File 4 家族
 
 
ジェスの治療が終わって六時間たった頃・・・。仲良し三人組はあと二〜三週間後へと迫ってる文化祭に向けて、アイディアを頭をフル回転させて絞っていた。
 
・・・が、三人共このような実行委員は生まれて初めての経験なのであまり良い案がでてこない。
 
あーだこーだ言ってる内にあっという間に日が沈んでいく。そして時刻は午後五時半・・・。
 
 
剛「あ〜っ、何か話がまとまらへんかったな。」
 
一「しょうがないさ。今年は全学年盛大な文化祭にしようって盛り上がってるんだから。ウチもそれに負けないような内容にしないと。」
 
妙に張り切る一。テーブルの上に置かれた、コーヒーを飲み干したカップの数が、どれだけ濃い内容の話し合いだったかを物語っている。
 
そして、何故か祐は3人の会談を側で聞いていて一人ワクワク気分でいたのであった。
 
 
剛「・・?どないしたんや、祐?ニヤニヤしてからに。」
 
祐「すっごく楽しそうなお祭りなんだね『ぶんかさい』って!なんだか僕までわくわくしてきたよ。」
 
剛「お前はウチの学校の生徒やないやん(←それ以前の問題)・・・まぁ、お祭り好きっちゅう点では共感持てっけどな。」
 
子供はいつの時代もお祭り騒ぎが大好きなものである。当然祐も例外ではなかった。
 
 
リナ「祐、ちょうど文化祭は日曜日に開催されるから遊びに来たらどう?」
 
祐「えっ、いいのお姉ちゃん??」
 
瞬時に祐の瞳が輝きだした。それはもうキュピーンってくらいに。あまりの眩しさに剛と一が目を覆う。
 
 
リナ「ええ、一般的にウチの学校の文化祭は他校や一般の方々の入場も許可されてるし、遊びに来ても何の問題もないわ。」
 
祐「わーい!やったやったぁ〜♪」
 
かなりはしゃぐ祐。よほど嬉しいらしく、ピョンピョン飛び跳ねている。でも、一応隣の部屋で寝ているジェスのことを気遣ってか、すぐに飛び跳ねるのを止めた。
 
ちなみにリナ達は今、ジェスが寝ている寝室の隣に位置する居間にて会話中。
 
 
祐「ジェスお兄ちゃんが隣で寝てるから、静かにしなきゃね。」
 
剛「そう思うんやったら最初からはしゃぐなや。」
 
一「剛、少しは相手の年を考えてツッコミを入れなよ。」
 
慣れてきたせいか、だんだん剛の祐に対するツッコミも、キツい物になってきた。人の慣れとは恐ろしい物である。
 
 
リナ「とりあえず何事もなく寝ててくれればいいんだけどね・・。・」
 
ジェス「残念でした、お気遣いのトコ悪いけど既に起きてるんだなこれが。」
 
だがジェスは先程の騒ぎで目を覚ましてしまったようだ。申し訳なさそうな表情でジェスを見つめる祐に対し、あっちゃ〜と言わんばかりの企画者3名。
 
 
ジェス「最初妙に僕をさっさと寝かせようとしてたけど、全部この話を僕に聞かれまいとしての事?」
 
リナ「あ、いや別にそう言うワケじゃあ・・・。」
 
リナはそうは言ったものの、実は図星であった。今までのジェスの身振り素振りからしてお祭り騒ぎが大好きな輩の一人であることは明白である。
 
無論ジェスは今、絶対安静の状態である。そんな人間を文化祭などに連れて行って、祭りの途中でリビングデッド(生ける屍)になられてはこちらの身が持たない。
 
ジェス「大丈夫、明後日までには怪我を治すどころかパワーアップして帰ってくるから」いい笑顔
 
祐を除く全員『その場合にはあなたが人間ではないことが証明されることになりますが、それでもよろしいですか?』
 
