第5話宣戦布告



第5話

宣戦布告





「私をどうするつもりですか?」
「なぁに、ちょっとお会いして欲しい方が居るんで、その方の所まで行ってもらうだけっすよ」
 ここは、『次元洞』、違う次元と次元をつなぐための道である。
 ここを、二人の男女が進む。
 女の方は、老人で、品のある顔つきの顔、髪は、綺麗な白である。
 老人だが体つきは皺だらけなのにがっちりとして、何でもできそうな体つきである。
 一方男の方は、全身を真っ黒なマントで被い、顔が見えない。
「それだけのために、あのようなことを……」
老人の目から大粒の涙が落ちる。
「なんだ?町や人を壊した事をまだ気にしているのか?…………それとも、貴様の目の前であの女の操を奪ったことを気にしているのか?」
 顔は見えないが、笑っているようだ。
「婁襄………」
 老人は、目から大粒の涙をこぼし、一人の少女の名を呟いた。


「婁襄様、星宿界の九割の地域の救護を完了し、星宿界の人口一万五千人のうち、重傷軽傷合わせて三千七百八十二人、死者数、二千八S八十三人、行方不明者、千三百三十五人です」
「報告ありがと、引き続き捜索班、治癒班に分かれて、行方不明者と負傷者にあたって」
「はっ」
 男は一礼して部屋から出て行った。
「星神天様……」
 腹部より少し下を押さえ、最初の理解者の名を呼ぶ。と、そこへ
「婁襄様」
 烈境である、彼は捜索隊の一人だが、捜索は彼の七人の部下、『朱雀星宿』が烈境の代わりに捜索している。
 婁襄もこのことを悟ってか、烈境が何故ここにいるのか聞かなかった。
「なに?」
「………龍豹(りゅうひょう)や虎獅(こし)は人間界ですか?あの二人だけじゃない、十二天の他の奴らも人間界なのですか?」
「………………いえ、あの時人間界にいた四神天と十二天のメンバーはあたな達だけ…」
「じゃあ!」
「ええ、酷な話かもしれないけど、彼らは……」
 烈境は婁襄がすべて言う前に走っていた。
 すべての悲しみをふりほどくために。
 烈境の心は一番の親友、ライバルを失った気持ちでいっぱいだった。
「くそっ!くそくそくそくそ、くそーーー!!!」

「よっと」
 大量のタオルを持って、けが人を寝かしている部屋から出てくるのは太助である、太助はキリュウの試練で基礎体力が上がってはいるが、普通の人間である。
 なので治癒班の方で補佐をやっていた。
 そしてタオルを持って外に出た瞬間――!

ドンッ!

「うわっ」
 猛スピードで走ってきた烈境にひかれた、もとい突き飛ばされた。
「な、なんだ?!」
 しかし烈境は何事もなかったかのように、走り去っていった。
「……何なんだ…?一体……」

「あの二人が……」
「ああ、急に襲ってきた奴に勇敢に立ち向かっていったそうだ…」
「そう…」
 風雪は烈境の様子がおかしいと聞き、様子を見に来たところ、烈境の口から衝撃の事実を聞かされたところだ。
 今、二人がいるのは、ついさっきまであったであろう神殿の中庭である。
 そこにはかつては巨大な御神木のあった場所である。
 この木は、この神殿を建てる前からこの場所に立っていた木である。  同時に、烈境達にとって、思いで深い場所である。


「おい烈境、お前も源高五天に志願するのか?」
「ああ、源高五天になって、あいつを護りたいんだ」
「ふ〜ん、愛する彼女のためってやつか?」
「へへ、うるせぇよ、お前もどうせ、相方のためなんだろ?」
「はは」
「頑張れよ、虎獅」
「お前もな、烈境」
「あらなぁに?なに二人して笑ってるの?」
「うわっ!急に出てくんなよな、風雪!」
「あら、急に出てこられるとまずい話をしてたの?」
「そ、そうじゃないけど…」
「あいかわらず風雪には、弱いのね烈境」
「ははは、確かに!」
「うるさいぞ!龍豹!虎獅!」


「虎獅……龍豹……」
 泣きながら、焼き焦げ、なぎ倒された木の幹に、額を押し当て、泣く烈境。
「…………」
 風雪は無言で、烈境の肩を抱く。
 風雪の目からは大粒の涙が滴り落ちた。

