第17話「あなたがいるから今のあたしがいる」
 
 
淋の放った戦闘ロボット『ゴーレム』と、否応なしに戦闘へとかき立てられた太助達。
 
謎の女性の参入によって、何とか撃退は出来たものの、こちらの被害が大きい。
 
一行はすぐさまビエントへと向かったのだった・・・。
 
 
ビエントに着くなり、いきなり現れた傷だらけの太助達の様子に驚き、
 
戸惑いを隠せない街人たち。そりゃ体中から血を流してる団体様が訪れたら誰だってビビる。
 
マクベインを先導に、足を引きずりながら宿を探す・・・。すると
 
「やっぱり!マクベインさぁーん!!」
 
「おぉ、ブリーオンさんの所のアネッサさんとバネッサさんか。」
 
遠くの屋敷らしき建物から二人の女性が駆け寄っていた。
 
慣れた反応のマクベインに太助が尋ねる。
 
「知り合いですか?マクベインさん。」
 
「うむ、この街の領主であるブリーオンさんの屋敷で働いとる侍女さん達じゃ。」
 
「皆さん・・・酷いケガ!こちらへどうぞ。お屋敷で手当てしましょう。」
 
「すまぬ、感謝するぞ。」
 
こうして、一行はブリーオンの屋敷へと運ばれていった。
 
 
 
「しかし・・・久々に訪れてきてくれたと思ったら、大変なことになりましたね。」
 
「うむ。しかし、ブリーオンさんが彼女らを差し出してくれなかったらどうなっていたか・・・。」
 
いいんですよ、とブリーオンと呼ばれる紳士は手を振って去っていった。
 
領主はいついかなる時も多忙なのだ。
 
「ところでアネッサさん、実くんと京介くんの容態はどうじゃ?」
 
「命には別状はありませんが・・・出血量が半端じゃありません。しばらく安静が必要でしょう。」
 
特に実は上半身全体に大きな深手を負っている。これではいけないと、マクベインは腰を上げた。
 
「どれ、わしらはもう大丈夫じゃし、彼らの治療でも行うかの。」
 
「えっ、治療?」
 
「ま、ついてくれば分かるわ。」
 
太助達にそう言うと、マクベイン・フォルト・ウーナの3人は、別室の実達の部屋へと向かった。
 
 
部屋ではリディアが二人のケガの治療を行っていた。
 
「リディアちゃん、どう?」
 
「・・・・ダメ、血が・・・血が止まらないよ・・・。」
 
リディアの瞳から再び涙がこぼれる。すると、マクベイン達はおもむろに各々の楽器を取り出した。
 
「準備はいいか?二人とも。」
 
「うん、オッケー。」
 
「いいわよ、マックじいさん。」
 
3人は息を合わせ、楽器で何やら演奏し始めた。
 
楽器から奏でられる不思議な曲に、部屋全体が暖かい空気に包まれる・・・。
 
「暖かい・・・。いい曲ね。」
 
「・・・ホントだな。」
 
「ってちょっと待って!!!傷が・・・」
 
リナが驚いたのも無理はない。なぜなら3人が曲を演奏し始めた直後から、
 
全員の傷が急速に癒えていくのだから。
 
「傷が・・・消えてく・・・。」
 
やがて、曲の演奏が終わる頃には、一同の傷は完全に回復していた。
 
「これが・・・かつて『水底の民』が残した『共鳴魔法』と呼ばれるものじゃ。」
 
「共鳴魔法?」
 
「楽器などの音波の共振によって自然界のエネルギーをコントロールする魔法じゃ。ちなみに今のは、『生命』というモチーフの共鳴魔法で、生物の傷を回復させる力があるんじゃ。」
 
「音楽を使った魔法か・・・。確かにマクベインさん達らしいな。」
 
太助達は苦笑した。
 
「とりあえず、これで後は二人の意識が戻るのを待つだけじゃ。」
 
「あ・・・じゃああたし、二人の意識が戻るまでここにいるわ。みんなは七梨の仲間を探しに行って。」
 
「看病ぐらい俺がやるよ。今は、リディアもゆっくり休まないと・・・」
 
リディアの代わりに看病につこうとした太助を、マクベインが制止させた。
 
太助が振り向くと、マクベインは首を横に振る。
 
「・・・・ここは、リディアちゃんに任せよう。わしらはわしらで情報を集めなければならん。」
 
そう言うと、マクベインは他の面々を部屋から引きずり・・・もとい、連れ出した。
 
 
 
