FightRPG Dat.12「思い出して。絆と温もり」
 
突如祭壇の奥から現れた不死身の怪物。
 
数々の資料を参考にすると、洋館を設計したトレヴァー一家の娘、リサ=トレヴァー本人であることは間違いないと、一行は確信していた。
 
 
T−ウィルスの元祖として発見された『始祖ウィルス』・・・。彼女は三十数年間という月日の中、
 
数多の実験の中で様々なウィルスを投与され、結果あのような人として変わり果てた怪物と化してしまった。
 
バ「チッ、話は後だ!ジル、銃を返してくれ!!」
 
バリーがシルバーサーペントを受け取るために、ジルの方へ手を伸ばす。だが・・・
 
 
正直ジルは迷っていた。再びバリーに銃を渡して大丈夫なのだろうか?
 
自分達を裏切ろうとしていたバリーに銃を返して・・・それからどうなる?
 
今までのバリーなら有無を言わさず、異形の姿となったリサと戦う道を選んでくれるだろう。
 
でも今は・・・。
 
迷っている暇はない。だが、もし・・・。そんな思いが彼女の頭の中を行ったり来たりする。
 
そんな時!
 
い「何やってるんですか、ジルさん!バリーさんに銃を!!」
 
ジ「え・・・?」
 
れ「例えバリーさんが裏切ろうとしていたとしても、それは絶対何か訳があるんです!今まで私達の事を必死になって守ってくれたバリーさんを、もう一度信じてあげて下さいっ!!」
 
ジ「・・・っあ〜〜もぅ!!」
 
納得がいかないと行った表情を浮かべつつも、ジルはシルバーサーペントをバリーに明け渡す。
 
バ「すまねぇ、ジル!!」
 
受け取るなり、素早くシルバーサーペントを構えるバリー。だが、この間にもリサは既に攻撃態勢に移っていた!
 
祭壇奥から勢いよくジャンプし、バリーの目の前に着地する。そして・・・
 
ふぉっ・・・がっ!!
 
リサの両腕にはめられた手錠が、痛々しくバリーの脳天に響く。その直後、衝撃でよろめいたバリーはそのまま足をすべらせ・・・
 
バ「う、うわぁぁぁぁぁっ!!!!」
 
祭壇の隅から今まさに落下しようとしていたバリー!!だが、
 
がしっ!!
 
落下が途中で止まった。バリーがおそるおそる目を開いたその視線の先には・・・
 
ミイ「・・・っ、大・・丈夫ですか?バリーさん・・・。」
 
ギリギリのところでバリーの落下をくい止めたミュウイチゴ。だが、いくら変身しているとしても、80kg近くあるバリーの体重を彼女一人で支えきれるはずがない。
 
ずるずると指が足場からずれ落ちていく・・・。
 
ミイ「・・っ、く。横・・島さん、お願い・・・引き上げて!!」
 
横「わ、分かった!美神さん、ちょっと時間稼ぎ頼みます!!」
 
令「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!こんな奴私一人で足止めしろっての?!」
 
言ってるわりにはきっかり応戦体制に入っている美神。さすがMs.非常識。
 
 
横「いくぞ・・・せぇのっ!!!」
 
側にあった石像と、彼女の身体とをロープで結び、そのまま石像を勢いよく落とした!
 
ジャラジャラジャラ!!
 
連続する鎖の音と共に、鎖の端が石棺から外れ、それと同時にミュウイチゴとバリーが引き上げられる。
 
二人が足場に引き上げられたのを確認した瞬間、横島は彼女と石像を結ぶロープを手持ちのナイフで叩き斬った!!
 
ずばっ!!
 
鈍い音と共に、ロープは切断されて石像だけが奈落の底へと落下していく。
 
しばらく呼吸を整え、再びリサの方へと向き直るミュウイチゴ。
 
ミイ「止めて、リサ!!あたし達はあなたと戦いたくないのっ!」
 
ミュウイチゴの悲痛の叫びも空しく、理性を失ったリサの心に届くことはなかった。
 
 
ジ「どう考えても・・・私達の言い分は聞いてくれそうにもないけどね。」
 
バ「俺も同感だ。」
 
ミイ「・・・っ!」
 
現実的な意見を述べるバリーとジル。一方のミュウイチゴは、それでも諦めることなくリサに問いかける。
 
ミイ「教えて!!あなたは何故生きるの?!そんな姿になってまで、何を望むの?!!」
 
やはりダメか・・・。再び思い始めたその時!
 
