File 2 見守ってくれる者(ひと)
 
 
リナが転校して早3週間、だいぶ慣れた新たな学校では彼女には多くの親友ができていた。
 
中でも、一・剛・の二人は校内の中でも特に仲が良かった。一部では「漫才デコボコトリオ」などと呼ぶ者がでてくるほど、第三者から見ても三人の仲の良さは明白なのだ。
 
 
そして、三週間目の土曜、一日最後の授業が終わった放課後・・・。
 
 
剛「さ〜ってと、今日明日は何して過ごそっかな?」
 
一「たまには勉強もしなよ剛・・・。」
 
剛「何や一。せっかくの休日に何で勉強せなあかんのや。どうせやからバーッと遊んじまおうぜ。」
 
リナ「私もその意見には賛成だな。ここのところ色々忙しかったし・・・少し休みが欲しわね。・・・そうだ!せっかくだから二人とも私の家に来ない?」
 
剛「な・・何やと?
 
一「い・・いいの?」
 
リナ「うん、どうせ私と弟だけしか住んでないから大丈夫よ。」
 
剛「(親もおらず子供だけで生活しとる家。そんな家に女の子が俺を呼びやがった・・・。)そ、それってつまり・・・って痛てぇ!!
 
思わず顔がニヤけた剛だっが、何を考えていたのか察しがついた一に思いっきり右足を踏まれた。
 
リナ「とにかく私の方は問題ないわ。それより二人は?」
 
剛「俺か?う〜ん・・・まあどうせ家におっても暇なだけやしな。俺は別にええで。」
 
剛はあっさりOKした。まあ下心あっての返答だったのは明白だが・・・。
 
一「まあ僕も大して予定は入ってないけど・・・大丈夫かな?」
 
リナ「大丈夫よ。一君もたまには一緒に遊ぼうよ。最近学級委員の仕事で忙しそうだったし。息抜きにネ♪」
 
一「そうかな・・・?でもまあリナが言うんだったら、お言葉に甘えさせて貰おうっと。」
 
剛「よぅっし!そうと決まったら早速リナの家に行こうぜ。」
 
リナ「でもちょっと待ってて。ちょっとばかし部屋がとっ散らかってっるから、一時間位家の近くで待ってて。」
 
一「うん。分かったよ。じゃあまた後で。」
 
リナ「ええ、何かあったらまた連絡するから!」
 
一足先に向かった一を見送ったリナは、自分も急いで自宅へと向かうことにした。が、その時。
 
 
リナ「・・・?」
 
背後から誰かに見られているような感じがしたリナはふと後ろを振り向いた。
 
リナ「・・・気のせいかな?」
 
あまり気にすべき事ではないなと判断し、リナは自宅へと向かった。
 
 
 
・・・・・・
 
 
 
