万難地天、不可思議を体験す〜前編〜






〜1〜



「万象大乱!」
今日、俺は早速キリュウの言う”試練”とやらを受けていた。俺んちの庭で。
「くっ・・・何故だ、何故当らない!?」
この試練でキリュウの力が分かった。彼女は物を大きくしたり小さくしたりできるのだ。
今俺は、キリュウが小石を投げて巨大化し、それを俺が避けるというパターンの試練を受けていた。
だが俺はもちろん一発も食らっていない。
あまりにもキリュウが必死なので、ちょっと挑発してみた。
「ふふふ・・・みえみえだぞ?キリュウ」
この言葉にキリュウはカチンときたようだ。いや全く、面白い。
「・・・ならば、これでどうだ!?」
そう言ってキリュウは5、6個石を投げ、巨大化させた。
「おおっと!囲まれたか」
これにはさすがに油断した。しかもいつのまにか池まで追い詰められていたのだ。
が、黙ってやられる安陪晴明ではない。俺は池の水を少し手に取り、自分の周りにまいた。
「陰陽五行・水遁万変」
小さく呪文を唱えると、俺の周りにまいた水がまるで滝のような勢いで舞い上がり、石を吹き飛ばした。
「!!??」
キリュウはただぽかんとするばかりだ。いやー他人のこういう顔を見るのは実に面白い。
「ふっふっふ・・・・さて、今日の試練はこのくらいかな?」
するとキリュウは沈んだ表情で
「・・・・ああ。私の負けだ、主殿」
とぽつりと言った。どうやら落込んでるようだ。
人が落込んでるのを見るのもまた面白い。
・・・・・ってゆうか
結構心が汚れてるな、俺・・・・
なんか自分も傷ついたので、
「まあそう気を落とすな。じゃあそろそろ休むか」
とキリュウに慰めの言葉なんてかけながら、俺は家の方に向かった。



〜2〜


・・・・・・・
全く歯が立たない。
さっきから私は、主殿に試練を与えていた。しかし全く命中しない。そして主殿の一言。
「ふふふ・・・みえみえだぞ?キリュウ」
・・・・・あったまきた!絶対当ててやる!
私はいっきに5、6個石を拾って投げ、巨大化させた。さらに私の計算通り、主殿の後ろは池だ。
勝った!・・・・そう思った。
すると主殿は池の水を手に取り、自分の周りにまいた。
その瞬間、その水が突然舞い上がり、岩を全て弾き飛ばしてしまった。
「!!??」
いやもう、私には何がなんだかわからない。突然水が壁になって?・・・・
「ふっふっふ・・・・さて、今日の試練はこれくらいかな?」
主殿の声で我に返る。
「・・・・ああ。私の負けだ、主殿」
私の力が通じないのは分かっていたとはいえ、やっぱりショックだ。
「まあそう気を落とすな。じゃあそろそろ休むか」
主殿のその言葉で、今日の試練は幕を閉じた。


「そうえば昼飯をまだ食べてなかったな」
主殿が言った。確かにもう12時をまわっている。
試練を終えてから、私達は縁側に座っていた。
「さて・・・・なんか作らせるか」
そう言うと主殿は手でなにやら形作り、呪文のようなものを唱えた。
するとさっきまで何の気配も無かったのに、後ろから急に葵殿が姿をあらわした。
「おお!?」
「フフフ。失礼、驚かしてしまいましたか。でも全て晴明様が悪いんですよ」
前に見たとおり綺麗だが、今日は笑顔でいるせいか、前よりも可愛らしく見えた。
なんだか機嫌がよさそうだ。式神にも感情があるのだろうか?
「なにか食う物を作ってくれぬか?」
「かしこまりました」
そう言ったと思うと葵殿はたちまち姿を消した。


