ラブひな続編小説
ラブひな 〜continuation of legend〜



第2話  足りないものを求めて

ここはどこ?ここには何もない、何もかもが崩れ落ちている。
俺は誰?俺に名前なんてない、とっくの昔に家族も何もかも失った。
俺は求めるものなんてない、もう何も失いたくなかったから………。
「おい、ボウズ。こんなところでなにしているんじゃ?」
「………………」
顔を上げると、異国の服を着たばあさんが俺に話かけていた。
「ボウズ、いい目をしているな。その蒼い瞳はこんなところで曇らせていてはいかんぞ。
 ワシと共に来い、きっとお前の欲しいものヶそこにはあるぞい」
「………俺は、何もいらない。もう何も失いたくない」
「では失わなければいいじゃろう」
「そんな力、俺にはない………」
「ではくれてやろう。何も失わせない、全てを守ることの出来る力を………」
ばあさんが俺に手を差し伸べる。全てを守れる力?もう何も失わなくていいのか?
もし手に入るなら、欲しい。俺はもう何も失いたくない!
そう強く願いながら、俺の手はばあさんの手をぎゅっと握っていた……。


「お料理出来たよ、どんどん運んでっちゃって!」
この日ひなた荘の住人達は新しい入居者を歓迎するために、朝から大忙しであった。
「はぁ〜い。うわぁ、やっぱりしのぶさんの料理はおいしそうですねぇ〜!これならサラちゃんも大喜びですよ!!」
「ふふ、そうだといいわね。つまみ食いしちゃだめだよ」
「わかってますって!」
絵馬が両手に美味しそうな料理が乗った皿を歓迎会の会場である大広間へ運んでいく。
「あ、絵馬ちゃん。美味しそうな料理だね」
そこに景太郎が声をかけた。彼は先日海外から帰ってきたばかりだが、さっそく住人のみんなにコキ使われている。
「けーたろ何サボっとんねん!!さっさとビール運ばんかい!!!」
景太郎の背後からきつねの罵声が飛ぶ。その横には彼女の背丈よりも高く山積みにされたビールケースがあった。
「はいぃ!じゃあ絵馬ちゃん、またね」
景太郎は絵馬と別れると自分の仕事へと戻って行った。
「浦島、そこの飾りがとれているぞ。直せ」
「はいはいっ!」
「ケータロ、どりゃ〜!!」
「ぷろぉっ!!!ス、スゥちゃん何で蹴るの〜!!!?」
「ついでや、ついで♪」
(景太郎さん、大変そうだな……(汗))
絵馬は景太郎のまわりを囲むみんなを見て、笑う。そしてみんなの顔もはやり笑顔であった。
そうこうしているうちに準備は着々と進んでいきやがて、
「料理もバッチリ!」
「うむ、飾りも完璧だ」
「酒もぎょーさん持ってきたで!」
「ドッキリな仕掛けも準備OKや!!」
パーティーの準備が全て整い、あとは主役を待つのみになった。大広間の天上から吊られている看板には大きく、
「祝!入居!!サラ・マクドゥガル」と書かれていた。
「景太郎、サラちゃんいつごろ来るって言ってた?」
「え〜と、11時15分に飛行機が空港に着く予定だから……、あと15分くらいで着くんじゃないかな?」
「じゃあもうすぐね」
「楽しみですねぇ♪」
絵馬はサラが来るのを心待ちにしていた。二人が知り合ったのは、やはり景太郎夫妻の結婚式の日であった。
内気で自分に自信がない絵馬と積極的で自信たっぷりのサラは誰が見ても正反対の性格をしているが、何故かお互いに気が合い、すぐに仲良くなることが出来たのである。
その時サラが日本に滞在していたのはたったの三日くらいで、それ以来二人はちょくちょくメールのやりとりをするくらいであった。
(あうのは大体1年ぶりくらいか、早く会いたいな♪)
「ごめんくださ〜い」
「「「「「「「来たっ!?」」」」」」」
大広間にいた全員が一斉に玄関まで走っていくとそこにはサラではなく、宅配便の配達員が立っていた。
「あ、あの〜、荷物をお届けに上がったんですけど……」
