「ラブひな」続編小説
ラブひな 〜continuation of legend〜


少女は一人戦っていた。自分の弱さに打ち勝つために、自分の目標を達成させるために。
なんの取り柄もない少女はただひたすらに“頂点”を目指す。そこまでの道のりはとてつもなく過酷で険しい。
だが少女は諦めない。今までにも辛かったことはあったが、それをバネにして努力を重ねてきた。
そして今、その努力の途中経過の宣告を待つ。心中にあるのは…………、“不安”の二文字のみであった。

第1話 伝説の続き

「はぁ〜〜〜〜あ…………」
私の名前は前田絵馬、東大志望の16歳。上から読んでも下から読んでもマエダエマです。(注:ネタじゃありません(汗))
彼氏いない歴16年、メガネでソバカスでペチャパイでガリガリで…(涙)、はっきり言って社会から無視されている私…、もうこうなったら東大に入るしか道はないと思い、そこに住めば誰でもどんなバカでも東大に合格できるとかいう夢のような女子寮、「ひなた荘」を探して家出同然に飛び出してきました。無事(?)ひなた荘に入居してもう早1年と少しが経ち、美人な現役東大生の先輩達に囲まれて生活していてもなかなか成績は伸びない訳で………(落)
(このひなた荘にはね、夢を叶える不思議な力があるんだよ。だからあきらめないでがんばろうね)
「しのぶさんはああ言ってたけど、やっぱし私には無理なのかな〜……」
今日高校1年の総合成績が返ってきたんですけど、結果はあまり芳しくありません。
まあここに来る前の成績に比べれば少しは上がりました。まあ、少しだけですけど……。
「こんなんじゃまだまだ東大は遠いな〜……」
「何落ち込んでるの?絵馬ちゃん」
「ひゃあっ!!な、なるさん」
絵馬の後ろに浦島なる(旧姓:成瀬川なる)が突然現れ、絵馬の顔を覗き込んだ。
「…ははぁ〜ん、総合成績が返ってきたんでしょ?」
「ギクッ!!」
「で、その成績があんまり良くなかったのね?」
「ギクギクッ!!」
「どぉ〜れ、見せてみなさい?」
「………はい」
絵馬は観念して成績表を渡す。なるは去年夫である景太郎と結婚し、ひなた荘から少し離れた家に二人で暮らしている。
景太郎はひなた荘の管理人をしていながら、東大の大学院生として考古学の勉強をしているため、海外へ遺跡の調査に度々外泊することが多い。その間はなるが管理人代行として管理人の仕事をこなすのだが、
「なるさん、こんな階段の下まで来ちゃって危なくないんですか?」
「ん?大丈夫よ、それに今日はいい天気だからこの子と外の空気を吸おうと思ってね」
なるは四ヶ月程前に病院で妊娠していることを告げられ、本業であった教師も今は休んでいる。
ひなた荘の住人はその知らせを大変喜び、管理人の仕事も住人のみんなで協力してやるという当番を作った
のであった。
「絵馬ちゃん、今心配するのはこっちの方じゃないかしら?」
なるは絵馬が渡した紙をひらひらさせて、彼女をじとーっとした目つきで見やる。
高校教師の職業柄か、こういうことについては口煩い。
「あぅえぅ……」
「まあ最初よりは上がってるけど、こんなんじゃまだまだ東大なんて夢のまた夢よ?
 もっと自分で自己管理をしっかりして、みんなに頼り過ぎないようにしなきゃ」
「なぁ〜にが自己管理をしっかりせいや!!」
なるの後ろから大声の関西弁が聞こえてくる。
二人が振りかえると、そこにはエプロンをつけ細い目をした女性、紺野みつね(通称:キツネ)が立っていた。
「キ、キツネさん」
「げっ、キツネ……」
「げっ、じゃあらへん!何しとんねんこないなところで!転んでケガでもしたらえらいこっちゃで!!」
「まだ大丈夫よ、そんなにお腹も大きくなってないもの」
今まで絵馬に説教をしていたなるも、キツネが相手ならば立場は逆である。
「大丈夫やあらへん!お前の体はもうお前一人のもんやないんやで!?少しの油断も許されんのや!
 お前こそ自己管理をしっかりせなアカン!!」
キツネは、今は和風茶房「日向」を経営している。持ち前の気さくさで常連客もいっぱいいるらしい。
今では調理師免許も取得しており、新しいメニューの開発に勤しんでいるとか。
「よう絵馬、まぁた成績悪かったんかいな?」
「……はい」
「まあ気にせん方がええて、次がんばればええんやから。
