第25話「風の記憶」
 
 
「おぉ〜い!」
 
ん・・・?誰や?何や遠くから俺を呼んでるな。
 
 
「全く・・・こんなトコで昼寝しとったら風邪ひくで、剛。」
 
 
あ・・何か意識がはっきりしてきたな。目を開けるとそこには・・・・
 
男「お、目を覚ましたか。」
 
女「剛はおとーちゃんに似てのほほんしとるさかいに・・・滅多な事で風邪はひかへんで?」
 
男「おいおい、ワシはそんなに普段からのほほんしとるんか?」
 
とーちゃんとかーちゃんや。
 
辺りを見回すとそこは見慣れた公園の草原。あ、そうか・・・お日様が気持ちよくてそのまま寝入ったんやな。
 
とすると、二人は俺を捜しとったんか。
 
 
剛「とーちゃん、かーちゃん。お仕事おつかれさん!とーちゃん達待っとったら昼寝してもーたわ。」
 
父「悪い悪い!」
 
母「お詫びに剛の大好物の大判焼き買うて来たんや。」
 
ぷくーと膨れた俺にわびるように、ホカホカの大判焼きを一つ差し出すかーちゃん。
 
仕事のせいでちょっと荒れてるけど・・・あったこーて優しいかーちゃんの手。大判焼きの入っとる袋を持っていたせいで、ちょっといい匂いがする。
 
 
剛「あんがとかーちゃん!・・・とーちゃんからはなんか無いの?」
 
父「おいおい、大判焼き一つもろてまだなんか欲しいんか?!」
 
剛「この世の理は等価交換!許して欲しいんやったらおもちゃの一つや二つ買うて来い!!
 
父「子供のクセにえらく現実主義やな。」
 
本気で言うとるのにれいせーにツッコんで来るとーちゃん。うん、しょーらい良い芸人さんになれるでとーちゃん。
 
 
剛「ところで・・・ずっと前から気になってたんやけど、とーちゃん達の仕事って何なんや?」
 
父・母「「・・・・・・・・・・」」
 
黙り込むとーちゃん達。やけどずいぶん前から気になってた事なんや。この際聞いてみんと気がすまん。
 
 
父「・・・とーちゃん達はな、薬を作る仕事をしとるんや。」
 
剛「薬?かぜ薬か何かか?」
 
まぁ子供の俺にはそれくらいしか浮かばんかったから・・・適当に言うてみた。すると・・・
 
父「下剤。」
 
剛「月並みもええとこやな。」
 
とーちゃんのボケに思わず俺も素でツッコんでもうた。つーか下剤を真剣にけんきゅーする大人ってどうなん?
 
 
父「・・・冗談や。」
 
剛「そらそやろ。ホントの事にしとったら今頃かーちゃんの『三沢光晴エルボー』かまされとるな。
 
その証拠に、既にかーちゃん臨戦態勢に入っとるし。
 
母「・・・かーちゃん達はな?このコロニーに暮らす沢山の子供達のために『ワクチン』を作ってるんや。」
 
父「だが、普通のワクチンは一つにつき有効な病気は一種類だけ。これじゃ満足に治療できへん事もざらや。」
 
剛「知ってるで。最近薬が足りのーて、毎年沢山の子供が死んでるって・・・テレビで言うとった。」
 
 
そう・・・俺もその一人やった。めっちゃ小さい頃にでっかい病気にかかって、とーちゃんかーちゃんにすっげー迷惑かけた事があった。
 
でも、とーちゃん達の作った薬のお陰で今こうして生きてられる訳なんや。
 
 
父「とーちゃん達の作っとるワクチンはそんなヘボいモンやない!どないな病気にもたちどころに効く、『万能薬』みたいなワクチンや!!」
 
剛「へぇ〜そら凄いなぁ。そのワクチンが出来たらとーちゃん達ごっつぅ有名人になるな!!」
 
父「あぁ!!そしたらお前の大好物の大判焼き、たらふく食わしたるわ!大判焼きだけやなくて普段食えへん様なメシを腹一杯食わしてやる!!」
 
剛「おぉ〜♪とーちゃんかーちゃん頑張れ〜♪」
 
 
勢いに任せ、俺を抱き上げて「たかいたかい」するとーちゃん。・・・・・あれ・・・何か、また視界が・・・・ぼやけ・・て・・・・・・・
 
 
 
