侍の国


山々が連なる高地。
全ての峰と尾根と谷を豊かな森が埋め尽くしている。
 
あの国をサリアと一緒に出てから、どれぐらいたっただろうか?
さすがの俺もこんなに森の中を歩いたら、倒れるぞ。
 
「なぁ、サリア、街はまだなのか?」
 
「え〜と、地図によるともうすぐ着くと思うんですが…」
 
「はぁ・・・そうか」
 

しばらく森の中を進むと、尾根を越え、ここからは下りになっていた。
そして正面の尾根まで雄大なU字谷が広がる。
その中に、城壁に囲まれ、中心に大きな建物がある国が小さく見えた。
 

「綺麗なところですね」
 
サリアが感想を述べる。
まぁ…確かにあの国よりかははるかにそうなんだが…
そんなことより早く休みたい。
 
俺たちは緩やかな斜面を下っていった。
 
 
 
城壁に門がある。
しっかりと閉まった門の前に、長い棒を持っている兵士みたいのが二人。
服装は太いズボン風のものをはき、まるくびで左前にあわせて着るという変な服。
さらに前髪はなく、結髪の前へ折り曲げた変な髪型。
その二人が俺たちを待ち構えるように立っていた。
 
「変な髪型だな…」
 
服はともかく、髪型はどうみたって笑ってしまうくらいおかしい。
人それぞれ趣味が違うし、国の文化もそれぞれ違うことは、わかっている。
でもあの髪型はぜったいおかしい。
 
「そうでしょうか?私は似合っていると思いますけど…もちろんリュウ様にも」
 
……ポケポケのサリアはそう思っていないようだ。
 
「はぁ…まぁ、いい。とりあえず入国するぞ」
 
 
 
「なにやつ!!」
 
門番の兵士に近づいた途端、警戒しているのか長い_を喉元に突きつけられた。
まぁ…見ず知らずの人間を安易にいれたりはしないか。
 
「ただの観光と休養で入国させてほしいだけだ」
 
ゆっくりと手を上げながら冷静に答える。
 
「そうだったか…では通行手形を出せ」
 
……通行手形って何のことだ?
手形…手の形?
とりあえずそんなものは持っていない。
 
「リュウ様、パスポートのことでないでしょうか?」
 
ああ、そうかと頷き、門番の兵士の見せた。
 
「それじゃあ、入国を……」
 
「あいやしばらく、旅の方、少し条件がある」
 
「条件?」
 
「この国ではこの着物を着てもらう」
 
と、渡されたのは彼らの着ている服と同じもの。
 
「…ま、まさか髪型もか?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

街の中は老若男女、問わず人通りが多く、とても賑わっている。
建物は全てコンクリートなどを使わず、木でできている。
そして街の中心には土や木、石などで築きあげた建物がある。
実に古臭い……いや、質素な物ばかりだ。
 
「……はぁ……」
 
ここにきて、何回目の溜め息だろうか。
疲れた……
髪型は許してもらったが、服は着ないといけなかった。
実に不恰好だ…なぜ俺がこんな格好をせねばならんのだ。
 
「リュウ様、とても似合っていますよ」
 
「そ、そうか?」
 
「はい」
 
無邪気な笑顔で頷くサリア。
まぁ…サリアの服はとても綺麗な模様があり、とても似合っている。
だが、俺の服は地味すぎるし、動きづらい。
 

しかし…この国の住人みんな、門番の兵士と同じ格好をしている。
男性はあの髪型にこの服。
女性にはあの髪型ではないものの、変な髪型、そしてサリアと同じような服を着ている。
男性にいたっては、腰に剣までかけている者もいる。
治安が悪いのだろうか
まぁ…剣を持っているのは俺もだが…
とりあえず俺から見たら、みんな変な格好している。
そんな中で俺たちはとても浮いているような気がしてならない。
 
 
 
「これからどうします?」
 
少し街の中を見て回った後、サリアが聞いてきた。
 
「そうだな…とりあえずは今日泊まるホテルでも探そう。
俺は疲れた…早く寝たい」
 
「あっ!!」
 
サリアが急に大きな声を上げる。
 
「ん、どうしたんだ?」
 
「そういえば、あの大きな建物ってなんですか?」
 
サリアが指したのは、もちろんあの建物だ。
 
「さあな、たぶんこの国の王様でも住んでいるんだろう」
 
「そうなんですか…」
 
「そう、だから俺たちとは関係なし、さっさとホテルでも探すぞ」
 
「見に行きましょうよ」
 
「え?どこに?」
 
「あの大きな建物にですよ」
 
「なんで?」
 
「せっかく旅をしているんですから、珍しい物を見て回りましょうよ」
 
…俺にとってはそんなことより今の格好のほうが珍しいんだが……
 
「早く行きましょう」
 
「そんなことよりも……ってサリア」
 
俺の反抗も無視して、サリアは手を掴んで引っ張る。 
 
「…わかったよ」
 
 
 
