正義の使命


我々五十人の戦士はようやくここまで辿り着いた。
そう、我らの故郷にだ。
我々の国は森に囲まれた小さな国。
だが気候に恵まれ、食物が良く育ち、晴れの時は農業、雨のときは読書。
国中の誰もが何一つ不自由なく、のんびりと暮らしていた。
そして何時の日か我々はその地を母なる大地、聖地と呼んだ。
 
 
 
――だが、それは十年前までだ――
 
 
 
あるとき馬に乗った男達の集団が来た。
七十人ほどの集団だ。
彼らは自分達は盗賊をしていると言い、勝手に家畜と食べ、作物を荒らし、
ついには止めに入った同士を虐殺した。
そのときの我らには抵抗する力はなく、恐怖に震える我らはどうすることもできない。
国から追い出されることを余儀なくされ、悪の盗賊は我らの聖地をアジトとした。
 
 
 
それ以来我々は聖地を奪還するため、作戦を練った。
 
 
 
当時幼かった我は必死で剣の修行をした。
朝日とともに起き、腕立て千回、素振り一万回等。
食事は立派な体を作るため栄養バランスに気をつけ、必要な分のみ摂取した。
その後は剣術を習った。
あらゆる戦法、技もだ。
血を吐くまで夜遅くまで特訓した。
今やどんな兵にも負ける気はしない。
 
 
 
そしてついにこの日が来た。
我々選ばれた五十人の戦士が悪しく盗賊から聖地を奪還する日が……
 
 
 
「おいっ!!コムイ!!ちゃんと聴いていたかっ!?」
 
「……ああ」
 
リーダー、そして親友のカージが我の名を言う。
思わず頷いてしまったがまるっきり聴いていない。
 
「おまえ…相変わらず嘘をつくのが下手だな。バレバレだぞ。
仕方がないもう一度言うぞ」
 
四十九人の戦士からドッと笑みがこぼれた。
どうやら我は嘘をつくのが苦手らしい。
そしてその笑みも途端に緊張感ある顔つきに変わる。
 
「盗賊は聖なる搭をアジトにしている。
深夜三時に突撃を開始する。
まず俺を含めて三十四人は正門から一気に攻め込む。ここまでは話したな。
残りの十五人は十人と五人のグループに分かれて裏口から攻めてくれ。
リーダーはカレイとシャークだ」
 
「え〜俺じゃないんっすか?」
 
「あたりまえだ、ザイ。
おまえは実力はあるが注意力というのに欠けている。
リーダーとして不向きだ。
その点カレイにはいざというときの勇気がある。
シャークには皆をまとめることも出来、そのうえ知能もある。
ザイ、おまえはカレイと共に行動しろ」
 
ちっとザイから舌打ちが聞こえる。
いつも思うのだがザイは戦士として小さすぎる。
剣術の修行ばかりで我のような体作りを怠っていたのだろう。
 
「そして、コムイ。
おまえには単独行動を取ってもらう。
おまえは国一の最強の戦士だ。
自分の思うままに戦ってくれ!!
作戦は以上だ!!我らは正義の戦士!!必ず勝つ!!」
 
「おう!!」
 
我ら五十人の戦士の緊張感ある声が響いた。
 
 
 
 
 
深夜三時……彼らは同時に作戦を開始した。
 
 
 

盗賊は町のあちこちで寝ていた。
宴でもしていたのだろうか。
酒の残りなどが転がっている。
まさか元町の住民が復讐しに来ているとは思いもよらない。
 
そんななか起きている盗賊がいた。
三人だけだ。
でも酒を飲んでいて完全に酔っている。
 
するとその中の一人の胸から刃物が出ていた。
刃物には赤い液体がついている。
もう一人の盗賊は何が起ったのかわからなかった。
気づいたころには首が地面に落ちていた。
もう一人の男は大声で叫んだ。
 
「てっ、敵襲だぁ!!」
 
それが彼の最後の言葉だった。
 
 
 
 
 
 
 
盗賊は搭をアジトの総本部としていた。
敵襲の心配も少なく、搭自体が頑丈で並の爆弾程度ならビクともしないからだ。
裏口から入っていた十五人は正面で他の戦士のおかげで誰にも見つからず搭の前まで来れた。
たぶん大半の勢力は他の戦士の方にやっているだろう。
だが、総本部の搭となれば、話は別だ。
搭の周りには見張りが八人立っていた。
 
 
 