所変わって、マクベイン達は街の酒場へと足を運んでいる。
 
もちろん太助達は未成年なのでジュースを口にしている。
 
「それにしても・・・どうしてリディアを看病に?」
 
「太助くんも気付いておるはずじゃ。あの3人には大きな溝がある。それを埋めるためにはこれしか方法がないんじゃ。」
 
「でも・・・。」
 
恋愛に関してはお互いに向き合って気持ちを伝え合わなければ解決しないこともある。そして、そういうときには例え仲間でも、温かく見守ってやる必要があるんじゃ。」
 
「・・・・・。」
 
マクベインの言葉に何も言い返せなくなった太助。
 
どんなに辛い答えとなったとしても・・・それはお互いに苦しんで得た結論なんじゃ。わしらにはそれを否定することなど出来はせん・・・。
 
そういうと、マクベインは手に持っていたビールを飲み干す。
 
不安に駆られながらも、3人が善き答えを導き出すことを願う太助だった・・・。
 
 
 
実達の方へと話を戻そう。
 
「・・・・・・・・。」
 
無言で実を見つめるリディア。マクベイン達が立ち去ってからずっとこの調子である。
 
未だに意識を取り戻さない実と京介。もうとっくに傷は癒えているというのに・・・。
 
「実くん・・・眠ったままでいいから、話聞いて。」
 
「・・・・・・・・。」
 
意識が戻ってないので、当然実は黙ったままだ。
 
「あたし・・・辛かった。今日ほど辛いって思った日はないくらい・・・胸が苦しかった。」
 
「・・・・・」
 
「実くんが、あたしを避けてきたのって、ひょっとして・・・その静佳って子が忘れられなかったからじゃないかなっ・・て。」
 
 
ぴくっ
 
 
かすかに実の指が動いた気がした。
 
「悔しかった・・・。でも、羨ましかった・・・。だって、唯一実くんが心を開いた女の子なんだから・・・。」
 
リディアの頬が涙で濡れる。
 
「負けたくないって思っても・・・あたしには出来なかった。今回だって実くんを救えなかったし、結局心配かけただけ・・・。」
 
”違う・・・”
 
「実くんの中に・・・あたしはいなかった。・・・・・ま、当然と言えば当然だけどね。・・だって、あたし・・・・何にも努力してなかったんだもん。」
 
リディアの涙が更にぽたぽたと床に落ちていく。
 
”違う・・・!俺は・・俺は・・・・!!!”
 
「そんなあたしを、実くんが好きになるはずなんて・・・」
 
「違うっ!!!」
 
大粒の涙を流しながら謝るリディアに反発するように実は大声で否定した。
 
意識を取り戻した実は息が荒かった。
 
「・・・・お前には罪は何一つ無い。全ては俺の責任だ・・・。」
 
「・・・・・。」
 
「・・・・ざまぁないな。あれだけ大口叩いておきながら、結局はこの有様だ・・・。」
 
実は俯いて自分自身に罵声を浴びせる。リディアは完全に黙り込んでしまった。
 
「俺には・・・人を愛する資格など、ありはしない。大切な人一人護れないようじゃ・・・とてもな。」
 
「だめだよ・・・」
 
「京介の言う通りだ。・・・俺は、怖かったのかもしれない。殺されるかもしれないと一瞬でも思ってしまったから・・・静佳を・・この手で!!」
 
「ダメっ・・・!」
 
「所詮俺は、昨日の今日まで完璧な自分を演じてきただけの・・・ただの臆病者だっ!!!」
 
「ダメっ!!!!」
 
ぱんっ!
 
部屋に乾いた音が響く・・・。
 
 
「そんなの・・・そんなの、いつもの実くんじゃないっ!!」
 
溢れる涙を抑えながら、リディアは部屋を猛ダッシュで飛び出ていった。
 
再び部屋を静寂が包む・・・。
 
「・・・・因果応報、か。当然の報いだな。」
 
そう、これで諦めがつく。もう、何も悩む心配はない。と・・・
 
 
”何してるんですか先輩っ!!”
 
 
「・・???」
 
”追いかけなきゃダメですよっ!!”
 
「!!!???」
 
実は突如自分の頭に語りかけてくる声の存在に、正直驚いたがすぐにその声の主を悟った。
 
「お前・・・静佳か!!」
 
”はいっ!先輩達が無事で何よりです。”
 
「お前・・・どうして?」
 
”あの時、先輩がわたしにトドメを刺したとき、なんですが・・・・”
 
「それで?」
 
”理由は不明ですけど、意識がわたしの魂ごと先輩の刀に移っちゃったんですよ。”
 
「魔断刀にか!?」
 
実自身も知らなかった様子で、その表情からも驚きがあらわである。
 
”ええ・・・。でも、今はそれどころじゃありませんよっ!!早くリディアさんの後を追わないと!!”
 
実を説得する静佳だが、実は俯いたままこう答えた。
 
「・・・・出来ない。」
 
”えっ!?どうして!!”
 