 
 
 
 

「やっぱり大きいですね」
 
今あの建物のすぐ目の前まできている。
一般人には入れなく、サリアは少し残念がっていたが、
俺にとってもそんなことはどうでもいい。逆に好都合。
 
「さっ、もう見たいんだからホテル探すぞ」
 
 
 
「そこの者」
 
誰かから話しかけられた。
俺とサリアは振り返ると、人通りの少ないところに隠れている人がいた。
それは俺たちと同じくらいの女性だ。
長い髪を後ろに束ねており、顔の整っている。
だが、この国の男性が着ている服を着ており、おまけに剣までかけている。
顔が見えなかったら、男と間違えるかもしれない。
 
「俺たちのことか?」
 
女性は頷く。
 
「なんでしょうか?」
 
サリアは訊ね、女性はゆっくりとこちらに近づいていく。
 
「そなたらは南蛮から着たのか?」
 
…南蛮とはなんだろうか?
どうもこの国では意味のわからない言葉が多い。
 
「たぶん、そうですよ」
 
サリアは南蛮というものを知らないくせにそうだと言い切った。
何を根拠に言っているんだろうか?
 
「そなたたちの名は?」
 
なんなんだ?こいつは…と考えているうちに…
 
「私はサリアと申します、この方はリュウ様です」
 
見知らぬ相手に俺の分まで紹介する。
ま…そういうのが苦手だから丁度良いんだが…
 
「そうか…旅というものは楽しいのか?」
 
「う〜ん…つらいときもありますけど、いろいろなものを見てまわりますので、楽しいと思いますよ」
 
「それでは……」
 
その後、サリアとその謎の女性との旅に関する会話が続いた。
女性の立ち話は長い……正直早くホテル捜して、寝たい。
でもほっとくわけにもいかないし……このまま二人の会話に付き合っていた。
 
 
 

「そなたの話を聞いていると、旅というのは楽しそうだな……
だったら、わらわも一緒に連れて行ってほしいのだ」
 
「はい、良いですよ」
 
……はい?
なんなんだ、こいつは…
というか、サリア即答か…
とりあえずは否定しておかないと。
 
「サリア、いくらなんでもそれは駄目だ」
 
「でも人数多い方が楽しいですよ、ぜったいに」
 
…駄目だ、今のサリアには何を言っても通用しない。
 
「…いや、もういい、それよりおまえは誰だ?」
 
「わらわのことか?」
 
「……あたりまえだろ」
 
「そうか…わらわのことを『おまえ』という人類は初めてだったのでな、すまなかった」
 
人類って……
 
「わらわの名は歌那。
この城に住むものじゃ」
 
と、歌那と名乗る女性はあの大きな建物を指差す。
 
「お姫様なんですか!?」
 
サリアは驚きの声をあげ、歌那は頷く。
 
「そなたは驚かないのか?」
 
そして歌那は俺を見つめ、不思議そうに呟く。
 
「俺たちはこの国に住んでいる人間じゃないからな。
おまえが誰だろうと関係ないし…」
 
まぁ、サリアは驚いていたけど…
 
「そなたは変わっているな…旅人だろうと普通は驚くと思うぞ」
 
…それと俺も歌那と同じようなものだったからな。
 
「ふ〜ん…そうか」
 

「で、そのお姫様がなんでそんな格好をしているんだ?」
 
歌那の格好はどうみてもお姫様とは言えない、男性の格好をしている。
 
「この格好か?
ただの城から逃げ出すための変装だ
爺やがいないうちにこっそり逃げ出してきたのだ」
 
…それだったら、変装する意味はあったのだろうか?
 
「で、俺たちと遭遇か…」
 
歌那はまた頷く。
 
「国の者だとすぐにばれてしまって、城に逆戻りかもしれんのでな」
 
「ふ〜ん、で、なんで逃げ出したんだ?」
 
「正直な話、わらわはこの年になるまで、
一度も城以外のところを歩いたことがないのだ。
いつも見えるのは城から見えるのは風景だった」
 
「箱入り娘ですか…」
 
サリア、そんな言葉一体どこで覚えたんだ?
 
