第21話「運命を忘れて休息を楽しもう」
 
 
太助達はカントスを訪れていたという淋の足取りを追うため、リナ達には内緒で街を出ていった。
 
そう、戦う宿命を負う彼らにたまにはお休みをあげようという乎一郎のアイディアだったのだ。
 
そんな太助達の好意に甘えるようにフォルト達と演奏を楽しむリナ達。とは言っても彼らには専門とする楽器はない。つーわけで、フォルト達の演奏にアドリブで歌詞をつけて楽しんでいた。
 
 
「とまぁリハーサルはこんな物かな。それじゃ、いよいよ本題の『レオーネのエチュード』、いってみようか♪」
 
「よし、負けねぇぞフォルト!!」
 
「僕だって、いっぱい練習してきたんだから負けないよシュベール!!」
 
ライバル意識むき出しで演奏し出すこの二人。そんな雰囲気の中、笑顔で二人の様子を見つめるフォルゲン校長とマクベイン。
 
 
「う〜〜ん・・・やはりライバルというのはすばらしいもんじゃのう。互いに競い合って技を磨いてゆく・・・わし等にはない素晴らしい宝ですなぁ。」
 
「そうですね、私もこれに尽きると思いますよ。ここの生徒達も彼らに刺激されてさらに盛り上がってくれるといいんですが。」
 
フォルトとシュベールの光景は教育者の立場からしてほほえましいものに見えるらしい。
 
そんな中、リナはペンをくるくる回しながら頭を抱え、一生懸命エチュードに似合う詩を考えている。
 
一方実はと言うと・・・
 
 
「・・・・エレキで練習してきたから、普通のギターでやると違和感があるな。」
 
「実君なんてまだいい方だよ。あたしなんてこれだよ?
 
と言うと、リディアはタンバリンをすっと実の前に差し出す。幼稚園児でもないのに初歩中の初歩であるタンバリンで練習しろなどと人を小バカにするにもほどがある。
 
 
「しょうがないだろ、お前音痴なんだから。」
 
「ふぅ・・・でもちょっとショックだなぁ・・・。」
 
うなだれるリディア。でもタンバリンを振ってリズムを取る姿はなかなか様に見える。
 
「端から見て・・・ちょっと似合ってたりするぞ。」
 
「えぇっ?!うそぉ、こんなん似合ってるって言われても全然嬉しくなぁい!!」
 
「曲調は任せるからそれで軽くリズム取って見ろ。俺もそれに合わせるから、頑張ってやってみろ。」
 
「う゛ぅ〜〜っ・・・ま、いいわ。やってみるけど・・・笑わないでよ?」
 
渋々と言った表情だが、実の説得もあってタンバリンを構えるリディア。そして・・・
 
 
ささっさ☆ぱん♪ ささっさ☆ぱん♪ ささっさ☆ぱんぱん♪
 
 
軽快にリズムを取り、軽やかなステップでタンバリンを振り鳴らし、乾いた打音を響かせる。
 
それに呼応するように、実もギターを構えて自己流で弦をひき始める・・・。
 
 
曲調はエチュードに似てはいるが、全体のイメージは全く別物であった。
 
レオーネのエチュードは励ましの曲であるが故、全体の曲調が少し暗めになっているのに対し、彼らが演奏しているそれは励ましの曲ながらも気分が明るくなるようなそんな印象がある。
 
「おぉ・・・大したもんじゃ。これで自己流とは・・もったいないのぉ。」
 
「・・・とんでもないです、俺等は音楽を専門とはしていませんからね。本業をやってらっしゃるマクベインさん達には敵いませんよ。」
 
「謙遜せんでも十分すぎる実力じゃよ。それだけ演奏できるなら正式に旅芸人としてデビューできるぞ?」
 
マクベインの誘いにも全く同じることもなく首を横に振るばかりだ。何度言っても『俺には闘いが性に合ってますから』と繰り返す。確かに実の性格から言って当たっているとも言えなくもない。
 
