あとがき普段はただのストーカーなのに、こういう時だけはマジなリディア。でも少々強な気がしますな。
第15話「試される絆、そして背負いし業(前編)」
 
トリムに到着し、シャオ親子と合流した太助一行とマクベイン一座。
 
一同は次なる街「ビエント」へと向かうため、「季節風街道」と移動中である。
 
途中何度かスライム状の魔獣が出てきたりしたが、シャオのハンマー攻撃で空のお星様と化した。
 
「全く・・・ちまちまザコどもの相手にも疲れちゃった。どうにかなんないのかしら?」
 
早速リディアの愚痴が始まった。
 
「多分・・・ムリだと思うぞ。あっち(魔獣)はこっちの都合お構いなしに出てくるんだから。」
 
「そういうことだ。愚痴る暇があるんだったらお前も前線に参加しろ。」
 
冷静につっこむのは太助&実組だ。リディアに容赦なくつっこめるのは
 
もはや乎一郎とこの二人だけであろう。
 
 
・・・・・
 
 
「はぁ・・・。ふぅ・・・。」
 
「どうしたのリディアちゃん?溜め息なんてついて。」
 
落ち込むリディアをウーナが気遣う。
 
「何かさ・・・こっちの世界に来て実くんが更に冷たくなった気がしてね・・・。さみしいなぁ〜って。」
 
「分かる分かるその気持ち。わたしだって前まではフォルちゃんと一緒にいるだけで息苦しかったんだもの。」
 
「・・・なんか気が合うわねあたし達。」
 
「うん、わたしもそう思うぅ!」
 
恋愛話で妙に意気投合したウーナとリディア。後々にこれが災いに転じなければよいのだが・・・。
 
そんな中、一人ふてくされている人間がいた。・・・実である。
 
「何だか向こうじゃ好き勝手いってくれるな。」
 
「でも、本当のことだよな。」
 
「・・・・・・。」
 
太助のツッコミに何も言い返せない実。実際自分の方から冷たくしてるんだから当たり前である。
 
「・・・そう言えば実って、何でリディアを避けてるんだ?」
 
「・・・っ!いきなり何を言い出す!?お前も分かっているだろう?アイツのタチの悪さを?!」
 
太助の不意打ちにたじろぐ実。当然のことと言い返すも、太助はそれにも引っかかる様子だ。
 
 
「何ていうんだろ・・・?俺が思うにそれだけじゃないような気がするんだけどな。」
 
「そんな事は知らんっ!!」
 
伊達に精霊相手に惚れていない。他人の心理状態にも敏感になってきていた。
 
その割には女心には鈍すぎる一面がありそうだが。
 
”避けているか・・・。”
 
太助の言葉が引っかかっているせいか、何度も実の頭の中であのセリフがこだまする。
 
「こんな所で呑気にピクニックとは・・・落ちたモノだな!実っっ!!」 
 
不意にどこからかともなく大声が聞こえてきた。太助達は声がした方(自分達の後ろ)を振り向くと
 
大きな刀を肩に背負った少年が立っていた。
 
見るからに重そうな刀だが、少年の顔からは苦しみの表情一つ見られない。
 
「・・・ご指名の様だけど、どうする?」
 
「・・・・・・・。」
 
リディアの問いにも、何故か無言の実。というよりも、会話をする気がないといった感じだろう。
 
実は先程から顔を伏せ、少年の顔を直視しようとしていない。
 
「・・・何故、何故お前がここにいる?京介・・・。」
 
「えっ、知り合い?」
 
フォルトが実と京介を交互に見つめる。そして・・・
 
「いっくぞおぉぉぉぉぉぉっ!!!」
 
京介は刀を構えて大きく振りかぶり、そのまま実へと突っ込んだ!!
 
ガキィン!!
 