数十分後
「これ以上泣いてると、あの二人が化けて出て、何か言われそうだな」
「そうね、あの二人なら、化けて出ないとも限らないわね」
 苦笑しながら、言う烈境と風雪。
「それじゃあ、行ってくるよ虎獅」
「行ってくるわね、龍豹」
 思いでの木を背に、新たな思いを抱き、二人は歩きだした。
 そして、二人が立ち去った後の木の側に、笑いながら烈境と風雪を見守る二人の影があった。
(大丈夫みたいだな)
(そうね)
(でも、厳しくなるのはこれからだぞ、烈境、なんせ、これからお前達が出会う敵は、俺達自身なんだから)
(でも大丈夫よ、あの二人なら絶対大丈夫)
(…そうだな…、頑張れよ、烈境)
(あなたなら大丈夫よね、信じてるから…、頑張ってね、風雪)
 そう言って二つの影は、文字通り消えていった。
「ん?」
 歩いていた烈境が、急に立ち止まった。
「どうしたの?」
「いや、なんか虎獅の声が聞こえた気がしてな」
「もしかしたら、私達の近くで、見守ってくれてるのかもね」
「そうだといいな……」
 そして、二人は、いつの間にか晴れたのか、青空を見上げた。

「あ〜あ、ずいぶんやられちまったな」
「ここは、シャオちゃん達の故郷なのよね…シャオちゃん達、かわいそう……」
「とりあえず、ここは人手が足りないみたいだから俺達が駆り出されたんだ。
 さっさと片づけてあいつ等に報告しに行こう、さすがに知らないままってのも酷だろうしな」
「そうね」
 上空を飛ぶ二つの影。  あまたいる封霊神の中の姉弟で、かつては落ちこぼれと言われていたけど、太助達と出会って力をつけた姉のライ、本当は人一倍正義感と使命感が強く、姉思い(?)の弟のデン。  封霊神とは、冥府の迷い、魔道の嘆きから人間を導く伝えられている、もっとも慈悲深い仏、地蔵菩薩の使いである。
『詳しくは小説Z夏夜幻夢奇譚―サマーナイト・イリュージョン―を御覧下さい』
 二人は現世と冥界の狭間の星宿界が侵略されたとの情報を受け、星宿界の被害者の霊を導きに来たのである。
 導かれた魂をまた導く星宿界の住人を導くとは、面白い話である。
 星宿界の住人の霊魂は、封霊神の手によって、天門に送り出される。
 そして、封霊神の五割を使っての霊回収が始まった。

 行方不明者の大半を救助したので、後は霊を封霊神に託すだけとなった烈境達は、再び、婁襄の元に集まった。
 「特命で、五龍天に星神天様の捜索や聞き込みをしたところ、烈境達が私を救出する少し前に、鬼門の方角に黒い影が飛び去っていくのを、目撃した奴がいたらしいの」
「鬼門の方には確か……次元の門がありましたよね?」
「ええ」
「と、言うことは……」
「そう、星神天様をさらった奴は、別次元に逃げたって事になるわね」
「クソッ!」
 急に壁を叩きつける烈境、そしてその弾みで、壊れかけていた壁が壊れた。
「別次元に逃げられたら、皆目検討がつかん!」

沈黙

「………実は星神天様を、さらった奴に心当たりがあるの……」
『―――ッ!!』
 婁襄の呟きに全員が反応する。
「随分前に星神天様が……」
 婁襄の話が始まると――
「私は十二冥帝の影帝、影鬼」
 部屋の外から、男の声が聞こえた。
 すぐさま、皆が外に出ると。
「愚かな愚民共よ、先ほど私が挨拶代わりにやった、洗礼は気に入ってもらえたかな?
 それと、君達が崇拝していた年老いた女、我らが神の手土産として貰っていったからあしからず」
 笑いながら言う男だが、圧倒する感じがしている。
「ふざけるな!」
 烈境は男の発言に激怒し、男に向かって怒鳴る。
「お前が何をしたのか分かっているのか?!」
 烈境が男の声に向かって怒鳴る。がしかし
「なお、これは、君達の世界への宣戦布告を意味する」
「――ッ?!」
 どうやら、あちらからの一方的な音声で、こちらの声などは届いていないようだ。
 しかし、皆が驚いたのは、これから戦争をすると言う証を聞いたことだった。
「なんで?!戦争を仕掛けられるようなことは、何も無いはずよ!」
 ルーアンの疑問は、男によって、晴らされた。
「この宣戦布告の発端は、この次元が作り出される前に遡るが、今は語るときではない、私達の願いは、この世界の主の女を私達の神のところへ運び、私達の神の願いを成就させることである!
 しかし、そのための時間がまだ少しある、だから私達は神の意志の許可を得て、主復活までの間の期間に、にっくき十二星帝への復讐のチャンスを貰った!
 よって、私達は十二星帝が現れるまで、この次元でもっともねらいがいのある惑星を破壊し続ける!
 その惑星の名は『地球』である  私達はその地球時間で三日後に攻撃を仕掛ける
 くれぐれも、私達を悲しませないでくれよ」
 最後に不気味な笑い声とともに、男の声は聞こえなくなった。

