第12話「ストーカーはいけません」
・・・・・・
暗い・・・。一体ここはどこだ?・・・何も見えない。
・・・ほんとに俺は、俺なのか??
体が重い・・・。な、何だろ・・・?胸が苦しい・・・。
・・・・・・
「はっ!!?」
起きてみると太助はベットの中だった。そして彼の胸の上には・・・
「ジャン!!??」
彼の胸の上にはジャンがのし掛かっていた。ジャンは老犬だが大型犬なので
胸の上で寝られると非常に重苦しい。
「何でジャンが俺の胸の上で寝てるんだ??」
「ばっう〜〜」
「・・・ひょっとして俺が起きるまで看病してくれてたのか?」
「ばう!!」
どうやら的を射ていたらしく、ジャンは太助の胸の上でしっぽを軽快に振る。
「・・・気持ちは嬉しいけど、今度から看病するときには人の胸の上で寝ないでくれな。」
「ばう〜〜・・・」
ジャンはうなだれた。
ジャンの気持ちを無にすることは出来ないが、いかんせん目覚め方が最悪だった。
太助のテンションはものすごく低かった。でも・・・
「ジャン!!心優しくていい奴ジャン!!」
すてーん!どんがらがっしゃーん!!
何か遠くから誰かがすっ転んでガレキに突っ込む音が聞こえたが、
それがジャンのものでないことを祈ろう。
「よっし!テンションも回復したし、気を取り直してみんなを捜すか!!」
彼のテンション回復の陰にはジャンの悲劇があったことを忘れてはならない。←結局ジャンじゃん。
「あっ、太助くん・・・。」
「おっ、リナじゃないか。もう体の方は大丈夫なのか?」
後ろの方からリナが太助を尋ねてきた。とすると今さっきの一人ボケを見ていたのか?
「太助くんの方こそ・・・朝から元気だね!」
「・・・・・・」
やっぱり見られていたらしい。
「とりあえず・・・ツッコむのはいいとしても、そのツッコみ方は止めてくれないか?」
「どうして?」
「なんか・・・乎一郎にツッコまれてるみたいで嫌なんだよ。」
「なるへそ・・・。」
リナはあっさりと納得した。
あの短い時間で乎一郎の思考パターンを完全に把握しているところがすごい。
乎一郎がこの場にいたら二人とも速攻で排除されていただろう。
「そういやさ、リナ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」
「ん、何?太助くん。」
「・・・この前のあの火の玉とか木の根っことか、あれってリナ達が出したんだよな?」
「ええ、そうよ。・・・びっくりした?」
太助の不意の質問にも至って冷静に答えるリナ。
「ま、ちょっと驚いたけど。とりあえず今はあんまり追求しないよ。なんかワケありみたいだし。」
「ありがと。」
太助の気遣いに、リナは笑顔で答える。
”おっと、いけないいけない。みんなを捜さなきゃな・・・。とりあえず情報収集から始めよう”
気を取り直して宿屋を後にする太助。だが、そんな必要はなかった・・・
『うわあぁぁぁぁ!!来るなっつてんだろぉぉぉぉ!!!』
『いやぁぁぁん!まってぇ〜〜♪』
何だかどこかで聞いたことのある悲鳴とピンク色の声だ。
「来るなっつってんのに何で来るんだぁぁぁぁぁ!!」
「実君にもうゾッコンだからよぉぉぉ〜〜♪♪」
ピンゼル中を舞台にリディアと実の愛の鬼ごっこが繰り広げられていた。
リディアは端から見ても分かるくらい、ハートマークをまき散らし、
実は必死の形相で逃げ回っている。
太助はどこかで見たことのある景色だなぁと思いながら実に合掌した。
「あのぉ・・・。」
ふと後ろから尋ねる声がして、太助が振り返ってみるとそこには一人の女性が立っていた。
「確か・・・怪物を倒された方ですよね?」
「え?・・・あぁ、あれは俺だけじゃなくてマクベインさん達がいたからで、俺一人の力じゃあ・・・。」
珍しく太助が謙遜して答えると、女性の目はぱぁ〜っと明るくなった。
「えっ?もしかして、マクベインさんのお知り合いですか!?」
「ええ・・・そうですけどって、あなた誰?」
「私、アンカっていいます。半年前にマクベインさんにお世話になりまして・・・。」
「ああ、それで。」
「お礼にキュアの小瓶の詰め合わせセット、持ってきたんですよ。興行のお役に立てればと思って。」
キュアの小瓶とはこの世界で言う回復アイテムで、飲むと元気ハツラツになれるイカすアイテムなのだ。
ちなみにこのセット、キュアの小瓶が20個くらい入っていて本来の値段の2/3と大変お買い得だ。
「成る程。ところでこの街を襲った怪物、どう見てもそこら辺の魔獣じゃなかったですけど・・・。」
「でしょ!?私も気にはかかってたんだけど、最近また怪しい奴らがこの辺をうろつき始めたみたいで・・・安心して外出できないの。」
アンカは暗い表情で答えた。どうやら彼女はあの一件のあとこの街にやってきたらしい。
”怪しい奴らか・・・。そういや俺ってマクベインさん達以外の人からどんな風に見られてんだ?”
