肝試し


夏。
日が昇っている時は暑い。
しかし夜はまた姿を変える。
 
普段は夜の空に輝くはずの月すらも今は雲によって覆い隠されている。
光という存在を疑ってしまうような 闇だ。 
 
何か嫌な予感がする。
 
そう彼らに感じさせた。
 

既に時間は夕刻を過ぎてしまったころ、剣を腰に構えた、15歳ぐらいの青年リュウ。
黄色いの髪をした少しポケポケとしたサリア。
リュウ同様腰に剣を構えているいるが、
中性的な美形の女性の歌那の三人は小さな村に訪れた。
 
「誰もいないですね…」
 
落ちている枯れ木に火をつけ、明かりを照らし、サリアがポツリと呟いた。
 
村には活気がない…いや、それ以前に人の気配がしない。
本当にここは村なのかとさえ感じられるほどだ。
 
「ゴーストタウンか……だったら、用はないな」
 
これ以上こんなのを見たくない。
そう思ったリュウの言葉だったが。
 
「待て…何か妙な気配を感じる……多分人ではない」
 
歌那の疑問にリュウの考えも揺らぐ。
 
(こんな真っ暗なところで人でないものって…まさか…)
 
そう考えていたリュウだったが、慌てて頭を振り、否定した。
 
「人ではないって……魔物でも住み着いているのか?この村は」
 
「リュウ様、ここでは魔物ではなく、幽r「それを言うな!!」……はい」
 
「もしかして怖いのか?幽れ「違うっ!!」
 
リュウの慌てようは、初めて会った人にもわかるぐらい怖がっている。
それをサリアと歌那は面白がって見ていた。
 
((怖がっているリュウ様(殿)もかわいい))
 

「どのみちこの村はおかしい。少し調べてみるぞ」
 
そう提案した歌那にサリアはすぐに同意した。
だが、リュウはあたりまえのように首を横に振る。
 
「リュウ様、肝試しと思ったら、楽ですよ」
 
「なおさら嫌だ」
 
「リュウ殿、ここは覚悟せよ、そなたは男であろう?」
 
「……………」
 
「……どうして、ここで黙るのだ?」
 
「……いや、なんとなく」
 

ポトン
 
「ひぃっ!!」
 

どこかで水しずくが落ちる音が聞こえた。
そしてそれと同時にリュウの情けない叫び声。
 
「リュウ様は本当に怖いんですね、幽r「怖くない!!」 

 
「とりあえず行くぞ」
 
歌那は音がした方へと向かった。
それに遅れて、サリアがリュウの手をひいて歩き出した。
または引きずってとも言う。
 

歌那がふと空を見上げると、
さっきまで雲で隠れていた月は、薄らと顔を出していた。
 

しばらく進むと広大な広場を見つけた。
木々や芝生は伸び放題で、池の水は干からび、花壇の花は全て枯れていた。
 
「あの水の音はどこから…?」
 
歌那は呟きながら、歩いていると、それを見た。
 
墓だった。
 
芝生の緑の中に、簡単に土を盛り、薄い木の板を一本だけ立てた簡単な墓。
そして墓は視界一杯に広がる広場を、文字通り埋め尽くすように並んでいた。
 
「……なぁ、マジで帰ろう…お願いだから」
 
「何を言っておるのだ、リュウ殿。
この状況こそわらわの血が騒ぐのだ」
 
ふふふっと無気味な笑い声を上げる歌那。
 
「どんな状きょ…………」
 
話していたリュウは歌那の背後を見て絶句した。
墓の前に赤い着物を来た女性が座り込んでいたのだ。
 
「どうしたのですか?」
 
サリアも歌那もそれに気づいていない。
 
「……………」
 
だが、肝心のリュウは恐怖のあまりか声が出せないでいる。
 
女はリュウの方をちらりと見た。
そして薄く笑った。
 
「ひぃぃぃぃぃっ!!ごめんなさいこめんなさいごめんなさい!!」
 
何かに誤りながら、リュウは二人を引きずって、猛スピードで走り去った。
 
 
 