実も急遽、刀を取り出し(ってどこから?)、京介の一撃を受け止める。
 
が、刀同士の激突で、火花が散るほどの衝撃。実は思わずその衝撃に力負けしてその場に倒れ込む。
 
「しばらく見ない間にみずぼらしい姿になったものだな!実っ!!」
 
「・・・何が言いたい?」
 
「自分の胸に聞いて見ろっ!!」
 
ガキィン!!!!
 
再び刀同士で受け太刀をする実と京介。
 
「実君っ!今いくぞっ!!」
 
実の危機を感じ、颯爽と向かおうとするマクベイン。だが、
 
「来るなっ!!」
 
「何故じゃっ!!そのままではやられてしまうぞっ!!」
 
「これは・・・けじめなんです。俺の・・・犯した業の。」
 
「業?」
 
何が何やら分からないフォルト達。すると、京介が力一杯刀を振り払い、実を刀ごと吹き飛ばした。
 
「そうさ!こいつは・・・自分の彼女を殺したんだっ!自分の命惜しさにな。」
 
「っ!!嘘よっ!!実くんがそんな事するワケないモンっ!!!」
 
京介の暴言に怒りを覚えたリディア。力一杯訴えるが、京介は今度はリディアの方を凝視する。
 
「・・・ほう。彼女の・・・静佳ちゃんの替え玉か、あの娘は?」
 
「何だと・・・!?」
 
「死んだ人間の事はとっとと忘れて、自分だけ幸せになろうってハラか!!相変わらずだな、お前は。」
 
「黙れえぇぇぇぇぇっ!!!!」
 
「何が違うんだ!?そうだろう!?お前は自分のことしか頭にないただの臆病者だっ!!」
 
「うるさあぁぁぁぁいっ!!!!!」
 
ズバッ
 
完全に我を失った実。かろうじて京介の左腕に傷を負わせるも、戦闘には支障のない物であった。
 
「俺は・・・嫌だったんだ。あいつが・・・静佳があのまま人以外のモノになってしまうのが・・・。」
 
「だからって、そのままトドメを刺しても良いってぇのかよ!?」
 
「なら、お前ならあの時どうした!?無力だった俺達に何が出来た!?」
 
「だからって、見殺しになんかできるかよっ!!自分の恋人だろーがっ!!
 
ガキィン!!!!
 
再び二人の刀が激しくぶつかり合う。太助達も今すぐに実を助けに行きたい気持ちだったが、
 
実と京介の気迫に押され、とてもそれどころではなかった。
 
そして、リディアは・・・
 
”・・・何か、嫌な感じ。何だろ?このモヤモヤしたモノは・・・。”
 
京介の発した「恋人」と言う言葉に嫌な感情を覚えていた。今まで感じたことのない不安・・・。
 
そして・・・苦しみ。
 
「あの時っ!少しでも早く病院に担ぎ込んでいれば、助かったかもしれないんだぞ!?それをお前はっ!!」
 
「そ、それは・・・。」
 
京介の叫びに、言葉が詰まる実。そして、京介の刃が実に襲いかかる!!
 
どしゅっ!!
 
「があぁぁぁぁっ!!」
 
「実くんっ!!」
 
京介の放った一撃は実の上半身殆どを切り裂き、大きなダメージを与えた。
 
実の体からおびただしい量の血が吹き出る。
 
「来るなぁっ!!」
 
今まさに実の元へ駆け寄ろうとしたリディアだったが、実の叫びに叶わぬものとなってしまった。
 
「心配するな、リディア・・・。俺は・・・死にはせん。」
 
「でもっ・・・でもっ!!」
 
リディアは必死になって涙を堪えた。今すぐに愛する人の元へ駆け寄って痛みを取り除いてやりたい。
 
でも、それが叶わぬ今、ただ自分は見ているだけしかできない・・・。
 
自分が歯がゆかった・・・。それだけしか思えなかった・・・。
 
「・・・むかつく野郎だ。そこまでして今の幸せを護りたいかよっ!!」
 
「くっ!!」
 
ガキィン!!
 
フラフラの状態でも、何とか京介の太刀を受けた実。
 
だが、未だ体からは出血が続いており、徐々に体力が失われつつあった。
 
「あんた・・・。いい加減にしなさあぁぁぁぁいいっ!!
 