 けーたろのやつも三浪してやっと入ったんやさかい、あきらめんっちゅーことが大切やで♪」
「あ、はい!」
あきらめない、この言葉に呼応するように絵馬の表情がみるみる明るくなっていく。
(…でも三浪はしなくないですぅ(泣))
「そういうことで絵馬ちゃん、ちゃんと予習復習はしっかりやること。
 高校2年生は中弛みの時期だから、気を抜いちゃダメよ」
「はい!」
「んじゃなる、行くで」
「じゃあ絵馬ちゃん、またね」
「はい」
絵馬は階段を上り、彼女が下宿しているひなた荘に向う。石段の頂上にあるひなた荘の玄関に着くと、そこには美麗と可憐の間のイメージを感じさせる女性、前原しのぶが舞い散った桜の花びらを掃いていた。
「あ、絵馬ちゃん。おかえり」
「しのぶさん、ただいまです」
しのぶは、今年で東大の三年生になる。優しく面倒見のいい彼女は、絵馬の良き姉のような存在であり、同時に目標でもあるような人だ。
「絵馬ちゃん、なる先輩見なかった?」
「さっき階段の下で会いましたよ。キツネさんに見つかって連れてかれちゃいましたけど」
「そう、キツネさんも過保護よね。なんか姑みたい」
「ふふ、そうですね」
「生まれたら、先輩やなる先輩より可愛がりそうよね」
絵馬としのぶは井戸端会議に興じる。こういう場では他人の噂話が話題の大半を占めるものだが、やはりこの二人もその例外ではなかった。
「キツネさんは結婚しないんでしょうか?」
「お客さんの中には本気で言い寄ってくる人もいるらしいけど、
 なんだかんだ言ってはぐらかしちゃうんだって」
「ふぅ〜ん、じゃあ私着替えてきますね」
「うん、じゃあね」
絵馬はしのぶとの会議を終了すると、自分の部屋へと足を運ぶ。
絵馬の部屋は304号室。この部屋の前の住人はなるで、床に空いている穴は景太郎との思い出の穴であった。なるがこの部屋を出る時に絵馬に是非住んで欲しいと言ったのだが、絵馬は大変恐縮し、その部屋に住むことを何度も断った。するとなるは、
(私のこの部屋での、このひなた荘での伝説はもう終わったの。私はまた別の家で景太郎と
 新しいスタートを切るから、絵馬ちゃんにはこの部屋でまた新しい伝説を築いて欲しいの)
と言った。結局絵馬はなるに押しきられ、その部屋に住むことになった。絵馬自身はその言葉の意味を完全に理解できていなかったが、その時のなるの笑顔がとても幸せそうだったことははっきりと彼女の胸に焼きついている。
「あ、いけない!今日私お風呂掃除の当番だった!!」
絵馬は急いで部屋に戻り、着替えて露天風呂へと向かった。その途中にある大広間で、長い黒髪と凛とした表情が大和撫子を想わせる女性が脚立の上で天上に何かを吊るしていた。
「お、絵馬帰ったか。ちょっと手伝え」
「素子さん何してるんですか?」
青山素子は今年で東大四年生になる。東大では法学部で法律を学んでおり、将来は警察官か弁護士になりたいといっている。趣味は恋愛小説を書くことだが、先日彼女が趣味で書いていた小説が投稿小説大賞で最優秀賞を受賞し、一部では作家の道もささやかれているらしい。
「来週サラがここに越してくるだろ?その歓迎パーティーの飾り付けだ」
「え、もう飾り付けするんですか?」
「スゥがまた大掛かりな仕掛けをするらしいから早めにやっておいてくれと聞かないんだ」
「ま、またあんな仕掛けを作るんですか?」
以前、景太郎となるの結婚式の披露宴にスゥが施した仕掛けは、ケーキが変形し人型ロボットになるというものであった。景太郎となるは二人で慌ててケーキロボを撃破したが、当の本人達は、
「夫婦の初めての共同作業がケーキロボ破壊なんて……」
と嘆いてた。
「……さあな」
素子も呆れ果てた様子でいる。二人は苦笑いを浮かべながら飾り付けに一区切りをつけた。
「うん、いい出来だ。悪いな絵馬、助かった」
「いえいえ、どういたしまして」 「そうか、もう来週かぁ」
サラ・マクドゥガルは今まで瀬田達と一緒に住んでいたが、先月はるかに子供が誕生し、気を使ってか今年からひなた荘へ引っ越すことになっていた。
サラは今年から高校生になり、絵馬と同じ「日向高校」に通うことになっている。
(年は私より一つ下なのに、私よりずっと大人っぽくてカワイくて、なんか自信なくしちゃうな〜)
すると絵馬は苦笑し、頭を掻いた。
「でも、楽しみだな♪」
絵馬は露天風呂の中には入ると、そこには広大な浴槽が広がっていた。