 
???『アイタイ・・・オ母サンニ、アイタイ・・・。』
 
 
ミイ「・・・?!」
 
突如彼女の心に直接響く声が聞こえてきた。声の色調・・・雰囲気、それは紛れもない彼女からの想いだった。
 
???『オ母サンハ・・・ドコ?オ父サン・・・ドコナノ?私ヲ置イテカナイデ・・・!』
 
それは、悲痛の叫びのようにも聞こえた。三十数年という時の中、身体は成人女性並まで大きくなっているものの、精神・・・つまり心そのものは拉致された当時のままなのだ。
 
ミュウイチゴの心に、リサから放たれる深い悲しみ、孤独感、全ての感情が注ぎ込まれる。
 
 
それは・・・深い闇のようだった。まるで真っ暗闇のだだっ広い部屋の中に一人閉じ込められたような、そんな怖さに似ていた。
 
彼女はウィルスを投与され、母親から隔離されてからずっとこんな闇の中で生き続けてきたというのか・・・。
 
泣き出したいくらいだった。しかし、今のミュウイチゴにはそれは出来ない。
 
いや、むしろ悲しみよりも怒りの方が強かった。何故こんな罪もない女の子がこんな目に遭わなければならないのか・・・?
 
何故こんな惨いことが平気で出来る輩が、生き物を好き勝手にいじくり回しているのか。
 
 
ミュウイチゴにもようやく理解できた。ジルの生きようとする力の原動力を・・・。
 
多くの仲間達が怪物達に襲われ、安息の眠りを奪われ、生ける屍へと駆り立てられ、人ではない物として2度目の死を与えられる・・・。
 
 
これほど人を侮辱する行為があるものか。
 
 
今、ミュウイチゴ・・・いや、桃宮いちごが、奮い立った!!
 
ミイ「リサ・・・今のあたしにはあなたを倒すことは出来ない。あなたが望む永遠の安息は与えられないけど・・・せめて!!」
 
体中からわき上がる衝動を抑え、ストロベルベルを構える。
 
見る見るうちにエネルギーがチャージされ、ストロベルベルが光り輝いていく!
 
 
令「ストロベリーサプライズ?!いくら浄化作用があるといっても長い間ウィルスを投与され続けた身体からウィルスを取り除けるの!?」
 
ミイ「それを今からやるんです!どのみち、これしか彼女を本当の意味で救うてだてはありませんっ!!」
 
大きく振りかぶり、狙いをリサ一人へと絞る!そして
 
ミイ「リボーンッ・ストロベリーサプラァァァァイズッ!!!!!!!!」
 
ストロベルベルから淡い光が放たれ、リサを包み込む!
 
リサ(以下リ)『Kyaaaaaaaa!!!』
 
聖なる光に悶え苦しむリサ。だが、それでもミュウイチゴの攻撃は緩まない!
 
 
ミイ「あと少し・・・あと少し!!」
 
横「見ろ!・・・肌の色が!!」
 
次第に肌が元の肌色へと戻っていく・・・。そして、
 
 
ばしゅうっ!!
 
 
双方が眩いほどの閃光を放ち、その場に崩れ落ちる。特にミュウイチゴに関してはエネルギーを消費しすぎたため、変身状態が維持できなくなってきている。
 
 
一方のリサは・・・。
 
リ「・・・・・・。」
 
完全に、とまではいかないが、ほぼ元の姿へと戻っていた!
 
ミレ「・・・戻ってる。・・ミュウイチゴ、成功ですよっ!!」
 
ミイ「う・・うん。」
 
安堵の表情を浮かべる一行。そして・・・
 
 
しゅうん...
 
