第23話「猛き力、諸刃の剣」
 
 
「貴様が・・・様がああぁぁぁぁぁっ!!!!!
 
「実君っ!!!」
 
リディアの制止も振り切り、単身傷付いた体で淋の元へと突っ込んでいく実!だが、当の淋はすでに予測していたのか、手持ちのショットガンを構えている。
 
「本来なら私はただの傍観者なのですがねぇ・・・致仕方ありません。」
 
ドウンッ!!
 
淋の構えるショットガンから放たれる無数の散弾が実に向かって襲いかかる!が、
 
「こんなもので・・・俺の怒りを止められると思うなぁっ!!!」
 
ぶおぅっ!!
 
魔断刀を勢いよく振りかざし、その衝撃波(ソニックブーム)で散弾をなぎ払う実。そのまま勢いは止まることなく淋の懐へと突っ込む!!
 
「捉えたぞっ、淋っ!!!」
 
「さて、あなたの思い通りに行きますかねぇ・・・」
 
いつものように余裕すら伺える不敵な笑みを浮かべる淋。そして、その言葉通り実の背後からはあの爬虫類の化け物が着実に距離を縮めていた!!
 
『キシャァァァァァァァ・・・・』
 
「邪魔を・・・するなぁっ!!」
 
ずばっ!!
 
一閃。まさに一瞬のうちに実は背後から迫っていた怪物を一刀両断。怪物の返り血を浴びる暇もなく改めて淋の元へと特攻を仕掛ける。
 
「はてさて・・・私を斬る前にあなたがくたばるか、うちの生物兵器が全てくたばるか、見物ですねぇ・・・。」
 
「うるさいっ!!俺は・・・絶対に貴様を許しはしないっ!!!」
 
 
 