「それでわらわは今回勇気を出し、これを実行してみたんだが…」
 
少し考え込む素振りをする歌那。
 
「この先どうすれば、良いのかわからぬのだ」
 
…こいつも俺と同じ境遇者か…
 
「で、そなたらと遭遇したわけだが、どうなんだ?」
 
「ん?なんのことだ?」
 
「リュウ様、一緒に旅をする話ですよ」
 
サリアの声に、ああ、そうだったなっと俺は頷く。
 
「結論から言うと駄目だ」
 
「な、なぜじゃ!!わらわはあらゆる剣術を身に付けておる。
少なくとも旅の邪魔にはならん!!」
 
歌那は怒鳴りながら言う。
 
「邪魔になる、ならないは関係ないんだ。
おまえはこの国の王女だ。
その王女を俺たちが連れ出したらどうなると思う?」
 
ハッとしたような顔をする歌那。
 
「もうわかっただろう
おまえと連れ出したら、俺たちは王女を誘拐したとして、警備隊に追いかけられる。
俺はごめんだな、そんな生活は…
はっきり言ったら、迷惑だ」
 

少しきつい言い方だが、そうじゃないと――――
 
「そ、そんな…リュウ様、それくらいなら……」
 
歌那は俯いたままだが、サリアは抗議してくる。
他人のことにそんなに真剣になれるところが好きなんだがな…
 
「い、いや、いい、サリア殿、すまなかったな、リュウ殿」
 
俯いていた歌那だったが、震えながら声を出す。
 
「そうか、わかってくれたんなら、嬉しい」
 
「無理な相談をしてすまなかった。
所詮わらわは籠の中の鳥なんだな…」
 
自分の運命を悟ったような言葉だ。
 
「じゃあ、俺たちは明日、この国を出るから」
 
「ああ、そなたたちの無事を祈っているぞ」
 
声は出すものの未だ歌那は俯いている。
 
「自由になりたいんなら、他人に頼らず、自分の手でしろ」
 
「えっ」
 
「じゃあ、サリア、行くぞ」
 
「あ、はい」
 
サリアはまた歌那にペコリと頭を下げる。
 
「ちょっと待つのだ、リュウ殿!!」
 

歌那の声を無視し、前から姿を消した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「リュウ様、本当に良かったんですか?」
 
あれからしばらく街中を歩いたあと、不意にサリアが立ち止まり、話し掛けてきた。
 
「ん?なんのことだ?」
 
俺もサリアの声で立ち止る。
 
「歌那さんのことです。本当は助けたかったんじゃなかったのですか!?」
歌那さんに気持ちを一番理解している人は、リュウ様です。」
 
サリアはまだ怒っているようだ。
 
「相変わらずサリアは俺の心をわかっているようだな」
 
「そ、それはずっと一緒にいますから…」
 
なぜか少し頬を赤くするサリア。
 
「確かにそうだ、あいつと俺は似ている…ただ…」
 
「ただ?」
 
「だからこそ、だよ」
 
「え!それってどういう…」
 
「そんなことより早く今晩泊まるホテルを探すぞ」
 

無理やりサリアの手を引っ張り、歩き出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
次の日…
 
チュンチュン……
窓辺に小鳥の鳴き声が聞こえる。
 
あれからホテルを探すのに、相当疲れた…
街の人、何人、何十人に『ホテルを案内してほしい』と聞いても、
『知らない』、『そんなものはない』と言うだけ。
日が暮れて、ホントにこの国はないのか?と思っていたとき、
サリアが言葉が違うことに気づき、
『泊まれるところ』を聞いたところ、見事ここの『旅館』というところに案内された。
 
その旅館というものも最悪だった。
着いた途端、『松竹梅のどれがいいですか?』と聞かれ、
適当に一番安い『梅』を選んだところ、この部屋…ぼろで汚い部屋に案内された。
風穴が空いていて、寒い!薄嫌い!蜘蛛の巣が張っている!
最悪だ……なぜ、この俺がこんなところで一晩住まないといけないんだ?
どうなっているんだ?この旅館は?この国は?
あとで文句言おう…
 
「リュウ様、おはようございます」
 
「ああ……おは……!!」
 
サリアのいつもの朝の挨拶。
いつもなら俺は軽く、返事を返すが今回は少し違っていた。
その…サリアちょっと見えている……着物の隙間から胸元が…
この国にもちょっとは良いところがあったな。
文句いうのは考え直しておこう。
 