大勢の出迎えにたじろいでいる配達員をよそに、全員はがっかりといった面持ちで肩を落とした。
「あ、ハンコですね。ちょっとお待ち下さい」
景太郎がハンコを取りに行っている間にもう三人の配達員が送られてきた箱を運んできた。
「「「「「「で、でかっ!!!」」」」」」
なんとその箱は一辺が大体1mくらいの立方体で、大人の男が三人でやっと持てるくらいの大きな箱だった。
「お待たせしました、今ハンコを…、で、でかっ!!!」
景太郎はとりあえず受取欄にハンコを押し、配達員達は大きな箱を改めてしげしげと見ながら帰っていった。
「い、一体何が入ってるのかしら?」
なるは明らかに怪しい箱から距離をとりながらそれを眺める。すると景太郎がじりじりと箱に近付き、差出し人の名前を確認する。次の瞬間景太郎の表情が、凍った。
「差出し人は……、ばばっ、ばあちゃんだ(滝汗)」
「「「「「え〜!!!?」」」」」
「ばあちゃん?景太郎さんのおばあちゃんから何ですか?」
「あ、そっか。絵馬ちゃんは知らないんだっけ。先輩のおばあちゃんはひなたおばあちゃんっていって
 以前のひなた荘の所有者だったの。それでもう10年以上前から世界一周旅行に行くって出ていったっきり
 帰ってきてないんだ」
「10年以上前って、世界何周してるんですか!?」
景太郎の祖母である浦島ひなたは世界一周旅行という名目で出ては行ったが、突然ひなた荘を景太郎に譲ると帰る素振りを一切見せず、今もなお海外で生活している。
護衛に景太郎の妹の可奈子を含めた腕利きのエージェントを複数連れているらしいが、エージェントの正体は不明である。
「こないなデカイ箱、ホンマに何はいってるんや?」
「ま〜、とんでもないもんっちゅ〜ことは明らかやな」
「土地権利証明書なんて大事な物をFAXで送った二言三言で簡単にあげちゃうような御人だからな……」
「ってかよくこんなにでかい荷物送れたな(汗)」
「………どうする、開ける?」
ピタッ……………………
なるの一言で場の空気が凍り付く。そして素子がおもむろに口を開いた。
「………ま、まあ開けないことには何も始まりませんし……、ねぇキツネさん」
「えっ!?ま、ま〜そ〜やろな〜……、なぁスゥ」
「むむむ、この箱からはキケンなニオイがするでぇ!しのむ!!」
「ふぇっ!!?そ、その、とりあえず開けないと、ねっ、絵馬ちゃん」
「えぇ!!?あ、え、そのっ、……う〜なるさ〜ん(涙目)」
「………景太郎が開けなさいよ」
「えぇ!何で俺なの!?」
「ひなた荘宛てなんだから管理人のあんたが開けるのが当然でしょ!!!」
「うぅ、仕方ないか」
凄まじい攻防の結果、結局(やはりと言うべきか)景太郎が箱を開けることになった。箱にぶら下がっている「開け口」という札のついた紐に疑念を感じながら、それを掴んだ。
「………じゃ、いくよ」
「「「「「「………ゴクリ」」」」」」
「せーのっ、とりゃ!」
景太郎が紐を引っ張ると、大きな箱の側面がパタパタと四方に倒れるようにして開いていく。
そしてその中には………、
「………人?」
なんとそこには鎖などでグルグル巻きにされた全身ボロボロの若い男が入っていた。突然のことにそこにいる全員がパニック状態に陥る。
「わー!ひ、人だー!!」
「よぉ〜、みんな久しぶ……」
「死んでるの!!?」
「み、みんな?」
「……死んではいないですね、何か特殊な力で眠らされています」
「どうしたんだよ!」
「い、急いで中に運ぶんや!!」
「おいっ!」
「じゃあとりあえず管理人室に!!」
「無視すんじゃねーーーー!!!!」
これまた突然の大声に全員が一旦静止して、声がした方に向くと、そこには激しい形相のサラが立っていた。
「あ、サラちゃん」
あまりに突発的な出来事に、全員本来の目的を完璧に忘れていたのであった。


