謎の手紙にご注意を



謎の手紙にご注意を






「ふっ」
謎の笑みを浮かべる少女。そして、今少女が居るところは、太助たちが通う中学校の玄関。
今の時刻、太陽はさんさんと輝いてはいるが、あたりには人の気配がしない。
なにせ、まだ朝の7時。こんな時刻に登校する奴は、よっぽど部活熱心なのだろう。
「これであのふたりも」
意味ありげな言葉をつぶやきながら、その少女は玄関から姿を消した。

その1時間+15分後。学校に着いた太助たち一行。その一行は、いつも通りその学校生活を送ろうとしていた。
「今日の宿題やったか、太助?」
「うわ、いっけね。すっかり忘れてた」
「大丈夫ですか太助様?もしよろしければ、私の宿題を見ても良いですよ」
「ああ、サンキューなシャオ」
「太助君ずるいよ自分だけ」
「だめだシャオ殿、主殿にそう簡単に宿題とやらを教えてしまっては試練にならない」
「え〜、そんなキリュウゥゥゥゥゥゥゥゥ」
「これも試練だ主殿」
「大丈夫だ太助。5時間目までに終わっていれば何とかなるからな」
「はあ、花の金曜日だってのに、しょうがないな。んじゃ、速攻で終わらせるか」
いつもと変わらない会話。そして、太助一行は学校へと向かっていった。いつもと同じように。
しかし、その中のある一名はとある異変に気がついた。
「これって・・・・・・・・?」


その翌日。
「それじゃあフェイちゃんいってくるね」
「ああ、シャオ行ってらっしゃい」
七梨家の玄関を出ていったシャオ。そしてそれを見送るフェイ。
「シャオ、何しに行くんだろう?まだ二時なのに」
フェイはリビングに戻り時計を眺める。
そして、そのすぐあとに太助も動いた。
「それじゃフェイ行って来る」
「太助、キリュウとルーアンは?」
「ああ、キリュウは先に出かけてる。ルーアンはまだ寝てるんじゃないか?起きたら昼飯作っておいたからかってに食べてって伝えといて」
「ふーん、ならいいや。じゃ、行ってらっしゃい」
太助も勢いよく玄関を飛び出していった。
そして、それを見つめている人影が。
「あのふたりもとうとう動いたか。よし、先回りするか」
「あれは」
家の前を通り過ぎる人影を見てフェイは疑問を持った。
「なにかあるのか。ちょっとあとをつけてみるか」
「ちょっとフェイどこ行くのよ」
やっと起てきたルーアンに呼ばれて、フェイは一瞬びくっとする。
「いや、それよりさ、外を見てみなよ」
「あれは」
フェイはルーアンの視線を外へと向けさせる。
「ふーん面白そうじゃない。それじゃ、あたしがご飯食べ終わったら後を付けましょう」


今、ひとりの少年―といっても中学2年生くらい―が走っている。彼はなぜ走っているのか。どこへ向かっているのか。
そんな疑問の答えは、その少年の手に握られた一枚の手紙に書かれていた。
『明日の2時半、駅前であなたを待っています』
少年の持つ手紙にはそう書いてあった。
「これは、ラブレター?でも、誰が?」
少年のささやかな疑問。その問いもすぐに解決するであろう。
ふと、彼は腕時計を見る。
ただ今の時刻、2時20分。余裕で間に合う。
余裕が出来たせいか、自然に走る姿もスキップに近くなった。
そして、彼が約束の場所に着いた時、そこに待っていた人物を見て、こう漏らした。
「君は、なんでこんなとこに」
駅前で待つ意外な人物を見て、その少年は目を疑った。
しかし、他に誰かを待つような感じの人はそこには居ない。十中八九彼女もここで誰かを待っているのだろう。
彼女が待っているのは俺なのか、それともあいつなのか、それは今は分からない。ともかく、この少年は彼女に話しかけてみることにした。


「な、何であのふたりがここに居るんだよ」
さっきのふたりのことを影から見ていた者がふとそう漏らす。
「あらあら、どうかしたのかしら、山野辺さん?」
「うわ、ルーアン先生とフェイ。何でこんな所にいるのさ」
「それはこっちの台詞よ。だいたいたー様の家の前をうろちょろしてたから、またシャオリンとたー様をくっつけることでも企んだと思って、邪魔しようと後を付けてみたけど、どうやらそうでもなさそうだし。ほんとあんたなに企んでるのよ」
「企んでるって人聞きの悪い。あたしは那奈ねぇから仕事を頼まれて、それをやっただけだよ」
「仕事って」
「それはこれから話すよ」

