変動




〜1〜


火・・・・・・火事か。
一体どこが燃えているんだ?
あれは・・・・・百鬼夜行・・・・
大きな力・・・・四方位の空間が歪んで・・・・
そしてこれは・・・・・時空震?

「・・・・・くっ!だめだ、先が見えない」
早朝。俺は一室で占術をしていた。
占術――占いのことがである。
今やっているのは大掛かりな物で、床に魔法陣を書き、その上に座って特殊な呪を唱えつづけるという物だ。
「都に集う力・・・・何が起こるというのだ?」
はっきりしないが、いい兆候ではないという事は分かる。
俺のように霊力が強いと、占いもほとんどの確率で当る。それ故嫌な占いでも、回避出来ない時が多い。
つまり、この不穏な占いを避けることは出来ないのだ。
・・・・・・嫌な感じだ。
俺の役目を果たす時が・・・・・近づいているというのか。


〜2〜


「う〜ん・・・・・ふぁ?」
意識がはっきりしない。
「ふぁ〜・・・・ああ、朝か」
朝といっても、時間にしてすでに11時くらいだろう。
この時代は別に早起きする必要が無いので、いつもゆっくり寝ていられる。
私は起きあがって部屋を出ると、いつも食事をとる部屋へ向かった。


部屋に着くと、すでに朝食が盆に乗って並べられていた。
「あれ?主殿は?いつも私より先に座っているのに」
ちなみに、早いといっても私と大して変わらない 「晴明様なら、今占術をやっているようです」
「占術?」
「占いの事さ」
後ろから声がした。主殿だ。
「おはようキリュウ」
「ああ、おはよう主殿。遅かったな」
「まあちょっとな・・・・それより早く飯を食おう」
主殿が座ったので、私も話を止めご飯を食べる事にした。
だが、何となくいつもと違う違和感があった。
主殿の雰囲気だ。何となく疲れているような・・・・
「主殿、疲れているようだが・・・・どうかしたのか?」
「ん?いや、何でもない」
主殿はぼそりといった。やはりいつもと違う。
「ご馳走様」
私より先にご飯を食べ終え、主殿は席を立った。
が、その時、主殿が急に顔を上げ、庭を見つめた。
「な、なんだ?」
私も庭に視線を移す。
そこには、見覚えのある男が立っていた。
「あ、蘆屋道満!!いつの間に!?」
「よう、久しぶりだな。キリュウ、晴明」
そう、庭に立っていたのはこの前対決した蘆屋道満である。
「これはこれは・・・・珍しいですね。道満殿が訪ねてくるなんて。こちらへどうぞ」
そう言って主殿は道満を導いて、部屋の奥へ消えた。

「いきなり蘆屋道満が来るとは・・・・・しかも主殿招き入れるし」
私が驚いていると、葵殿が言った。
「道満様は敵ではありませんから、大丈夫ですよ」
「だがこの前は・・・・・」
「あの人も気まぐれな人ですから」
笑いながら葵殿が言う。
主殿はなんだか疲れていたようだが・・・・・占術というのは力の消費が激しいのかもしれない。
今日は試練は休みにするか。
実は私は、一応主殿に毎日試練を与えている。意味がないとは思うが。
「じゃあ私も今日は暇だから、葵殿の手伝いでもするよ」
「え?しかし・・・・」
「気にしないでくれ。葵殿にはいつも世話になっているからな」
「そうですか・・・・ありがとうございます」
と言う事で、今日は葵殿の手伝いをして過ごす事にした。