改めて考えると太助は不安になってきた。
「つかぬ事をお聞きしますが・・・俺もその怪しい奴らの内に入ってるんですか?」
「あなたはもちろん別よ。」
「そうっすか・・・。よかったぁ〜〜。」
太助はアンカに尋ねてみて正直ホッとした。
『良かった、俺は乎一郎達(爆)とは違うんだ!』そんな言葉が彼の脳内をよぎる。
が
「別の怪しさだもん。」
「・・・・・・がくっ。」
安心していたところにこの不意打ち。アンカという娘はただ者ではない。
「マクベインさんのお知り合いじゃあねぇ・・・。」
太助はこのときほどマクベインを恨んだことはなかった。太助の心を闇が支配する。
「・・・何か?」
「いや、俺の知り合いに毒電波を発する奴がいるんですけど、何だかボケがそいつのパターンと似てたな〜な〜んて・・・。」
「ソレハ僕ノ事カイ、太助クン??」
「おわっ!乎一郎!!?本物か?幽霊か?それともフェイクか!?」
ぷすっ←久々の毒針
ぐにゃり←崩れ落ちた
「久々の再会なのに、いきなりの第一声がそれ?」
「久々の再会なのに、いきなり毒針を刺すのも・・どうかと・・・・思うぞ・・・。」
いつもよりも毒が強力だったのか、久々の毒針ツッコミだったせいか、太助の意識混濁も早く訪れた。
「・・・あなたは?」
「オッス、僕乎一郎!きな粉餅入り!!」←意気揚々
がっくん←膝カックン
「太助くん・・・瀕死じゃなかったの・・・?」
「不意打ちのボケは俺の専売特許だ。そして意味不明なんだよお前のボケは!」←お前も意味不明だ
残念ながらそこは威張るべきところではない。
「おお太助くん、こんな所におったのか。ちょっとばかしついてきて欲しいところがあるんじゃが・・・。」
「あ、はい。それじゃあアンカさん、また今度。」
「ええ、マクベインさん達によろしく・・・って瀕死じゃなかったの?」
「そこら辺は主人公の特権って事で。」
「・・・・・・」
アンカは主人公って大変なんだなぁと同情しつつも、
不死身な主人公の体って羨ましいなという間違った経験も手に入れてしまった。
あれからマクベイン達は実達とも合流していたらしく、一緒に太助の元へ駆け寄ってくるが、
実の動きにどうも生気が感じられない。
おそらくリディアと散々鬼ごっこをやった後、力尽きてそのまま押し倒されたのだろう。
よく見ると体中の肌に妙なアザがあるし、肌の色がどう見ても土気色だ。
とまあ、実が○−ウィルスの影響でゾンビになったりならなかったりする勢いだったが、
そんなことはなかったので話を元に戻そう。
マクベインにおぶられて実は太助達ととある場所へと向かった。
「マクベインさん、ここは?」
「旅券発行所じゃ。わし等はともかく、太助くん達は旅券手帳をもっとらんからのぉ。旅券手帳がないと国境が渡れないから、旅に出る際には絶対に必要な物なんじゃ。」
「なるほど。」
「どれ、お邪魔するとするかの。」
入ってしばらく進んだ部屋で、一人の老人が一行を待っていた。
「・・・ラング!無事じゃったか!!」
「マックじゃないか!元気そうで何よりだ!!」
「マクベインさん、お知り合いですか?」
「知り合いも何も、昔からの大親友じゃ。・・・そちらの子供達は?」
「実は彼ら、友達とはぐれてしもうたらしくてのぅ。こうして興行を兼ねて探し回っているというワケじゃ。」
「どうも、七梨太助と言います。」
「園部リナです。」
「リディア=ティルヴェットよ。よろしく。」
「早乙女実だ。」
「オッス、僕乎一郎!毒っ気混じり!!」←満面の笑み
すぱーん←水面蹴り
