File 1 悪夢、そして始まり
 
 
あらすじ
 
 
人類が宇宙に進出して早三〇〇年。地球は既に環境破壊が進み、全ての資源が底をつくなど、様々な問題が発生した。
 
このため人類は月面に空間圧縮技術を応用した都市を築き、さらなる資源惑星を求め、遙か彼方の銀河系へと旅立った。
 
それから数年後、人類はそれら他の銀河に生息する異星人と限られた資源をめぐって大規模な戦争が起こり、太陽系に留まっていた人々にも多くの犠牲者が生まれた。
 
そして、さらに時は流れ西暦二六〇〇年。人類と異星人達は、互いの種の保存と和平の道を模索するために一時的に戦争を中断し、
 
全銀河系の平和を維持する銀河系国際連合付属超常現象犯罪解決独立部隊。通称OCSIANを設立。翌26〇一年から正式に活動を開始した。
 
時は流れ・・・人は皆、すべてを忘れて生きていた・・・。
 
 
 
 
西暦2635年、5月4日、雨。一都市のはずれの山にある研究所でそれは起こった。
 
ここOCSIANの兵器開発研究所では、新型の人型人動兵器に搭載するエンジンの出力調整実験を頻繁に繰り返していたのだ。
 
が、今回実験で使用された反物質衝突炉が突如制御不能に陥り、暴走しだしたので研究員達はその対策でてんやわんやなのである。
 
暴走が確認されてから3時間24分11秒。本来ならとっくに研究所は消し飛んでいてもおかしくないのだが、所員達の賢明の対処によって
 
何とか炉心融解だけは今のところ免れていた。そして、ひときわ表情が険しい二人の研究員がいた。
 
 
「第一・第四冷却バルブの稼働状態は?
 
 
「駄目です!バルプ内部で冷却液が膨張して更に暴走を促進させています<
 
「第一から第五までのバルブを全てカット!強制冷却剤を外側から噴出してみてくれ!」
 
 
「強制冷却剤噴出・・・。駄目です、全く効果がみられません!」
 
男は周りのスタッフに対策指示を出すが、暴走は更に進行する。
 
「第八から第一〇のバルブに亀裂発生、冷却装置の稼働率に支障あり!」
 
「縮合シリンダー、内部圧力臨界点を突破!駄目です、炉心融解まであと八二五秒<
 
「くそっ!このままではここら一帯は完全に消滅してしまう!どうすれば・・・。」
 
所長らしき男はコントロール盤を両手で思いっきり叩き、自らの無力さに怒りを覚えた。このままなす術もなく終わってしまうのか?すると、男の隣にいた女性がきりっとした表情で言い放った。
 
 
「あなた。こうなっては・・・あの手しかないわ。」
 
「・・・炉の手動による強制停止か!」
 
「ええ。この方法なら例え炉心融解を起こしても被害は最小限に食い止められるわ。」
 
男の側にいた女性は優しく、そう答えた。だが、
 
 
「しかし・・・手動で炉を停止させるには誰かが炉の側まで行かなければなりません!そんな危険な事、無理ですよ!」
 
二人の側にいたオペレーターは女性の意見に激しい反対の意を表した。
 
 
「・・・なら、私達(われわれ)が向かえばよいのではないか?」
 
「!ダメです、希美博士!ここであなたを失ったらこのプロジェクトは完全に行き倒れです!」
 
「なら誰か代わりの者を用意すればいいじゃないか。この暴走には私の責任もあるし、何より一人の人として、この事故によって罪も無い人々を犠牲にするわけにはいかんだろ?」
 
「しかし・・・博士にはお子さんがいらっしゃるそうじゃないですか!その子を置いて先に逝ってしまうなんて・・・。」
 
「・・・心配いらんよ。あの子は強い子だから・・・私達の子だから、私がいなくても一人で十分生きていける。それより・・・君はどうする?公恵。」
 
公恵と呼ばれた女性は男に微笑み返し、こう答えた。
 
「私は・・・あなたと一緒にいきます。私、今まであの子に何一つ親らしい事が出来なかったから、これでせめてその罪を償いたいんです。」
 
「そうか・・・。それじゃあ君、君も早くこの場から離脱したまえ。時期にここは消滅するかもしれないからな。」
 
「待って下さい、博士!」
 
「君も科学者の端くれならこういう時に私情で行動しない方がいい。・・・さあ、いくんだ!」
 
そう言うと、男は最後に残ったオペレーターを脱出ポットに向けて突き飛ばし、女性と共に光の奥に消えていった。
 
 
ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・
 
 
(待って、父さん!母さん!行かないで!)
 
少女の願いが聞こえていないのか、二人は振り返ることもなくそのまま光の中を進んでいった。
 
 
「いやああぁぁぁぁっ!」
 
 
がばぁっ!
 