・・・・・・・・・・・・
 
 
とーちゃんとかーちゃんが『動かなくなった』のは、それから1週間もせんうちやった。
 
・・・あんましはっきりとは覚えてへんけど、がむしゃらに、三日三晩泣き続けてた事は覚えとる。
 
 
俺が近所のダチと一緒に遊んどる間に、家に誰かが入り込んできて「バン」・・・・・・。頭を一発でやられて即死やったそうや。
 
幸せを一気に奪い取られた気分やった。身よりもなく、これからどうやって過ごすか、ガキの頃の俺はそれなりに一生懸命考えた末に、今の生活を選んだ。
 
・・・・何もかもが苦痛やった。食事をするんも一人・・・学校に通うんも一人・・・・・風呂に入って、寝るんも一人・・・・・
 
 
今まで、当たり前のようにいてくれて、俺をいつも笑わせてくれた二人・・・・。
 
でも、もう・・・いない。
 
 
夜を迎えるたびに・・・・・・俺は何度も泣いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
それから数年後。
 
今の生活にも大分慣れたときの事や。一人暮らしを始めるために家中の荷物を整理し取ったときに・・・・俺は、とーちゃんからの手紙を見つけた。
 
その時久々に見たとーちゃんの文字は、ややかすれていたのを覚えとる。
 
 
 
剛へ
 
この手紙を読んでいるという事は・・・とーちゃん達は何らかの理由でお前のそばにおらんっちゅうこっちゃろ。
 
いつか、お前がこの手紙を見つけると信じて、ここに真実を書き残す。今は解らんでもええ。でも、心のどっかに留めとって欲しい。
 
 
お前に以前話した、夢のワクチン。・・・アレは薬ではなく、特殊なウィルスの力を借りた全く新しい治療法なんや。
 
アレは病人に打ち込むと様々な臓器に住み着き、栄養を提供して貰う代わりに全ての病気の要素を取り除くという
 
野生の世界に見られる「共存の理論」を応用した物なんや。
 
 
正しい事に使えば沢山の命を救える。・・・やけど、使い方を間違えればこれは悪魔のウィルスにもなりかねんのや。
 
最近とーちゃん達の仕事場の周りが騒がしくなってきとる。
 
多分、近いうちにとーちゃん達の研究は悪者達の手によって大惨事の引き金になるやろ。
 
そんな時には、剛。お前の手で止めてくれ。
 
 
とーちゃん達の不甲斐なさのせいでお前の人生が狂ってしまうのは耐えられん。
 
せやからこれは強制はせん。やるもやらないも、お前が自分で考えて決めろ。
 
 
お前がこれからも笑顔に満ちあふれた未来を歩む事を願う。
 
 
父より
 
 
 
 
 
「よしさん・・・・・」
 
ん・・・・また何か、意識がもうろうとする。それに・・・眩しい。
 
婦人「剛さん。そんなところで寝てらっしゃると風邪をひかれますわよ?」
 
眩しさが突然途切れた。ゆっくりと目を開けると・・・目の前には一人の女性が。
 
剛「あ、ルプシャ女史はん。」
 
 
剛の現在位置、ボザール中央の自警所。ここには街の治安を預かる自警隊の長、ルプシャ女史がいる。
 
時空乱流に巻き込まれ、この世界に飛ばされてきてから剛は彼女の元で手伝いをしつつリナ達の情報を収集している。
 
 
剛「あ・・・俺、もしかして居眠りしてました?」
 
ルプシャ「ええ、それはもうぐっすりと。」
 
思いっきりこめかみ辺りにぴきマークが浮かんでるし。
 
剛「あああああっ!!!!すんませんすんませんっ!!今すぐ持ち場に戻りますんで折檻は勘弁ッス!!
 
ルプシャ「あたくしの元で働くからにはそれなりの自覚を担って貰わなくては困りますわ。・・・てなわけで、ちょっとこちらへいらして下さい。」
 
 
 
その数分後、ボザールの街中にムチと歯車っぽい音がこだまして、街の住人を恐怖のどん底にたたき落としたそうな。
 
 
 
 
to be continued...
 
 
あとがき
 
久々・・・です。久々(本当に久々に)に裏月天らしくギャグとシリアスが調和できたかなぁと思いました。
 
今このSS書いてる最中にYellow Generationの「扉の向こうへ」(鋼の錬金術師 2代目ED)を聞いてます。
 
だからこんな雰囲気になっちゃったのです。