「なるほど、でその箱にそいつが入ってたってことか。……相変わらずムチャクチャだな」
絵馬がサラにさっきの事情を話すと、サラは飽きれたように眉を歪める。箱に入っていた男は、その後管理人室に運ばれ、今は蒲団に寝かされている。ボロボロだった服は浴衣に着替えさせられていた。
彼の外見は、多少日本人のような顔付きをしているが、髪は銀髪で、色は白めとおそらく日本人ではないと思われる。目付きは目をつぶっているが、それでも吊り上がった目じりから鋭い目が伺える。
「さっきの箱の中にばあちゃんからの手紙が入ってたよ!!」
景太郎が白い封筒を持って部屋に入ってくると、みんなの注目がそれに集まった。
「どんな内容なの!!?」
「ちょっと待って、今読んで聞かせるから!」
と言うと景太郎は封筒から手紙を出し、読み始めた。

          ひなた荘の皆様方へ

           この度は大変大きな荷物を送ってしまって悪いのぅ。
          その中に入っているのは浦島蒼介といってワシの養子じゃ。
           あれは10年くらい前かのぅ、旅行に出たばっかりの時、
         西の方でこいつを見かけてな。戦争孤児で何も持ってなかった
           こいつを引き取って育てたんじゃよ。そしたらこいつは
           とんでもない才能の持ち主でな、ワシらが教えたことは
          全て習得しよったんじゃよ。だがな、こいつにはあるものが
          足りん。それを見つけさせるためにひなた荘に送ったんじゃ。
          そんでとりあえず近くの日向高校の編入も決めといたからの、
           通わせといてやってくれ。そんじゃ後頼んだぞ。元気でな。

                                 ひなたばあちゃん より

……………………………………………………!
「「「「「「「「なんじゃコリャーーーー!!!!」」」」」」」」
「よ、養子!?ってことはば、ばあちゃんの子供!?てことはつまり俺のおじさん!!?」
「おおおお、落ち着くのよ景太郎!あなたのおじさんなら私にとってもおじさんよ〜!!!」
「ひぇ〜!景太郎さんとなるさんのおじさんが私と同じ高校に〜!!!」
「お前ら落ち着かんか〜〜い!!!!」
ひなからの手紙で一同に第二次パニック現象が勃発。景太郎夫妻にいたっては突然の親族の登場に、そしてその親族がまだ高校生ということにより、一層混乱が増していた。
「……ん、うぅん」
「お、気がついたみたいですよ」
「……なんだお前らは?」
蒼介という名らしい男が目を覚まし、ゆっくりと体を起こした。冷静で淡々とした口調と、やはり鋭くつり上がっていた目は、彼の周りを囲んで入る人間を見回す。その瞳は、綺麗な蒼色をしていた。
「なんだって、目ぇ覚ました直後になんだとはなんやねん」
きつねがつっかかるのを景太郎が静止し、話を切り出した。
「まあまあキツネさん。君、蒼介君だね?ひなたばあちゃんから来たこの手紙の内容は本当なのかい?」
「………お前は?」
「俺は浦島景太郎、この手紙が本当なら………」
「何!?」
蒼介は驚いたような声をあげる。景太郎もそれに驚き、聞き返した。
「ど、どうした!?」
「あ、いや、何でもない………」
(こいつが浦島景太郎か。ばあさんや可奈子が随分と買っていたが………)
蒼介はしげしげと景太郎を観察する。景太郎は気を取り直すともう一回話を本題へと移す。
「そ、それで、この手紙のことなんだけど………」
といって蒼介に先程の手紙を渡す。彼はその手紙を読むと、内容を確認するように頷いてからこう言った。
「……ああ、ここに書いてある事は全て本当だ」
一同がこれまでのパニックの原因を事実だと受け取ると、なるは更に話を追求させた。
「それで、蒼介君はここに何の目的で来たの?」
「……それが、俺にもよくはわからない」
話が停滞しそうになったその時、景太郎があるものを発見した。
「あ、封筒の中にもう一通手紙が入ってる!これは………、蒼介君宛てだ」
そういうとその手紙を読み始めた。