リナ「さあ、入って入って。遠慮しなくていいよ。」
 
一「こ・・・これはちょっと凄いかも?」
 
玄関に一歩踏み入れた一達だったが、それ以前に家に入る前からすでにビックリしていた。リナの家とは学校から800m位離れた所にあるアパートの一室なのだが、
 
これがまた中学生と子供一人の二人だけで生活しているとは思えないほど高級なアパートで、自分たちが生活している家とはまさに月とスッポンだったのだ。
 
剛「ホ・・・ホンマにこれがフツーの女の子が住んでる家かいな・・・・どないする、一??」
 
一「どうするも・・・せっかく来たんだし、お邪魔させて貰おう。」
 
靴を脱いだ二人は恐る恐る慎重に廊下を歩いて行った。なんせここまで高級なアパートになるとフローリングも
 
高級な物となってくるのが相場なので、傷を付けてはマズイ!・・・ということで二人ともかなり慎重に足を進めた。
 
何とかリナの個室にたどり着いたときにはもう・・・精神的試練によって二人ともボロボロの状態だった。
 
リナ「・・・お疲れさま。」
 
他に言いようがないのでとりあえずリナは二人にそう言った。
 
 
一「・・・リナはこの街に越してきてから、ずっとこんな凄いとこで暮らしてるの?」
 
リナ「ええ。父さんも母さんも死んじゃったけど、ある程度お金を残してくれてたから今こうしていられるの。この部屋も、その蓄えがあったから借りることができたのよ。」
 
一「へえ・・・リナも大変なんだね。親御さんが両方いないのに・・・。」
 
窓際でたそがれるリナの後ろから一が囁くように話しかけた。
 
リナ「そうでもないわよ。慣れれば結構楽しいし、私にはまだたった一人の家族がいるんですもの。」
 
剛「ああ、そういやー弟がおる言うとったな。」
 
リナ「ええ、祐(たすく)っていうの。もうすぐ帰ってくると思うんだけど・・・。」
 
玄関前に向かって、自分の弟の帰宅を待つリナ。どうやらいつもよりも帰りが遅いみたいだ。
 
祐?「ただいまぁ!お姉ちゃん何処?」
 
リナ「あっ、帰ってきたわ。・・ここにいるわよ!」
 
ドタバタした足取りで小さい男の子がこの部屋へとすごい勢いで向かってきて、そのままリナの胸の中へとダイブする。
 
その様子を仲むつまじそうに見つめる一と、羨ましそうに妬む剛。
 
見た感じでは七〜八歳位といった感じだろう。不思議と髪の毛のボサボサとした感じが剛とダブって見える。
 
祐「お姉ちゃん、このお兄ちゃん達は?」
 
リナ「私と同じクラスの剛君と一君よ。今日は一緒に遊ぼうって事になって、うちに来て貰ったの。」
 
剛「えーと・・・俺は剛、んでこっちは一いうんや。よろしゅうな、祐。」
 
気軽に声をかけようとする剛だが、やはり所詮は子供。人見知りが激しいらしく、リナの後ろに隠れてオドオドしている。
 
 
剛「何か・・・リナに懐いてるって感じやな。」
 
一「ホントだ。何だかリナが祐君の母親みたいに見えるよ。」
 
確かに、こうしてじっくり見るとしっかり者の姉と言うよりもかなり若い母親と言った図式がぴったりで、微笑ましい限りである。
 
二人のセリフを聞くなり、リナはこれ以上にないほど顔を赤く染めた。
 
リナ「お、おおおお母さんだなんて・・・ちょっと待ってよ!私まだそこまで老けてないわ。」
 
剛「いっぱしに照れるとこがまた怪しいで?」
 
リナ「もう、からかわないでよぅ剛君。それに祐だって私のこと『お姉ちゃん』って呼んでるじゃない。」
 
リナは懸命に説明しようとするが、剛に関しては素直に認める気にはなれないらしい。すると・・・
 
グウゥゥゥゥ・・・キュルルゥゥ・・・・・
 
けたたましい腹の虫の音が部屋全体に鳴り響く。音の主は・・・祐と剛である。
 
 
祐「お姉ちゃん、そういえば僕お腹空いた。なんか食べるもの無い?」
 
剛「そういやー俺も腹減ったな〜。」
 
 
リナ「もう、二人ともゲンキンなんだから・・・。待ってて、今何か作ってあげるわ。」
 
そう言うとリナは徐に通路に掛けてあったエプロンを身につけ、キッチンへと向かった。
 
その姿を見て、一と剛は彼女の手際の良さにビックリしていた。
 
一「さ・・・さすが学生兼母親(?)。手慣れてるな・・・。」
 
剛「う〜ん・・・祐の姉貴にゃもったいない!今度リナを俺んちに呼んで・・・ぐふふ♪
 
なにやら剛は勝手に妄想の世界へと突入してしまったようだ。顔が気持ち悪いくらいニヤけており、変態もいいとこである。
 
・・・そして、一時間後。
 
「みんなー=ご飯できたわよー>
 
剛「おっ、飯や飯や。」
 
一「・・・何かもう、完璧にお母さん役になりきってるな、リナは。しかも不思議と違和感がない・・・何故に?」
 
二人も自然と台所へと向かう。端から見ると、二人とも完全に園部家の一員と化していたのは言うまでもない。
 
ちなみに今日の夕食はクリームコロッケと海藻サラダ、そしてきのこ御飯と何とも一般的なメニューである。
 
未来になっても、日本の食事の内容という物はあまり変化は見られないようだ。
 
部屋中を漂ういい匂いに剛と一の二人は思わず唾を飲んだ。
 
剛「ひゃあぁ〜っ!こいつはうまそうや♪うちじゃあこんな豪勢なメシは食えへんからな!!」
 
一「普段どんな食事をしてるんだよ剛は・・。それにしても凄いな・・・コレ。僕らの分もちゃんと作ってある・・・。」
 
 
リナ「せっかく来てくれたお客さんの分を、インスタント食品で済ませるわけにはいかないでしょ?それに、そんなんじゃ栄養が偏っちゃうし。ちゃんとそこら辺も考えて作ってるんだから♪」
 