 
「ちぇっ・・・旅芸人デビューって言うことは芸能界入りも夢じゃないのに。」
 
「ま、実君がああ言っちゃどうにもならないわね。」
 
「そういうことだ。俺達は本来戦う運命にある・・・こういう娯楽もたまにはいいが本来の存在意義を忘れるなよ?」
 
夢半ばで燃え尽きたようなセリフをほざくリディアをたしなめる実。とか何とか言いつつも実はしっかりとギターを握ったままだ。
 
その滑稽な姿に思わず笑い出すリナとリディア。
 
 
「ぷっ・・・あはははは☆実君顔はマジマジなのにギターしっかりと握ってるし!!」
 
「それじゃ全然説得力無いよぉ♪あははは☆」
 
「あ、そ、これは・・その・・・置き場所が無くて困ってたのだ!!借り物だしそこら辺にほっぽり投げとくのも悪いしな!!」
 
慌てて弁解する実だが、時既に遅し。そんな三人にフォルトとシュベールが割って入る。
 
 
「まあまあ三人とも。実君の言いたいことも分かるけど、こういう時ぐらいはみんなと一緒に楽しもうよ♪」
 
「そうだぜ、音楽っていうのはみんなでやるから楽しいんだ。よっしゃ、こーなったら全員呼ぼうぜ全員!!この学校全員の生徒とリナ達とで大演奏会だ!!」
 
「おぉ、それは良い考えですねシュベール。どうですかマクベインさん、マクベイン一座共々ご参加されてみては?」
 
フォルゲン校長自身もシュベールの意見に賛成のご様子。それに伴いマクベイン一座出演の同意を求められる。
 
「いいですな。よし、フォルト、ウーナ、一つ日頃の練習の成果を見せる時じゃ。景気よく演奏しに行くぞ!!」
 
「「はいっ!!」」
 
言うまでもなく、大賛成のマクベイン一座。そして、企画された大演奏会・・・公演は4日後、つまり今日から大練習の日々が始まると言うことを意味していた。
 
 
もちろんマクベイン一座に至ってはメチャメチャ練習を楽しそうに行っているが・・・メインであるOCSIANの三人は慣れない楽器の練習(リナは作詞を担当)に悪戦苦闘していた。
 
 
そして流れる時間・・・。
 
 
一方太助達はというと・・・?
 
「く・・何だこいつ等!!ヴェリアクアの魔法が全然効かない!」
 
「僕の乎一郎レーザーも簡単に避わされる・・・僕らだけじゃ手に負えないよ・・・。」
 
そう、さっきから一斉攻撃を仕掛けているのにこいつには全く歯が立たない!
 
胴体の大きさに対して非常にアンバランスと言えよう巨大な翼。悪魔などの翼に近い、邪悪なイメージが伺える。
 
胴体の方も爬虫類のような鱗でびっしりと覆われており、生半可な攻撃ではこの鱗に傷一つつけることもままならない。
 
ヴェリアクアの魔法も、乎一郎レーザーもこの鱗のせいで決定的なダメージを与えることすら出来ないのだ。
 
「やっぱ・・奇襲作戦すら見透かされてたようだな。・・・どうする七梨、ひとまず逃げるか?」
 
「そうはいきませんよ・・・あなた達は非常に勇気ある方たちですが、いささか頭が悪かったようですね・・・。我々に奇襲作戦を仕掛けるとどういうことになるかその身をもって教えて差し上げましょう・・・。」
 
怪物の後方で淋が薄笑いを浮かべる。どこでどう知ったのかは不明だが、何故か太助達が奇襲をしかけてくる情報を入手した淋は、逆に太助達を罠にはめたのだ。確実に息の根を止めるために・・・。
 
 
(やべーな・・・こりゃ。ところで七梨、あと誰を捜さなきゃいけないんだ?)
 
(たかし・愛原・シャオ・ルーアン・キリュウだけど、それがどうかしたか?)
 