「なあ主殿、色々聞きたいのだが・・・」
葵殿が昼ご飯を作っている間暇なので、主殿に色々聞く事にした。
「ん?ああ・・・・まあそうだろうな。じゃあまず何から聞きたい?」
「そうだな・・・・主殿の力についてだ」
私の力を破ったり、水を操ったりと、強力な力を私は2回も見ている。まずそれを知りたかった。
「うむ。説明すると長くなるのだが・・・まず陰陽五行説から説明するか」
主殿は楽しそうだ。こういう話が好きなんだろう。
「そもそもこの世界は、5つの要素からなっている、という考え方がある。木、火、土、金(ごん)、水だ」
「それならば私も知っている。中国の考えで、たしか五行思想といったような・・・」
すると主殿はうなずいて、
「もともと陰陽道とは五行思想から生まれたんだ。陰陽道では五行説と呼んでいる」
主殿は紙と筆を持ってきて、正五角形を書き、それぞれの頂点に5つの要素を書いた。
「相生と相剋という関係がある。まずこのように、五角形の一番上の頂点から右回りに木、火、土、金、水と並 ぶのが相生だ」
「うん、それで?」
「これは循環を表している。木はこすり合わせると燃えるので火を生む。これを木生火(もくしょうか)。
火は燃えることにより灰、つまり土を生む。これを火生土(かしょうど)。
土は集まると山になり、山は石を生む。金は石に含まれる事から、土は金を生む。これを土生金(どしょうごん )。
金は、湿度が高くなると表面に水滴が出来ることから水を生む。これを金生水(ごんしょうすい)。
水は木を育てる、すなわち木を生む。これを水生木(すいしょうもく)
とそれぞれ呼んでいる。つまりこれらは相性がいいってことだ」
「・・・・うん」
「次に相剋だ」
すると主殿は、さっきかいた正五角形の対角を、木、土、水、火、金、木の順に結び、一筆書きの星を書いた。
「これは相性が悪いってことだ。木は土から養分を奪うので木は土を剋す。これを木剋土(もっこくど)
土は水を水、また流れる水をせき止めるので、土は水を剋す。これを土剋水(どこくすい)
水は火を消すので、水は火を剋す。これを水剋火(すいこくか)
火は金をとかすので、火は金を剋す。これは火剋金(かこくごん)
木はどんな大木でも斧、すなわち金属で切り倒されてしまうので、金は木を剋す。これを金剋木(ごんこくもく )と呼んでいる。
ちなみに五角形を逆周りにたどってみると、相手の属性を抑える関係が見れる。
例えば金生水を反対に見ると、水は金(属)をさびさせてしまうから金を抑える、という感じだ」
なるほど、確かにそうだ。分かりづらい人はお手数だが実際に書いてみてもらいたい。
「・・・・・なんと無く理解できたが・・・・」
「完璧に理解する必要はないさ。まあ分かりやすく言えば、ポケモンのこうかはばつぐんだ!とこうかはいまひ とつのようだ。の関係だ」
・・・う〜ん・・・実に分かりやすいが、この時代でこんな例えしていいのだろうか?
「もっと説明したいのはやまやまだが、次の機会にしておこう・・・・で、さっきの俺の力だが」
そう、それを知りたかったのだ。
結構話がかけ離れた気がするが・・・
「水に俺の力をこめたのだ。石は堅いので『金気』の属性を持っている。そこで相生と逆の見方、水で応戦した んだ。水は金の力を抑えるからな」
つまり金属性の弱点をついた訳か。
「陰陽道の極意は五行を把握し、操る事にある。まあ限界はあるがな」
「なるほど・・・・すごい力だな。じゃああの式神とかは?」
「うーんとな、あれは五行とは全く違う力だ。先代の陰陽師たちが開発した力だな」
これほどまでに奥が深いとは・・・・私は中国の精霊だがこんな事は何も知らなかった。
意外とこういう話は好きかもしれない。
「実に面白いな、陰陽道」
「だろう?この位の事は『五行大儀』に載ってるから、キリュウも後で読んで見るか?」
「五行大儀?」
「ああ。俺達陰陽師のテキストみたいなもんだ・・・・・おっ、飯が出来たみたいだな」
主殿がそう言うと、葵殿がお盆を持ってやってきた。
「さて・・・・飯を食べ終わったら出かけようと思うんだが」
運ばれてきた昼ご飯を食べながら主殿が言った。
「どこへ行くんだ?」
「小野清麻呂という人間の家だ。なかなか身分がいい役人でな、この前も出世したそうだ」
そんな人の家に何をしに行くのだろう。
「それで、最近不気味な事が起るから相談に乗って欲しいと言われてな」
「ぶ、不気味?」
「ああ。俺も詳しくは事情を聞いてはいないんだが・・・・何でも蛇が天井から落ちてくるらしい」
「・・・・・なんだ、蛇なんて不気味でも何でもないではないか」
私は大地の精霊なので、そんな物はなんとも思わない。
「まあな。だが清麻呂殿が言うにはここからが不気味らしい」
「ほう?どんな風に?」
「それをこれから聞きに行くわけだ」
一見仕事なんてやってなさそうな主殿だが、結構頼りにされている様だ。
まあ実力は私も知るところだが。
「どうだ?キリュウも行くか?」
主殿が言った。
実は、今まで私は私はあやかしとか悪霊とか超常現象とかそういうものはあまり信じていなかった。
だが主殿の力を目の当たりにして、やはりそういう物は実在すると思い知った。
という事で、私はその”不気味な事”にすごく興味を持っているのだ。
「それは面白そうだな。私も行く」
そういう訳で、私も主殿にくっついて、その不気味な事に挑む事になった。




〜あとがき〜

第2話から陰陽師チックな話にして行こうと思ったんですが、五行の説明だけで終わってしまいました。
こういうのに興味がない人や、すでに知ってる人にとっては何も面白くなかったかと思います。
まあ今後の話を広げようとね・・・・
次回は、実際不気味な事にキリュウと晴明が挑んでいきます。あと1話に出たあの男も・・・・・
次回も読んでもらえたらうれしいです。それでは!