中学生の女の子とは思えない力説に、二人はただ感心するしかなかった。
 
でも、祐の方は既に当たり前のように、自分の席にちゃっかりついている。呆然と立ちつすく二人を見て祐が訪ねた。
 
祐「お兄ちゃん達、早く食べないと冷めちゃうよ。」
 
剛「あのさ祐、君の姉ちゃんは毎日こんな風に自分でメニュー考えて作っとんのか?」
 
祐「うん、そだよ。だって僕のお姉ちゃんだもん。」
 
自信満々に答える祐。どうやら彼女の学生兼母親生活はかなり長いようだ。さすがにここまで来ると考える気も失せてくるので、二人は潔く夕食を頂くことにした。
 
 
剛「まあどうでもええわ。早よメシ食おうぜメシ=
 
一「そうだね。じゃあ・・頂きます!」
 
リナ・祐「「いただきまーす>」」
 
一斉に箸をとって夕食を始める四人。橋を進めるごとに会話もどんどん弾み、夕食を食べ終わっても、今度は自分たちの昔話をし始めた。
 
 
剛「俺は五つの時やったかな?親父やお袋が事故で逝っちまって・・・それからはずっとこの街で一人暮らしや。でもうちは貧乏やさかいに、毎日生きてくのにやっとなんや!ハハハハハ!!
 
一「相変わらずスゴい生活してるんだな剛は・・・。まあ僕も似たようなもんかな?小さい時に両親を病気で亡くしたし・・・。それからは親戚の店で手伝いをしながらの一人暮らしさ。」
 
リナ「ふぅーん・・・。何だか私達って、案外似た者同士かもね。三人とも親無しで一人暮らしなんてそっくりだし。」
 
自分達の過去の話題で盛り上がる三人。祐は満腹で、既に居間に移動してテレビを見て楽しんでいる。
 
 
一「そういえば、リナはこの街に越してくるまで一体どんな生活してたの?」
 
剛「おっ、そうそう!俺もそれ気になっとったんや。」
 
リナ「えっ、そ・・それは・・・。」
 
いきなり自分に話題をふられて戸惑うリナ。その戸惑い様に気付いた一が慌てて言い直した。
 
一「あっ、ごめん!・・・話したくないなら別にいいよ。人間誰しもそういうような過去の一つや二つ、あるだろうしね。」
 
リナ「ううん、気にしないで。・・・私ね、別に話したくないとかそう言うのじゃないの・・・思い出したくないだけなの。昔の事・・・。」
 
剛「思い出したくない?・・・そんなにイヤな事あったんか。」
 
『思い出したくない』その一言に二人は妙に疑問を抱いた。まるでリナは自分の記憶を封印しているような言いぶりだったからだ。彼女をそこまでさせる過去とは一体・・・?
 
