File 3 偶然の出会い
 
 
翌朝、目覚めた剛と一を待っていたのはテーブルにずらっと並べられた朝食だった。無論、すべてリナの手作りであることは明白である。
 
「昨日に続いてまたかい。」
 
「・・・さすがにお世話になり過ぎかな?」
 
呆然と立ちつくす二人。と、台所の奥からエプロン姿のリナがひょこっと顔を出した。よく見ると祐も朝食の配膳を手伝っている。
 
 
「あっ、二人ともおはよう。よく眠れた?」
 
「まあ、おかげさまで。」
 
エプロン姿のリナにおはようを言われて、ちょっと照れくさそうに感じる一だった。一方剛は奥で手伝いをしている祐に興味を持っていた。
 
「よお祐、おはようさん。」
 
「おはよう剛兄ちゃん。朝ご飯出来てるから早く食べよ。」
 
「朝早うからご苦労やな祐。・・・それと、その『兄ちゃん』って止めてくれや。」
 
何で?といった顔つきで剛を見つめる祐。すると突然リナと一はクスクスと笑いだした。
 
「ふふっ、剛君ったら照れちゃって!かーわいい♪」
 
「以外とそう言うセリフに弱かったんだな。」
 
「じゃかあしいわお前等!しゃあないやんか、俺には兄弟なんておらん上にずっと一人暮らしやったんから。こういうのに免疫出来とらんのや>
 
「だからってそこまで照れなくてもなあ・・・。」
 
顔を真っ赤にしながら怒る剛を再びクスクスと笑い出す一とリナ。
 
「何で照れるの?別にいいじゃん剛兄ちゃん。」
 
「もうええ・・・。兄ちゃんでも何とでも呼ぶがいいさ!どうにでもするがいいさ>
 
「何故に逆ギレ??まあ面白くていいけどね。」
 
結局兄ちゃん呼ばわりされることとなってしまい、少々ヤケ気味となった剛だが、先日あまり寝ていなかったせい(リナの事ばかり考えていたから)もあってか、もう止めてくれという気にならなかった。
 
と、リナが台所の奥から何かビニール袋に包まれた物体を慌てて持ってきた。どうやら生活ゴミのようだ。
 
 
「どうしたのそのゴミ?」
 
「実は・・・出し忘れてたのよ。今からちょっとコレを出してくるから三人は先に御飯食べてて。」
 
几帳面なリナの性格からは思えない言葉にちょっとビックリする二人だったが、ここのところの忙しさを考えれば納得がいく。
 
「別にええけど・・・ゴミくらい俺が出して来るって。」
 
「そうだよ。昨日今日ともに食事を作ってもらってるんだからそれくらいやらせてよ。」
 
ガラにもなく剛まで手伝うと言い出してしまった。でも、昨日からの居せり尽くせりのもてなしを考えると当然の・・・いや、人として当たり前のセリフであろう。
 
だが、リナは横に首を振り、よいしょと言ってゴミ袋を持ち上げた。
 
「いいのよ、二人はお客さんなんだから。お客さんに自分ちのゴミを出させる人なんて、いないと思うしね。」
 
「せやけど・・・って、ん?」
 
ゴミを出そうとするリナを説得しようとした剛だったが、彼の袖を引っ張る人物がいた。祐である。
 
「ねえねえ剛兄ちゃん、御飯早く食べて遊びに行こうよ!」
 
「おいおい祐、お前自分の姉ちゃんがゴミ出しに行くっちゅうのに手伝わへんのか?
 