翔子によると、なんでも一週間ほど前に、カンボジアに行っている那奈から手紙とでっかい封筒が来たそうだ。
その内容は次のような物だった。
『ヤッホー翔子!
 今あたしは旅の途中であった母さんと一緒にカンボジアに居るんだ。
 んで、かなりやることがあって、2〜3ヶ月は日本に帰れそうにない。
 それでさ、翔子。太助とシャオは今どんな感じだ?
 もしかして・・・・・・・いや、なんでもないから気にしないでくれ。
 それで、翔子に相談なんだけど、一緒に入っていた手紙をどの週でも良
 いんだけど金曜日に、太助とシャオの下駄箱に入れといてくれないか?
 もちろん中身は見ずに。
 太助の手紙には裏に(T)ってかいてあるから。
 んで、それを渡した次の日の2時半、駅前に行って太助とシャオの行動
 を見張ってくれ。
 その結果を同封の封筒に入れて送ってくれ。
 楽しみにしているよ。あとよろしく翔子。              那奈より』

「という訳なんだ」
「なるほど。お姉さまならやりかねないわね。でも何で、あそこに」
「そうあそこに」
「「野村(くん)と愛原(さん)が居るんだ(のよ)〜」」
見事に最後はデュエット?
そう、このふたりのご指摘のように、いま、駅前にいるのは野村たかしと愛原花織のふたり。
太助、シャオはどこにも居ないのだ。
「那奈ねぇ、一体どんな手紙書いたんだよ・・・・・」
「あのふたりのことだから、もうこのことを知って先回りしたのかしら」
「手紙って、ああ、あれ」
手紙、その言葉に反応したフェイがつぶやいた。
「どうしたフェイ。何か知っているのか」
「うん、昨日のことだけど」
そういいながら、フェイは昨日起こったことを話し始めた。


太助は急いでいた。理由は簡単、宿題を早く終わらすためだ。
別にとりわけ急ぐことではないように思えるが、何せキリュウの試練がいつくるか分からない。
というわけで、すぐ終わらせたかったために、下駄箱に入っていたその手紙に気づかなかった。
さらに不幸なことに、たかしとほほ同時に下駄箱で靴をとっていたのだ。
靴をとった所為で、太助の下駄箱に入っていた手紙が下に落ちた。
もちろん、急いでいる太助はそのことに気づかない。
そんななか、乎一郎は気づいたようだった。
「お〜い、太助君。この手紙太助君のじゃない?」
「いや知らない。それより俺早く宿題終わらせないといけないから、先行ってるからな」
「じゃあ、これたかし君の?」 「おお、これはもしやラブレター?そうか、とうとう俺にも春が来たんだ!」
「じゃあ、たかし君のみたいだね。さ、僕たちも早く行かないと遅れちゃうよ」
「お、待ってくれよ乎一郎」
たかしは幸せで溢れていた。それが太助の物とも知らずに・・・・・・・
さらなる悲劇は、3時間目の休み時間の時に起きた。
(このお手紙、誰が私の下駄箱に入れたんだろう?)
シャオはそう考えながら、右手に手紙を握りしめたまま廊下を歩いていた。
意識がその手紙に向かっていた為か、シャオは前方から右手に教科書を持ちながら走ってくるある人物に気がつかなかった。
どん。
そんな鈍い音を立てながら、シャオと前から走ってきた人物―愛原花織は正面衝突した。
「いたっ。あ、大丈夫ですか、花織さん。ごめんなさい、私考え事してたものだから」
「大丈夫ですよシャオ先輩。じゃあ、この次体育なんで急がないといけないので、これで」
「ええ」
そういいながら、花織は廊下を走っていった。
「あ、あれ」
シャオはある異変に気がついた。
さっき花織と衝突したせいか、手紙を握りしめていた右手が開いたのだ。
そしてその手紙はあたりにはない。
たぶん、花織の教科書の中に紛れでもしたのだろう。
「お〜いシャオ、授業始まるよ」
「あ、は〜い」
シャオは主である太助にそう呼ばれ、手紙のことは、頭から吹き飛んでいた。