 
ミュウイチゴはついに変身が解けてしまった。
 
だが、元の姿に戻ったいちごは、立つのもやっとの体にムチを打ち、ふらふらとよろめきながらリサの元へと歩み寄る。
 
そして・・・
 
 
ぎゅっ・・・
 
力強く、それでいて優しくリサを抱きしめた。その彼女の頬には、うっすらと涙が・・・。
 
い「ごめんね・・・ごめんね・・・。あたしには、これが精一杯だったみたい・・・。」
 
己の無力さに悔しさが滲み、涙がぽろぽろと落ちる。自分は一人の少女の運命すら元に戻せないのか・・・。そう思うと自分が情けなくて仕方なかった。
 
令「いちごちゃんのせいじゃないわよ・・・。あなたはよくやったわよ。未知のウィルス相手に、ここまで出来る女の子ってそうはいないわよ。だから・・・」
 
さすがの美神も、それ以上の言葉は出てこなかった。彼女にも分かるのだ、今いちごがどんな気持ちで泣いているかが・・・。
 
 
い「寂しかったでしょう・・・?怖かったでしょう・・・?もう大丈夫、あなたはもう一人じゃないから・・・」
 
れ「いちごさん・・・。」
 
れたすの目にも涙が浮かぶ・・・。一方・・・
 
バ「・・・さっきから気になってたんだが、この石棺の中身はいったい何なんだ?」
 
ジ「周りの石像を落とせば開きそうね・・・手空きは手伝って。」
 
ジル・バリーの手伝いとして、かり出される横島とおキヌ。
 
 
い「大丈夫だよ・・・もうすぐ、お母さんに会えるからね・・・。」
 
れ「お母さん?!」
 
い「あたしには分かるの。リサはあたし達を殺そうとしたんじゃない。この石棺を守ろうとしてたのよ。」
 
令「・・・微かだけど、強い意志が眠っていた痕跡があるわ。いちごちゃんの読みは当たってるかも?」
 
 
ジャラジャラジャラ!!
 
 
ジル達の手によって、残りの石像がすべて落とされ、仕掛けが作動する。
 
 
ごごごごごごっ・・・・・
 
 
リサの出現と共に塞がれた通路、堅く封印されていた石棺のふたがほぼ同時に開いた。
 
リ「・・マ・・マ・・・」
 
やはり若干ウィルスの影響が残っているせいか、声がしゃがれている。それでも、リサは力一杯母を呼ぶ。
 
い「あなたのお母さんは・・・もう・・・。あたしはあなたのお母さんには敵わないけど・・・せめて、忘れかけていたこの温もりを思い出して。」
 
 
とくん・・・とくん・・・とくん・・・
 
 
いちごの体を通してリサへと伝わる熱き心臓(こころ)の拍動・・・。それと同時に、リサの表情もだんだんと穏やかなものへとなっていった。
 
ジ「さ、いちご。それ以上リサに触れてると、あなたまで感染するわよ・・・。」
 
い「・・・・・もうちょっと。もうちょっとだけ、このままで・・いさせてください・・・。」
 
ジ「あなたって子は・・・。」
 
本当は分かっていた・・・。もうこれが限界だと。無力な自分にはこの程度しかできない・・・。
 
でも、彼女の心に宿る優しさが、それを認めようとはしなかった。
 
 
令「さ、いちごちゃん、いくわよ。・・・その子は、母親と一緒に眠らせてあげましょう。」
 
い「・・・・・はい。」
 
美神の言葉に涙を拭い、リサから離れたいちご。ずっと涙を流していたせいか、頬がやや赤い。
 
横島とバリーの協力によって、リサの遺体(?)は母親の眠る棺の中へと納められた。
 
30数年ぶりの母子の再会・・・。しかし、その再会の仕方は非常に悲劇的なものとなった・・・。
 
 
バ「とりあえず俺はここを確保しておく。また腐った奴らが襲ってこられたらたまらないからな。ジル達はこのまま進んでくれ。」
 
ジ「わかったわ。・・・気を付けてね。」
 
バ「ああ・・・。それと嬢ちゃん。」
 
い「はい・・・?」
 
バ「助けてくれてありがとうな・・・借りはいつか必ず返すぜ。それと、格好良かったぞ・・・。」
 
い「・・・ありがとう・・・ございます。」
 
再びいちごの瞳に涙がにじむ。何故だか分からないが、泣かずにはいられなかった・・・。
 
バリーに深々とお辞儀をし、通路奥のエレベーターへと向かういちご達。その時・・・!
 
 
???『アリガトウ・・・オネエチャン。ガンバッテ・・・』
 
 
い「!!!!!!」
 
突如頭の中で誰かが話しかけてきたように思え、再び後ろを振り向くいちご。
 
だが、後ろにはバリー以外誰もいない。無論誰も話しかけてはいない・・・。
 
もしかして・・・・ひょっとしたら!!
 
 
い(・・・おやすみ、リサ。天国でパパとママと仲良く暮らしてね。)
 
新たな決意の元、洋館奥の研究所へと向かう一行。
 
いちごの瞳には、もはや涙はなかった・・・。
 
 
続く
 
あとがき
 
どうでしたでしょうか?
 
本当はリサは谷底に落ちるか落とされるかで終わるのですが、
 
僕的にはそれはハッピーエンドではないので、今回いちごに出張って貰いました。
 
次回はいよいよヤツが・・・!!