「おい、カレイ」
 
五人の戦士のリーダー、シャークが言い、十人の戦士のリーダーカレイは彼の方を向く。
 
「俺たちが囮をやる。
おまえらはそのうちに搭の中へ行け」
 
「なぜおまえが…別に俺たちでも良いだろ」
 
「バカヤロウ、ここは俺の言うことを訊いておけ」
 
シャークの強気の発言にカレイは無言のまま頷いた。
 

「良し、ゴンザ、行け」
 

「うおおおぉぉっ!!」
 
 
ゴンザと呼ばれた戦士は普通の人間の二倍大きい。
とてつもなく巨大だ。
シャークの命令でゴンザは吼えながら走り出し、見張りへと突っ込んでいく。
 
見張りの盗賊がゴンザの唸り声で一瞬びびってしまい反応が遅れた。
盗賊を片手で持ち上げ、人形のように投げ捨てる。
 

「荒っぽい作戦だな……ゴンザは大丈夫なのか?」
 
「ゴンザは戦士一のバカ力だ……このくらい大丈夫だ。
それよりもカレイ、俺たちが行ったらすぐに行けよ」
 
カレイは頷く。
 
「良し!!いっせいに掛かれ!!」
 
「おう!!」
 
シャークたちはいっせいに突撃し、カレイたちはその混雑の中、搭の中に進入した。
 
 
 

「おらおらぁ〜!!どけどけぇ〜!!」
 
ザイが迅く、身軽な動きで盗賊たちを斬っていく。
 
さすがに内部の盗賊も外の騒ぎに気づいたんだろう。
内部にはばっちり目を覚ませ、武装している盗賊だらけ。
だがそれでもザイのスピードには意味がなかった。
盗賊たちがうめき声を上げて倒れていく。
 
「ふふ…俺が小さいからってなめるなよ。クソ盗賊どもが!」
 
ザイは盗賊を蹴散らしながら奥に突撃していった。
 
「俺の見せ場が……」 
 
やや落ち込み気味のカレイもザイの後を追って奥へと進んだ。 
 
 
 
 
 
 
 

我が一足早く搭の最上階へ辿り着いた。
そこにはひときわ大きな斧を持った頭領らしき人物がいた。
 
「おまえが頭領か?」
 
「そうだ。で、おめぇらは何者だぁ?
いきなり俺たちのアジトを襲おうとする馬鹿は」
 
どうやら盗賊どもは我々が何者か気づいていないらしい。
それもそうか……十年は長すぎた。
 
「俺たちのアジト?
……笑止!!この地は元々我らの聖地、還してもらうぞ!!」
 
「へっ、おめぇらはあのヘナチョコの住民か!!
馬鹿が、おめぇらなんかが俺たちに勝てるわけねぇだろ!!
死ねぇー!!」
 
頭領は気合と共に大きな斧を頭上から我に向かって振り下ろす。
スキがありすぎる攻撃だ。だが我は――
 
ガギィィィッ 
 
刃と刃が交わる音が響く。 
頭領は確実に殺ったと思っているだろう。 
 
「ば、馬鹿な!!」 
 
頭領は驚きの声を上げる。
両手持ちの武器を我によって片手で受け止められたからだ。
 
「ふ、この程度の力か……弱すぎるぞ!!」
 
そのまま剣で斧を弾き返す。 
弾かれるように後方に体勢を崩す頭領。
 
「このまま一気に決めさせてもらうぞ!!」
 
勝利を確信し、止めを刺しに行った。
 
だが、頭領の不適の笑み……気づくのが遅かった。
 
「ひゃははは、右腕は貰うぞ!!」
 
頭領が隠し持っていた小型の剣。
我の剣よりも速い。
――だが――
 
「バカめ……貴様程度の力で我の体に傷が付けられるとでも思うか?」
 
我の右腕を刺したはずの頭領が持っていた小型の剣はパキンッと音をたて割れた。
これが日々このときのために訓練してきた我との差だ。
 
「ひぃ……ば、化け物」
 
先ほどまで傲慢だったが途端に脅え始めて、十歩下がる。
 
「く、来るな!!」
 
ついに後がなくなった頭領。
こんなやつのために訓練してきたと思うととてつもなく不快だ。
 
「安心しろ……我は正義。
落ちこぼれた悪にも慈悲はある」
 
へっと安心した顔になる頭領。
 
「せめて苦しまぬように葬ってやる」
 
喉元を一気に突き刺した―――
 
 
 
 
 
 
 
「終わったか?」
 
カージの声。
我は頷いた。
 
「終わってみればあっけなかったな」
 
「ああ」
 
「せめて墓でも作ってやるか」
 
「ああ」
 
「ま、どちらにせよ、これからは俺たちの始まりだな。
まずは町を清掃しないと…
みんなを呼び戻すのはだいたい一週間後ぐらい先だな」
 
「ああ」
 
これまでの十年間が今終わった気がした。
だが、これからが始まりだ。
 
 
 
 
 
 
 
四日後、若い男性一人と女性二人が我らの聖地に訪れた。
普通の旅人かと思ったが、ここは前まで盗賊のアジトだった場所。
こんなところに来る旅人はまずいない。
来るとしたら盗賊の仲間。
我々はそう判断した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

あとがきと呼ばれる物
 
ついに六話まで来ましたね。(中途半端な数字だなぁ)
これもそれも皆様のおかげだと思っています。(書いているのはオレだが)
もしよろしければ感想お願いします。(というか書け)
それではまた次回お会いしましょう。(何ヵ月後だろうな?)