夜空に浮かぶ二人の祝砲?






                                  
「焼きそばに、お好み焼きに、たこ焼きに、綿アメ!う〜ん、ルーアン最高」
「七梨先輩、屋台楽しいですね。うわ〜、金魚すくいだ」
「うお〜。燃える花火がこの俺の魂を呼んでいる!何せこの俺はもっとも花火が似合う‥‥」
「たかし君。ここじゃ迷惑だよ」
 ここは奈津川の河原。ここには、いろとりどりの屋台が並んでいる。そして、その屋台一つ一つが活気を帯びている。そして、様々な人たちでここはあふれかえっていた。
 なんと、ここは今日、花火大会をやるのだ。
 そして、その中でも特に目をひく一行があった。
 そう、その一行とはいつも通りのメンバー―太助、シャオ、ルーアン、たかし、乎一郎、翔子、花織―だ。ちなみにキリュウはここのところ続く猛暑でダウン。フェイも何だか行きたくないとか。というわけで、二人とも一緒にお留守番中である。
 花火大会、そこは活気に包まれている不思議な空間。夜空に浮かぶ花火という名の芸術作品は、人々の心を魅了してやまない。そして、そこは、にぎわう人々のおかげで、いつも活気に溢れている。
 そんななか、この雰囲気を楽しんでない者が二名居た。太助とシャオである。
「せっかく、太助様が誘ってくれたのに皆さんがいらっしゃるなんて‥‥はぁ、残念ですぅ」
「はあ、シャオと二人っきりだと思ったのにな・・ぶつぶつ」
 上がシャオ、下が太助である。
 この二人がこんな事を漏らしていたのには、ある理由があった。それはかれこれ、5時間前にさかのぼる。


「暇だなぁ」
 太助はソファーに腰掛けながら、テレビのリモコンをいじっている。
 ただ今の時刻は2時ちょっと。今は夏休みの真っ最中。宿題はとっくに終わっているので何もすることが無く、ただぼーっとしている。
 ルーアンは今、学校に行っている。何でもやらなくてはいけない仕事がたまっているとか。シャオとフェイは、一緒に買い物にいって今はいない。
 キリュウはこの家にいるのだが、なにせ外の気温は39度。エアコン+扇風機二台でも彼女はバテている。試練どころではない。
 事実上、この家には太助しかいない。
「はぁ、夏休みなんだし、たまにはシャオと二人っきりでどこかに行きたいな。でも何だかいつも俺の周りはにぎやかだし‥‥そんなことも儚い夢か」
 そんなことをぼやついていると、ふと
「プルルルル、プルルルル。」
 と電話の音が。その電話の相手は、
「もしもし、七梨ですけど」
「よっ、七梨。シャオはいるか?」
「なんだ、山野辺か」
「なんだはないだろ、なんだは」
 そう、シャオの親友である、山野辺翔子である。
「シャオなら今買い物だけど」
「そうか、なら。んっ、いやまてよ」
「どうかしたのか、山野辺」
「いや。そうだ七梨、隣町の奈津川でさ、花火大会があるんだってさ。バスで15分足らずの距離だからさあ、シャオを誘って二人っきりで行ってこいよ」
「シャオと、二人っきり?」
 太助は、今し方儚い夢と思っていたことが現実となりそうな気がして、心の中でバンザイをした。これが山野辺から言われたことに少し違和感があったが、誰にも知られずに隣町に行ってしまえば、いつものメンバーと離れてシャオと二人っきりになれる。太助はそう確信した。
「どうだ七梨、いってみないか。シャオと二人っきりで」
 あえて二人っきりと言うところを強調する翔子。
「そうだな、サンキューな山野辺」
「ああ、がんばれよ。」
 そういって、電話が切れた。
 その時待ってましたとばかりに、玄関から元気な声が。
「太助様、ただ今戻りました」
「シャオ、お帰り」
 