 
 
少女が起きてみるとそこは自分のベッドだった。とてつもなく嫌な夢だったので、呼吸や心音が速い。
 
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
 
少女は俯いたまま、息が落ち着くのを待った。そして、一通り呼吸が治まると最後に深く深呼吸をした。
 
 
「また、あの夢か・・・。嫌だな、もう。」
 
ここ数日続いている、十年前の悪夢。もうとうの昔に忘れたと思っていたはずなのに、それが何故今頃?
 
 
(一ヶ月前までは二週間に一回の割合だったのに・・・ここのところ毎日になってる。・・・どうして?)
 
 
そう思いつつ、少女は布団の中に潜り込み、目を閉じた。
 
(・・・いけないいけない!明日から新しい学校生活が始まるって言うのに・・・。もうこんなこと考えないようにしよう・・・。)
 
小さい頃から嫌な事の前には必ずと言っていいほどこの夢を見てしまう事を考えると、何かまた嫌な事でもあるのかな・・・と少女はふと心の隅で思ってしまうからだ。
 
このままではいけない。「自分は明日から変わるんだ。」そう心に決めたからだ。
 
そう・・・全てはここから始まった。
 
 
 
悪夢の一夜が明け、少女は自分の通う学校へと来ていた。
 
ちなみに現在彼女がいるのは月の都市(ルナシティー)第53番地区・・・。
 
地球で言う東京である。この時代では、月に都市がざっと一五〇は建設されており、それらの都市はみな独立した国や都市で、
 
空間圧縮技術により一都市辺り三億人は余裕で住める面積を誇っている。彼女は実質一人で生活しているが、
 
ちょっとした理由で都立の中学校に最近転校してきたのだ。少女は担任の教師と共に自分のクラスへと移動し、
 
そして教室にはいると先生が彼女の名前を黒板に書き、生徒達の方を向いた。
 
担任「今日から君達と一緒に過ごす事になった園部リナさんだ。」
 
昔も今も変わらぬ先生の転入生紹介である。
 
 
リナ「第58番地区から転校してきた園部リナです。皆さんよろしくお願いします。」
 
そう言った後、リナはクラスメイトの達に対し浅く礼をした。・・・が、転校生と聞いて黙っているほどこの時代の中学生は大人ではない。一気に静寂していた教室がザワザワと賑わった。
 
 
担任「席は・・・藍川の隣があいてるな。藍川、彼女にこの学校の勝手を色々教えてあげなさい。」
 
少年「はい。分かりました。」
 
その少年がそう返事をした後、リナは自分の席へと向かい、席に着いた。
 
 
一「初めまして園部さん。僕はこのクラスの委員長の藍川 一(あいかわ はじめ)っていうんだ。困った事があったら何でも相談していいよ。」
 
リナ「ありがとう、藍川君。」
 
 
担任「さてと・・・早速で悪いんだが園部、この手続き書を書いて来てくれ。期限は一週間後までだから忘れないようにな。」
 
そういうと、先生はリナにプリントを渡し、教卓へと戻った。
 
そして・・・、少し展開は早いが昼休みへ突入・・・。早くもリナは学校の注目の的になっていた。
 
なぜなら、この学校にはここ三十年間誰一人として転校生はやってこなかったので、彼等にとって他の地区から来た同い年のリナはまさにアイドル的な存在だった。
 
まあ、どっちみち転校生という身分上同じ結果になっていただろうが。
 
女生徒A「ねえねえり園部さん、前の学校ってどんな感じだった?」
 
男子生徒A「彼氏とかいんの?」
 
男子生徒B「趣味はなに?誕生日いつ?」
 
等々リナに様々な質問が飛び交う。彼女もそれに答えるために必死になって彼等の質問に答える。
 
一「このクラスに来た途端に一気に有名人だなリナさんは。」
 
女生徒B「無理もないわよ。結構かわいいし・・・男子達がいやに多いのがなりよりの証拠よ。」
 
一と女生徒の一人が何やらプリントを持ったままブツブツ呟いている。そんな時・・・
 
???「だ〜!また遅刻やー!!・・・ってあら?その子は誰?」
 
一「・・・出た。」
 
???「何や一、出たはないやないか。その子って・・・転校生かいな?俺にも紹介してくれや。」
 
一(それが問題なんだってば・・・・)
 
一と女生徒が落胆の表情を浮かべていることに気付かず、少年はリナの方へと近づいていった。
 
 
???「おっす、転校生!」
 
リナ「?・・・???誰、あなた?」
 
さすがに訳が分からず、キョトンとするリナ。
 
女生徒B「ちょっと剛!フツー初対面の女の子に『おっす!』なんて挨拶する?
 