ずどどどどっ!!!←十数本の根っこが地面から突き出てきた
 
「いっ!?」
 
地面からの唐突な攻撃に、慌てて避ける京介。
 
そして、その根っこの主は、言わずとしれたリディアだった。
 
「リディア!!邪魔をするなと言っただろう!」
 
「そうだぞ、嬢ちゃん!!こんな奴についてったら絶対不幸になるぞ!」
 
「黙りなさいっ!!」
 
「「はい・・・(汗)。」」←実&京介(少したじろぐ)
 
リディアの迫力に完敗し、その場に小さくなる二人。
 
リディアの目頭は、徐々に熱を帯びてきた。
 
「あたしは・・・実くんと出会って、まだ半年位しか経ってなくて・・・。まだ、実くんの事とか・・・全部分かってる訳じゃないけど・・・あんた程じゃないけど・・・。」
 
「リディア・・・。」
 
「嬢ちゃん・・・。」
 
リディアの瞳には、涙が滲み出していた・・・。たまりにたまった気持ちが、一気に爆発したのだろう。
 
「実くんの彼女がどんな娘で・・・どういう経緯で殺さなきゃいけなかったのか知らないけど・・・。自分の恋人を目の前で失う悲しみは、実くんが一番よく知ってるはず!
 
その通りだと軽く頷き、実は俯く。
 
「悔しいけど・・・先越された気分で、辛いけど・・・。実くんにとってその娘の存在は大きいものなんでしょ?」
 
「・・・・・・。」
 
言い返せず、黙り込む京介。
 
「そりゃあたしだって・・・実際そんなことになったら、多分そのこと同じ事をしたと思う・・・。」
 
「でも嬢ちゃん!それでキミはいいのかよ!?本当に・・・そんな結末で・・・。」
 
恋愛に結果や資格なんて関係ないわよっ!!・・あたしだって・・・まだ・・・ぐすっ、デートとかもしたこと無いし・・ひっぐ、キスだって・・・。」
 
泣きながら自分の気持ちを訴えるリディア。ウーナやリナも、少しずつ貰い泣きし始めていた。
 
「でも、あたし・・・ぐす・・あたし・・・・・・それでも・・・・・・・・・」
 
ゆっくりと息を吸い、リディアは叫ぶ。
 
「それでもあたし、実くんが好きなんだもん!!!
 
 
息を荒くして、自分に言い聞かせるようにして、自分をさらけ出すリディア。
 
ウーナやリナも完全に泣いていた。そして、他のメンバー達も・・・。
 
「自分の気持ちには・・・ウソはつけないよ。例え実くんがどんな過去を背負ってたとしても・・・あたしの気持ちは変わらない。」
 
「例えそれが、自分を傷つける羽目になってもか?」
 
京介がリディアに問う。リディアはゆっくりと頷いた。
 
「自分で決めたことだもん。後悔はしない。特に恋愛に関しては・・・。」
 
「・・・・・。」
 
終始無言となる京介。そして実。
 
「・・・強いな嬢ちゃんは。まるで彼女そのものだ。」
 
「そんなに似てるの?その静佳って子に?」
 
「ああ、性格といい生き方といい、何から何までクリソツだ。」
 
あまりいい気はしないが、なんだか・・・ちょっと嬉しい。そんな感じだ。
 
「ところで、その静佳って娘。どうして死んじゃったの?」
 
「それは・・・」
 
京介がリディアの問いに答えようとしたその時!
 
「困りますねぇ・・・勝手に情報を漏らして貰っては。」
 
「!!!っ」
 
なんと、いつの間にやら近くの崖の上にのほほんと立っていた淋。
 
不気味な微笑を浮かべ、淋は京介・・・そして太助達を凝視した。
 
 
 
to be continued!?
 
 
あとがき
 
普段はただのストーカーなのに、こういう時だけはマジなリディア。でも少々強引な気がしますな。