「どうしたんですが?リュウ様、まさかお風邪でも?」
 
寒かったですから、と付け加え、いつもと違う俺に困惑するサリア。
というかサリア気づいてほしい。
 
「な、なんでもない、ちょ、ちょっと朝稽古でもしてくるから……」
 
なんとかこの場から離れた。
 
 
 
 
 

この旅館の誰もいない庭に行き、旅のとき持ってきた護身用の剣を見つめる。
手入れが行き届いたその剣の刀身には、顔が鏡のように映っていた。 
落ち着く……
何故か剣を見つめているときのみが俺の安らぎかもしれない。
剣を腰の鞘に戻し、居合で一振り。
 
シュンッ 
 
空気を切る音が誰もいない庭に響く。 
 
 
 
それから30分ほどして、朝食をとり、出発の準備をした。
この国には『あの場所』の情報はちっともなかったし、もうこの国には用はない。
 
「もう出発するんですか?」
 
俺は短く頷いた。
入ってきた逆側の門へと行った。
その途中サリアが本当に見捨てるんですか?と聞いてきた。
たぶん歌那のことだろう。
なぜサリアはあんなに気にするんだろうか?
 
「ああ、俺たちがしても意味ないし」
 
門へ着くと、門番の兵士がいなく、どうしようかと考えたが、
まずは着ていた着物を脱ぎ、普段着に着替えた。
やはりこっちの方が落ち着く。
 
さて、出発しようとした時
 
「リュウ殿にサリア殿」
 
俺とサリアは振り返ると、人通り少ないところに隠れている人がいた。
……歌那だ。例のごとくまたあの服、さらに大きな荷物まである。
 
「歌那さん、こんなところでどうしたんですか?」
「うむ、またこっそりと抜け出してきたのだ」
 
また脱走か…良くできたものだ。
 
「で、見送りか…もしかしてその荷物は土産か?
だったら、こんなにいらないぞ」
 
くれるんなら、もっと持ち運びに便利な小さくて軽いのが良い。
 
「違う、わらわの着物などだ」
歌那は少しえばりながら、言う。
 
「どうしてですか?」
 
サリアが訊ねる。
 
「わらわも旅をすることにしたのだ」
 
爆弾宣言だった。
 
「ふ〜ん、俺たちの力を頼らずにできるじゃん」
 
「うぬ、そなたらのおかげだ。わらわはいつも待っていた……
だが、もう止めだ。自分の力で自分のやりたいことをすることに決めたのだ」
 
「ふ〜ん、で、どうやって、旅をするんだ」
 
「とりあえずはそなたらの後を着いていく。駄目だといっても着いて行くぞ」
 
歌那は自身満々に言い放った。
なんとも強引なお姫様だ。
これじゃあ、どの道一緒ではないのか…
だがサリアの顔は不安な顔ではなく、笑顔になっている。
俺が良いと言うと決め付けているのか?
……まぁ…別に良いか。
 
「お姫様!!」
 
その時、門番らしき人が驚いた顔で俺たちの前にいた。
さすがにいくら人通りが少ないとはいえ、見つかるか…
 
「どうしてこのようなところに――――」
 
これが門番らしき人の最後の言葉だった。
…俺じゃないぞ。
 
「安心しろ、峰打ちだ」
 
歌那だ……一瞬の動きで俺すらも見失ってしまった。
 
「……ところで歌那、一つだけ聞いておく。」
 
「なんだ?」
 
血のついた剣を拭き、鞘に戻しながら答えた。
……何か矛盾が生じるが無視しておこう。
 
「……この国には未練はないんだな?」
 
歌那は少し考え、それからはっきりと言った。
 
「無論だ」
 
「そうか、じゃあ、そろそろ出発するか」
 
門をくぐり、緑に囲まれ、中心に大きな建物がある国を後にした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

あとがきと呼ばれるもの
 
いつもここで何を書こうか迷う。
適当に数学の問題でも出しておこうか?
正解者には5名様までXXXをプレゼント!!
学校の先生に聞くのは反則。自力で解こう。
見直しも十分しておこう。
宛先はOOO@XXXXまでにしておこう。
締め切りは2025年13月ぐらいまで。
(株式会社XXコーポレーション・2034年入社試験より抜粋したのかも)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

それでは、また次回お会いしましょう!!