こんな時にお遊び優先かよ?と思う剛だったがリナの方は全然怒る気配なしだ。
 
「いいのよ、剛君。祐はまだ小さいし、遊びたい年頃なのよ。家事全般は私がやることになってるから剛君と一君はご飯食べて祐と遊んであげて。じゃあ、私ちょっと行って来るね。」
 
そう言うと玄関から勢いよく飛び出しって行ったリナ。怒る気配どころか逆に、いつもこんな感じであると言わんばかりの言い方だった。
 
 
「唯一の母親があんな調子でええんか?」
 
「いや・・・別に誰かに迷惑かけてるって訳でもないし、いいんじゃない?リナもそれを望んでるっぽいし。」
 
ひょっとしてリナって育児関係になると、極端にいい加減になるんじゃないのか?と二人は心の底で思いながらも祐の勧めで食事を始めた。
 
せっかく作ってくれた朝食が冷めてしまわないうちに食べてしまわないようにとのことであった(ちなみにリナは既に食べ終わっていた)。
 
・・・・・
 
 
一方そのころ、ゴミを出し終わって自宅へと向かっていたリナ。早朝とはいえ、コロニー内の空調がまだ作動し始めてないためかなり冷え込む。
 
ちなみにコロニー内は一年中同一の気候で保たれている。つまり晴れ・曇り・雨といった基本的な天候は存在するが春夏秋冬は存在しないのだ。
 
まあさすがに人が何億もの単位で暮らしているコロニーで季節を再現するなどどてい無理があるのだが。
 
・・・まあ難しい話はこの辺でおいといて、リナが家に100m手前まで差し掛かったとき、彼女は地面に点々とついているものに気付いた。
 
 
「これって・・・血、かな?人の??」
 
血痕を辿ると家の近くにある物置広場へと通じていた。この広場にはゴミ回収時以外は全く人気のないところである。そんなところへと続く血痕。
 
そこにあるのは・・・死体?怪我人??あれこれリナの頭の中を巡ったが、既に体が動いて広場へと到着した。血痕は奥のガレキの中へと通じていた。
 
「どうしようかな・・・。さすがにこのガレキを私一人で何とかするってのは無理だし、剛君たちに手伝って貰うわけにもいかないし・・・。」
 
と、その時。
 
「う・・・うう・・。」
 
ガレキの中から人の呻き声らしきものが聞こえてきた。不思議とリナには呻き声が聞こえる前から、そこに人がいると確信できていた。
 
なぜだか分からない、でもそこには誰かいる。そう思えてガレキへと駆け寄る。
 
「もしもし、大丈夫ですか?意識がありましたら返事してください!」
 
「う、うーん・・・むにゃむにゃ。」
 
「へ?むにゃむにゃ??」
 
呻き声にしては妙な声を出すなーと思ったら・・・なんと寝ていた。それが分かった途端リナはその場にへたり込んだ。
 
ふつうこんな所で怪我を負った体で一晩明かすか?と思いながらなもリナはとりあえずこのガレキの中で寝込んでいる怪我人に声をかけてみた。
 
「もしもーし、もう朝ですよ〜!いい加減起きないと風邪をひいちゃいますよ!!」
 
だが、この怪我をした青年は起きる気配もない。それどころか寝返りをうって反対側を向いて、リナに徹底抗戦せん勢いである。
 
その態度にカチンときたリナは、深く息を吸って思いっきり叫んだ!
 
「朝だっつーの!いい加減起きなさいこの寝ボスケ〜>
 
これ異常ないくらいの近所迷惑な大声(←一部暴力発言含む)で叫んだため、青年はビックリした面もちでやっと起きた。
 
でもその表情はまだ寝足りないといった感じの表情で、しきりに目をこすっている。もちろんリナの存在にはちゃんと気付いている。
 
 
「なんだい、人がせっかく気持ちよく寝ていたのに・・・。って痛っ!!」
 
上半身を起こした勢いで、青年はガレキの一部で思いっきり頭を強打した。これならどんな人間でも絶対に目が覚める。
 
「痛〜っ。やっぱガレキの中なんかで寝るもんじゃないね。」
 
だったらそんな所で寝ない方が・・・。と心の奥で思うリナだったが、さすがに表に出して言えるセリフではないので止めておいた。
 
「ところであなたはそんなところで何をしてたんですか?」
 
「何って・・・野宿!」
 
リナはその場にズッ転けた。
 
 
 