以上のことを、目撃者であるフェイから聞いたふたり。もちろん唖然とした。
「すっげえ偶然だよな」
「まあ、結果オーライじゃない」
「これからどうするかな。この調子じゃ、ここにいても無駄なだけだし、帰るか」
「あれ、そういえばたー様はどこに行ったのよ。フェイ、なんか知ってる?」
「ううん。でもキリュウがいなかったから、試練でもやるんじゃない」
「あら、だったらたー様のその勇姿をこのコンパクトで見ちゃおうかしら」
そういいながら、ルーアンはコンパクトをのぞき込んだ。翔子、フェイも同様にのぞき込んだ。
しかし、そこに映っていたのは、太助だけではなかった。
「なんでたー様と一緒にいるのよ。もう、こうなったら」 ふとルーアンは周りを見渡す。
「あの自転車がちょうど良いわね。陽天心しょーらい」
ルーアンは、近くにある自転車に陽天心とかけて、太助のいるところへと向かった。
「あ、待ってよルーアン先生」
「やれやれ。シャオたちがどこに行ったと思ったら、こんなとこでこんなメンバー。一体何をしてたんだろう」
それぞれにいろいろな想いを秘めながら、今ここにいるふたりのことを忘れて、駅前を去っていった。


「なんで野村先輩がここにいるんですか」
「花織ちゃんこそ、ここでなにしているの」
「かんけー無いでしょ、野村先輩には」
「ちょ、関係ないって。あのねえ」
駅前で話している、たかしと愛原。
もちろんこれが太助とシャオの為に用意された手紙の所為ということは知るよしもない。
しかし、手紙を出した相手も分からず、お目当ての相手に出会うことも出来ないせいか、このふたりは気が立っていた。
「だいたいなんで花織ちゃんがここにいるんだよ。俺は、てっきりこの俺の熱き魂が分かる女の子が俺にアタックしにくれたかもしれないと言うのに」
「野村先輩にアタックする人なんて、世界広しといえどもひとりもいないと思いますよ」
「なんだよ、それじゃあ俺が全くもてないみたいじゃないか!」
愛原のその冷たい一言で、たかしはキレた。
「あら、自覚してなかったんですか。あたしは事実をいったまでですよ」
「むっかー。いつも太助にくっついてて、迷惑を掛けている誰かさんに言われる筋合いはないよ」
「なんですかその台詞、聞き捨てなりませんね」
「おっと、つい口がすべってホントのこと言っちまった」
「ホントのことって、それこそ自分を知らないんですよ」
「なんだよ、それは俺に対する当て付けか!」
「どう思ってもらっても結構ですよ〜だ」
・・・こんな感じの口論が延々と30分続いた。 「はあはあ」
「ぜえぜえ」
両者息切れの模様。そして、ふたりは一気に水飲み場へと走っていった。

「ぷはぁ、もうノドがカラカラで死にそうだったよ」
「はあ、あたしもです」
「そうだ花織ちゃんゴメンな、さっきは変なこと言っちゃって」
「良いですよ、別に気にしてませんし。謝るのはこっちの方ですよ」
さっきの熱い口論はどこへ行ったのやら、ふたりはすぐに仲直りした感じだ。
「そうだ、花織りちゃんおなか空いてない?もし良かったら、そこのコンビニで何かおごるけど」
「あ、すみません。じゃあ、甘えさしてもらおうかな」
「でも、一般人の常識の範囲で頼むよ。こっちもあんまり持ち合わせないし」
「分かってますって」
そういいながら、彼らは、駅前を去っていった。

「うわぁ、野村先輩上手ですね、UFOキャッチャー」
「俺を誰だと思ってる。人呼んで『ゲームの覇者、この世に捕れない景品無し』の野村たかし。これくらいは楽勝だぜ」
「ちょっと言い過ぎかもしれないですけど、でも凄いです」
としゃべっている間にも、ボタンを押しながら今日三個目の景品となる、熊のぬいぐるみをゲットしていた。
なぜ、彼らがゲームをしているかというと、その発端はコンビニで起こったのである。

「はい、合計472円になります」
そうレジの人から言われて、たかしは会計を済ませた。
「ねえ、野村先輩、これからゲームセンター行きませんか」
「別に良いけど、なんで」
「だってこのまま帰るとなんか虚しくないですか」
「それもそうだな。よし、一発ぶちかまして、憂さ晴らしするか」
「それじゃあ、了解と言うことで、いざ出発」
というわけで、ふたりはゲームセンターへと向かっていったのだ。