 
「まずいな実のヤツ、完全に頭に血が上ってガムシャラになってやがる。」
 
「普段の実君からは考えられない行動だよね。」
 
現時点で傍観者と化している太助一行。客観的に見られる分彼らのコメントも少々冷ややかだ。
 
「太助くん、どうするんじゃ?このままでは墓穴を掘ってやられてしまうぞい。」
 
「心配いりませんよマクベインさん。・・・それに、俺たちの相手は後ろにいるみたいですし。」
 
何かの気配・・・。いや、殺気を察知したのかマクベイン達はすぐさま後ろを振り向く。そこにいたのは・・・。
 
 
「・・・ずいぶんと成長したようだな七梨。気配であたしの位置を察知できるなんてさ。」
 
何やら黒装束に身を包んだ翔子が佇んでいた。しかし、今までの彼女とは何かが違う・・・。
 
「御託はどうでもいい。・・・その雰囲気だと、マジなんだな。」
 
「あぁ、正直言ってすこぶる気持ちいいぜ!淋様は最高だよ!!」
 
翔子のような人間が淋を様付けで呼ぶとなると考えられる可能性はただ一つ。・・・・洗脳(マインドコントロール)あたりだろう。
 
 
「えっ?えっ?!確か翔子さんって、太助さんの友達なんですよね?!それがどうして・・・」
 
「おおかた淋のヤツに操られてるんじゃねーの?自尊心の塊みたいな山野辺が淋を『様』付けして従うなんざビックバンが2千回起きても有り得ねーよ。
 
「・・・・・。」←呆れてものも言えない
 
シリアスな雰囲気に釜かけてとんでもないことを言い出す太助。あまりのイカレっぷりに呆然としてしまったウーナ。
 
 
「実っ、多分淋を倒せば山野辺も元通りになると思うから気張ってくれよー!!」
 
「・・つっ!!簡単に言ってくれるな太助は。だが、もとよりお前に言われるまでもないっ!!」
 
未だに淋との激戦を繰り広げている実にものすごく気の抜ける要望を述べる太助に逆に闘志を燃やす実。
 
「御託は終わったか?」
 
「まあな。さてと・・・こっちはこっちで気張るとしますか。」
 
妖しい笑みを浮かべる翔子に改めて気合いを入れ直す太助。だが、フォルトとウーナに関してはあまり納得がいってないようだ。
 
 
「・・・本気で戦うの?」
 
「ん?まぁね。・・・本音は俺自身どうしたらいいかまだ頭の中が整理がついてないけど。」
 
「それじゃあどうして・・・」
 
首をかしげるウーナに太助は微笑(わら)いながら答えた。
 
「一言で言うと時間稼ぎ。正直山野辺の今の実力ははっきり言って未知数だ。それにブン殴って元に戻る保証もない・・・となると」
 
「『臭いは元から断て』・・・という事じゃな。」
 
「そういうことです。ま、今の俺に出来るのはせいぜいこんな所かな?」
 
なるほどとマクベインは腕組みしながら頷く。確かにその方が確実性は高いし、ここで淋を黙らせればこれからの旅も安心して行動できる。
 
まさに一石二鳥の案なのだ。
 
 
「俺と乎一郎で山野辺を引きつけますから、マクベインさん達はまわりの化け物をお願いします。」
 
「あい分かった。確かに引き受けたぞ。」
 
お互いの拳を打ち合ってそれぞれの任につく太助とマクベイン。そのほかのメンバーもつられて別れていく。
 
 
「んじゃま、軽く小手調べと行きますか。パープルファングッ!!!
 
大きくジャンプして振りかぶった翔子は、右腕甲の部分から巨大な紫色の爪を出現させ、地上に落下する慣性を利用して太助に襲いかかる!!
 
「んなもなぁ、これで十分!!ラスタバン・ビームッ!!
 
しゅびゃぁぁぁぁっ!!
 
 
太助の持つ『ヴェリアクア』から放たれた青いビームが翔子の攻撃の勢いを殺し、彼女をそのまま地面へと落下・・・もとい着地させる。すると・・・
 
 
「ちょっと待て!!」
 
「ん、何だ山野辺。自分からふっかけてきて今更命乞いなんてオチは・・・」
 
お前はが合体した最強ロボットかっ!!何でそんな技使えるんだよ!?」
 
「いやぁ、カントスにつく前に魔獣相手にレベル上げしてたら何か知らんが使えるようになった。」
 
「何か知らんがって・・・・お前そのうち遠藤みたく目や口からビーム出したり股間からミサイル出したりしねーだろうな?」
 
いくら乎一郎でも股間からミサイルは無理だろ。
 
 
「他にもこんな技を習得したぞ。移山召喚っ!!
 
「何ぃっ?!」
 
 
太助が空高くへと投げつけた術札が空中で炸裂、空に巨大な魔法陣が出現し雲の渦の中から巨大な岩が出現し徐々に落下し始める。
 
「マウンテンプレッ・・・」
 
「このアホちんっ!!」
 
ばきゃっ!!
 
 
大急ぎで太助にドロップキックをかまし、強制的に技を中断させた翔子。
 
こんな所で巨大岩にサンドイッチにされたらたまらないし、何より無関係な人たちにも甚大な被害が及ぶ。
 
「アホかあんたはっ!!そんな技やったら他の旅人さんに迷惑がかかるだろーがっ!!」
 
「ふふふ、なかなかナイスなキレのツッコミだったぞ。」
 
 
何やら不毛な闘いになってきたなぁこの二人。ま、何だかんだで時間稼ぎできてるからいいけど・・・。
 
 
「さてと、あそこの漫才夫婦二人は放っといて・・・どうするじいちゃん。これだけ数が多いとさすがに僕らじゃ・・・。」
 
「・・・・・フォルト、お前まだアレのフレーズを覚えとるか?」
 
「アレって・・・まさか、攻撃魔法?!」
 
「今しか使う時はあるまいて。」
 
「でも、攻撃魔法を使ったら・・・・」
 
ウーナの一言にマクベイン達は一斉に半年前の事件を思い出した・・・。出来ることなら二度と使うべきではないとは思っていたが・・・。
 
 
「ぐああぁっ!!・・・くそぉっ!!
 
「どうしました?威勢がいいのは最初だけみたいですねぇ・・・。」
 
「だ、黙れっ!!これからだ・・・これから貴様に地獄を見せてやるっ!!」
 
 
「・・・あの様子では使わざるを得まい。」
 
「・・・・・・・分かったわ。太助さん、実さん、あと少し頑張ってください・・・。」
 
渋々納得したフォルトとウーナ。それに呼応してか、シャオとレイチェルは各々の武器を構え直す。
 
 
「シャオよ、手筈は分かっておるな?」
 
「あいよ師匠。師匠達の演奏が終わるまで吾輩達で足止めすればいいのよねん?」
 
「そういう事じゃ。レイチェル、シャオのバックアップに回ってやれ。」
 
マクベインの依頼に手を振って帰すレイチェル。
 
 
「オッケー。それじゃ父さん、行くわよっ!!」
 
「おう!海夜の月初、吾輩達の華麗な舞を見せてやるよーん♪」
 
そう言ってシャオはご自慢のハンマーを構えた状態で距離を縮め、大きく振りかぶってぇ・・・
 
「よっこらせぇ〜〜っと!!」
 
 
ずどーんっ!!
 