普通なら病院に搬送すべき大怪我を民間の部屋で治療したのだ。当然完治する期間は延びるわけだし、完治したという保証も出来ない。
 
しかも文化祭まで実質あと二〜三週間しかないのだ。
 
なのに二日で怪我が完治してしまったら、ジェスはもはや人間ではなくバイオ3の追跡者的存在となってしまう。
 
なにげに「パワーアップして帰ってくる」とかいうセリフも超意味不明だし、それに乗じてかリナ達の尋ね方が微妙にRPGの選択肢みたいな感じになっていた。
 
 
剛「・・・そこまでしてウチの文化祭に行きたいんスか?」
 
ジェス「行きたい!!そのためにも明後日までに怪我を治す!!!」
 
剛の問いに断固自分の意志を変えようとしないジェス。こうなっては何をいっても無駄である。すると剛が不意に思いついたことを言ってみた。
 
剛「これを期にジェスの兄貴は知的生命体から一〇ポイント遠ざかった。」
 
一「シャレにならないから止めろ。」
 
かなりヤバい剛の思いつきにすかさずツッコミを入れる一。しかも何処かで聞いたようなネタの気がするがこの際気のせいだと言うことにしておこう。
 
 
リナ「とにかく、お兄ちゃんも文化祭に行きたかったらここで養生しててね。じゃないと治る傷も治らなくなっちゃう。」
 
ジェス「はーい。お言葉に甘えてしっかり休ませてもらいまする。」
 
およそ感謝の気持ちの欠片も感じられないようなお礼の言葉だったが、リナは気付いていて見逃したのか、
 
分からなかったのかは定かではないが、とりあえずその場を適当にやり過ごした。
 
 
リナ「・・・ふぅ。」
 
一「大変そうだね・・・。」
 
剛「ある意味俺以上やん、ジェスの兄貴って・・・。」
 
 
ジェスはおそらく天然ッ気ではリナに勝とも劣らないだろう。
 
『自分ン家の新しい家族にする』と言い出したリナは自分のセリフに早くも後悔し出したのは言うまでもない。
 
・・・そして翌日
 
ジェス「・・・ヒマだな。」
 
現在時刻14:41。園部家の居候は布団の中で早くもヒマ形態突入。
 
それもそのはず、絶対安静をリナに念押しされ、外に出ようにも出れないのだ。もしここで約束を破ってしまえば、
 
保護されたとき以上に怪我が酷くなるだろうと彼は確信していた。
 
ジェス「・・・せめて祐君でも居てくれたらな。」
 
だが当然祐も自分の小学校に行っていて家には居ない。念じて飛んで来るわけでもナシ(当たり前)。
 
しかし事もあろうにジェスは本当に祐を念で呼ぼうとしたが、それ以前に念で呼び出すなんて芸当は持ち合わせていなかった。
 
そんな自分自身がさすがにアホらしく思えてきたみたいだ。再び毛布をかぶって眠りにつこうとする。
 
・・・が
 
 
ジェス「・・・・・・・・眠れないなぁ。」
 
今朝からかれこれ一五時間は寝ている。それだけ寝れば眠気など完全に無くなってしまうもの。
 
そして、暇を持て余しているときでも生理現象は容赦なくやって来る。
 
 
ジェス「トイレにでも行くか・・・ってこれ今日何度目のセリフだよ。
 
 
ジェスは布団から抜け出してトイレへと向かった。
 
忠告を破ったらどうなるか・・・それは百も承知だったが、ここのトコずっと部屋にこもりっぱなしだった彼はどうしても外に出てみたかった。
 
・・・要するにトイレに行くというのはただの口実にすぎないのだ。
 
ジェスはトイレに入ってさっさと用を済ませると、改めて自分の怪我の具合を確認する。
 
 
ジェス「ふぅ・・・傷の痛みはもう無しっと。何とか間に合ったな。ふフhu・・・待っているがいい文化祭!
 