〜2〜


「で?今日は何故私を訪ねたのですか?」
俺は占いの魔法陣を解いて、道満を招き入れた。
「何だ、用がなくては訪ねてはいけないのか?ほれ、酒だ」
そういって道満は、酒の入った銚子を置いた。
「別にそうではありませんが・・・・今日はちゃんと用事があるのでしょう?」
ニヤついてる道満の顔がふっと厳しくなった。
「お前は気付いているか?都に集まる強大な力に」
何の前置きもなく道満は言った。
やはりその事か・・・・・
「ええ・・・・やはり道満殿も?」
「ああ」
道満はまたちびりと酒を飲む。
「占いはどうだったんだ?」
「・・・・・良くない物しか見えませんね。しかも抽象的です」
道満はうーむとうなった。
「お前の占いは当るからなぁ」
「ですが・・・・まだ占いでしか事は起こってませんよ」
すると道満は、さらに厳しい表情になって言った。
「実はもう異変が起こっている」
「!どういう事ですか?」
「平安京というのは霊的に計算されて作られた都市だ。都の周囲には、四方位を基点にした十二支の”結界”が 張られている。お前も知っているだろう?」
「ええ」
道満の言うように、平安京はあらゆる霊的要素を取り込んで作られている。
子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥。
十二支と呼ばれるこれは、陰陽道の陰陽五行説から生まれた物である。
1年における五行の消長(萎えたり盛ったりする事)は春夏秋冬で、地における五行の消長は東西南北で表れる 。
季節の春、方位の東は木の気を生じ、
夏、南は火の気を生じ、
秋、西は金の気を生じ、
冬、北は水の気を生じる。
土は四季、四方位を司る。例えば、生物が死ねば土に返り、生態系の始まりである植物は、土から生じる。
ここからも、世界は五行でなっているという事が分かる。
これらの時間、方位をさらに細かく分けるときに使われるのが、十二支だ。
平安京は、外からの邪気を防ぐために、十二方位と四方位の結界を張っている。
まず四方位に聖獣を奉って、十二方位の基盤となる強力な結界を張り、さらに環を描くように十二方位に結界を 張る。
この強力な結界によって、平安京は護られてきた。
「その十二支の結界がどうかしたんですか?」
ここに異常が起こるという事は、平安京存続の危機である。
「実は十二支の結界のうち、八つが破られている」
「それは本当ですか!?」
「ああ。十二方位の社が壊されていた」
俺はわが耳を疑った。
まさか、半分以上もやられているというのか。
「お前も知っている通り、十二支の結界は四方位の結界を解除する鍵みたいなもんだ」
つまり、十二方位の結界を破らなければ、四方位の結界は破れないと言う事だ。
「もっとも、十二方位が仮に破られたとしても、それだけで四方位の結界はやぶれない。よほどの力がなければ な」
「そうですね。それに四方位の結界があれば、邪気はほとんど遮断されますから」
「まあそうなんだが・・・・・俺には、誰かが何かを企んでいるとしか思えない」
「・・・・・人間が一枚かんでいる、と?」
「ああ。自然現象で結果が八つも破られるなんて事考えられるか?」
そう、道満の言う通り、偶然にしてはあまりに不自然だ。
誰かが何かを企んでいる・・・・・・
「一体何を企んでいるんでしょう?」
「さあな。まあとにかく、これは素人の仕業じゃない。お前も陰陽寮の連中のに気を配っておけよ」
「はい」
確かに・・・・十二方位と四方位の結界を管理しているのは陰陽寮だ。
怪しいのは陰陽師と言う事になる。
「確か奴なら持っているな」
俺はそうつぶやくと、指を鳴らして庭に居るすずめを呼んだ。
そのすずめに向かって呪を唱えると、すずめは目的地に向かって飛んでいった。
「何をしたんだ?」
「実は、あれば便利な資料が手に入るかもしれませんので・・・・・」
俺はすずめが飛んでいった空を見つめた。
確かに、俺の役目を果たす時が近付いている。
だが俺は、本当に役目を果たす事が出来るのだろうか。
「・・・・・何が起こるというのだ」
俺がつぶやいた声は、何もなかったかのように空に吸いこまれた。


〜3〜


正直言ってかなり驚いた。
すずめが俺の肩にとまったかと思うといきなり、
『博雅、陰陽寮に勤めている人間の名簿を持ってきてくれ。お前なら簡単に持ち出せるだろ』
と晴明の声で喋り出した。
それが昨日の話。
今日は仕事が休みだったので、まだ早い時間だが晴明の屋敷に向かっている。
「大体ばれたらただじゃすまんぞ」
天気が良かったので、俺は歩いて晴明の屋敷に向かっていた。
すると誰かとぶつかってしまった。
「あ、これは失礼」
「いえ、こちらこそ・・・・」
年は17,8歳くらいだろうか。青年と言う表現がふさわしい。
「陳龍様!」
すると後ろから声が聞こえてきた。
見ると、キリュウと同い年くらいの少女であった。
「すみません、はぐれちゃって」
「いや、僕が勝手に動いたんだ」
青年は立ち上がって言った。
「じゃあ時間もないし、そろそろ行こうか」
「はい」
少女は先に歩き始める。
「じゃあこれで」
「ああ。本当に済まなかった」
「いえ、それでは・・・・」
微笑を浮かべてながら、青年は言った。
俺が帰ろうと足を動かそうとした時、その青年が声をかけた。
「また会いましょう博雅さん。安倍晴明に伝えておいてください。『劉家が来た』とね」
なに!?
俺は急いでふりむいた。その青年は背中を向け、歩き始めたところだった。
なぜ俺の名を知っている?そして晴明の事も・・・・・
ただ者ではないだろう。
そして、ただ者ではないと言うなら、少女の方も変わった感じだった。
なぜならその少女は、長い、紫色の派手な髪をしていたからだ。



〜あとがき〜

色々と謎を残したかった1話です。それが全然意味が分からなくなって・・・・
あとなんか都に災いが起こるとかなんとか?
・・・・・起こるんですかねぇ、ホントに(爆
まあきっと、陰陽師・万難地天の山場になるであろうと思います。
そんでもって最後に登場した”例のあの人”はこれから・・・・おっとっと。
ではこれ以上自分の首をしめるのも嫌なので、このへんでおいとまします。次回もなにとぞよろしくお願いしま す。
それでは!