          蒼介へ

           ワシはお前を今までお前が求めたように育ててきた。
             そしてお前はワシが教えたことを全て吸収し、
            とてつもない力を手に入れたようじゃ。正直ワシも
           お前がここまで早く成長するとは思わなかったぞい。
           しかし早くに成長したおかげでお前にはとても重要な
          “強さ”が足りていない。それは本来人間なら誰しもが
          持っている“強さ”だがお前は一度全てのものを失いって
         しもうたからそれがないんじゃ。それはさすがにワシが教える
          ことはできん。だが、お前が自ら学ぶことはできる。お前が
           目を覚ました時にそこにいる場所、「ひなた荘」の人々は
            お前に足りない“強さ”を持っている。やつらから
            学ぶがいい、お前に足りない“強さ”をのぅ。


手紙を読み終えると、一瞬沈黙が過ぎり、蒼介が呟く。
「俺にない……、“強さ”?」
「…………ってなんや?」
「……さあ」
手紙の内容は、宛てられた本人すら理解しかねるものであった。落ち込んできた雰囲気の中、景太郎がふと笑みを溢しながら言った。
「でも、これだけはハッキリしたよな」
「え、何が?」
「今日、ひなた荘に新しい住人が“二人”増えたってことだよ」
管理人のその言葉に、住人達の表情からも笑みが生まれる。
「ふ、それもそうですね」
「よろしゅ〜な、蒼介」
「よろしく、蒼介君!」
「ヨロシューな♪」
「え、あっと、その、よろしく……」
「なんかあたしの登場がかすれちまったけど、まあヨロシクな」
「蒼介君、君も今日からこのひなた荘の住人だ。何か言うことはないかい?」
蒼介はきょとんとしながらみんなの顔を見渡す。暖かい表情が蒼介を迎えるが、本人は無愛想に顔を逸らしながらぼそっと呟く様にして言った。
「………ああ、世話になる」
蒼介は内心こういう環境は好きではないと思っているが、ひなの言いつけであるということと、自分に足りないものがここにはあるという言葉から、不本意ながらもここに滞在することが得策だと判断したのであった。
「よっしゃあ!そうと決まれば早速歓迎パーティーや!!」
「ゴッツイ仕掛けが待っとるでぇー♪」
「早くしないとお料理冷めちゃいますよ」
「お、懐かし〜な〜このカンジ♪」
「ほら、絵馬ちゃん。蒼介君を案内してあげて」
「ふぁ、ふぁい!あのっ、えっと、こ、こっちです!」
「はっはっは、やっぱひなた荘はこうでなくちゃね」
住人全員に連れられ、蒼介とサラは大広間へと案内された。そこには豪華に並べられたご馳走や、いろとりどりの飾り付けが施されていた。吊り看板の字を「祝!入居!!サラ・マクドゥガル&浦島蒼介」と書き足し、宴会が幕を上げた。
(俺にない力をこいつらが持っている……、か。どうもあのばあさんが言うことはわからん。
 だが観察していけば自ずと自分との相違点が浮き出てくるはず。それが、俺に足りない力に違いない)
蒼い瞳でどんちゃんと騒いでいる住人達を見つめ、蒼介は一人静かな闘志を燃やしていた。




あとがき
2話目、書きました。やっとオリジナルSSっぽくなってきましたね(^^; なんかイマイチ新キャラの気持ちを反映し切れていない感じがするのが悔しいです。精進あるにみですね(汗) さて次回は今作のメインの舞台になる“学校”のお話になります。それではみなさん、今回も読んで頂きありがとうございました。次回も会えたらお会いしましょう。