ホントに文化祭までに治してしまった。しかも裏の人格が目覚める程文化祭を楽しみにしているらしい。
 
彼はまともな人として認知すべきなのか否か。と、そこに。
 
 
祐「あれ?ジェスお兄ちゃんもう怪我の具合はいいの?」
 
ジェスの後ろから声をかけてきたのは、学校から帰宅した祐だった。
 
にしても帰ってくるのがイヤに早いなぁとジェスは不思議に思ったが、その疑問はすぐに解決する。
 
 
ジェス「ああ、おかげさまで。・・・それはそうと今日はやけに帰ってくるの早いね。どうしたの?」
 
祐「もうすぐテストだから早めに終わったんだ、今日。」
 
ジェス「なるほどね。」
 
何にせよ、これで暇つぶしが出来るとジェスは内心拍手喝采。
 
いい歳こいて子供と一緒に遊ぶというのは気が引けるがこのまま何もせずに過ごすよりかはいくらかマシである。
 
 
ジェス「そうだ、祐。お兄ちゃんと一緒に何かお話でもしないか?」
 
祐「うんいいよ、僕もお兄ちゃんに聞きたいことあるし。」
 
すんなりOKした祐。普通怪我の治るスピードとかにツッコミを入れるところだが、
 
祐はまだそこら辺の知識がしっかり出来てないため(←というよりも一般常識の知識すらなさそうだ)
 
つっこもうにもつっこめなかった。祐を自分の寝室へと招き入れるジェス。
 
 
ジェス「さて、何から話そうか・・・。」
 
祐「そういえばお兄ちゃんって、僕らと出会う前まで家族とかいたの?」
 
何か話そうと自分から祐に切り出したのだが、思ったほどネタが出てこない。しばし考え込んだ後、そ祐が最初に沈黙を破ってきた。
 
 
ジェス「家族?・・・あぁ、妹が一人。」
 
祐「お兄ちゃんの妹ってどんな感じの娘(こ)?」
 
ジェス「そうだな・・・。一言で言えば元気いっぱいの女の子・・・かな?背丈と歳ははちょうど祐のお姉ちゃんと同じくらい。」
 
祐「ふ〜ん・・・どんな娘なんだろ?会ってみたいなぁ。」
 
ぽろっと本音を漏らす祐。興味本位なのだろう、多分。
 
 
ジェス「祐は、お姉ちゃん・・・好きか?」
 
祐「うん!大好きだよ。」
 
自信満々に答える祐。ジェスは何故か、この瞬間祐が本当に自分の弟のように見えた。
 
何かを決意したのか、真剣な眼差しで祐に話し始めるジェス。
 
 
ジェス「祐、よく聞くんだ。・・・もし、お姉ちゃんの身に何かがあったなら、その時は祐がお姉ちゃんを守ってあげるんだぞ。祐は男だからな、できるよな?」
 
祐「うん。」
 
こくりと頷く祐。
 
 
祐「お兄ちゃんは?お姉ちゃんを守ってあげないの?」
 
ジェス「僕はあまりお姉ちゃんのそばにはいてあげられそうもないんだ。
だから、これからもずっと・・・お姉ちゃんのそばにいる祐が守って行かなきゃいけないんだ。分かるな?」
 
祐「うん。」
 
再び頷く祐。無邪気というか正直というか・・・とにかく判ってはくれたようだ。
 
祐の頭をくしゃくしゃとなでるジェス。
 
 
ジェス「よし、祐はお利口さんだな。」
 
祐「そうだよ!僕、お姉ちゃんのためにいい子にしてるんだ!!」
 
ジェス「そうだね・・・おっといけない!そろそろ布団の中にもぐっとこ。」
 
そろそろリナも帰ってくる時間だ。祐の『お姉ちゃん』というセリフであわてて思い出したジェスは、
 
バフっと毛布をかぶって寝たふりをする。
 
と、噂をすれば何とやら・・・リナが絶妙なタイミングで帰宅してきた。
 
 
リナ「ただいまぁ!!祐、帰ってる?」
 
祐「あっ、お姉ちゃんお帰り!」
 
リナ「ただいま♪早かったわね。」
 
玄関で何気ない会話に花を咲かせる姉弟。その一方で布団に潜り込んだジェスは浮かない顔をしていた。
 
 
ジェス(怪我も治ったことだし・・・彼女の晴れ姿を見てからおいとまするとしますか。)
 
 
 
 
これ以上ここにいたら・・・必ず巻き込んでしまうからな・・・・・・。
 
 
運命の歯車は・・・止まることを知らず、更に廻る速度を速める。たとえ未来が、悲劇へと誘(いざな)うものだとしても。
 
 
 
to be continued...
 
 
 
あとがき
 
久々のRina’s History更新です。
 
本当ならこのお話、前回の話と繋がっているのですがあまりにも長すぎるため
 
こういう形で区切りをつけました。徐々にシリアスな方向に進んでる・・・。