「俺には・・・あいつを受け止める資格はない。お前を護ることすら出来なかったのだからな。このままでは、リディアもいずれお前と同じ運命を・・・」
 
”だからって、諦めちゃうんですか?!”
 
「・・・・・・・・。」
 
実、何も言い返せず沈黙。
 
”先輩、言ってたじゃないですか!諦めることならいつでも出来る。でも、振り向かずに前だけ見据えて生きれば自分を変えられるって!”
 
「・・・・。」
 
”あれはウソだったんですか!?”
 
「・・・・・・」
 
”先輩っ!!!”
 
妙に静佳の声が響く・・・。そう実は感じていた。今ならまだ間に合うかも・・・?
 
そんな気がしてきた。
 
「・・・そうだな。振り向いてはいけない・・・よな?」
 
”先輩・・・。”
 
「俺は、お前の分も生き続けると約束したんだものな。・・・行かねばならんな。あいつの元へ・・・。」
 
”そうですよ先輩、ファイトっ!!”
 
頼れる後輩の思いを胸に、リディアの後を追う実だった・・・。
 
 
 
所変わって、ブリーオン邸の玄関
 
「はぁ・・・・っ。」
 
玄関の柵にもたれかかってため息をつくリディア。
 
「・・・帰ろっと。」
 
そうきびすを返し、再び屋敷内へと入ろうとしたリディア。と
 
「リディア!!」
 
「・・・!実くん。」
 
玄関のドアを勢いよく開き、実が外に出てきた。表情がいつになく険しい。
 
「・・・・単刀直入に言う。今の俺に対する、お前の気持ちを教えてくれ。」
 
「えっ?」
 
「軽蔑されてもおかしくない・・・俺はそれだけの事をしたのだ。でも、それでも・・・」
 
「・・・・・・・」
 
二人の間に奇妙な沈黙が訪れる。
 
「もしそれでも、俺を慕うというならば・・・俺を殴れ!!!
 
「はい?!」
 
「けじめだと思ってくれればいい。俺も、この一発で目を覚ましたい!!」
 
「んー・・・じゃ、目つぶってて・・・。」
 
「あぁ、分かった。」
 
実は静かに目を閉じた。殴られるときに備え、歯を食いしばる。が
 
 
ちゅっ
 
 
以外にも、飛んできたのは拳でも平手でもなく、全然別次元のものだった。
 
「あがああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!???!」
 
実、何が起こったのか分からず・・・いや、少なからず分かってしまったためか発狂。
 
「いきなり何するんだ!!!」
 
「えへへ、これならただブン殴るより目が覚めるでしょ?それに・・・」
 
「それに・・・?」
 
実は自分の唇を指で軽くなぞりながらリディアに問う。
 
「こういうのは後に貸しとしてとっといた方が面白そーだなって。」
 
「お前絶対遊び半分でやっただろ?」
 
「何言ってるの。あたしのファーストキスだったんだからね。そんなこと言わないでよ。」
 
「・・・・・」
 
実、撃沈。
 
「でも・・・本当だよ、この気持ち。好きっていう気持ちは今も変わらない。多分これからも・・・。」
 
「そうか・・・。」
 
「ところで、あたしのキスに対する返事は?」
 
「今は・・・・言えない。」
 
「えっ?」
 
「お前に・・・返事は言えない。・・・・まだ、俺の中ではお前への気持ちはあやふやだからだ。だから・・・待っててくれないか?いつになるかは分からない。でも、きっと答えを出してお前に言う!!」
 
「実くん・・・。」
 
そして、二人は二度目の口付けを交わした・・・。
 
 
 
 
 
 
”よかったですね・・・先輩、仲直りできて。・・・先輩。どうかわたしの分も、幸せになって下さい・・・。”
 
 
 
 
to be continued・・・
 
 
 
おまけ!!
 
「俺ら何か存在自体曖昧だったな・・・。」
 
「京介くんはまだいいよ・・・。僕なんか15話辺りから全然名前すら出なくなっちゃったからね。」
 
「くそっ!!このままじゃ納得いかねーっ!!」
 
「所で僕って今何処にいるの?」
 
 
 
to be continuedだよ
 
 
あとがき
 
うがああぁぁぁぁぁぁ!!!!←ついに発狂
 
なんなんだこいつ等は!!書いてるこっちまで恥ずかしくなっちまう!!
 
・・・ってなんかキャラ変わってましたね。話を本題に戻しましょう。
 
今回1番目立ったリディア。自由そのものの彼女の恋愛観。そんな雰囲気が少しでも伝わったらと思っております。
 
そしてなにげに良い所取りのマクベイン。伊達に年くってません。←最低
 
いろいろな出会いと別れを経験したり、垣間見てきた彼だからこそのセリフだと思っています。