 
2匹ほど直撃は免れたが、逃げるのが遅れた怪物の一匹がシャオのハンマーによって、せんべいみたくペシャンコになってしまった。
 
 
「ほれぃレイチェル!残りをそっちに打ち込むぞい!!」
 
「任せてっ!!」
 
今度はハンマーを引きずりながらも猛スピードで怪物へと突進していき、その勢いを利用してハンマーを思いっきり振り回した!!
 
 
ぶおぅん!
 
ばこっ!!ばきゃっ!!
 
勢いよく放たれたシャオのハンマーは残り2匹を完全に捉え、レイチェルの方へとブッ飛すとそれを見透かしていたかのように、
 
既にナイフを構えていたレイチェルは正確無比な腕でナイフを投げ、怪物の脳天に突き刺す!!
 
ハンマーで吹き飛ばされた時のダメージと合わせ、脳に致命傷を負った怪物はそのままの勢いで地面を転げ落ちた。
 
 
 
一方そのころマクベイン一座は各々の楽器を構え、何やら今までとは違った面持ちで共鳴魔法のフレーズを演奏し始める。すると・・・
 
 
ごごごごごごごごごご.....
 
 
けたたましい大気の揺れと共に、上空にて何やら異変が起きている。無論その状況に他の面々が気付かないわけがなかった。
 
どよめきを隠せない一同の中で異彩を放つ人物が一人。無論淋である。
 
 
「おぉ・・・これこそ私達が探し求めていた・・・」
 
淋のセリフが全て終わる前に、突如空に巨大な炎の固まりが発生しその大きさはどんどん増していった。
 
「「「共鳴魔法『炎』のフレーズ・・・ラフレイムっ!!!」」」
 
 
マクベイン達の演奏が終わると同時に、上空の炎の固まりから何本もの火柱が地面へと足を伸ばし全ての敵を焼き払っていく!!
 
あまりの高熱に思わず太助達も顔を覆う。
 
 
「これが・・・共鳴魔法なのか・・・。」
 
「これだけの隠し球があったなんて・・・マクベインさん達も人が悪いや。」
 
それぞれ初めて見る攻撃型の共鳴魔法を目の当たりにし、呆然とする(乎一郎は例外)。
 
その一方で、淋は・・・
 
 
「さてと・・・いいもの見させて貰ったんで私はここでおいとまさせて貰いますよ。」
 
「何っ!!逃げる気か?!」
 
「私には、まだやらねばならないことがありますので・・・。あ、それと山野辺さんは弱い催眠術にかけただけですから、そのうち元に戻りますから放っといても大丈夫ですよ。」
 
 
早く言え〜〜っ!!
 
 
未だに炎が辺りを駆けめぐる中、器用に炎をかわしながらその場を立ち去る淋。
 
 
・・・・・数分後
 
 
「ちっ・・・淋のヤツ、中途半端な所で撤退しやがって!!」
 
些か無念さが残る実。拳に力を溜め、怒りにまかせて拳を地面に叩き付ける。
 
「・・・実。」
 
「何だ太助・・・・っつーかお前カントスでじっとしてろって言っただろ?!」
 
「ふふふふ・・・俺があんな忠告を聞き入れる訳ねーだろ。それに、俺たちがいたから逆に助かったんだし、結果オーライって事でいいじゃん。」
 
確かに・・・淋だけならまだしも怪物や翔子まで相手にしていたら間違いなく実達でも全滅していただろう。
 
そこら辺は一応感謝しているらしく、俯いたまま右腕親指を立ててグッと差し出す。
 
 
「今日がダメでも明日があるじゃん。敵討ちなんて堅っ苦しく考えるよりか、打倒ライバルみたいな心境で臨んだ方がよっぽど楽になると思うぞ俺は。」
 
「いっつも堅っ苦しい人生送ってくるからね太助くんは。」
 
「それに、静佳って娘もお前に復讐に生きて欲しくなんか無いって思ってるぞ絶対。」
 
「逆にシャオちゃんがらみで、いつも復讐されてばかりだからねぇ太助くんは。」
 
「いちいちうっさいぞそこのメガネ。」
 
そんな二人のやりとりを見て確信に至った実の一言。
 
「太助。」
 
「ん、何だ?俺に賛の声を浴びせてくれるのか?」
 
「お前最近性格が『裏』の方じゃなくて『壊』の方になってきてないか?」
 
 
「・・・・・・・・。」
 
ヤベェだろヲイ。
 
 
 
to be continued...
 
あとがき
 
久々に出てきてこれかい。大丈夫かなこのSS。