 ただ今の時刻、三時半。七梨家のリビングには、シャオと太助が二人っきりなのだが、太助はいまだにシャオを花火大会に誘っていない。
(どうした俺。たった一言、シャオに花火大会に行かないかって言うだけでいいのに、ああ、それすらも言えない俺って)
 心の中では、頭の中では分かり切っているのだが、しかし、口はそううまく動いてはくれない。
 適当に付けているテレビの声だけが、この空間を占領している。
 そのテレビは、意外なところで役にたった。
「まあ、太助様みてください」
「なに、シャオ?」
 そこには、特集で花火大会についてやっていた。
「花火ですって。行きたいなぁ」
(絶好のチャンス到来!よし。)
「なあ、シャ、シャオ、いっ、一緒に花火大会にいかないか、隣町の」
「まあ、いいですね」
(手応えあり)
 そう太助は思った。そして決めの一言を
「それじゃあ、込むといけないからさぁ、今から行かないか」
「はい。じゃあ、皆さんに電話しますね」
 その、ある意味では分かり切った反応に、太助は思わずこけそうになった。
「い、いやいいよ。今回はさ、夏休みなんだし、あんま最近二人っきりでどっかいったこと無かったしさ、二人っきりで行こうよ、シャオ」
「う〜ん、それも、いいですね」
 シャオは一瞬戸惑ったが、久しぶりの太助からの誘いを断る理由もなく、そんなのもいいかなとおもい、一つの答えを出した。
(よし、成功)
「じゃあ出発!」
 しかし、ここまで成功したというのに、運命とは無情な物で、玄関からでたとたんにいっちばん合いたくない奴らにあった。
「七梨先輩、遊びに来ましたよう」
「おう、太助とシャオちゃん。なにもやることとかないしさ、ちょっとあがらせてもらうよ」
「おじゃましまーす」
 太助のその夢は、夢で終わった。


 そのあと、みんな一緒に花火大会を見に行くことに。
 ルーアンはコンパクトでその状況を知り陽天心絨毯で、翔子は元々きていた。
 そして今のような状態で、あと30分で始まる花火大会を見に行こうとしていた。

(う〜ん、あいつらがくるのは誤算だったな。あれ、そういえば)
 翔子はどうすれば太助とシャオとの仲を深められるかということを考えて、あることに気が付いた。
「七梨、キリュウとフェイはどうしたんだ」
「あれ、言ってなかったけ?キリュウなら暑くて家でへばってると思うよ。フェイも何だか行く気がしないんだって。きちんと書き置きはしてきたし、大丈夫だと思う」
「そうか」
 翔子の頭の中で、ある考えが頭に浮かんだ。
(シャオと七梨をくっつけるには、まずこのじゃま軍団をなんとかしないとな。)
 翔子は今のあの二人のそばにいる者たちをみて心でつぶやく。
(でも、そこはキリュウにまかせれば。よし、『シャオと七梨で二人っきりで花火を楽しんでより仲を深めちゃいましょう作戦』発動!まずは第1段階だ)
 翔子は、友のために、あることをしようとしていた。
「ああ、やばい。親父に電話しとかないと(かなりくるしまぎれの台詞)。わりぃ、みんな先に行ってくれ」
「いいけど、翔子さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫だシャオ。すぐに追いつく。」
 そういって、翔子は走っていった。


  ここは七梨家。今、電話が鳴り響いている。
「もしもし」
「お、フェイじゃないか。ちょっとキリュウ呼んでくれないかな」
「ああ、わかった」
 それから少したち、
「もしもし、キリュウだが」
「おう、キリュウ、起こしちゃったかな」
「いや、ちょうど起きたところだ。して、翔子殿、一体何用かな」
「ちょっと七梨たちについて」
「ふむ、主殿たちが、ふむふむ、なるほど花火大会か。どうりで。で、皆がそろってちょうどいい機会だから、皆で受けようと言う訳か。なるほど。皆の頼みとあっては断れまい。わかった、で、今どこだ。わかった、今からそっちに行こう」
 そして、電話は切れた。キリュウも短天扇にのり、奈津川に向かっていった。側にはちゃっかりフェイも居たが。

「よし、作戦第1段階成功」
 翔子は電話ボックスの中で思わずガッツポーズをとる。
「あとは、シャオたちを呼べば。がんばれよ、七梨」
 彼女は親友と、その人が大切に思っている奴のことを思い浮かべて、走っていった。