剛「まあまあ、細かいことは気にすんなや。」
 
女生徒B「細かかかないわよ>」                  
 
 
リナ「あ、あのー・・・。あなたは一体誰?」
 
とりあえずここで止めなきゃマズイ。そう確信したリナは少年に再び尋ねた。
 
 
女生徒B「気にしなくていいのよリナさん。こいつはこの学校でトップクラスのスケベ野郎、赤坂 剛(あかさか つよし)ていうの。こういうヤツは無視するに限るわ。」
 
剛「おい!ちょっと待て!俺からちゃんと自己紹介させろや<
 
女生徒B「何言ってんのよ!あんたなんかそんな資格すらないわ!」
 
剛「む・・・ムカつくなこのアマぁ・・・(怒)」
 
思わず剛はワナワナと右手の拳を振りかざし、ぎゅっと握りしめた。
 
女生徒B「何よ文句あるの?そんなんだから未だに彼女いないのよ!
 
剛「関係ないやないか、そんな事!」
 
リナ「まあまあ、二人とも押さえて。・・・とにかくこれからよろしくね剛君。」
 
喧嘩する二人をなだめながら、リナは剛に挨拶した。
 
 
剛「・・・あ、ああ。何や、いやに物分かりがええやないか、園部。」
 
女生徒B「いいの、リナさん?こんなヤツと仲良くしたって何一ついい事なんてないのに・・・。」
 
リナ「私は損得とかで人とは付き合いたくないの。私はただ純粋にみんなと友達になりたいだけなの。」
 
剛「ほ〜っ・・・何や結構できるやんけ。ここら辺の女子とは全然人間が違うなぁ・・・。」
 
妙に「ここら辺の女子」の部分にアクセントを置く剛。さすがに今のコメントにはプッツンと来た女生徒。
 
 
女生徒B「何言ってんのよ!一番人間ができてないのはあんたの方じゃない!」
 
剛「なんやとこの!!」
 
リナ「あ、あの・・・。」
 
一「止めても無駄だよ園部さん。剛と女子との喧嘩は日常茶飯事なんだから。前にも止めようとした教師三人が病院送りにされてる・・・。」
 
「マジですか?」
 
「大マジです。」
 
何と、これで普通なのか?と転校初日から驚かされたリナだった。いままで自分の人生の中でここまでマジになって言い争う男女も珍しかったのだ・・・。
 
リナ「みんな・・・楽しそうな人達ですね。私、この学校に越して来れて本当によかった。」
 
一「そういって貰えるとうれしいよ。・・・まあ際だって個性的なのがあの剛だからね。おかげで毎日退屈しないよ。」
 
リナ「そうなんですか・・・。」
 
剛と女生徒の言い争いを遠目で見ながら一とリナはしばし間を置く。の後、リナは思い出したように一にこう言った。
 
 
リナ「あっ、そうそう藍川君・・・だっけ?私の事はリナって呼んでくれませんか?その方が一番しっくりくるし。」
 
一「じゃあ僕の事も一でいいよ。あとその敬語も別にいらないと思う。だって僕らはクラスメイトだろ?」
 
リナ「でも呼び捨ては・・・。あっ、じゃあ一君でいい?」
一「う〜ん・・・。まっ、いいか。じゃあ改めてよろしく、リナ!」
 
リナ「うん!一君。」
 
剛「お・・・俺の立場は・・・(哀)?」
 
一とリナのやり取りですっかり忘れ去られかけていた剛であった・・・。
 
 
 
・・・・・
 
 
 
???「どうですか?彼女は。」
 
オペレータ「・・・聞くところによると彼等の娘というじゃないか。別に悪くはないが・・・問題は能力(ちから)だ。」
 
二人の男が暗い一室で何やら話し合っている。そして、テーブルの中央には立体映像(ホログラフ)で映し出されたリナの姿があった。
 
オペレータ「その点も問題ありません。この資料を見てください。」
 
オペレータらしき男は椅子に座っている指揮官に右手に持っていたファイルを手渡した。それに一通り目を通した指揮官はわずかに驚いた。
 
指揮官「・・・なるほどな。それはともかく、例の奴らは?」
 
オペレータ「現在、S・C(ソルジャー・コード)148が担当しております。」
 
指揮官「分かった。早急に片付けろと伝えておけ。」
 
オペレータ「分かりました。」
 
そう言うと、オペレータはドアを開け、去っていた。
 
指揮官「・・・・これも、運命(さだめ)か。」
 
 
to be continued...
 
 
 
あとがき
 
どうも、久しぶりに物書きをやってみたtakkuです。
 
実はこれ、海夜の月よりも前に作ったヤツなんですが、リナの過去を公表するにはこの話が一番かと思ったのでリメイクしてみました。。
 
まだ裏の方に目覚めてなかった頃に書いたのであんまり面白くないかもしれませんが。