「うわぁ〜、やっぱりいつ見ても広いな〜」
ひなた荘の露天風呂は天然温泉で、定期的に行われる一般解放の時刻には多数の来客がある。眺めもよく、なにより広い。そのおかげで掃除するにのも相当な労力が要される。
「ふっふっふ……、困っとるようやなエマ!」
絵馬が軽く途方に暮れていると、後方に褐色の肌の女性が颯爽と登場した。
「カ、カオラさん!」
カオラ・スゥは素子と同じく、今年で東大四年生。モルモル王国という国のお姫様なのだが、留学という形で日本に在国している。見掛けによらず電子工学や機会工学といった分野に優れており、いつも変なロボットを作っている。(しかし性能はピカイチ)
「そんなエマのためにこのメカを作ってきたで!!名づけて、お風呂掃除機フロアライ君4号や!!!」
「ま、またですか〜」
「今度のは自信作や〜!」
みなさんもお気付きかと思うが“4号”ということは、1〜3号はすでに失敗作として大破している。
「なんでいっつも私なんですか〜!」
「だってエマ、ケータロと同じで不死身なんやもん(はぁと)」
「そ、そんなぁ〜(泣)」
「よっしゃ、さっそく装着や♪」
絵馬はスゥになにやら巨大な機械に乗せられ、体を固定された。
「今度は本当に大丈夫なんですよね」
「大丈夫、大丈夫♪ふっ飛んだ時ようのパラシュートもつけといたったで!」
「た、助けてぇ〜!!」
「スイッチオ〜ン!!ポチっとな♪」
ウィーーーーーン
絵馬を乗せたフロアライ君4号は本体の下に取りつけた巨大な回転ブラシで床を洗い、二本のアームについている細かい震動ブラシで浴槽の細部を洗っていった。
「おお!今回はタイジョブそうやな」
「何でちょっと意外そうなんですか?」
絵馬は疑いやっぷりの眼差しでスゥを見やる。 「気のせい気のせい、んじゃスピードアップや!!」
そういうとスゥはリモコンでなにやら操作をし、ブラシの回転速度が一気に上昇した。
ブゥイィィーーーーーーーーーーン!!!!
「きゃあーーーーーーー!!!!!」
フロアライ君4号は巨大な回転ブラシの凄まじい回転の勢いに負け、その体自体がぐるんぐるんと回り始めた。
「止ーーーめーーーてーーー下ーーーさーーーいーーー!!!!!」
「すまん、制御不能や♪」
チュドォオーーーーーーーーン!!!!!!!
フロアライ君4号はそのまま爆発。空へ投げ出された絵馬は備えつけられたパラシュートでゆっくりと降下していく。そしてスゥの足元へ不時着した絵馬はお約束通り無傷だった。
「うーん、やっぱエンジンの出力が強すぎたんやな。まだまだ改良の余地アリや♪」
「あの〜、リモコンで操作してるんだったら私乗る必要ないんじゃないですか〜?」
絵馬はふと疑問に思ったことをスゥに問った。スゥは顎に手を当て、考える素振りをすると、
「あ、それもそうやな♪」
とあっけらかんと返答した。
「………もういや(大泣)」
風呂掃除を無事(?)終え、浴槽に温泉を入れた。これで風呂の準備は完璧である。
「はぁ〜、真っ黒。じゃ、一番風呂といきますか♪」
絵馬は脱衣所で服を脱ぎ、体を流して温泉へつかります。
「へへへ〜、これが楽しみなのよね〜♪」
疲れた体を温泉でほぐす。そのなんとも言えない快感が絵馬の顔をニヤけさせた。が、その表情も次の瞬間、曇った表情へと変わってしまった。
「はぁ〜、でも勉強もちゃんとやらなきゃ……」
絵馬は要領が悪いせいか、頭の出来が悪いせいか(両方?)、しのぶ達に勉強を教えてもらっても、あまり頭に入らず、同じ失敗ばかりしてしまう。彼女はそのせいで今まで何度も諦め続けてきた。だが、今は違う。
「でもあきらめちゃダメ!!私は絶対東大合格するんだから〜〜〜!!!!」

前田絵馬16歳、今年で高校二年生。メガネでソバカスでペチャパイでガリガリでドジだけど、
東大目指して、只今猛進中です!




あとがき
皆様、この度は私めの小説を読んで頂き本当にありがとうございます。私にとって「ラブひな」という作品は、中学生時代に頭の中の大半を占めていた作品でして、終わってしまった時は本当に悲しかったです。そして、最後のエピローグを読み終わり、是非この続きが見たいと切に願った結果、このような作品が生まれました。まだまだこれから様々な展開が待っている(予定)なので、この続きも読んで下さると光栄の至りでございます。ではまた次回お会いしましょう。