「そんな分かり切ったことを聞いてるんじゃないんです。どうしてこんな怪我を負って病院に行こうとしないんですか?」
 
「何故って、ガレキに埋もれてるから・・・って冗談冗談!」
 
リナの鬼気迫る顔で迫られた青年は、慌てて言い直した。
 
「ちょっとしたトラブルに巻き込まれちゃってね。それでちょっとこの中に隠れさせてもらってたってワケ。」
 
「トラブルって・・・そんな怪我をするまで、一体何をやってたんですか?」
 
青年に問うリナだったが、当の本人は眠そうな表情で答える気配すらない。いや、正確には答えたくないような面もちであった。
 
「・・・分かりました。答えたくないのならそれでも構いませんが、救急車を呼ばせてもらいます。その怪我のままじゃあ何をするにも不自由でしょうし。」
 
「ちょっと待った!救急車はまずいんだよね、いろんな意味で・・・。だから呼ばないでくれないか?」
 
青年の怪我の重さを心配しての判断だったが、彼自身はそれを断固として嫌がる。どうやらよほどの事情があるのだと理解したリナは、仕方なく最後の手段にでた。
 
「しょうがないですね・・・。じゃあ私が手当てしますから、ついてきて下さい。・・・ってこの怪我じゃ無理か。」
 
大分止まってきているとはいえ、青年の出血量はハンパじゃない。青年自ら歩けそうにもないと思い、リナはガレキの中から青年を引きずり出し、青年に肩を貸して再び自宅へと向かった。と、その時
 