(確かお前等連れがいただろう?リナ達と今すぐここを離れてシャオ達を探し出せ!)
 
(は?!何言ってるんだ山野辺?お前はどうするんだよ?)
 
(あたしはこのまま時間を稼ぐ!何とかシャオ達を探し出してこいつ等をギャフンと言わせてやれ!!)
 
突如恐ろしいことを言い出す翔子。それではただ自分から死にに行くようなものだ。いくら淋がすぐには殺らないと言っても、限度がある。それに奴の目的も分からない・・・。
 
(お前なぁ・・・仮にも女の子を置いて逃げれるわけどむっぐぶぅ
 
翔子の右フックが太助の胃袋を直撃。味方だけにその一撃もかなりの重みがある。
 
 
(お前はバカかっ!!仮にあの怪物を倒せたとしてもまだあのおっさんには伏兵がいるかもしれない・・・少なくともあたしがあいつ等にわざと捕まっておけば時間は稼げる。)
 
(っつーてもなぁ・・・いくら俺の設定が”裏”の方だとしてもんな非人道的な真似できるわけがねーっつーの!!)
 
「相談は終わりましたか?・・・そろそろひと思いに殺らせてください。こっちも暇ではないんでね・・・。」
 
怪物達を率いて淋が太助達に迫ってくる。じりじりと距離を詰めてくる敵のプレッシャーにずんずんと後ずさりを繰り返す翔子・・・。そして業を煮やした彼女は驚くべき行動に出た!
 
「ちっ、時間がねー!!七梨、遠藤!後ろ向いて歯ぁくいしばれぇ!!
 
「こ、こうか?」
 
ずばきゃっ!!どばきゃっ!!←回し蹴りで太助・乎一郎を蹴り飛ばす
 
「「あんぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
 
凄まじいパワーで勢いよく空中へと放り出される二人。一方の翔子は実に爽やかな表情を浮かべている。とても普通の女の子の出来る芸当ではない。彼女が将来どんな女性になるのか先行き不安だ。
 
と、今はそんなことはどうでもいい。『用事は済みましたか?』と律儀に待っていた淋。相変わらず不気味な薄笑みを浮かべて翔子に歩み寄る・・・。
 
 
「うぅーん・・・あいつ一体何や考えやがるんだ?山野辺の奴珍しく俺等に気ぃ遣いやがって・・・。」
 
「と言うよりも太助くん、このままだと僕ら地面に大激突しちゃうよ・・・幸いにも落下地点がカントスだからいいけど・・・。」
 
空中を一直線にかっ飛びながら何やらほざいている太助と乎一郎。何でこいつ等こんな状況でも冷静なんだ?
 
 
「心配すんな、実が必殺技と一緒に素晴らしい特殊能力を授けてくれたぞ。」
 
「え、それってまた勇者特急がらみ?」
 
「いや、俺のオリジナルだ。」
 
そういうと乎一郎を背中に乗せたまま、太助は妙なポーズを取って・・・
 
「絶壁!波翔特攻迅!!」
 
 
両腕を伸ばした状態でそのまま勢いを殺しながら地面に吸い付くように無事着地。
 
技の名前を聞いた限りでは凄そうなイメージを受けるが・・・姿格好から言うとただのスライディングだ。
 
凄まじい砂煙を巻き上げながらも、太助は乎一郎を背中に乗せたまま何故か生きたまま立ち上がった・・・と思ったら
 
「あ、あかん・・・打ち所が悪かった。頭から血の気が引くぅ・・・」
 
・・・だめじゃん
 
こうして無事(じゃねーか)にカントスに舞い戻った太助と乎一郎だった。翔子の運命はいかに?!
 
to be continued!!
 
 
あとがき
 
うーん・・・初っぱなからほのぼのモードで書き始めたからギャグに乗せにくい。
 
でも最後は裏月天らしく締められたような気がします。
 
次回は淋の恐ろしき野望とリナ達の正体が明らかに?!・・・多分(←余裕があれば書けると思うので)。