 
剛「・・・止めや止めや!何か辛気臭くなってあかんなこういう話は。別の話題といこうぜ!!」
 
こういう時だけは剛の空元気な性格が役に立つなぁとつくづく実感していた一とリナであった。剛はそのまま話題のネタを必死になって考えている。
 
剛「うーん・・・そうやな。じゃあ次は将来の夢や。『何の役職になりたいか&どういう風に生きていきたいか』がテーマや。」
 
一「あっ、それいいね。」
 
リナ「将来の夢か・・・。いいわね、それでいきましょ。」
 
冷たい雰囲気を切り裂いて、剛は新しい話題へと移らせることにした。このまま自分たちの暗い過去を言い合ったところで何も始まらないからだ。
 
すると妙にハイテンションとなったリナが突然仕切りだした。
 
 
リナ「それじゃあ・・・まず剛君からいってみよー」←何だかんだで乗り気
 
剛「そうやなー・・・。俺は特になし!ただフツーにのんびり暮らすんが夢や。」
 
一「何か・・・ジジ臭い夢だな。」
 
リナ「特になしって言われても・・・、それって今の生活と全然変わってないんじゃあ?」
 
剛のくだらない夢に二人のブーイングが飛び交う。まあこんなくだらない夢を持つ人間など剛ぐらいだろうが・・・。
 
 
リナ「じゃあ、次は私ね。私は・・・保母さんになるのが夢なの。子供が好きだし、世話するのだって慣れてるしね。」
 
剛「そうやな、なんせ家事全般をこなしてるかんな。ピッタリやんか、リナに。」
 
そう言うと、大人になって小さい子供達と戯れるリナの姿を想像して、思わずニヤけてしまった剛と一だった。
 
 
一「じゃあ最後は僕だね。僕はジャーナリストになるのが夢なんだよ。新聞とか雑誌とか見るの好きだし、何より小さい頃からの夢だったんだ。」
 
剛「ほぉー。一応小さい頃からずっと夢を追い続けて来たんやな。生真面目っつーかなんつーか・・・。せやけどなんでジャーナリストやねん。」
 
一「特に理由なんて無いさ。ま、しいて挙げるとしたら真実を人々に伝えるってところかな・・・。」
 
剛「まっ、昔から一度言い出し聞かんかったかんなお前って奴は。」
 
リナ「・・・・・・」
 
二人の戯れ言を横でじっと見つめるリナ。その直後、見つめられ続けているのに気付いた二人は少し慌てふためいた。
 
リナ「何か二人とも・・・私の知らない二人の事、いっぱい知ってそうね。うらやましいな。」
 
一「まあね、小学校の頃からの腐れ縁だから。」
 
剛「自分らのことで知らん事ってないもんな。もち、お互いの他人に知られとうない秘密事とかも知っとるで。」
 
そのことを聞いた瞬間一とリナが軽蔑のまなざしで剛を見つめだした。あまりの視線の痛さに剛は思いっきりひいた。
 
リナ「他人に知られたくない秘密事か・・・。それって剛君にだけ当てはまるんじゃないの
 
一「言えてるな、そりゃ。」
 
剛「な、何やお前等。そんな軽蔑の目で見るなや!それになあ一、俺知っとるんやで!お前が小3の時・・・って痛ぇ!!」      
 
いきなり足に激痛を訴えて跳ね上がる剛。この様子だと正面に座っていた一に思いっきり足の甲を踏みつけられたみたいだ。
 
 
剛「痛ってえな一!人間生きてりゃ疚しい事の一つや二つあるやんか。俺だけって言うのは納得いかへんで!!」
 
一「あの事を喋ったら・・・昇天させるぞ!」
 
剛「しょ・・・昇天て?
 
リナ「まあまあ二人とも。もう夜遅くになっちゃったし、そろそろ寝よ。」
 
二人の険悪なムードを見て、すかさず止めに入ったリナ。彼女の説得によって我に返った二人は、照れくさそうにリナに謝る。
 
剛「あ、悪い。そういやもう夜中の一時やな。」
 
一「そ・・・そうだね。あんまり騒ぐと祐君が起きちゃうし。」
 
急に静かになった3人。リナはそっと二人を寝室へと案内した。とはいっても客人用の寝室だが。それでもかなりの広さで、すでに大きな二人分の布団が敷いてあった。
 
一「・・・やっぱ凄いな、リナん家って。」
 
剛「案の定部屋は別々なんやな。てっきり俺は四人一緒の部屋かと・・・。
 
一「四人って僕と剛と・・・後は誰なんだよ?」
 
剛の放ったセリフの一部に邪なオーラ(?)を感じた一が、睨み付けるように剛に尋ねた。
 
剛「ここまで来て分からんなんてお前男やないで?!ったくお前なら俺のこの切ない気持ちが分かってくれる思うとったのに。」
 
一「分かるわけないだろ!」
 
リナ「はいはい、ケンカはまた明日。今日は大人しくもう寝なさい!
 
二人を止めたリナの顔つきは少し引きつっており、最後ら辺のセリフなんか声が微妙に低くなっていた。笑顔の奥に潜む殺気を感じた二人はビクビクしながら布団の中へと入る。
 
リナ「じゃあ二人共、おやすみなさい。」←こめかみが引きつってる
 
剛・一「「おやすみ・・・。」」
 
隣に寝ている祐を気遣い、そっとドアを閉めるリナ。・・・がしかし、二人共慣れない環境のせいかなかなか寝付けないでいた。
 
しかも剛はすぐ隣の部屋にはクラスメイトの女の子が寝ているから、一は剛のその邪悪なプレッシャーをモロに受けているせいで、なお寝にくい状況となっていたのだ。
 
そして、お互い寝られない状況の中、一が剛に話しかけてきた。
 
一「剛、起きてる?って起きてるだろうけど・・・。」
 
剛「ああ、起きてる!・・・こんな状態で寝られるかい。」
 
一「・・・やっぱりね。」
 
予想通りの剛の思考パターンにげんなりする一。
 
一「なあ剛・・・。何か変だと思わないか?」
 
剛「何がや?」
 
一「リナと祐って何か似てるようであんまり似ていないように見えるんだけど・・・気のせいかな?」
 
確かに年が離れている上に姉弟ということもあってか、性格的にはほとんど正反対のように見えるが、一が感じていたのはもっと違う所みたいだ。だが、剛はそんな一の考えに気付くことなく質問に答える。
 
剛「うーん・・・。俺はそんな感じはせーへんかったど、まあそう言われるとそう言う感じもあるわな。そがどうかしたんか?」
 
一「いや、何でもないよ。さあ、もう寝よ。じゃないとまたリナが怒り出しそうだし・・・。」
 
剛「せやな・・・(汗)。」
 
鬼のような顔をしたリナの姿をちょっとばかし想像しながら、二人はそのまま眠りについた。一方リナと祐もいつの間にやら夢の中・・・。
 
 
 
