と、呼んでいいかな?」
「ああ」
「キリュウも、不思議な力があるんじゃないのか?それを見せてくれないか?」
「試練だ、自分で調べられよ・・・と言いたい所だが、私も主殿の力を見てみたい」
「ではお互い力を見せ合おうではないか」
キリュウは少し考えたが、
「ふむ・・・これも試練だ」
と言って扇を構えた。
ん?俺の方に扇が向いている・・・
もしかして、俺に直接試す気か?
「ゆくぞ!万象大乱!!」
「な!やっぱりか!」
これは面白くなってきた。だがさすがに得体の知れない技をく
らう気にはなれない。
そこで俺は右手をかざし、小さく呪文を唱えた。

バチィッ
と音が鳴った。

彼女が放った力は俺が張った結界に粉砕された。
「ふう、さすがは精霊。凄い霊力だ」
「ま、まさか、私の力が!?」
彼女はかなり動揺しているようだ。思わず俺は笑ってしまう。
「あなたは、一体・・・・?」
「言っただろう?俺は陰陽師だって」
やはり、面白い事になりそうだ。



〜3〜


暗い闇の中・・・
あれから何年くらい経っただろうか。前の主が一人前になって
短天扇に帰ったあの日から。
短天扇の中にいると意外と時が進むのが早く感じる。もう200年位は経っただろう。
ん?・・・・何やら気配がする。どうやらまた新しい主が現われたらしい。
また嫌われるかもしれない。だがしょうがない事だ、私の役目は人に好かれる物ではない。
少し憂鬱な気分になりつつ、私は短天扇の外に出た。

そこには、一人の男性が立っていた。結構若く見える。大体25,6歳くらいだろうか。
「私は万難地天紀柳。あなたに試練を与えに参った」
形式的な挨拶をする。恐らく、今の私はかなり無愛想に見えた事だろう。だがいつもの事だ。どうせ嫌われるのだから最初に愛想よくしても意味が無いから。
だが新しい主は意外な反応を見せた。
「万難地天・・・といえば中国の精霊だな」
うっすらと微笑みながら主殿は言った。
これには正直驚いた。
今まで精霊の事を知っている人間に会った事が無かったからだ。
聞けば主殿は、陰陽師という方術使いだという。なるほど。ならばそういう知識があってもうなずける。
だが所詮人間の力なんて、精霊にかなうはずが無い。しかも主殿はこの状況を楽しんでるようだ。
そこで私は彼の力を試してみようと思った。
主殿も私の力に興味があるらしく、お互い力を見せ合おうということになった。
嫌に余裕たっぷりな主殿の態度を見て、少し驚かしてやろうと思った私は、直接主殿に万象大乱を掛けることにした。
「ゆくぞ!万象大乱!!」
さあ、防げるものなら防いで見ろ!と心の中で思いつつ、少し大人気無かったかとも思った。
精霊が人間相手にむきなるなんてな・・・
しかし、ここまで追いこまれても主殿は余裕の表情だ。私はなんとなく嫌な予感がした。
主殿は右手をかざし、何やら呪文のようなものを唱えた。
その瞬間、
バチィッ
と音がなって、私が放った力が主殿の目の前ではじかれたのだ。
私は一瞬固まった。この状況を理解するのに数秒かかった。そんな・・・私の力がかき消された・・・
「ふう、さすがは精霊。凄い霊力だ」
主殿の声で我に返った私は、何とかこの状況を理解した。しかしそれでもまだ信じられない。
絶対にありえない事が起ったのだ。
「ま、まさか、私の力が!?あなたは一体・・・」
「言っただろう?俺は陰陽師だって」
恐らく、今の私の表情はひどく呆けていた事だろう。