「現在の戦力は?」
「ほとんどの精霊が殉職し、戦うことができるのは、俺達五人に、婁襄様、五龍天の11人です」
 婁襄の張りのない質問に、怒りを押さえながら言う烈境。
「婁襄様……」
 シャオの悲しい声が、部屋に響くと、婁襄が張りのある大きな声で言った。
「ええ!やっこさんがわざわざ出向いてくれるって言うんだから、やってやろうじゃない!ねぇ?!」
 部屋の皆は、力強く大きく頷いた。
「じゃあこっちも準備が必要ね…」
 言って、婁襄は大きく息を吸い込むと。
「水明と土架は、戦力の調達!
 金欧と風雪は無駄だと思うけど、一応地球の国連にコンタクトを取るからその準備!
 キリュウは、十二星帝と十二冥帝に関する書物を探すこと!普段立ち入り禁止のところもね!
 烈境は、もしかしたら『もう一人』に手伝ってもらうかもしれないから、様子見てきて!
火月、木蘭は引き続き住民の治療と救出!
 ルーアンは、封霊神の所に行って、手を貸してもらえないか交渉!人数はなるべく多い方がいいわ!」

し〜ん

「返事は?!」
「は、はい!!」
 婁襄の一括で、九人がドタバタと駆け足で、部屋を出て行くが、太助とシャオだけが、とり残された。
「あ、あの〜」
 皆に命令が下されたのに、自分達だけとり残されたので、太助は怖ず怖ずと聞いた。
「俺達は何をすれば……」
「……こっちへいらっしゃい」
 言うと、婁襄は奥の部屋へ、入っていった。
『………?』
 太助とシャオは、互いに顔を見合わせ、疑問を抱きながら、奥の部屋へ入っていった。
「これから伝えることは、今度の戦いで最も危険かつ、大事なことだから、しっかり聞いて」
 奥の部屋へ入ると、婁襄が部屋の中央で静かに立っていた。
「どういう事ですか?」
「二日後に奴らが、何処に攻めてくるか分からないわ
 でも、たった一つだけ奴らを誘導することができるの」
 淡々と話す婁襄だが、どこか弱々しい。
「その方法とは?」
「………太助、あなたの協力が必要なんだけど、覚悟はある?」
「……………」
「これは、命を張る重大の仕事なの、でも、今のところ、あなたにしかできないの」
 太助とシャオは困惑の表情で戸惑っている。
「この仕事の内容は……太助、あなたがこの青い札を着けて、敵を誘導すること」
 婁襄は二枚の札を懐から出す。
 一枚は青く、もう一枚は赤い、青い札には『発霊』、赤い札には『止霊』と書かれている。
「そしてうまくいって、敵が現れたら、青い札を外して、すぐさまこっちの赤い札を着けて」
「これが、どうなったら死に繋がるんですか?」
「これは、あなたが持っている『気』を『霊気』と呼ばれる気に変換するの、気を霊気に変えるって言うことは、体にものすごい負担をかけるから、一歩間違えると……、死ぬわ
 でも、奴らはこの霊気の気配を察知したら、すぐに太助の近くに現れると思うから、大丈夫だと思うけど、死と隣り合わせだということを忘れないで
 それで、奴らが現れたら、シャオや烈境達に総攻撃をかけさせる!
 もし、これで、相手を倒すことができなければ、奴らを倒すことができる確率が、愕然と下がるわ」