 それから約20分後。
 太助たち御一行は、翔子の誘いで、奈津川からすこし離れた、周りが木で囲まれた広場にいた。
「なんでこんなとこ呼ぶのよ、不良嬢ちゃん」
「まあ、もう少しで分かるって」
「山野辺ぇ、それでみんな納得すると思うか」
 たかしが思わず反論する。
 そのとき、一番近くの木が2倍近くの大きさに生長した。
「これって、まさか」
 太助は思わず身震いする。
「キ、キリュウ?」
 その問いはすぐに解決した。なぜなら、いつものかけ声とともにルーアンの上に巨大なおまんじゅうが落ちてきたからだ。
「万象大乱!」
「わーお、おいしそうね」
「やっぱり・・」
 そして上からは、またもや巨大な物体―縦50cm横40cmもあろうかという巨大な葉っぱ―が一斉に落ちてきた。
 そのとっさの行動に、太助以外はよけられず、その巨大葉っぱの下敷きになってしまった。
「主殿、そして皆もこの葉をよけ、ここまでくれば試練クリアだ。」
 いつのまにやら、20m位前にキリュウが立っていた。
「ちょっとキリュウちゃん。皆って、もしかして俺たちも?」
「そうだ。この試練を受けるのはここにいる者たち全てだ」
「本当かよ?しかーし、俺の燃える魂の炎を消すことは、たとえキリュウちゃんの試練でも無理・・うぐはぁ」
「試練中の私語は慎んでもらいたい、たかし殿。さもなくば舌をかむぞ」
 ここにいる者たちは、いきなりのキリュウの試練にとまどいをおぼえながらも、その巨大な葉っぱに埋もれて苦戦を強いられていた。
 しかし太助だけは、いつも試練をしていたせいか余裕そうだ。
 そして、ものの2分でクリアした。
「やるな主殿」
「へへっ、これくらい軽い軽い」
「これで今日の試練は終了だ。あとは花火でも楽しんできたらどうだ」
「ああそうするよ」
 そして太助は走り出していった。


「ああ、これでシャオが居たら完璧なんだけどな」
 ふとつぶやく太助。手前ではもうバーンバーンと花火が景気よく上がっている。
「ああ、始まっちまったな、花火大会。そういや、さっきシャオと山野辺が居なかったような気が・・・」
「来々、軒轅!」
「え、シャオ、何でこんな所に」
「さあ、太助様。一緒に花火をみましょう」
 そして、シャオと太助は竜のような格好をした星神、軒轅の背中に乗って、大空へと舞い上がった。


 その様子を見ていた翔子は、
「ふ、やるねえシャオも。っていけねえ、シャオに言うの忘れてた。ちぇ、最後の最後で」
「またなにか吹き込もうとしていたのか、翔子殿は」
「って、キリュウ。他の奴の試練はどうしたんだよ」
「私も翔子殿とのつきあいは短くない。主殿とシャオ殿のために今日のことを仕組んだのはバレバレだぞ。皆のことも心配しなくても良い。すぐに様子を見に行くからな」
「まったく、翔子には困ったものだな」
「「フェ、フェイ(殿)」」
 翔子もキリュウも意外な人物の登場に、かなり驚いていた。
「ああ、これからのシャオと太助の行動が面白そうだったから、ちょっとキリュウの短天扇に乗らせてもらったよ。」
「私としたことが、とんだ不覚だった」
「そんなことよりさ、見てみなよ、あの二人を」
 フェイは二人の注意を空に向けさせた。
 そこには、だいぶ前にいる所為かあんまりはっきりしないが、軒轅に乗った二人―シャオと太助―の姿を確認することが出来た。
「変わったな、あの二人も」
 翔子はおもむろに口を開く。
「最初の頃はお互いに引っ込み思案でさ、ここまでくるのに苦労したな。あのころから比べると、ホント格段の進歩だよな」
「主殿も、シャオ殿を守護月天の宿命から救う為に、いつも試練を乗り越えておられる。それでこそ、こちらもやりがいがあるというものだ」
「あの二人なら、きっと乗り越えられると思うよ。人と精霊という壁を」
 三人の目に映った花火は、いつも変わらない光を放ち続けている月をバックに、晴れやかな光を放っていた。