「そうえば俺の名前をまだ言ってなかったな。俺の名は安陪晴明。よろしくな」
私が呆然としていると、主殿は笑い出した。
「ははは。そんなに驚く事もなかろう?世界は広いからな」
主殿はそう言うが、何千年もの歴史を持つ中国にも、精霊より強い人間なんていなっかった。
「まあ突っ立ってないで座れよ。キリュウは俺を鍛えに来たんだろう?」
「ああ」
「では色々話そうではないか」
「ああ・・・」
主殿の不思議なペースに巻き込まれ、私は主殿の言う通りにした。
「ところでキリュウ、酒は飲めるか?」
突然そんな事を言われたので、一瞬きょとんとしてしまった。
「え・・・あ、いや。酒は飲まない。お茶なら好きだが」
「そうか、なら式神に持ってこさせよう。葵、いるか?」
主殿が呼びかけると
「はい」
とどこからとも無く声が聞こえ、一人の女性が現れた。
真っ黒な髪は肩までのび、涼しげな目をしている。とても綺麗な女性だ。
が、私は何となく違和感を感じた。
「お初にお目にかかります、葵と申します。以後お見知りおきを」
「あ、こちらこそよろしく・・・」
「では葵、よろしく頼む」
主殿がそう言うと、葵殿は奥に下がっていった。


「主殿、式神とは?それに彼女に何となく違和感を感じたのが・・・」
そう言うと、主殿はうっすらと笑みを浮かべた。
「ほう?さすがだな。いかにも、あれは人間ではない、藤の花だ」
「藤の花?」
「ああ。藤の花に力を込めて作った物だ。そういうものを式神というんだ」
そんな事まで出来るのか。私は内心感心した。道理でこの屋敷には人間の気配がしないと思った。きっと身の回りの事はその式神とやらにやらせているのだろう。
そんな事を考えていた時、ちょうど葵殿がお茶と酒を持ってきた。
私は主殿からいろんなことを聞いた。
この時代には陰陽師という特殊な力を使う人間がいるそうだ。
それは一種の職業で、主に占いや妖怪を退治しているという。
やはり普通の人間ではないようだ。
いろんな話を聞かせてもらった。しばらくして一息ついた時、私は立ち上がった。
「色々と話してくれてありがとう。だが私がここにいる意味はない。また短天扇に帰るとしよう」
さっきので分かったように、主殿はもうすでに私が試練を与えるまでも無く一人前だ。試練を与えるのが役目の私はここにいる意味が無いと言うわけだ。
私は正直少し寂しかった。
今までとは明らかに違って、嫌われるというわけではない。それに主殿が話してくれたことはどれも面白い物ばかりだった。
だが主殿は不思議そうに私を見上げていった。
「何故帰るのだ?」
「え?いや、主殿より弱いのに試練を与えても無意味だろう?」
「そんな事はないさ。俺達は気が合いそうだからな。きっと仲良くなれると思うぞ?仲良くなれるというのは意味がある事だ。キリュウの試練も受けてみたいしな」
「いや、しかし・・・」
「いいではないか。今は俺が主なんだから。まあキリュウが帰りたいんだったら別だが」
微笑みながら主殿は言った。
そんな事は初めて言われた。
きっと私が試練を与えても、主殿にとって試練にはならないだろう。むしろそんな事やる価値も無くただ迷惑なだけだ。
だが主殿はそんな事は気にせずに私を引き止めてくれた。仲良くなれるとまで言ってくれた。
・・・・どうやら、私はここが気に入ってしまったようだ。
もうしばらくこの時代を生きてみよう・・・
「・・・じゃあ、もうしばらくいさせてもらおう。よろしく頼む、主殿」
「おう!こちらこそよろしくな」
なんとなく嬉しくなって、気付いたら私は微笑んでいた。



〜あとがき〜
  どうもこんな小説を最後まで読んでいただきありがとうございます。ペンネームくるぶしといいます。
  まもって守護月天のキリュウと、陰陽師の安倍晴明が好きなので合わせてみようってことで書いてみました。ちなみに月天の他のキャラは出ない予定・・・(ぉぃ
  では感想などお待ちしてます。パソコンの調子が悪いので直接自分のアドレスに送ってくれたらうれしいです
  それでは!