 沈黙…

「無理にとは言わないけど、よく考えてね」
 そう言って、無言のまま、部屋を出て行こうとする婁襄に―
「……ます」
「え……?」
「やります!やらして下さい!」
「太助様?!」
「シャオ…、俺は今場違いな気がするんだけど、嬉しいんだ、今、シャオ達の故郷がこんなにも大変な思いをしているのに、俺は何もできないでいる。
 そんな俺にさっきまで苛立っていたんだ
 だけど、俺にもシャオ達のために出来ることがあるって言うんだから、やりたいんだ」
「太助様……」
 シャオは、涙を流しながら、嬉しい気持ちと、主を危険な事に巻き込んでしまうという気持ちが、葛藤している。
「ありがとう、太助。
 そしてシャオ、これだけの話なら太助だけでよかったのに、なぜシャオも呼んだのか分かる?」
「いえ…、わかりません」
「あなたはとても純粋だから、自らの役目のためならどんなことでもする…、例え自分さえ犠牲にしても…でも、この戦いでもう誰一人死なせたくないの、だから、あなたの主である太助を護ることを今回の任務にする。
 もちろん、あなたは精霊の中でも自分の力を攻撃型と守護型に分けられる数少ない精霊だからこそ、出来ることなんだからね。
 だから、あなたは太助の近くにいて、星神による遠距離、近距離の攻撃をして、それと、襲われる前にちょうど三匹かえったから、それも連れていってね」
「それじゃあ……」
「ええ、早速行きましょうか、『星産の間』へ」

 太助は、婁襄とシャオについていくと、神殿があった場所の地下に入っていった。
「ここは……?」
 神殿が見るも無惨に破壊されていたのに、ここは全くの無傷なのは、地下だからであろうか。
「ここは『星産の間』シャオの星神が生まれる場所よ」
 そこは縦長のホールのような内装で、壁には無数の窪みがあり、その中には、一つずつダチョウの卵並の大きさの卵が安置されていた。
「ここで…星神が…?」
「そうよ、こっちいらっしゃい」
 そう言って、婁襄は、入り口の正面にある、丁度大人一人分ぐらい寝られそうなスペースに足を運んだ。
 そこには、先程の卵とは別に、三つのゆりかごが、等間隔に置かれていた。
「・・・これが、新しい星神・・・」
 そこには、左から、人魚のように上半身が人間の女性で、下半身が魚の尾で、頭には髪飾りをしている星神、真ん中には、天高と同じように鳥型の星神、最後は、角のような物が首の回りにたくさん生えていて、見た目がすごいかわいい星神が居た。
「さぁ、シャオ、支天輪にこの子達を入れて、あなたのことを教えてあげないさい」
「はい」
 新しい星神は、支天輪の中に入れることで、シャオの事や、他の星神のこと、自らが使える能力を得るのである。
 また、シャオにも星神の名前や能力を教えるのである。
 そして、シャオは星神に近づき、支天輪を掲げる。
「さぁ、いらっしゃい」
 言うと、星神は光に包まれ、支天輪に消えた。
「よろしくね、『柴微垣』、『貫索』、『土司空』」



座談会
グ「えっと、一応あけましておめでとうございます、今年もよろしくおねがいします」
烈「遅れたけど、おけましておめでとうございます」
風「遅ればせながらあけましておめでとうございます」
グ「今回は少し早めのお披露目になりました」
烈「そうだな、いつもより10日早く公開したな」
風「今回は長い休みが入りましたし、そこで書いたんでしょうね」
グ「うん、それについ最近風邪で休んだから、そのときに結構書いたしな」
烈「で?今日のお題は?」
グ「ん?単に俺の作業話」
風「良いんじゃないの?今までまともにやってないから」
烈「おれもいいぜ」
グ「じゃあ、今回は元々、宣戦布告をするって事だけで、他のイベントはなかったんだ」
風「え?じゃあ私たちのイベントも?」
グ「ああ」
烈「星神誕生秘話も?」
グ「ああ、その二つも風邪で休んでる時に、寝ながら考えた」
烈「でも、良いアイディアと思うな」
グ「そう思う?じゃあよかった」
風「あれ?婁襄様は?」
グ「ああ、あいつはちょっとな・・・」
烈「どうしたんだ?」
グ「・・・・・・インフルエンザ」
風「寝込んでるの?」
グ「ああ、今寝てるよ」
烈「そうか、じゃあ、お見舞いでも行くか?」
グ「そうだな、でも、うつるといけないからマスクは必ずつけてな」
風「じゃあ、お見舞いの品も買ってかなくちゃね」
グ「じゃあ、いくか」

トコトコと部屋を出ていく3人

?(ったく、職務放棄だな)
?(まぁまぁ、そんなこと言わないの)
?(ったくあいつも良い奴なんだが、少し抜けてるんだよなぁ)
?(ふふっ、そこが良いところなのよ)
?(じゃあ、とりあえず俺たちが閉めるか)
?(そうね)
?〔再来!〕



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