それから3時間後・・・。
 
 
 
マンションの外の路地にて、なにやら怪しい人影が四人。一人はあたりを気にしながら走り回る若い男、残りの三人の男は若い男を凄い勢いで追っており、三人とも凄い形相で前の一人を追っている・・・。
 
 
???「くっ、そう簡単には振り切れないか!・・・でも、ここで捕まるわけにはいかない>
 
若い男は後ろの三人を振り切ろうと全力で走り続ける。だが、手負いの体ではなかなか距離を広げることはできず、むしろどんどん縮んでいった。
 
そして、何を思ったのか男は路地の突き当たりで突然立ち止まり、自分を追い続けていた男三人を睨み付けた。
 
チンピラ1「はあはあ・・・ぜえっぜえっ・・・やっと追いついたぞ。観念しやがれ!」
 
青年「偉そうなセリフを吐いている割には息が上がりまくってるじゃないか。そんなんで僕を捕まえられるとでも?」
 
若い男は体力のない男達を余裕のある素振りでけなす。
 
チンピラ1「なめんなよ!俺達が何の勝算も無しにてめえ等にケンカ売ってると思うな>」 
 
たしかに奴の言うとおり、自分はかなりの傷を負っている。いくら奴らがザコでも今の自分では確実に倒せるという自信はないと若い男は思った。
 
青年「・・・勘違いしないでほしいな。僕はお前等相手のケンカを買ってやる義理なんて無い。僕がここで立ち止まったのは完璧にお前等を撒くためさ。」
 
チンピラ2「へっ、この状況で俺達から逃げられると思うな!」
 
三人の男達はそれぞれ懐から武器を取りだし、戦闘態勢へと入った。それに対して追いつめられた男は腰に装着されていた握り拳大位の物体を取り出し、思いっきり地面に叩き付けた!
 
パアアアアァァァ
 
その瞬間まばゆいばかりの閃光が辺りを包み込み、男達の目を完全にふさいだ。
 
チンピラ1「ぐわああぁぁ眩しいいぃぃい>
 
チンピラ3「な、何も見えない!」
 
閃光は三十秒近く続き、徐々に眩しさは晴れていった。・・・おそるおそる男達は目を開けると、そこには先程の男の姿はなく辺りを見回しても何処にもいなかった。
 
最初からあの男の狙いは、路地の突き当たりで止まり、奴らを油断させた後にあの閃光で逃げ出すのが目的だったのだ。
 
チンピラ1「くっそおおぉぉぉ!あの野郎、今度見つけたら完璧にミンチにしてやる>
 
チンピラ2「でもよ、あの男を始末するのも重要だけど・・・何か一つ大切なことを忘れてないか?俺達・・・。」
 
チンピラ3「そういや、どこぞの中学に通ってる小娘をさらって来なきゃいけないんじゃなかったっけ?」
 
一番背の高い男はちゃんと自分達に架せられた任務を覚えていたらしく、後の二人は頭に血が上っていたせいですっかり忘れていたらしい。
 
チンピラ1「うげええぇぇぇぇ!そうだったああぁぁぁ>
 
チンピラ3「叫んでる場合じゃないっつーの。・・・こうなったらそっちの任務を優先させようぜ。任務の進行が遅れるとあの人がうるさいし。」
 
チンピラ2「そ、そうだな。」
 
そういうと、男達は夜の闇夜へと消えていった・・・。一方そのころ、追っ手を振りきった若い男は、路地を抜けたところにある広場で自分の呼吸を整えていた。
 
だが、手負いのその体はそう簡単に呼吸が整うことはなく、徐々に体力が失われていくのを男は実感していた。
 
 
青年「・・・さすがにキツかったかな。でも・・・これからどうしよう。通信機は故障してるし、何よりこのまま部隊に帰るだけの体力が、今の僕にはない・・・。」
 
自分の足と腹からにじみ出る血を見ながら男は夜の空を見上げた。今の自分の気分とは対照的に夜の星空はいつもと変わらぬ輝きを見せていた。
 
・・・でも今の自分にはもう今までの輝きを放つことは出来ない。男は心の底でふと思いながら、失われた体力を取り戻すために眠りについた・・・。
 
 
 
to be continued...
 
 
あとがき
 
このころから徐々に裏に目覚めつつあるリナ。
 
それでも海夜の月の頃に比べるとずいぶんとボケが少ないですね。