「リュウ様、どうかなされたんですか?」
 
引きずられたにもかかわらず、けろりとしているサリアと歌那。
だが、リュウはぜえぜえ言っていて、答える余裕がなかった。
 
「大方幽霊でも見たのであろう…で、どんな姿をしていたのだ?」
 
「……あ、赤い着物を着た女性……」
 
ぜえぜえいいながらも、どうにか声を絞り出した。
 
「ほう…赤い着物の女性か…
そういえば、わらわの国でそのような話があったな…
寺子屋で夜遅く遊んでいた子供の前に不意に現れ、なにしているんだ?と聞くと…」
 
「こんな場所で言うな!!」
 
「う、こういう場所で言ってこそ肝が冷えるんだぞ」
 
「とっくに冷えている!!だから、とっとと村を出るぞ!!
サリアももう怖いだろ!?」
 
「いえ、私は全然♪」
 
速攻で返された。しかも笑みを浮かべながら。
 
「そういうことだ。だから行くぞ」
 
その後彼らはさらに奥へと進んだ。
もちろんリュウを引きずって。
 
 
 
 
 

彼らが公園に辿り着くと、ブランコに座っている女性を発見した。
 
黄金色の髪をセミロングに切り揃え、
白のタートルネックセーターに紫のロングスカートに身を包んだ女性
………真祖の姫………
 
「ひぃっ、ご、ごめんなさい!!」
 
「にゃ?」
 
……というか、化け猫。
 
 
 
 
 

焚き火の明かりだけが頼りの暗い道端でそれが落ちていた。
人の頭ぐらいの大きさがある。
後頭部にぽっかりとこぶし大の穴が開いていた。
中には…オレンジ色の謎の物体。
 
「ごごんめんいごいな」
 
もはや言葉になっていない。
 
「……ジャムですね」
 
「まぁ……たしかにある意味怖いが……」
 
 
 
 
 
その後、一件の店に辿り着いた。
 
「妙だな」
 
歌那が店に見つめながら、ポツリと呟く。
 
「この店だけ明かりがついている…妙だと思わないか?リュウ殿」
 
「いや、思わないから、早くこの村を出るぞ」
 
「リュウ様、ここは諦めて、入りましょう。
リュウ様は怖くて眠れないかもしれませんが、私たちは気になって、眠れませんので」
 
「じゃあ、おまえらだけで行けよ」
 
「では、リュウ殿はこの暗い夜道で一人で待っているのだぞ」
 
と、言い残し、歌那とサリアは店に中に入っていった。
 
「………やっぱり入る」
 
 
 
店の中にそれはたくさん並べられていた。
 
「………これはパンですか?」
 

「私のパンは幽霊なんですねー!!!」
 
「俺は好きだぞーー!!」
 
ダダダダダダ、駆け抜けていく女性。
そしてパンを口に押し込むとそれを追っかけていくオッサン。
 

「……あれはなんなのだ?」
 
「さぁ?でも今回はリュウ様、悲鳴を上げなかったですね」
 
「さすがに怖くはないだろう、な、リュウ殿」
 
「……………」
 
彼は立ったままで返事もない。
 
サリアが心配になり、リュウの顔を覗いてみると
 
「………気絶しています」
 
「今さっきの何が怖かったのだ!?」
 
 
 
 
 
「すまぬ、まさかこれほど幽霊が怖いとは……」
 
歌那は気絶した……いや、真っ白になり、
サリアに膝枕してもらっているリュウに向かった言った。
よって本人は聞いているのかさえわからない。
 
「あの〜歌那さん
実はですね、リュウ様は別に幽霊が怖いわけではないんですよ」
 
「ぬ?どういうことだ?」
 
さっきまでのリュウの様子でならば、どう見たって幽霊を怖がっている。
そうとしか見えないからだ。
 
「リュウ様が怖いのは、家庭教師の方でして……
その家庭教師にリュウ様はよくおもちゃに…いえ、体術などを教わられていたのです」
 
歌那にはサリアが言おうとしていることがわからなかった。
その家庭教師と幽霊どう関係があるのだろうか?
 