(なんかいろいろあったけど、結局シャオと二人っきりになれてよかった)
 太助は心の中でそう思う。
「太助様、見てください。あの花火、きれいですね」
 ふと太助も、花火を見た。今は何色もの花火が連続してあがっている。赤、青、黄色などの色が作り出すその姿は、まるで空が一瞬の花畑になったようだ。
「そうだな、シャオ」
 少し間をおいて、太助はこう続ける。
「俺さあ、今日、シャオと一緒にこの花火をみれて、うれしかったよ」 「あ、あの、えっと、私も、太助様と二人っきりで、この花火を見られてうれしかったです。だって・・」
 シャオはそこまで言って、言葉に詰まった。
(なんて言えばいいんだろう。なんだか、こうやって太助様と二人っきりで居るだけでうれしいのに、うまく言葉に表せない。これが、これが私の知らない気持ち・・?)
 バーン、バーン、バーン。スターマインのバックサウンドで、シャオは、こう太助に話した。
「だって、二人っきりで花火を見たら、その二人はその年、幸せになれるって翔子さんが」
「山野辺か。そうか、じゃあシャオ。この花火が終わるまでさ、二人っきりで居ようよ」
 太助は苦笑しながらも、友人のその行為に対して心の底から感謝した。
「はい・・」
「ぐーーー」
 太助のおなかの虫が鳴いた。
「太助様、おなか空きましたか?」
「ああ、ごめん」
 今思い出すと、夕ご飯を食べていなかった。
「私もです。そうだ、さっき屋台で買ったたこ焼きがありました」
 そして、瓠瓜を呼び出して、その中からアッツアッツのたこ焼きを出した。でも、全部で3パック。微妙な量だ。
「さあ、太助様。一緒に食べましょう」
「え、でも」
「どうかしましたか?たこ焼きお嫌いですか」
「いや、そういうことじゃなくて、まあいいや、いっただきます」
 太助が心配しているのは、この3個というパックの数である。ひとり一パックずつ食べれば必然的に一パック余る。そして1パックだけでは腹はあんまりふくれない。案の定、
「あ、ゴ、ゴメン」
「い、いいえ、こちらこそ」
 1パック食べ終わったこのふたりは、まだおなかがすいているので余った残りのたこ焼きを食べようとして、ふたり一緒に同じたこ焼きにつまようじをさしたのだ。
 そしてお互いの顔が、相手の瞳に自分の姿が映るほどに近づいた。
 ポッ。シャオ、太助両名の頬が真っ赤になる。
 そのままの姿で、どのくらい時がたっただろうか。
 バーーーーン。花火大会のフィナーレを告げる巨大花火は、二人を祝福するかのように、優しくふたりを包んでいった。
 

 ここは七梨家のリビング。今日は夜も遅いと言うことで、みんなでこの家に泊まっていくことになった。
 そして今、ここに居るのは、シャオと翔子。他もみんなは、もう既に夢の中だ、約1名を除いて。
「で、七梨とはどうだった?」
「はい、とっても楽しめました」
 時計がいま、日付が変わったことを示す。
「でも、そのことで翔子さんに謝っておかないといけないんです。実は、今日のことで、翔子さんが『二人っきりで花火を見たら、その二人はその年、幸せになれる』って言ってたって嘘ついちゃったんです」
 そして、翔子はさっきの花火大会のとき起こったことをシャオの口から聞いた。
「なるほど、でも何でシャオはたこ焼きを3パックも買ったんだ?」
「買う気はなかったんですけど、2パック買ったら、その屋台の人がおまけとしてくれたんです」
「なるほど、そんなことがねえ」
 翔子は心の底から感心する、シャオも大胆になったものだと。今回翔子がしたことは、シャオと太助を二人っきりにした手伝いをしたまでで、それ以降はなにもしていない。
 そんな状態でも、シャオは自分の力で今回ここまでしたのだ
(もう、これからシャオと七梨は二人っきりの力で何とか出来るかもな)
 そんなことを思いつつ、翔子はシャオに言った。
「シャオは今、幸せか」
「・・・はい・・・」
「なら、さっきのことで悩む必要はないよ。だって現にシャオだって幸せだし。それに、あたしもそう言おうとしてたんだ」
「そうですか、ならよかったです」
「おやすみ、シャオ」
「はい、おやすみなさい、翔子さん」
 今日のこの出来事は、ふたりの心の中に、しっかりと焼き付いていることだろう。


 
あとがき


 どうも、魔棲汰阿です。いかがだったでしょうか、僕の処女作。
 まず、これを書くのにアドバイスを下さった皆さまに感謝。いま、ここにこの作品が無事完成出来たのも、ひとえに皆さまのおかげです。
 書き終えての感想はですね、やはり大変ですね、作品を作るのは。何とか一週間ちょっとで完成しましたが、かなり体力を使いました。
 作品もなんかめちゃくちゃだし、情景とかうまく書けないし、会話が多いし、たかし・乎一郎・花織が全然目だ立たなかったし、本当に自分の力のなさが悔やまれます。
 これからも、皆さまの書かれた二次小説などを参考にしながら精進していきたいなと思います。
 皆さま、何かご意見ご感想やお気づきの点が御座いましたらこちらまで連絡お願いします。
 ふつつか者ですが、これからも作品を書いていきたいと思います。その時は、また読んで下さい。
2003年8月31日