彼らは今、ゲームに夢中になっている。もう、お財布のことすら気にせずに遊びまっくた。
「やったあ、また勝っちゃった♪」
「くそう、このレーシングゲーム難しいよ〜。もう一回頼むよ花織ちゃん」
「これで4回目ですよその台詞」
「俺がおごるからさ」
「それは7回目。でも良いですよ楽しいし」
「よし、次こそは!」
そうしながら、時はたっていった・・・。


「あれ、花織さんとたかしさんですよ」
「ほんとだ、あのふたり何やってんだろう」
日は沈み始め、夕日が綺麗なこの時間、たかしと花織は一緒に何か話しながら帰っていた。 なにやら楽しげな笑い声が聞こえてきていたが。
「さあ、早く帰らないとキリュウたちが待ってるよ」
「ええ、でも」
シャオはそういいながら、太助の手にそっと触れる。
「え、ちょっと、な、なんだよシャオ」
「あのふたりを見ていたら、なんだか・・・」
「そうか、じゃあこのまま帰ろうか」
「はい・・・・・」
ふたりは握った手を離さないようにぎゅっと握りしめ、ほほを赤らめながら、帰り道を歩いていった。


「今日はありがとうございました、野村先輩」
「いや、こっちも楽しめたし、財布の金ぜーんぶおもいっきり使ったしな」
「じゃあ、あさって、学校で」
「おう」
そしてふたりは、自分の家へと向かっていく。

(今日はなんで野村先輩を誘ったんだろう)
愛原は帰り道、ふとそんな疑問を考えた。
(なんか自然に口から出たんだっけ。でも楽しかったからいいや)
そう思いながらも、愛原の頭の中では、たかしの顔が浮かんでは消え、消えては浮かぶというのを繰り返していた。
「もう、なんで野村先輩の顔がうかんでくるのよ!」
自分の言うことを聞かない頭に対して、愛原は怒りをあらわにした。そこにまた、新たな顔が浮かんできた。
「へ、なんでまえの学内公演でジュリエットをした藤崎先輩の顔が浮かんでくるのよ・・・・」
彼女はこの衝動が何を意味しているかを知っていた。
しかし、その事実は彼女の理性が受け付けなかった。
「もう、このバカバカ!なんでこんなに野村先輩のことが気になるのよ!あのひとは、お兄ちゃんみたいなんだからね」
そう必死に自分に呼びかける。
「でも」
そこでふと、今までのことを思い出す。
あれはいつだったか。そう、雨の日に傘を貸してもらったことから始まった。
以来、あの人にあたしの心は奪われた。あの人に夢中になった。
でも、あの人の心は、あたしに向けられていない。あの人の心は、シャオ先輩に向けられていた。
いつだって、そうだった。
それでもあの人のそばにいるだけで良かった。今思うと・・・
ふと、あの言葉が心に引っかかる。
みんなで秋穂温泉に行ったとき、露天風呂に入って、その時の野村先輩の一言。
『花織ちゃんは?』
その時気づいた。あたしはあの人のどこが好きなのか、今の自分は知らないこと。
そして、あの人のそばにはいつも野村先輩がいたこと。
お兄ちゃんみたいな人。確かにそうだと思う。
何かとあたしの世話を焼く野村先輩。いつも優しい野村先輩。
「野村先輩、あたしのことどう思っているのかな」
ふと出たそんな言葉に、おとめっちっくモードは解除された。
「あ〜んもうバカバカバカ。なんでこんなことになるのよ、まったく」
少女は、そんなもうひとりの自分と格闘しながら、帰路へとついた。


 
あとがき


どうも魔棲汰阿です。さていかがだったでしょうか、小説第二弾、「謎の手紙にご注意を」は。
なんでこんなたかし+花織の小説を書いたというと、前回がひどかったからです。
ろくに出番がない人たちがたくさんいました。というわけで、前回出番少なかった人たちに対する「ごめんなさい」という気持ちを込めて書きました。
さて、本文を書いてる時の反省。
ちょっとやりすぎたかな、このふたり。くっつく可能性はかなりだけど、いきなりやりすぎたかな。
あと、最初とかなり雰囲気が違った。
まだまだ未熟な魔棲汰阿ですが、これからもよろしくお願いします!
そしてこの小説を面白いと行言ってくれた方に感謝です。
何かご意見ご感想やお気づきの点が御座いましたらこちらまで連絡お願いします。
これからもばりばり書いていきます。 2003年9月10日