「家庭教師と幽霊、どう関係があると言うのだ?」
 
「それは七年前の話です」
 
サリアはコホンとせきをして、ゆっくりと語り始めた。
 
 
 
 
 
 
 
『さっ、今日は50キロの重りをつけて、このプールを10キロを泳ぐのよ。
もちろんワニも出現するから死なないように』
 
雪の降りそうな寒空で眼鏡をかけて、女性が鞭の持ちながら言った。
そして水着姿の当時8歳リュウ。
 
『いや、絶対単位間違っていますよね!?』
 
リュウは当然のように却下する。
 
だが、女性の眼鏡がギロリと光る。
それは全てのものをその場に凍りつくようだった。 
 

『私はあなたの両親に頼まれて、あんたのためにやっているのよ!!
さっ、泳ぎなさい!!』
 
『いや、絶対無理……死にます!!』
 
また女性の眼鏡がギロリと光る。
次は一瞥しただけで世界も縮こまりそうな威圧感を放っていた。
 
『しかたがないわね……じゃあ、あんたたち逝きなさい』
 
『あんたたちって、今俺と先生しかいないんですが……』
 
女性は誰もいないはずのペンチに向けて話している。
だが、それはリュウにもわかった。
 
(何かいる!?いないはずの何かが!?)
 
『さぁ、あんたたち!!
そこにいる少年に取り憑きなさい!!』
 
『ひぃぃぃっっーーー!!!!』
 
 
 
 
 

「その後リュウ様は何かの取り憑かれたように、文句を言わずに泳ぎ続けたのです」
 
「いや、それは実際に取り憑かれていたんだと思う」
 
「後から聞いた話なんですが、その家庭教師はよく幽霊を操って、
リュウ様をいじめ……いえ、拷問……いえ、やっぱり教わらせていたようです。
それ以来リュウ様はそのお友達の名前を聞くだけで気絶してしまい、
幽霊を見ただけでも、その家庭教師を思い出して、逃げ出してしまうんですよ。
ちなみに今話したのはちょっとだけですよ。
あと647話ありますが、聞きますか?」
 
なぜだかとても熱く語るサリア。
歌那はそれを丁重に断った。
そしてようやく理解した。
リュウが幽霊に対して誤っている理由。
それは幽霊にではなく、そのお友達に対して、詫びていたのだ。
そしてそれと同時にリュウを同情した。
 
(本当にすまなかった!!)
 
「サリア殿…もうそろそろ帰るか?」
 
「はい、リュウ様のこの調子ですし…」
 
いまだサリアの膝の上で気絶している。
 
 
 

「いや〜どうでしたか?旅人さん、我がお化け屋敷村は?」
 
村の出口の前で壮年の男がそう言って、笑顔で握手を求めてきた。
 
「ふふ…やはりそうでしたか」
 
「まったくだ。わらわももしやと思っていたがまさか本当だったとは」
 
サリアと歌那はそれを当然のように受け止める。
 
「気づいたおられましたか」
 
男はハッハッハと笑いながら言った。
 
「我が村は夜真っ暗になるのを利用して、村全体をお化け屋敷にして、旅人さんを驚かすのですよ。
あなたたちで792人目です」
 
熱く語る村の男。
サリアと歌那はいまだ気絶しているリュウを見つめ、微笑んだ。
 
「ところでアンケートをとりたいんですが、何が一番怖かったですか?」
 
「う〜ん…そうですね…やはりお墓にいた赤い着物の女性ですね」
 
「うぬ、わらわもだ、まさかわらわの国の幽霊が出るとは思いもしなかったぞ」
 
実は見ていた二人。
あのときはちっとも怖そうな顔をしていなかったが……
 
「赤い着物の女性?そんなお化けいましたけ?」
 
「えっ!?」
 
 
 
 
 
あとがきと呼ばれる物
 
とりあえず暑中見舞いSSだったので……
ただそれだけです。
もう体育大会も終わり、学園祭も終わり、もうすぐテストという方が多いのでは?
 
 
それでは!!