「おーい!!リナ何しとんねや、心配したで。」
 
「帰りが遅いから、心配になって見に来てみたんだけど・・・その人誰?」
 
見慣れない青年の存在にやはり気付いた一。まあ前進血だらけなので気になって当然であるが。
 
「この怪我にも関わらず、ろくに治療もせずにこのガレキの中で一晩野宿した人。」
 
「「本当なの(なんかい)、それ?ハモった
 
リナの一言に目を丸くする剛と一。一方青年の方は何もそんな言い方しなくても・・・といった表情でリナを見つめている。
 
「それで二人にお願いがあるの。・・・家までこの人を運ぶからちょっと手伝って。」
 
「救急車、呼ばへんのか?」
 
「聞いたんだけど、イヤなんだって。」
 
何やねんそれ?という感じで青年を見つめる剛。普通の人間ならこんな事はふつう言わないし、見るからに怪しいからであった。
 
「・・・まあええわ。リナの頼みとあっちゃあ断るわけにもいかへんし、メシとかいっぱいご馳走になったしな。」
 
「そうだね。んじゃあ僕の肩を使ってください。はい、どうぞ。」
 
「ごめんね二人とも・・・。私は後ろから支えてるから剛君と一君で担いでって。」
 
見た目よりも青年の体重は軽く、剛と一の二人がかりでもあっさりと担いでいけるほどのものだった。どうやら出血だけでなく、体自体も大分衰弱しているみたいだ。
 
こうなっては一刻を争う。そう思った一達は急いでリナのアパートへと青年を担ぎ込んだ。
 
そして、三時間後・・・。
 
「はあ・・・、疲れた。」
 
リナ・剛・一の三人はやっとの事で青年の治療を終えてその場に横になった。早朝から三時間も、休憩無しで必死に傷の手当てをしたので当然の結果といえよう。
 
「・・・ホントに、何で病院で手当せーへんのや。そっちの方が絶対に確実やのに。」
 
「しょうがないよ、本人が嫌だって言ってるんだから。」
 
「とりあえず手当ては終わったけどまだ油断は出来ないよ。ここは病室じゃなくて普通の家の部屋なんだから。」
 
リナの一言で剛と一の表情は再び緊張に包まれた。とりあえず止血と傷口の消毒だけは出来たものの、一般の病院の様な完璧な治療ではない。
 
当然衛生面でも不安が残る。当分は付きっきりで青年の看護をしなければならない。そのとき、一が「あっ!」と声を上げた。
 
 
「ということは・・・当分は誰かがこの人の面倒を見なきゃいけない事になるんだよね?誰がやるの??」
 
「そういやそうやな。・・・どないする?」
 
「心配しなくても大丈夫、この人の看護は私がするから。」
 
思わず剛と一は目を丸くした。いくら第一発見者だからといって、そこまで責任を黄必要があるのか?でもリナの表情は至って冷静だ。
 
「ほ、本気かお前?!」
 
「何ならタクシーを呼んで僕の家にでも・・・」
 
一の誘いにも横に首を振るリナ。こうなってはもう何を言っても聞きそうにもなさそうだ。
 
「大丈夫よ!家族が一人増えたんだって思えば割り切れるわ。」
 
「割り切れるかいフツー・・・。」
 
さらりと言い返すリナに小さい声で呟く剛。およそ普通の女の子とは思えない発想である。
 
 
「いい、祐?今日からこの人は私達のお兄ちゃんよ。一緒に仲良く暮らしましょうね。」
 
「わーいわーい!お兄ちゃんがまた一人増えたぁ>
 
「いいよな子供は、気楽でよ・・・。」
 
祐自身は何の違和感も感じていない。ただ新しく出来た兄の存在に体全体で喜んでいる。呆れてものも言えない剛と一。
 
「あっ、そういえばまだ名前言ってませんでしたね。私の名前は・・・」
 
「リナちゃんだろ?そして左から剛くん・一くん・祐くんだろ?」
 
自分の名前を言いかけたとき、青年の方から自分達全員の名前を言われて、リナ達はビックリした。
 
まあ、発見時からしきりに名前で呼び合っていたのでいいかげん名前と顔を覚えられてもおかしくはない。にしても大した洞察力である。
 
「・・・まぁ、あれだけ喋りあってたんじゃあ把握されても当たり前ですね。」
 
「そう言うこと。んで僕の名前がジェス=ライオット。よろしくね!」
 
「・・・ややこしい名前ッスね。呼びにくいからジェスの兄貴でいいッスか?」
 
勝手に自分の名前をややこしいと言われ、勝手に呼び名を作られたジェスは苦笑した。少なくとも怒らなかったと言うことは彼自身も納得していたようだ。
 
「剛にしちゃいいネーミングセンスだよな。・・・でも何で『兄貴』がつくんだ?」
 
「一言余計やお前は!それにジェスの兄貴は一応俺等より年上っぽいから、これでも気ぃ使こうて『兄貴』を付けとんのや>お前に俺のポリシーをどうこう言われる筋合いは無いっちゅうねん!!」
 
「まあまあ、二人とも。」
 
いつものように一の余計なツッコミで、逆ギレを起こす剛をなだめるリナ。もはや手慣れたものである。
 
「楽しそうだね、君たち。何だったら僕も混ぜてくれないか?」
 
「「あんたの事でもめてるんだよ!!!」」三人同時に
 
あっさり断られてしまったジェスは、毛布をかぶってふてくされてしまった。元はと言えば彼の事であれこれ言い合う結果となってしまったので、ジェス自身言い返せないのだが・・・。
 
「意地悪しないでサー・・・、お願いだよ〜。」
 
「泣いて頼んでもダメです。遊ぶ元気があるんだったら早く良くなって下さい!」
 
「ケチ!」
 
「ふてくされても無駄やと思うんスけど・・・。」
 
なんだかどんどん子供っぽくなっていくジェス。ここまで駄々を言われるとさすがに困るものである。ある意味剛よりも始末に困る。←酷い
 
 
to be continued...
 
 
あとがき
 
新キャラ誕生。にしてもここまでキャラ崩れさせてて大丈夫かな?