「同じネタを二度も使うなんて最低の行為だぞ!!」
「た、太助くん・・妙に詳しいね・・・。」
「だてに苦労してないからな。特にキリュウ相手に。」
もっともな話だが、それでは自分で自分が芸人だと認めてるようなものだぞ太助よ。
「風変わりな子供達じゃのう。」
「なぁ〜に。大してわし等と変わらんわい。」
「というか、特にじいちゃんの方が風変わりだからねぇ・・・。」
「・・・・・・」
「はっはっは!!実の孫にそこまで言われるんじゃあお終いじゃな。」
「・・・ところでラング、太助くん達の旅券手帳を作って欲しいんじゃが・・・。」
「あぁ、分かった。じゃが少し人数が多いからの。しばし時間がかかる。出来上がったらトリーヌに持っていかせる。」
「じゃあわしは宿酒場におるからそこに持ってきてくれ。」
「うむ。」
少しへこみ気味のマクベインだったが、こんな事で悩むのは老い先短い(笑)人生において
かなり無駄だと判断したため、速攻で立ち直ってラング大老宅を後にする。すると・・・
「・・・?・・・・・??」
「どうしたの、フォルちゃん??」
しきりに後ろ(斜め下)を気にするフォルト。
「いや・・・誰かに見られてる気がして。」
ぼこっ!!←何かが地面から出てくる音
「「「フォルトくんっ!!」」」←ダ○トリオ
「おわっ!!?何だ何だ!!!??!」←一同(かなり混乱気味)
「どうもーチリアでぇーっす!!」
「プリーでっす!」
「プレットでーす!!」
「三人そろって・・・」
「「「フォルトくん命ファンの集い四天王でーっす!!」」」
「ちょっと待て、四天王とか言いながら三人しかいないぞ?」←太助
「第一ファンの集いと四天王って単語的にすごいギャップがあるよ。」←乎一郎
「そして何故に地面から登場?」←リナ(ツッコミが弱い)
太助・乎一郎・リナによる三段ツッコミ(かなりの高等技術)に小娘三人は一気に盛下がった。
「・・・フォルトくん、この人達誰?」
「あぁ、ちょっとあって今はこの人達と一緒に世界を回ることになったんだ。」
「ええっ!?じゃあまた遠くに行っちゃうの?」
三人の娘達はすぐに涙目になっていった。
「あ〜あ、フォルトが泣かした。」
「ち、ちがうよ!!僕はなにも・・・」
「非道いわぁ〜!!今度の旅が終わったら一緒に暮らしてくれるって言ってたのにぃ〜〜!!!」
「!!!?」
慌てふためくフォルトを更に追いつめるようにチリアの一言が一行に衝撃を与える。
そして・・・今フォルトの後ろで闇の力に目覚めた少女がいた。
「フォルちゃん・・・。」←すごい剣幕
「私なんて『結婚してやる』って言ってたのよぉ〜〜!!!」
「ふぉると・・・」←ウーナ(既に人格交代済み)
「あたしなんて『子供を一緒に育てよう』って言われてたのよぉ〜〜!!!」
「ち・・・違う違う!!そんなこと一言も言ってない!!」
ファンの妄想力、恐るべし。彼女たちの中では完全に夢と現実が入れ替わっていた。
そして、夢と現実の区別の付かなくなってしまった少女がここにもう一人・・・。
「フーン・・・。ソウイウコトダッタノネ。」←オーラが立ちこめる。
「あアa阿亜亞・・・○×☆□※※&&??」
フォルト、もはやどうすればいいのか分からず錯乱。
・・・・・・
フォルトはウーナの殺人コンボ30連発によって戦闘不能に陥った。
それ以後、ピンゼルにいる間はフォルトはウーナに一言も口を聞いて貰えなかったそうな・・・。
to be continued!
あとがき
ジェラシー大爆発。今までの中で一番のやばネタだった気が・・・。